「ん……こうでも、無い……」
昨日は散々弄られたが、今日は真面目に取り組まないとな。
と言っても雨が降っていては食料探しなど到底出来ないので、室内活動である。
ハルとアリスは……何かしてる、うん。
最近よくある事で、手伝おうとしても拒否されるからな、そんな時は一人寂しく魔力の探究をしている。
「……こう、じゃない……?」
何かを操るでも無く、傷を癒すでも無い俺の魔力。
ただ……赤にしては暗い色をしている気もするが、その色に一瞬発光する、
らしい、と言うのも……俺には半透明のモヤが見えるんだよな、その部分。
原理は分からんが……うん、何かあるんだろうな。
「……違う、もっと……」
今はそれ以外の応用編である。
目立った事は出来ないけど、な。
自身の体に馴染ませる様に、溶け込む様に魔力を巡らせると……
「……体痛い」
そんな凄まじく速く、と言うわけでも無いし、使った後は筋肉痛も酷いけどな。
加速させる魔法、かと思えば、モヤを外に出せば今度は足場を作ったりも出来てしまった。
何だこの魔力、何がしたいんだ。
「……」
しかも他人に使おうとするとめっちゃ難しい。
馴染ませる、と言うのが中々、魔力同士で対抗し合うのでままならない。
無機物なら結構簡単なんだが……やっぱり魔力か?
「ねえ!レイちゃん!」
「……ん、どうしたの」
「今大丈夫?考えてたみたいだけど」
「大丈夫……行き詰まってる、から」
「そうなんだ……じゃあ、こっち来て!」
何だ、どうしたんだ急に。
二人の作業はもう良いのかね、結構集中してたっぽいんだが。
「レイさん」
「ん、呼ばれた、けど……?」
「えへへ、はいこれ!」
ハルの手から、差し出されたのは……何だこれ。
「……紐?」
「紐だよ!」
「……?」
紐だな、うん……うん?
「紐は紐でも、髪紐ですよ、もう……レイさんは、とても髪が長いですから……これを使えば、邪魔にならないって、ハルさんが」
「うん!それに……ほら、お揃い!」
と言って、腕に巻いた、俺の持ってる奴と同じ模様の紐……ミサンガか?
「私も付けてますよ」
「……どうしたの?」
うん、それで付けてるのは良いんだが、これがどうしたんだ。
「一心同体だよ!これなら離れ離れになってもずっと一緒だーって!」
「……なる、ほど……?」
「絆の証だ、と言いたいんだと思います」
おお、流石アリス分かりやすい。
でもそんな事する必要あったか……?
「いや、無くても、一緒……だけど」
「……ふぇっ!?」
「……それはそうなんですけどね……ハルさん」
「あ、えーっと……その」
「?」
急に言葉に詰まり始めるハル。
つまりどう言う事だ、全く分からん。
「……か」
「……か?」
「あぅ……か、感謝の、気持ち……その、レイちゃんにはいつも助けて貰ってるから……」
ああ、なるほど。
感謝される様な事は……ってのは野暮か、素直に受け取っとこう。
「……ありがとう」
「!……えへへ!どういたしまして!レイちゃん」
「……ふふ」
幸せそうに笑うハルに、微笑ましそうに見守るアリス。
どちらも視線がむず痒い……。
それに、髪紐……どうしよう、俺括り方知らない……。
……何とかしよう、うん。
△△▲△△
「……大きい」
「凄く大きいね!あれ!」
「はい、大きいです……」
あれから三日、俺達三人はあるモノの大きさに衝撃を受けていた。
今日は一日曇り空、光の代わりとなる物は無いので完全に手探りだったんだが……この暗さが、目に映るモノの大きさを物語っていた。
「キラキラしてる……」
「……」
「凄まじいですね……周りはこんななのに」
爛々と、この荒廃した暗闇の世界の中で輝いている。
荒廃し、科学という概念が、一時的に喪失されたこの世界において、一般的な光源と言う物は、炎がメジャーである。
……あの組織にも電気は普及していたっぽいんだが、それでもあれ程の範囲には広げられないだろう、多分。
「……多分、電気?」
「ここからでは確証はありませんが……何らかの方法で発電している、という事でしょうか」
「電気きらきら!あそこなら安全かも!」
現代社会のビルが並び立つ都会の夜に比べれば、天と地ほどの差があるけども。
やっぱり、ある程度の豊かさがありそうだ、と言うのに少なからず安堵出来る。
「早く行こ!」
「ええ、そうしましょう」
この時の俺達は、街を見つけた安心感で、多分……気が抜けていたんだと思う。
風で警戒してたアリスも、いつもなら勘、の様な何かで反応している俺も……ソレに、気付かないかった。
「そう出来たら、なんと良いことだろうがね」
「「「ッ!?」」」
全員が、息を呑んだ。
後ろから聞こえた、男の声。
……聞いた事のあるこの声、こいつは……!
