願わくば、意味のある死を   作:虚憂

24 / 24
間話:血塗れと眩しさの回想

 今の世界は、神がお怒りになったから。

 そんな事を声高に叫び続ける宣教師もどきが居た。

 

 

「我らは間違えたのだ! そして神はお怒りになられーー」

 

「《うるさいな、ちょっと黙っててよ》」

 

「黙らぬ! だからこそ! 今度こそ間違えてはならない! 神から脱却するのでは無く、神を支え続けねばならんのだ!」

 

「《……いやしつこいってば》」

 

 

 余程肝が座っていたのか、死を悟り最後まで続けようという一種の諦めなのか。その男は刃物を突きつけられてもなお、叫び続けた。

 

 

「貴様は『記し捧げる者(ヨハネ)』の差金だろう! 同じ志を持つ同志に何故こんな事をする!」

 

「《あー……そんな名前だったね》」

 

 

 同志ねぇ……

 

 

「《うちが代替わりしたの、知らないんだ》」

 

「何?」

 

「《色々あってね、今のボスは身内含む貴方達みたいな人とは訣別するってさ》」

 

「なっーー」

 

「《御託はいい、貴方で終わりだから》」

 

 

 突きつけた刃物を、思い切り押し込んで、引き抜く。ヒトという生物はそれから三十秒程度で沈黙する。

 知らなくて良い事で、知ったらダメな知識だ。

 

 

「あ、がぁ……」

 

「《……しぶといね、まだ喋るんだ》」

 

「がみ、よ……われら、づみぶがぎじんるいを、おゆるじ、くだざ……い」

 

「《……》」

 

 

 魔力を持たない身でありながら、その祈りだけで組織のリーダーにまでなった男の、最後の願い。

 この男も、見方を変えれば人のために動いた人間の一人ではあったのだ。

 

 

「《……だから、でも》」

 

 

 生贄の(その)手段が許される訳ではない。こいつはこれまでうちの組織と負けず劣らずの犠牲を払ってきた、その敬虔な信徒達も同様に。

 

 こんな世界で、何かに縋りたかったんだろう。生き甲斐を、現実を忘れられる程熱中できる何かが欲しかったのだろう。

 この世は、地獄に成り果てたんだから。

 

 

「だから……さ……」

 

 

 周りに広がる紅の絨毯、そこに佇むは俺一人。他は物言わぬ肉塊に成り果てた。俺が、殺したんだ、これ全部。

 

 覚えてしまった、肉を裂く感覚を。

 

 慣れてしまった、痛みの少ない裂き方に。

 

 それでもなお、俺は……。

 

 

「あは、狂えるってどれだけ楽なんだろ」

 

 

 表情は動かない、理性は思考をやめさせない。

 前世で培った物が、俺を唯の悪人にしてくれない。

 耳を澄ませば、先程までの阿鼻叫喚(じごく)は蘇って来る、そして離れてくれない。

 

 

「……」

 

 

 狂信者達に、慈悲はない、しかし怒りもない。それでもなおついて回る後悔と羨望。

 頭が割れそうになっても、胸の奥がひどい痛みを発しても、俺は人殺しに酔えなかった、仕事だと割り切れなかった……忘れられなかった。

 

 

「……あーあ、私は何がしたいのかな」

 

 

 ナイフが重い、体も重い、心は悲鳴を上げているかもしれない。だが、その一切合切に目を瞑る(ふたをする)

 

 

「……生きて救われよう、なんて思うな、私」

 

 

 俺自身に目的は無い、だがーー。

 

 

「『死なないで』……って、言われたから」

 

 

 再会する気はないが、願われたんだ、出来る限りは生き残る。

 死ぬまで、俺は、生き残るさ。

 

 それが、どんなに辛くても。

 

 

 

△△▲△△

 

 

 

 綺麗だと思った。

 

 

「えっと……見ててごめんね、嫌だった?」

 

 

 惚れた、とかそういう感情から来る『綺麗』じゃない。心の底から、ただ……そう、思ったんだ。

 

 

「あ……如月(きさらぎ)涼音(すずね)、よろしくね」

 

 

 いつの間にか、追い抜かれる様な形になっていたらしく、驚いた風に自己紹介をする彼女……如月涼音という少女との二度目の邂逅であり、奇縁の始まりだった。

 

 

「お前って如月さんのこと好きなのか?」

 

「……は?」

 

「いやお前さ、この一ヶ月で何回如月さんの方見てんだよって話」

 

 

 不意にそんな事を聞かれ、返答に詰まってしまった事はここ最近でも類を見ない失態かもしれない。

 

 

「いや……ねえよ」

 

「じゃあ何でそんなに如月さんの方見てんだ?」

 

「それは……」

 

 

 惚れては、いない。それははっきりと言える。

 だが時折、彼女の方を見てしまう時があるのも事実である。その理由は  

 

 

「……何もねえっての」

 

「ほー?」

 

 

 怪しまれるが、本心を話してやる理由もないのではぐらかしておく。

 

 

「……だよな、やっぱりお前」

 

「……うるせえ」

 

「はは、おもしれー」

 

 

 だが、その後壱成(いっせい)のやつに余計な事をされるぐらいなら、本心を話しておけばよかったかもしれない。

   彼女の振る舞いに、表情に、どこか違和感がある、という事を。

 

