忘れられた者たちの叶わぬ恋 作:幻想郷の恋路管理者
付喪神と刀
誰にも覚えてもらうことは出来ず、忘れられた存在が辿り着く場所「幻想郷」
そんな閉じられた世界に迷い込む人間が居る。
現世と幻想郷を隔てる結界をまるで壁抜けの様に低確率で移動するか、特別な方法を使って侵入するか。どちらにしろ、そうそうある事では無かった。
だが、人の数だけあちら側に行く確率は上がってしまうもので....。
とある村の山奥、そこに自分の工房を持つ人物が居た。
名を××、刀鍛冶を営んで数年が経ち、一人山奥で鉄を打ってきた。
××が今まで自身の力のみで打った刀は数知れず、人の目につかぬ場所で鍛え上げ、いつか使って貰える様にと、大切に保管する。
だが、その保管されている刀達の中で、一際異様な雰囲気を漂わせるモノがあった。
「...いつか、妖刀をも超える刀を打ってやるからな...」
××はその刀に触れぬよう呟く、先祖から代々受け継がれてきた刀。名もなく、誰が使っていたかすらも分からない。確実なのは、妖刀であり、自分の先祖が鍛え上げた刀だという事。
××の目標は、妖刀とも呼ばれたこの刀をも凌ぐ刀身を叩く事だけ。
どの様に超えるかは、決めていないのだが....。
今日も刀を打つ為、少し長い髪の毛を上げるために鉢巻を巻く。
そして、工房への扉を開けた筈だったのだが...
「..あ...?あれ..何処だここ..」
気付けば知らない道と家が並ぶ人里だった。周りには行き交う人々、××の衣服が周りと違うせいか、少し視線を感じる。
××は困惑してしまう。意味が分からずに辺りを見回す。だが、何処にも自分が入って来た扉も無く、自分が住んでた家や山も無い。
「一体何が起きてんだ...取り敢えず、ここは何処か誰かに聞かなければ..」
このままここに突っ立っておくのも気まずいと思い、丁度近くに居た少女に話しかける。
「あ..あの〜...少し聞きたいことがあるんですけど....今いいですか?」
そう声をかけると、少女は××に気づき振り向く。その少女は水色の髪に左目が赤、右目が青の特徴的な目をしていた。さらに、手には紫色の少し古めかしい傘を持っていた。
「今ですか..?別に構いませんが..何かありました?」
きょとんとした顔でこちらを見つめてくる。身長が小さめの為、××は若干屈んで話す。
「いやぁ、変な事を聞くけど..ここが何処か分かんなくて...○○山って..何処にあるか知ってる?」
「○○山?聞いた事無いけど...ここら辺に名前がある山なんて数える程しか無いし...それに、貴方人間だよね?」
少女は少し考える素振りをみせ、淡々と質問に答えてくれる。だが、××が求めた回答では無く、更に謎が深まっていった。
「に..人間かって言われても..そりゃ人間だが...ったく..一体何なんだよ...朝早くから刀打とうと思ったのに..気付けば知らない場所だなんてなぁ..」
××は頭を掻き、ため息をつきながら独り言を呟く。だが、少女に聞こえてしまっていたのか、少女が何か分かったかのような声をあげる。
「気付けば知らない場所って事は...貴方外の人なの!?道理で服とか普通の人と違う訳ね...」
驚いた様な顔をして、少女は××を見つめる。××もその声に少し驚き、顔を引きつらせる。
「そ..外の世界..?どういう事だ..?この世界は別次元とでも言いたいのか?」
少し焦る××、それに対し少女は冷静に答えてくれる。
「別次元..では無いのだけれど、貴方の住む世界とは隔離された世界なの。残念だけれど..外の世界に戻る方法は無いよ..私の知る限り..だけどね。まぁ、力のある妖怪とかなら話は別だけれど」
××は更に困惑してしまった。ただいつも通りの事をしようとしただけなのに、知らない場所へ飛ばされて、挙句の果てに帰る事が出来ないという。
半ば絶望した××に少女は励ますように言葉をかけてくれる。
「あ..あの、帰れないのがショックなのは分かるけど...腹括ってここで暮らすしかないよ..?この里の外に出たら十中八九死ぬし..貴方がこの世界に慣れるまで私の家で養ってあげるから...ね?だから、人生諦めたような顔をしないでぇ...」
そう言われ、××はため息を一つつき、低く元気の無い声で呟く。
「..それも...そうかなぁ、もうなっちまった事はしょうが無いし....精神が落ち着くまで君の家にお邪魔させて貰うよ..」
それを聞いた少女は笑顔で頷いて、着いてきて!と一言いって小走りで道を走っていった。少女の下駄の音を追いかけるように××も早歩きで少女の後を行く。
少女が立ち止まり、××もそれに追いつく。二人の目の前にあったのは一つの鍛冶屋、中からは鍛治独特の金属臭が漂ってくる。入ってすぐの壁には包丁や小刀等の刃物が置かれていた。××は無意識の内にその刃物に触れる。
「..良い鍛え方だな...数年..いや、数十年と経験を積んだ様な出来だ...」
刀鍛冶をするだけあって、刃物には目が無かった。その包丁を舐め回すように隅々まで観察し、素晴らしい物だと評価する。
それを近くに居た少女が聞き、××に驚きの言葉を返した。
「えへへ..そんな褒められると嬉しいね。君からは刀の匂いがすると思ってたけど..もしかして私と同じ鍛冶師だったのかな?」
横を向くと照れくさそうにした少女が居た。××はにわかには信じがたいその現状に少し硬直してしまった。
「も..もしかしてだが...ここにある刃物や金属は君が鍛えたのか..?」
「そりゃあそうだよ!私はこう見えてもこの里の鍛冶屋を営んでるんだよ?しかも、特別な力を入れてやれば柔らかい金属もあっという間にガッチガチになるんだよ!」
××は開いた口が塞がら無かった。この目の前にいる少女が、外見からして20かどうかの少女が作ったというのだ。信じられるわけがない無いが..この世界は自分の住む世界とは違う。何か特別な方法でも使っていると思い、一人納得した。
「さぁさぁ、取り敢えず自己紹介しよっか!君からどうぞ!」
自己紹介をしろと言われたので、××は鉢巻を取り、軽く微笑んで答える。
「俺は××、外の世界?では刀鍛冶をしてた者だ。君からしたら稚拙な刃物達に見えるかもしれないが、俺はコイツらに大切な思いがある。まぁ、刀とか刃物に命をかけてると思ってくれ」
常備していた小刀を懐から取り出し、刀身を見せる。少女はそれをまじまじと見つめ、少し微笑んだ後に話し始めた。
「うんうん、君も中々の腕をしているんだね。小刀君もすっごい喜んでるよ!..さて、私の自己紹介だね。私は多々良小傘、この傘の付喪神なの。こんな見た目でも百年は生きてるからね!言葉使いは気を付けるんだぞ!」
笑顔でそう言う小傘を見ながら、××は妖怪やらなんやらと言われて困惑するも、もうどうでもいいと思い、考える事を諦めた....