願わくば、意味のある死を   作:虚憂

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沈む様に、深海を見よ

朱璃(しゅり)、これここで良いかな」

 

「良い、後はこっちの海達」

 

 

 うーん数が多い。

 荷物を何とか回収し、朱璃の所にお世話になり始めて既に一月が経つ。

 探し人、未だ見つからず。

 今は魚の魔獣達の片付けと言うか、処理。

 

 

「私の言葉、通じ無い海達も居るから、人手が増えたのはありがたい」

 

「ふーん……そう言えば、何で魔獣……魚達の事を海って呼んでるの?」

 

「……お母さんが、彼等は"海の代行者"って言ってたから」

 

「え?」

 

「海は生きてる、けど何か出来るわけじゃない、だから代行者が必要なんだって」

 

「……?」

 

 

 海が生きてるって?

 そりゃロマンチックな考え方だなぁ……いやどう言う事だよ。

 

 

「……つまり、どう言う事?」

 

「魚達の事を海って呼んでる訳じゃない、総称」

 

「……なるほど?」

 

 

 よく分からん。

 この子どうやら少しばかり不思議っ子……天然?の様な感じだ、と言う事が判明したのが一週間経った頃。

 彼女のお母さんも似た様な感じなのだろうと、何となく感じた。

 

 

「お母さんの話は、時々難解……全てを把握する事は不可能に近い」

 

「……朱璃のお母さんって何してた人なの?」

 

 

 代行者だとか何だとか……どうなってんですかね?

 そう呼び始めた経緯が気になる所だが。

 

 

「……知らない」

 

「え、何も?」

 

「うん、お母さんからは神職って言われてる」

 

「……他には」

 

「ご先祖様は外国から来たらしい」

 

「……」

 

 

 外国から来た宗教家もどきの一族?

 何か……こう言ったら朱璃に失礼だが……うん、厄ネタなのか?

 キリスト教の宣教師みたいなものなんだろうか。

 

 

「そう言う涼音(すずね)のお母さん達は?」

 

「……私?」

 

「気になる」

 

「私……私かぁ……」

 

 

 どうしようかな、記憶無いんだけども。

 もう大体七、八年位は前になるのか、あそこで目覚めた日から。

 未だにあの場所に居た理由は分からないし、手掛かり一つ無い。

 

 

「……ごめんね、私のお母さん達の事は分かんないかな」

 

「……?」

 

「私……七歳八歳?の時より前の記憶が全部無いんだよね」

 

「……え」

 

「しかも目覚めたのは滅んだ街の中……それまでどうやって生きて来たのか、私がどんな人間で、どんな人達と関わって来たのか、それらの手掛かりは一つも見つからない」

 

 

 ボスによるとあの街が滅んだのは、例の『怒りの日(ディエス・イレ)』と同時期だとの事。

 そしてその崩壊は俺が目覚める二年前の出来事だ、あの街が手掛かりだとは言い難い。

 

 

「……」

 

「……色々こっちは聞いたのに、答えられなくてごめんね」

 

「ううん、こっちこそごめん」

 

 

 うーん、それでも何だか申し訳ないなぁ……あ、そうだ。

 記憶は無いけど、これだけは言えるってのがあるんだった。

 

 

「……あ、一つだけ」

 

「?」

 

「一つだけ言える……と言うか、残ってるものがあったの、思い出して」

 

 とは言えど、俺自身それ程重要だとは思って無い物だし、さっき過去を振り返るまで忘れてたんだけどな。

 

 

「これ」

 

「……えっと、時計?」

 

「うん、懐中時計だよ」

 

 

 俺が持ってたらしい?

 あの時そんな物持ってたかな……とは今でも考えるが。

 少なくとも、この時計を渡された時、何となく既視感を感じた事を、偶然だとは思いたく無いな。

 

 

「……綺麗」

 

「所々、ひび割れてるんだけどね」

 

「……それでも、綺麗な時計」

 

「ありがと」

 

 

 見た目はとても高そうな物なんだよな、これ。

 残念な事に、壊れてしまって動かないガラクタであるが。

 

 

「今の所、この時計以外に私に繋がる物は無いよ」

 

「……辛く無いの」

 

「記憶が無いから、それが悲しい事かも忘れたよ」

 

「そう」

 

 

 単純に俺が冷酷なだけかもしれんが。

 そう思ったが、口にはしないでおく。

 こんな事、言った所で誰の得にもならないしな。

 

 

