忘れられた者たちの叶わぬ恋 作:幻想郷の恋路管理者
気付けば、霊夢は手に持っていた竹箒を落としていた。
まるで鹿威しの様な爽やかな音を鳴らし、地面へと転がった。
それと同時に、霊夢から言葉が漏れる。
「え...あと一年って..どういう事よ...?余命だなんて..じょ....冗談..よね?」
震える手で××の手を取る。霊夢からすれば××の手は大きく、暖かい。
だが、それでさえも冷え切るように、××は霊夢に対し、首を横に振る。
「冗談では無いんです。永琳先生に見てもらって、病が判明したんです。どうやら、先生によると不治の病で..癌...と言うんですかね?」
癌、それは幻想郷にとって不治の病と同等の病気だった。
××は淡々と、詳細を話してくれる。まるで、死を覚悟し、受け入れるように。
話によると、つい二週間前から体に異変を感じていたそうだ。咳が止まらず、呼吸も若干しずらい。
最初は風邪かなにかかと思っていたが、どうも違う。念の為にと永遠亭へと足を運べば、「肺癌」と言われた。
発生したばかりなら薬でどうとでもなるらしいが、××は末期だった。
身体中へとその癌が飛び、治すことはほぼ不可能に近い..と。
それから、直ぐに入院し、検査と治療を繰り返したのだが、医者から告げられたのは「余命一年」
これは薬を飲み、進行を遅らせた状態での余命らしい。もし薬が無ければ、一週間も経たずに死ぬだろうと、医者に言われる。
それからと言うもの、毎日病院通い。
なるだけ状態を良くする為の薬を貰い、服用する。
もう死ぬのならと土地も譲り、様々な道具も売り払う。
残るのはあと一年の食料と家だけ。後はお世話になった人達に別れを告げ、一人で終わりを迎えるのみ。
ここまで霊夢に話すと、××は自然と涙が零れ落ちる。
「..死ぬのは覚悟してはいるんですけど...やっぱり怖いですね。正直、こんな歳でくたばるとは..思いもしませんでした」
霊夢に手を握られ、××は安心したような表情を浮かべる。
「何故でしょうか。霊夢さんと居ると..この世に未練が生まれてしまいそうです。まだ死にたくない。生きていたい。そう..思ってしまうんです...」
気付けば、大粒の涙が××の頬を伝う。霊夢も、我慢しているのだろうか、少しだが顔を顰めて涙をこぼす。
霊夢はただ黙る事しか出来なかった。何を言えば良いのだろう。一体何をすれば××を安心されられるのだろうと考えるも、分からない。
××が居なくなることが怖くて、考えられない。
「××..少し、耳を貸してちょうだい...」
「..分かりました」
××は袖で涙を吹き、霊夢に耳を傾ける。霊夢も囁けるように、口を近づけ、何かを伝えようとするが...
「.....やっぱり、何も無い!そんなにくよくよしないで、後一年!楽しみなさい!」
拾った竹箒で××の頭を軽く叩いた。その霊夢の顔は笑顔で、どこか物悲しかった。
それでも、××の未練を無くすため、何事も無くあの世に逝ける様に、霊夢は言葉を堪えた。
たったの一単語「好き」
それを心の中に押し止めた。きっと、今言ってしまえば、××に未練を与えてしまう。自分も、死ぬまで呪いのように想ってしまうと。
××は霊夢に喝を入れられた後は、何かが吹き飛んだかのように楽な様だった。
死ぬのは怖いが、一年後だ。楽しめば、すんなり受け入れられるはずだ..と。そう思った...
霊夢には××の余命が告げられて、約半年した頃。
前までと同じく、霊夢と××は二人で縁側に座っていた。
その姿には病気の事など一切気にせず、純粋に今を楽しむ青年と少女にしか見えなかった。
それからまた一ヶ月、二ヶ月と時は過ぎ...
