願わくば、意味のある死を   作:虚憂

3 / 21
キッカケが来るのは、心構えを持つより早い

 不思議な友達が出来、運良くその子と殺し合う日が来ないまま、既に……何日だろう、数ヶ月……いや、数年は経っていると思う。

 

 

「ぜろちゃん」

 

「……どうしたの」

 

「なんでもない!よんだだけ!」

 

 

 なんせ俺と同じくらいだった少女が、少しばかり目線を上にしなければならなくなっているからだ、成長期だったとしても数ヶ月はあり得ない、と思いたい。

 俺は……ほんの少し伸びた筈、多分、きっと。

 

 あとこの不思議な少女は、俺以外にも友達……みたいなものをそれなりに作っているらしい、至る所で誰かと話しているのを見かける。

 こんな環境なのに友達を多く作る行動力はすごいと思う、うん。

 

 

「〜〜♪」

 

 

 だが少なくとも一日?一回はこちらに来るのは流石にやめて欲しい、背後に居る直前まで話してた子や、その他周りの子の視線がすごいのだ。

 

 

「チッ」

 

「人形か」

 

「またあいつ……」

 

 

 うーん、凄まじい嫉妬と言うか、警戒心と言うか……君ら殺し合うよね、すごい絆されてるけど大丈夫なのかな。

 そんな中、原因である少女とは、と言うと。

 

 

「えへへ」

 

「……」

 

 

 嬉しいオーラ全開でこちらを見ている。

 ……。

 この笑顔を見ると、表情は変わらないにしろ、まぁ良いか、と思ってしまう。

 大概俺も絆されている様だが、悪い事ばかりではない、と思う。

 俺と言う共通の敵が、少年少女達の中に生まれ、生きるための活力になるのならそれで良し、まぁ大半はそうではない様だが。

 

 そんな事を考えていると……檻の外から、乱雑に床を踏み鳴らす音が近付いて来た、時間かな。

 しかし今日は人が多い、いつもは一人二人なのに、今日は四人も、何かあるのか。

 

 

「おい、零番、時間だ、出て来い」

 

「……」

 

「今日は()()の皆様も見物にいらしてる、下手な事すんじゃねぇぞ」

 

 

 ああ、そう言う事。

 だから俺が呼ばれ、こんな人が居るわけか。

 コイツらの目的は……なんだろう、魔力だとか言うとんちきなものを、子供である俺たちが発現?させようとしてるらしい、看守どもがなんやかんや言ってるのを、こっそり聞いたが。

 

 ただ下っ端らしいコイツらからそれ以上は聞けず、魔力だとかそれらに関する云々は全く分からない。

 ただ戦いの道具として扱う為、にしては簡単に命を散らせているし、肉壁とするには、かなり手間のかかる方法っぽいし、それなりに大事な事なんだろう。

 

 

「……ったく、なんでこんなところに幹部様が……」

 

「他支部の……例のガキの試験運用だとか」

 

「なんでも、この世代の()()とやらせたいらしい」

 

「ほぉ……こんな薄気味悪ぃガキがねぇ……」

 

 

 ……。

 優秀、ね……俺に当てはまる、と言うのならば、そう言う事なんだろう。

 例の子供、と言うのは……蠱毒の壺の中で生き残った子供同士なら、魔力とやらが出るかもしれない、って思っての行動なのか。

 

 

「お偉い様の考えなぞ俺らに分かるわけもねぇ、俺らはただ命令に従えば良いだろ」

 

「そう、だなぁ……おら、零番、さっさと行って来い」

 

「……はい」

 

 

 所々に拭い切れていない血が滲む、試合場。

 それなりに大きいと感じていたソレは、今日に限り……とても狭く感じる。

 一歩一歩歩いて行く度に、明瞭になって行くのは、人、人、人……彼らが全員、悪趣味な蠱毒の見物を目的にした、悪人なのだろう。

 

 

「……」

 

 

 そしてその中央に映るのは……優秀らしい、金の少女。

 不思議っ子にも言えるけどさ……何でこう見た目優秀なんだろうね、この子ら……俺もだけど。

 ……俺もだけど!

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 俺と、相手の少女の視線が合う、が……言葉は無い、こんな中で話す事がある方がおかしいけど……不思議っ子なら、お構いなしに話しそうだな、うん。

 

 

「よぉし、揃ったな?……ひひ、それでは今から、番号七百七十二番と、零番による、試験運用を開始する」

 

 

 ……試験運用?

 

 

「ッ……」

 

「……」

 

 

 俺が構えるのはいつものナイフ、お相手は……持って、ない?何でだ。

 ……嫌な予感しかしないが、間合いには気を付けよう。

 

 

「……始め!」

 

 

 始まった、まずは初動を見て、背後に回らない……と?

 

 

「……なに、それ」

 

「?」

 

「……モヤ、みたいなの」

 

「!……見える、んですか」

 

 

 開始と同時に、踏み込もうとして……少女の周りに、モヤが浮いているのに気が付いた。

 なんだアレ、近付きたくない、嫌な予感がする。

 

 

「うん、でも……やらないと、ですね」

 

「……」

 

「……『切り裂いて』」

 

「……!?」

 

 

 モヤに、何かを命令したと思えば、こちらに迫って来る。

 嫌な予感、これは……あの時と、同じ……!!