「あの、時の……!」
「おや、覚えてたのかい……で、三年振りか?……全く、俺が見つけてしまうなんて、お互い運が無いな、本当に」
やれやれ、と言いたげな仕草は、あの頃から変わってない。
俺の意識を奪い、あの施設に放り込んだ元凶。
「……何の、用」
「ふむ、分かりきった事ではあるが……あえて言おうか」
「……」
冷えきった空気の中、男は事もなげに、言い切った。
「君達を捕まえに来た、と」
「ッ!レイさん!」
「ん、じっとしてて……!」
「!……うん!」
ならばこそ。
やる事は決まってる。
もしもの時の作戦、アリスが風で逃走し、俺はハルを抱えてそれを追いかける。
そんなに速くならないとは言えど、ただの大人相手なら、これで十分な……。
「鬼ごっこか……たしかに速いが……ね」
「……あぐっ!?」
「レイさん!?」
背中に、強烈な、痛み。
一撃貰った、のか……背中が、熱い……刺され、た?
「レイちゃん!?」
「ッ、このっ……『切り裂いて』ッ!!」
「鋭いな……だが、当たらなければどうと言う事はない」
「!」
「そして防御はおざなりだ」
「がっ……ごめ、なさ……」
「アリスちゃん!?」
やべえ、アリスもやられた。
この男、まさか……。
「驚いたな、七百七十二番だけで無く、キミも発現させていたとは……もしかしてそこの……」
「嫌!ダメ……死んじゃ、ヤダ……!」
その言葉と同時に、背中に温かさを感じる。
ぐ……これで三人とも、バレた……非常に不味い……!
「……言うまでも無く、か……」
「ハル……ちゃ、ん……」
「喋っちゃ、ダメ……!」
こうなったら、なりふり構ってられない、な……!
「……ハルちゃん」
「だ、から……」
「……お願い、聞いて」
「え……」
背中の傷は、もはやどうでも良い。
アリスには先に聞いた、険しい顔をしていたが納得していた。
……ハルには、悪いが。
「……ごめん、ね」
「え……?」
「……何も、聞かないで……ただ、命……預けて、くれる……?」
「ぁ……うん、分かった……!」
即答する、信頼が、ありがたくて、痛い。
……だが、言質は取った。
あとは、実行するだけだ。
背中の痛みを無視して、立ち向かう様に立つ。
さっきは突然の事で倒れてしまったが……耐えてしまえば、大丈夫な程度だな。
「……まだ立つか」
「……ねぇ」
「何かな」
「取引、しよう」
「……ふむ、この状況で、する物では無いが……一応、聞いておこうか」
正直言って、上手くいく気はしない。
だが、俺は……やるぞ、この二人を生かす為に。
「私が……そっちに行く、から……二人を、見逃して」
「!?」
「……断れば」
「……二人を殺して、私も……死ぬ」
そう言って少し離れたアリスにも近付き、いつでも殺せますよ、と言った風にする。
……どうだ。
「ほう、そう来たか……確かに誰も捕らえられなければ、私には不味い……ふむ、子供にしてはよく考えたな」
「……」
「レイ、ちゃん……ダメ、だよ……!」
「……ごめん」
ハルに抵抗されない様に、魔力で固定する。
……考えた応用が、こんな風に活躍するのは、正直言って複雑だが、仕方ない。
破綻してる取引だ、無謀にも程があるが……押し通す。
自身の命がどうなって良いさ、だがこの二人は生かす。
それが俺の覚悟だ。
アリスとハルはミサンガ代わりに。
本当のミサンガでは無いので、髪紐にしたりと応用が効くみたいですよ。
キリは悪いですが次話に回します。
ただ覚悟が重いよ主人公……?