願わくば、意味のある死を   作:虚憂

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間話:血塗れと眩しさの回想

 今の世界は、神がお怒りになったから。

 そんな事を声高に叫び続ける宣教師もどきが居た。

 

 

「我らは間違えたのだ! そして神はお怒りになられーー」

 

「《うるさいな、ちょっと黙っててよ》」

 

「黙らぬ! だからこそ! 今度こそ間違えてはならない! 神から脱却するのでは無く、神を支え続けねばならんのだ!」

 

「《……いやしつこいってば》」

 

 

 余程肝が座っていたのか、死を悟り最後まで続けようという一種の諦めなのか。その男は刃物を突きつけられてもなお、叫び続けた。

 

 

「貴様は『記し捧げる者(ヨハネ)』の差金だろう! 同じ志を持つ同志に何故こんな事をする!」

 

「《あー……そんな名前だったね》」

 

 

 同志ねぇ……

 

 

「《うちが代替わりしたの、知らないんだ》」

 

「何?」

 

「《色々あってね、今のボスは身内含む貴方達みたいな人とは訣別するってさ》」

 

「なっーー」

 

「《御託はいい、貴方で終わりだから》」

 

 

 突きつけた刃物を、思い切り押し込んで、引き抜く。ヒトという生物はそれから三十秒程度で沈黙する。

 知らなくて良い事で、知ったらダメな知識だ。

 

 

「あ、がぁ……」

 

「《……しぶといね、まだ喋るんだ》」

 

「がみ、よ……われら、づみぶがぎじんるいを、おゆるじ、くだざ……い」

 

「《……》」

 

 

 魔力を持たない身でありながら、その祈りだけで組織のリーダーにまでなった男の、最後の願い。

 この男も、見方を変えれば人のために動いた人間の一人ではあったのだ。

 

 

「《……だから、でも》」

 

 

 生贄の(その)手段が許される訳ではない。こいつはこれまでうちの組織と負けず劣らずの犠牲を払ってきた、その敬虔な信徒達も同様に。

 

 こんな世界で、何かに縋りたかったんだろう。生き甲斐を、現実を忘れられる程熱中できる何かが欲しかったのだろう。

 この世は、地獄に成り果てたんだから。

 

 

「だから……さ……」

 

 

 周りに広がる紅の絨毯、そこに佇むは俺一人。他は物言わぬ肉塊に成り果てた。俺が、殺したんだ、これ全部。

 

 覚えてしまった、肉を裂く感覚を。

 

 慣れてしまった、痛みの少ない裂き方に。

 

 それでもなお、俺は……。

 

 

「あは、狂えるってどれだけ楽なんだろ」

 

 

 表情は動かない、理性は思考をやめさせない。

 前世で培った物が、俺を唯の悪人にしてくれない。

 耳を澄ませば、先程までの阿鼻叫喚(じごく)は蘇って来る、そして離れてくれない。

 

 

「……」

 

 

 狂信者達に、慈悲はない、しかし怒りもない。それでもなおついて回る後悔と羨望。

 頭が割れそうになっても、胸の奥がひどい痛みを発しても、俺は人殺しに酔えなかった、仕事だと割り切れなかった……忘れられなかった。

 

 

「……あーあ、私は何がしたいのかな」

 

 

 ナイフが重い、体も重い、心は悲鳴を上げているかもしれない。だが、その一切合切に目を瞑る(ふたをする)

 

 

「……生きて救われよう、なんて思うな、私」

 

 

 俺自身に目的は無い、だがーー。

 

 

「『死なないで』……って、言われたから」

 

 

 再会する気はないが、願われたんだ、出来る限りは生き残る。

 死ぬまで、俺は、生き残るさ。

 

 それが、どんなに辛くても。

 

 

 

△△▲△△

 

 

 

 綺麗だと思った。

 

 

「えっと……見ててごめんね、嫌だった?」

 

 

 惚れた、とかそういう感情から来る『綺麗』じゃない。心の底から、ただ……そう、思ったんだ。

 

 

「あ……如月(きさらぎ)涼音(すずね)、よろしくね」

 

 

 いつの間にか、追い抜かれる様な形になっていたらしく、驚いた風に自己紹介をする彼女……如月涼音という少女との二度目の邂逅であり、奇縁の始まりだった。

 

 

「お前って如月さんのこと好きなのか?」

 

「……は?」

 

「いやお前さ、この一ヶ月で何回如月さんの方見てんだよって話」

 

 

 不意にそんな事を聞かれ、返答に詰まってしまった事はここ最近でも類を見ない失態かもしれない。

 

 

「いや……ねえよ」

 

「じゃあ何でそんなに如月さんの方見てんだ?」

 

「それは……」

 

 

 惚れては、いない。それははっきりと言える。

 だが時折、彼女の方を見てしまう時があるのも事実である。その理由は  

 

 

「……何もねえっての」

 

「ほー?」

 

 

 怪しまれるが、本心を話してやる理由もないのではぐらかしておく。

 

 

「……だよな、やっぱりお前」

 

「……うるせえ」

 

「はは、おもしれー」

 

 

 だが、その後壱成(いっせい)のやつに余計な事をされるぐらいなら、本心を話しておけばよかったかもしれない。

   彼女の振る舞いに、表情に、どこか違和感がある、という事を。

 

 

 

「本当だよ」

 

「ッ……」

 

 

 壱成の奴でなくとも誰かに話していれば、こうはならなかったのかもしれない。

 つい、そう思わずにはいられなかった。

 

 幹島(みきしま)先生がいきなり如月のことを捕まえると言い始めて、俺達は反論をする暇もないままにそれに従って。

 そして、それを如月は否定しなかった。

 

 ……して、欲しかった。

 

 だから。

 

 

 

「如月ッ!!」

 

 

 無我夢中で、追いかけた。

 速くて、とても追い付かない、追い付けないと思った彼女の背中を。

 

 

「いたた……」

 

「うぐ……」

 

 

 途中からはもう、手当たり次第に走り回っていたんだが。

 あいつと行ったことがある場所とか、その近くなんかをな。

 

 

「バカだね」

 

「そうするしか、思いつかなかったからな」

 

 

 そうしてするのは、俺の疑問をぶつけること。

 俺がずっと感じていた違和感、その一端を、そのままぶつける。

 

 

「……日菜(ひな)有栖(ありす)が、本当に大切なんだな……万が一にも、あの二人に自分達の世界に関わって欲しくないって事だろ」

 

 

 如月はずっと赤の他人だと口では言いながら、日菜と有栖のことを赤の他人が向けない様な目で見ていた。

 懐かしむ様な、ほっとしたかの様な目で。

 

 ……当時はそもそも俺が如月と初対面だったから、ちょっとした違和感だとしか感じ取れなかったが。

 こうしてあいつらと如月が旧知の中だとほぼ確信できたからこそ、こうして言語化ができたんだ。

 

 

「それが、何かおかしいかな」

 

 

 否定もできなさそうにむすっとした表情をしている如月。

 ……なんか、面白いな。

 

 

「いや、それが分かっただけでも十分だ……それに、応えてくれたしな」

 

「……そ、じゃあね」

 

 

 そう、去っていくあいつを眺めることしかできない。

 ……今、俺が全力で追いかけたとしてもどうにかできる気がしない。

 それだけの差が、俺とあいつにはある。

 

 

「……絶対に、お前をこっちに連れ戻す」

 

 

 その為にも、強くならなきゃな。

 それが、あいつの為にもなる筈だし、あの違和感の根幹にも繋がる筈だから。




プロローグ章のお話をちょこっと整理しました、改行とかその辺のところを。
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