 

 

「本当だよ」

 

「ッ……」

 

 

 壱成の奴でなくとも誰かに話していれば、こうはならなかったのかもしれない。

 つい、そう思わずにはいられなかった。

 

 幹島(みきしま)先生がいきなり如月のことを捕まえると言い始めて、俺達は反論をする暇もないままにそれに従って。

 そして、それを如月は否定しなかった。

 

 ……して、欲しかった。

 

 だから。

 

 

 

「如月ッ!!」

 

 

 無我夢中で、追いかけた。

 速くて、とても追い付かない、追い付けないと思った彼女の背中を。

 

 

「いたた……」

 

「うぐ……」

 

 

 途中からはもう、手当たり次第に走り回っていたんだが。

 あいつと行ったことがある場所とか、その近くなんかをな。

 

 

「バカだね」

 

「そうするしか、思いつかなかったからな」

 

 

 そうしてするのは、俺の疑問をぶつけること。

 俺がずっと感じていた違和感、その一端を、そのままぶつける。

 

 

「……日菜(ひな)有栖(ありす)が、本当に大切なんだな……万が一にも、あの二人に自分達の世界に関わって欲しくないって事だろ」

 

 

 如月はずっと赤の他人だと口では言いながら、日菜と有栖のことを赤の他人が向けない様な目で見ていた。

 懐かしむ様な、ほっとしたかの様な目で。

 

 ……当時はそもそも俺が如月と初対面だったから、ちょっとした違和感だとしか感じ取れなかったが。

 こうしてあいつらと如月が旧知の中だとほぼ確信できたからこそ、こうして言語化ができたんだ。

 

 

「それが、何かおかしいかな」

 

 

 否定もできなさそうにむすっとした表情をしている如月。

 ……なんか、面白いな。

 

 

「いや、それが分かっただけでも十分だ……それに、応えてくれたしな」

 

「……そ、じゃあね」

 

 

 そう、去っていくあいつを眺めることしかできない。

 ……今、俺が全力で追いかけたとしてもどうにかできる気がしない。

 それだけの差が、俺とあいつにはある。

 

 

「……絶対に、お前をこっちに連れ戻す」

 

 

 その為にも、強くならなきゃな。

 それが、あいつの為にもなる筈だし、あの違和感の根幹にも繋がる筈だから。




プロローグ章のお話をちょこっと整理しました、改行とかその辺のところを。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか(作者:ねこ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

(救いは)ないです。▼前世でプレイしていたソシャゲに転生したものの、未実装・闇落ちキャラ「比良坂クオン」になってしまった。▼何とか闇落ちしても「もとはいい人だったから」と同情を買って助けてもらいたいと努力するが、そういう足掻きは人の心をかえってくちゃくちゃにしたり、疵を残したりするものですよ?▼


総合評価:1928/評価:8.02/連載:11話/更新日時:2026年06月24日(水) 23:06 小説情報

強化人間がTSしたら魔法少女が戦う世界でメカ美少女になってました(作者:Yura0628)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ミサイルの爆発に巻き込まれた強化人間イーグル1。目覚めた先は、魔法少女が戦う過去の地球だった…!▼自身の体が女性に成っている事に困惑しつつ、元の世界に戻るため、イーグル1は魔法少女として戦う事の対価に、この世界の組織に協力を取り付ける。だが、襲いくる強力な魔獣を相手していく上で、身体的損傷を許さざるを得ない状況に追い込まれ…彼女に救われた魔法少女達は、目から…


総合評価:1947/評価:8.5/連載:37話/更新日時:2026年05月09日(土) 11:11 小説情報

たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい(作者:ヒナまつり)(オリジナル現代/ホラー)

いつも、俺は小説を読んで思っていたことがあった。▼それは、どんな登場人物でも曇らせにあった瞬間が世界一美しいと言うものだ。▼クール美女も、甘々幼なじみも、ミステリアスな不思議ちゃんも…全部、全部絶望に伏せて泣き喚くあの瞬間が俺にとっては最高で、その後色々あって立ち上がるまでの道のりが世界で一番好きだった。▼けれど、残念ながら現実の俺は誰かにとってそこまで大切…


総合評価:142/評価:5.75/連載:9話/更新日時:2026年04月29日(水) 22:14 小説情報

ヒロイン矯正!(作者:アールエー)(オリジナルファンタジー/コメディ)

乙女ゲームのモブ娘に転生したおっさんが、持ち前の拳法と知識を使い、平穏に生きようとしていた。しかし何の因果か同じくヒロインに転生した女の子と出会ってしまい、シナリオを知り尽くしたと思い上がったヒロインを叩き直す物語。▼ちなみに、おっさんは原作ゲームの知識ゼロ。▼性転換おっさんは作者の趣味で、必然ではない。作者の心の中では必然だが。▼精神的BLは念のため。そこ…


総合評価:674/評価:8.71/連載:46話/更新日時:2026年06月26日(金) 18:00 小説情報

いや、死神とか聞いてないし(作者:わお)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死神少女にTS転生してしまった一般人。▼本人はただの下っ端役職だと思っている。▼だがそんなはずもなく。


総合評価:3361/評価:7.92/連載:11話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>