霊夢から見ても、やつれてしまった××が居た。
もう病気のせいで自分の家から動く事が出来ず、まともに息を吸う事が難しい。
霊夢もただ見るだけで、××に語り掛けることは少なくなっていった。
余命はあと一ヶ月になると、××は誰かが付きっきり出ないと生きて行けなくなった。
誰が付いているのかと言われると、勿論霊夢だった。
××を自分の神社に住まわせ、看病をする。
これは××が望んだ事で、霊夢も了承した事だ。
もうこうなると、霊夢が一方的に喋り、××は笑顔や頷きでしか相槌をうてなかった...
とある日のこと、
いつも通り霊夢は起き、××の呼吸を確認する。
浅いが、大丈夫だと思い、食べやすい料理を作り始める。
この音で××も目が覚め、身体を起こす。
「××?辛かったら寝てていいのよ。貴方はもう、楽にしてていいの」
「....れい..む....さん」
掠れた声で××は霊夢の名を呼ぶ。それとほぼ同時に、霊夢が台所から顔を出し、××に笑顔を向けた。
「ふふ..貴方がいつ逝ってしまうのか...怖くてしょうが無いけれど、神の赴くままだものね。ほんとに...ふざけたもんだわ」
いつもと変わらず、明るい表情で語り掛ける。××もそれに相槌をうつように笑顔を見せる。
すると、××がおもむろに立ち上がり、壁に手をついて歩き出した。
「ちょ..ちょっと!?一人で歩くと危ないんだから!ま..待って..」
霊夢は突然の事に驚き、エプロンを付けたままで急いで××を追いかける。
××は玄関で裸足のまま、外へ出て、自分が前に使っていた竹箒を杖代わりに鳥居まで歩いていく。
その後ろを追いかけるように、霊夢も歩く。
「××..?いきなりどうしたの?裸足で..竹箒まで持って...」
霊夢が聞くと、××は凄く苦しそうな声で、話し始める。
「ここ...で、..初めて....恋に落ちた.....綺麗で..逞しい...霊夢に...」
竹箒を持って、こっちを見てくる××に、霊夢はまるで昨日かのような記憶が呼び起こされる。
初めて会った日も、その次の日も、またまた次の日も、全部思い出せる。
気付いてなかった、伝えてなかっただけで、二人は想いあっていたのだ。
霊夢を思って、××は心配かけないようにした。××を思って、霊夢は世話を焼いた。
互いに互いを感じて、過ごしてきた。
「..そんな....ここで言うだなんて...反則じゃないの...」
霊夢は突然の出来事に、言葉を失っていた。
愛していた人に、愛されていた。それならば、当然の出来事だ。
だが、××は言葉を続ける。
「..ありがとう。....そして、さようなら。」
「...え?」
××がそう言うと、まるで全身の力が抜けたかのように倒れ込む。
霊夢が慌てて近づいても、もう遅かった。
「..嘘......」
息が無かった。
人は死ぬ時、自分の死期を悟る時がある。猫や犬もそうだと言われる。
きっと、××もそうなのだろう。
最後ばかりは、霊夢に伝えたい。愛を伝えておきたかった。
××の最後の未練
霊夢は絶望と悲しみにくれ、叫んだ、泣いた。
愛した者はすぐそこに居るのに、それは愛する者では無い。
これは亡骸で、愛した者は既に冥界。
霊体となって彷徨うかも知れないが、あちらから何かを伝える事はできない。
もう二度と会えない。二度と見る事ができない。
こんな事になるなら、先に愛を伝えておくべきだった。こんなことになるなら、早く病院に行かせれば良かった。
そう考えても後の祭り、ことわざ通り、静けさが残るだけ。
これからは、どうやって生きて行こう。
巫女として、どうして行こう。
彼が居ないなら、何を生きがいに?
感情なんて、捨ててしまえばいい。
彼が生まれ愛した、この世界を...
守るだけ.....