願わくば、意味のある死を   作:虚憂

7 / 24
命の価値

「……良いだろう」

 

「……」

 

「全員死亡、って事になると残りの上役がうるさいが、一人持ち帰れることが出来れば黙らせられるだろう」

 

「……そんな態度で、良いの」

 

「こういう事を程々で済ませる、と言うのも生きる為に必要な事だよ」

 

 

 胡散臭い。

 というか、すんなり通ったのが違和感凄い。

 だがこの男が嘘をついていない限り、俺が行けば良いのは確定だ。

 逆に嘘をついていれば、俺たちに取れる手段はこれ以上無いけどな。

 要するに詰みって事になる、考慮してたら何も出来ねぇ。

 ならば後、やるべき事は……。

 

 

「やだ……!行かないで……!」

 

「……それは、出来ない」

 

 

 ハルだな。

 いつもは俺が流されてばかりだが、今回ばかりは押し通すしか選択肢が無い。

 

 

「……お別れ、だよ」

 

「ぅ……」

 

「元々、あの時別れる筈だった……ちょっと、それが伸びただけ」

 

 

 多分、俺が施設跡地に残ってれば早い話だった筈だ。

 上役様が、実験結果が無意味に終わる事を嫌っての判断っぽいしな。

 

 

「ずっと一緒だって、言ったじゃん……!」

 

「……」

 

 

 そんなに泣かないでくれよ、今生の別れって訳じゃない。

 約束も……うん、ごめんね、本当。

 

 

「やだ!もう居なくならないでよ……!」

 

「……」

 

 

 泣きながらしがみ付くハルを振り払い、立ち上がる。

 固定で重りは付けてるから追い掛けられない、行くなら今だ。

 

 

「良いのか?」

 

「……今は、説得出来ない、から」

 

「レイちゃん!」

 

「……」

 

 

 ッ……。

 聞くな、声を。

 躊躇うな、決断を。

 俺が、選んだ筋書きだ……なら、やり遂げるのは俺の義務だ。

 

 

「行こう」

 

「……そうか」

 

 

 男の目は、まるで痛々しいモノでも見るかの様な目。

 

 ……。

 何かを考えるかの様な仕草の後、まるで仕方ないとでも言うかのように言い切った。

 

 

「ならば、行こう」

 

「レイちゃん!レイちゃん!!」

 

 

 聞きたくないのに、悲痛な叫びが耳を震わせる。

 ……ああ、辛い感覚だ、久しぶりだな。

 

 

「……本当に、何か言い残す事はないのか」

 

「……」

 

 

 何か……か。

 そりゃあ無い事も無いが……何でそれを敵側(アンタ)が聞くんだよ。

 

 

「……レイ、さん!」

 

「!」

 

「もう起きたのか……結構強めにやったんだが」

 

 

 ああもう、それでも言う気はなかったのに。

 アリスも……ハルも。

 お人好し過ぎる、自らの命すら危うい世界で、他者である俺に対して、どうしてそこまで出来るのか。

 この男もこの男だ、捕まえに来た立場の癖に連れて行く事を渋るなよ。

 

 

「……ハル、アリス」

 

「「!」」

 

 

 振り返り、その目に映るは二人の顔。

 ……二人の泣き顔。

 

 

「ありがとう」

 

 

 俺に助けられていると言ったけれど、その実俺の方が助けられているんだ。

 

 檻の中で、あの試合で、その後の生活で。

 二人にはどうしようも無いくらいに助けられた。

 だから、伝えるのは感謝だけで良い。

 

 

「ッ……」

 

「おね、がい……死なない、で……!……レイちゃん!」

 

「……」

 

 

 死なないで……か、本当にお人好しだ。

 

 

「伝えたよ」

 

「……ああ」

 

 

 これ以上は、何も聞かない、言わない、振り返らない。

 言うつもりの無かった感謝も伝えた、これ以上は何も無い。

 

 

「……全く、嫌になる仕事だよ、ほんと」

 

 

 

△△▲△△

 

 

 

 別れから、五年の月日が流れた。

 俺も……十五歳、中学を卒業する歳となった、早いな。

 年齢に関しては憶測でしか無いが、これくらいだろうと言う予測で(あの男が)決めたらしい。

 今は……。

 

 

「対象、目視」

 

《そうか……では健闘を祈る》

 

 

 無線から流れるいつもの声。

 あの後、何をしたのかあの男……ボスは組織のトップになっていた。

 詳しい事は何も知らん、その頃の俺は色々してたからな。

 だが、上り詰めた際に、後始末と称して色々暴れてたな、本当に何をしたんだろうか。

 

 

「……《あ、あー……大丈夫、か》」

 

 

 仮面と、それに付属したボイスチェンジャーの調子は変わらない、相変わらずの機械の声だ。

 これは俺の正体を隠す為、らしい。

 どう言う意図なのかは不明だが……まぁ、そう言う事だ。

 

 ところで今回の目的となる団体様……組織に侵入して来た勇敢な方々。

 大体十数人か、多めだな……まあ上階を陣取られてる時点でそっち方面はお察しだが。

 飛び降り、彼等のど真ん中に着地する。

 

 

「《こんばんは、勇敢な侵入者方々》」

 

「「ッ!!」」

 

「……出たな、機械人形(キラードール)ッ!総員構えろッ!!」

 

 

 索敵はどうあれ、練度はそれなりに良いな。

 強襲(オレ)に驚けど、そこからの判断は早い……隊長さんに至っては驚きすらしていない、良いね。

 今度は俺を殺せるかな。

 