「それはそうと、そろそろ片付けも終わりで良いんじゃないかな?」

 

「……あ、うん」

 

「あれだけの数、今まで一人でやってたの?」

 

「今まではこんなに来なかったから」

 

「そうなんだ」

 

 

 湿っぽい空気はもう終わり。

 私も居たとは言え、この数を処理するのは相当時間がかかった。

 今日が例外だと思いたいが。

 

 

「今の海は怒ってる」

 

「……怒ってる?」

 

「うん、海の、底の、奥の方……そこで、怒ってる……それに反応して、他のも怒って攻めて来てる」

 

 

 海の底の奥……海底か。

 海底の方に何か親玉的な何かが居るらしい、それがかなり怒ってると。

 魚はそれに呼応する様に怒り、こちら側に尋常じゃない程の群れとなって来る、と言うカラクリらしい。

 

 

「……それが分かっても、かぁ」

 

「うん、人間の体じゃ、そこまで行けない」

 

「朱璃の力でどうにかなる?」

 

「……聞くだけなら、どんな場所でも聞ける……けど話し掛けるには、相手に触れられる位近くに居ないとダメ」

 

「そっか」

 

 

 声を聞けるってだけでもお釣りが来る程に凄い力なのに、語り掛ける事も水を操る事も出来るらしいし、凄いな朱璃の力。

 本人曰く、操れる量に限界はあるらしいし、深海に辿り着く事は出来ないんだろうな。

 

 

「……ねえ、朱璃」

 

「どうしたの」

 

「探し人が見つかったらさ、私の所に来ない?」

 

「?」

 

「ボ……私の親代わり的な人なら、朱璃の事も受け入れてくれると思うし」

 

 

 何となく、言っておきたかった。

 実際魔力は強いし、何なら強くなくても受け入れてくれるとは思う。

 

 

「……ごめん、嬉しいけど、行けない」

 

「……」

 

「私が居なくなったら、海達が止められなくなる」

 

「……この街は、朱璃に優しく無いけど」

 

「それでも、お母さんが好きだったこの街を、私が守る」

 

「……そっか、変な事言ってごめんね」

 

「ううん、気遣ってくれてありがと」

 

 

 まあそうだよな、と言うか彼女を血生臭い世界に誘うとか、何を考えてるんだ俺?

 断るとは何となく感じていたけども、もし肯定されてたら、罪悪感所の話じゃ無いだろ、俺の方が。

 

 

「……涼音」

 

「ん?」

 

「今日は何の料理を作るの」

 

「あ、もうそんな時間なんだ」

 

 

 どうやら死体の処理で一日が終わりかけているらしい。

 居候である俺が、何もしないなんて事出来るわけもないし、そもそも何もしないのは性に合わない、って事で家事の手伝いをしている訳だ。

 

 

「そうだなぁ……朱璃は何が食べたいとか、ある?」

 

「……何でも?」

 

「何でもが一番返答に困るんだけどなー……?」

 

「涼音の料理は大体美味しいから、何でも」

 

「褒めてくれるのは嬉しいけど、大体似た様な料理だよ?しかも調理法はそんなに難しくない物だし」

 

「……」

 

「……うーん、ある物を見てから決めようかな」

 

 

 俺、そんなに料理のレパートリー多く無いんだけど?

 朱璃は……こう言ってはなんだが、あんまり料理が得意じゃない。

 だから俺の当番になった訳だが……こんな環境じゃまともに食材が揃う訳も無く、色々苦戦している所である。

 煮る焼く茹でるだけでも変わってくるが、出汁やその他にも限界がなぁ。

 

 

「……うーん」

 

「今日は海達もある」

 

「……出汁でも取ろうかな」

 

 

 処理して出て来た魔獣の可食部も、今となっては数少ない食材の一つである。

 生でも食べられない事もないが、処理に時間がかかった分、流石に菌類が怖いが……出汁は骨とかその辺りから取ろう、今日は焼き魚だな。

 こうしていると日菜(ひな)達と旅していた頃が懐かしく感じられるなぁ。

 

 

「……今日は焼き魚にでもしようかな」

 

 

 あの頃は楽しかった。

 記憶が無い分、その思い出の範囲は狭められているが、その中では一番楽しかったと断言出来る。

 まあ、思うだけで、口にする事は無いんだが。

 

 ……日菜達、今何してるんだろうな。




かなり遅くなりました&駄文。
これ書いてて、よくこんな展開してGLタグ要らない判断出来たなぁ作者とは思います。
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