 

 

「あぶ、ない……!」

 

 

 直感的に、後ろからの圧力を感じ飛び退く。

 するとあら不思議……なんて言ってられない、なんせ地面が抉れたのだ、文字通り。

 

 

「避けるんですね……」

 

 

 呑気だな。

 同い年くらいの少女に、試験運用という言葉と、いきなり過ぎる試合……バカでも分かる、これが……!

 

 

「まりょ、く……!」

 

「そうです、零番、さん」

 

 

 少女から感じるのは……無、もはや何も感じない、と言いたげな顔だ。

 ……そりゃ、殺せばそうなるか、人を。

 俺みたいに、自分勝手な何かを抱かなければ……いや、抱いていたとしても何人も殺しといて、未だ心を保ててる俺は異常だ。

 成る程、確かに()()らしい、俺も、目の前の少女も。

 

 

「……」

 

「大人しく、死んで下さい……『切り裂いて』」

 

 

 心を壊した健全(まとも)な少女と、心を保つ異常な俺……なんの因果なんだ、本当に。

 だが……。

 

 

「……どうして、そんな……」

 

「……?」

 

 

 無なのに、どこか……違和感を感じる。

 だが……同時に、触れちゃいけない気がする。

 ……考えろ、俺。

 そこに触れないならどうするか、という事だが……。

 懐に潜り込んで、みるか。

 

 

「ッ!」

 

「……近付かせ、ません……『切り裂いて』」

 

「ぐ、ぬ……」

 

 

 モヤがある所が、抉られるんだとするならば。

 ……多少、触れても大丈夫、か?

 

 

「……いく、しか、ない……!」

 

「な……」

 

 

 掠った肩や、腕、脚に、これまでの物よりも鋭い何かが切り付ける。

 痛い……痛いが、()()()()()

 正気じゃない様に映るだろう、だが、俺に出来るのは、これくらい……!

 更に踏み込み、床を蹴る。

 少女の懐まで……これ、なら……!

 

 

「とっ、た……!」

 

 

 即死を狙える、いつもの場所じゃない、だが、そんな事が出来るほど、俺は強く無い。

 一気に、突き刺す!

 

 

「『渦、巻いて』……ごめんなさい」

 

「……え」

 

 

 ……嘘でしょ、そんなにか……魔力ってのは。

 ()()()()()()、文字通りだ、モヤに遮られている。

 それどころか、鈍い音を立て、俺のナイフが折れた。

 

 

「……そこに居ると、危ないですよ」

 

「……ぁ……!」

 

「『切り裂いて』」

 

 

 やば、後ろに飛べ……ない!?

 何故……モヤか!

 ならせめて、ふせが、な……いと?

 

 

「ッ……ぐ、ぁ……」

 

「……凄いですね、零番さんは」

 

 

 切り裂かれた、肩から、大きく。

 ヤバい、死ぬ。

 ……だが、死ぬんなら別に……。

 この世界に親族が居るとも思えない、居たとしても顔すら覚えていない人に何か感じるものは無い。

 

 いや、でも、不思議っ子は……悲しむか、すまん、本当に。

 

 

「まるで、()()()、みたいに」

 

「ぜろちゃん!!」

 

「……ぇ」

 

 

 ちょっと、待て。

 檻は閉められて……え?は?何で?

 見慣れた、桃色の髪に、聞き慣れた声。

 その目は、不安と、焦りに染まりながらも……俺を支えている。

 

 

「……どう、やっ、て……でて、きたの」

 

「あいてたの!そんなことより!ちが!?」

 

「……」

 

「……ぉいおい、どっから出て来たんですかねぇ、今は大事な行事の途中なんだ、出て行きなさい?」

 

「いや!ぜろちゃんにてをださないで!」

 

 

 いや、いやいやいや。

 相変わらずこの子が関わると急展開で困る。

 

 

「チッ……ん?おや、確か……ふむ、勿体無いですが、邪魔をするなら関係ありません、七百七十二番、二人ともやってしまいなさい」

 

「……」

 

「……七百七十二番?聞いているのですか?」

 

「……ん、で……」

 

 

 ……ぐ、なんか眠くなって来た……が、もっとヤバい、俺が触れるべきじゃ無いと思ってた何かに、触れちまったか……!?

 

 

「あ、ぁぁ……ご、ごめん、なさ……いや、やだ……」

 

「七百七十二番!?落ち着きなさい!」

 

 

 科学者風の男が、慌て始めた、ヤバい気がする。

 モヤが、爆発しそうになりながら、少女の周囲を渦巻いている。

 非常に嫌な事ではあるが、この施設に来てから、この勘は外れてくれない……くそ、この子だけでも……!

 

 

「ッ……はな、れて……あぶ、ない……!」

 

「やだ!はなれない!」

 

「そん、なこと……いっても」

 

 

 ならせめて、俺を盾に……!

 でも、ダメだった。

 遅かったことに、勘付いたのは……張り裂けん程の叫び声を、聞いてしまった後だった。

 

 

「ああぁぁぁぁぁっ!!!!」




キリが悪い気がしなくも無いけど、ここで一旦終わり。
なんか予想以上に重くなってってる……なってない?
もう少し表現豊かになれれば良いんですけどねぇ、作者。
ひらがな文が読みにくいのはすみません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。