忘れられた者たちの叶わぬ恋 作:幻想郷の恋路管理者
龍は爆発音の方角に振り向く。
案の定、土埃が大きく舞い上がっており、遠くからでも交戦しているというのが一目見てわかる。
「...やけに激しいな..」
音や遠くで飛ぶ天狗達の様子を見ると、ただ事では無いようだ。
加勢した方が良い気もするが、一度連絡を待とうと家へと踵を返した時、龍がつい先程まで立っていた場所に何かが落ちてきた。いや、飛んできたの方が正しかった。
土が舞い上がり、龍は顔を顰める。段々と土煙が晴れ、人影が見えてくる。それは煙のせいか軽く咳をし、ゆっくりと立ち上がった。見覚えのあるシルエットに声だった為、すぐに分かった。
「.....××、酷いやられっぷりじゃないか?」
「...うるせぇ、そんな戯言言う暇あるなら..早くここから逃げろよ」
「逃げろ?..えらく柄に無い事を言うじゃないか」
××は舌打ちをした後、翼を大きく拡げて飛んで行こうとする。が、龍がそれを許さなかった。
「待て、そんなボロボロになっておいて行くつもりか?相手が誰だか知らないが、一人で無理をするな」
「...ホントにお前はうるせぇんだよ。一々俺の事気にかけやがって、今戦える奴は数える程しか居ねぇんだぞ!俺が行かなねぇと..」
また××と口論になりかけた時、ふと空から聞き覚えの無い声が響いてきた。
「あらあら..こんな時に仲間割れだなんて、お互いの最後がそれでいいのかしら」
二人とも空を見上げる。××は強く睨みつけ、龍は何故××が焦っていたのかを理解した。
空に浮かんでいたのは紅と白の巫女装束に身を包んだ幻想郷の要、博麗の巫女だった。その巫女の手には霊気の詰まった札と針、それと同じ気が××から感じられた。
恐らく、数発は受けてしまったのだろう。巫女の攻撃は一発一発が致死量で、耐え切れたとしても体力が根こそぎ持っていかれる。
お陰で××の呼吸が若干荒くなっていた。だが、それでもお構い無しに拳を握り、飛び上がる。
「何が巫女だ...ただただ気分で妖怪を惨殺するバケモンの癖によ...」
「..言うじゃない。でもね、私は人間の不安を取り除く為に行動するの。出来るだけ力の差を見せ付けて、貴方達の様な力のある妖怪達に逆らう気力を無くさせるのよ?」
「..巫山戯やがって...」
明らかに××は怒りを抑え切れていない。翼が大きくうねり、羽ばたく力も比例して大きくなる。
龍は流石に見てられなかった。××と同じく飛び上がり、××達と肩を並べる。
「博麗の巫女、貴方の言い分も充分わかる。たが、流石にやり過ぎだ。悪いが全力で対応させてもらう。これ以上仲間が傷付くのを見てられないからな」
龍は冷静に言葉を並べるが、その内は××と同じく怒りの感情が渦巻いていた。
巫女は余裕と言わんばかりに浮かび続ける。
先に動いたのは××だった。
光のようにまっすぐ、普通なら反応が遅れるようなものが、巫女は軽々と防いでみせる。
龍は背後へと回り鈍器を振り下ろすが、背後にも対応出来る回し蹴りで防がれる。続いて××がどこから取り出したかナイフを突き立てる、それも針で落とされる。
今度は巫女が動き、札を落としたかと思うとその全てが爆発した。
霊力を織り混ぜられたその爆風は天狗達を離すには充分。
針を四方八方に飛ばし、幾つかを軽く追尾する様に投げる。
龍は手に持った武器と靴で上手く弾く。××は軽い身のこなしで全ての針を避ける。
すると、××がいきなり大きく旋回し、龍の目の前に移動する。互いに足裏を合わせ、龍が××を飛ばし、××が龍の足を地面と見立てて勢いをつける。
巫女も流石に予想外だったらしく、××の蹴りを腕で防ぐが、力が入り切らずにどこが折れる音が響く。
しかし、××はこれだけで終わらずに蹴りの勢いのまま身体を捻り、いつ受け取ったのか、龍の鈍器を振り下ろす。
巫女の頭に当たった、その威力は墜落させるには強すぎる程で巫女の体は地面に打ち付けられる。
煙が上がり、衝撃が少し離れていても感じられた。
少しすると、煙の中から巫女の声が聞こえてきた。
「...貴方達強いわね..。まさかたった二人にこんな苦戦するとは思わなかったわ。流石に撤退するわよ...でも、置き土産は置いて行こうかしら?」
巫女の居るであろう場所から眩い光が放たれる。龍と××は互いにすぐ隣で飛んでいたが、いきなり××が龍を蹴飛ばす。
龍は訳が分からず、数メートル程飛ばされた。その瞬間、巫女が叫ぶ。
「霊符..夢想封印!」
一瞬の出来事だった。気付いた時、龍の目に映ったのは大型の弾幕を全てその体に受け、全身から血を流して墜落している××の姿。
巫女の基本的な必殺とされる夢想封印、その威力は凄まじく、妖怪一人や二人なら軽く殺せる程度の弾幕だった。
龍は急いで××を空中で受け止める。巫女の姿を探すが、撃ったと同時に逃げたらしい。
すぐに××へ目線を向ける。呼吸が薄く、身体に最低限の力しか入っていない。龍が言葉を失っていると、××が口を開ける。
「..あぁ....体が言う事を効かねぇ..目も見えねぇ...声を出すのも..辛いな..」
全身を脱力した状態で話し続ける。龍は地面に降り、××を抱える。
「馬鹿野郎!もう喋るんじゃない!まだ助かるかも知れない..」
「..無理だ。..身体がそう言ってる....生命の限界だと......叫んでんだ」
龍から見ても、確かに生き残れるとは到底思えない状況だった。恐らく内蔵も潰れ、今呼吸できているのが奇跡と呼べる程にボロボロだった。
「龍..すまなかったな....一人勝手に行動してよ..迷惑..かけちまったな」
いきなり、××は謝り始める。龍は気付けば涙を頬につたらせていた。
「俺は..誰かが死ぬのが怖かったんだよ....巫女に仲間を殆ど殺されて...お前までも...逝ったらどうしよう.....って」
××の口から血が吹きでる。だが、喋るのを辞めず、殆ど動かない手を龍の頬に当てる。
「...最後にお前の顔を見れて良かったぜ....折角だし...未練を残さない為に...言う..良く聞いとけよ?」
月明かりが××達と辺りの木を照らす。その光を受ける紅葉はゆらゆらと揺れ、何枚か××を迎えるように舞う。血を隠す様に紅葉が何枚か地面に落ちる。
××は苦しい呼吸を整え、最後の言葉を発する。
「お前が好きだ...龍..誰よりも..この種族の掟を破ってでも..お前を愛してる。最後の言葉が....これでゴメンな」
龍は嫌だ、とおもむろに首を横に振る。だが、目が見えなくなった××にその意思は伝わる事が無く。頬に当てられた手が、地面に落ちる。
月明かりが照らす紅葉の海の中、男女二人が抱き合っている。片方は力強く、片方はこの世の理に身を任せ、抱き合う。
彼女はその後、どんな行動をしたのだろう。ライバルとも相棒とも、恋人とも呼べたはずの男を亡くし、何を糧に生きればいいのか分からなかっただろう。
もう二度とこんな事が起こらないように、心の片隅で願っている.....