 

「《あは、警戒してるねおじさん達……何もしないよ?》」

 

「黙れ殺人鬼め……撃てッ!」

 

 

 取り付く間も無く、返されたのは銃弾か。

 確かにソレは、当たれば人を殺せるけれど……。

 けどまあ……うん、見当違いか。

 

 

「《……あれ、そんな簡単に撃ったら……》」

 

 

 次々と倒れる()()()

 俺は彼等に何もしていない、しゃがんだだけだ。

 俺が降り立ったのは中心、ど真ん中だ、そりゃあ馬鹿正直に構えただけなら……射線上に居るのは俺だけじゃ無いよな。

 俺を殺せるならソレでも良いという精神性なのかもしれないけど……殺せないと、意味がない。

 

 

「ぐぁ……」

 

「《あらら、終わっちゃったか》」

 

 

 生き残ったのは、ギリギリ射線から逸れて居たらしい隊長さんだけだ。

 と言っても掠ったのか、傷はちらほら見受けられるが。

 

 

「《次からはちゃんと射線は考えようね、次がないんだけど》」

 

「……怪物め……」

 

「《怪物?》」

 

 

 怪物か……ふむ。

 

 

「《良いね、それ》

 

 

 そうだ、こんなになってまで生きている私は怪物、モンスターだ。

 

 

「《怪物を、殺してみてよ》」

 

「ッ!……死ねッ!」

 

 

 すぐ目の前の銃口から放たれる……けど、それじゃあ、そんなんじゃ死ねない、命令もあるからな。

 

 

「《……ざーんねん、『時間よ(クロック)』》」

 

 

 そう唱えた瞬間、世界が音を失った。

 ……なんてカッコつけたが、要するに時間停止だな。

 

 見つけたのは偶然だった。

 とは言えども、最初はその消費魔力の関係でまともに止められなかったが。

 最初の時点で三秒弱、今は……三分。

 何年も絶えず訓練して来たつもりでも、まだ時間停止(コレ)は扱いきれていない。

 

 

「《……まぁ、十分、だけど》」

 

 

 隊長さんに近寄り、ナイフを横に一振り。

 血は流れない、時が止まってるんだから当然なんだけど。

 

 

「《……『刻め、何時迄も(エバー・ワークス)』……終わり》」

 

「がふぁっ!?」

 

 

 動き出し、隊長さんの首からも血が吹き出す。

 

 

「が……うぐ……」

 

「《何か言い残す事、ある?》」

 

「……ばけものめ……じごくに、おちろ……!」

 

「《……頑固だね》」

 

 

 『時間よ(クロック)刻め、何時迄も(エバー・ワークス)』……これが、俺の切り札で、対人戦の絶対解。

 怪物じみた魔力だ、隊長さんは間違ってない。

 だが何で……いや、仕事は終えたんだ。

 ……とりあえず、戻ろう。

 

 

 

△△▲△△

 

 

 

「おや、帰って来たか」

 

「……任務完了したよ」

 

「ふむ、お疲れ様、と言っておこうか」

 

「うん……他に何か、ある?」

 

「今すぐに、と言う案件はないが、後で会議がある、少しの間だが休憩していると良いさ」

 

「了解」

 

「ああ、おい」

 

「?」

 

「……大丈夫か?」

 

「大丈夫、だけど」

 

「なら良い」

 

 

 何だ、いきなり。

 今更大丈夫かなんて……まあとりあえず、ボスの部屋を出る。

 相変わらず無機質な廊下を進み、見慣れた場所へと移動する。

 ……ん、あれは……。

 

 

「おや?お久しぶりですね」

 

「……久しぶり、ドクター……元気?」

 

「はは、医者の不養生とは言いますが、私は元気ですよ……キミこそ、体調不良などはないですか?」

 

「うん、大丈夫……ドクターも、会議?」

 

「ええ、と言うよりか、全員集まって来ている様ですよ、まあボスと私達の他には後一人しか居ませんが」

 

「……また、やられたの?」

 

「らしいですよ、あれだけ居たのに、情けない物ですね」

 

「あいつら……強いかはともかく覚悟はそれなり……油断、大敵だよ」

 

「おや、そうなのですか?……ふむ、死体に任せているだけでは分からぬ物ですが」

 

 

 相変わらず丁寧な口調でえぐい事を言うな、この人。

 ドクター、この組織の幹部で、あいつらからは背教者(ドクター)と呼ばれるヤバい人。

 死体を操る、と言うえげつない魔力の持ち主で、この組織唯一の魔力研究者でもある。

 

 

「それではこの辺りで、私もボスに報告する事がありますから」

 

「ん、じゃあ後で」

 

 

 そう言って、各々目的の方角へと向かう。

 と言うか俺含めもう三人しか幹部居ないのか。

 特に何か思うところは無い、むしろボスの後始末も重なっての事だろうから、ご愁傷様だと思う。

 

 ……あ、考えている間に、目的の場所に着いてしまったか。

 考えながらでも辿り着ける程に慣れた、と言うのに思うところが無い訳じゃ無いんだが。

 

 

「……今更だね」

 

 

 自室に入り、これまでの事を振り返る。

 口調は、少しずつだが流暢に喋れるようになって来た、表情はちっとも動かないけど。

 魔力は、対人戦ならこれ以上無いくらいに強くなれた、なってしまった。

 

 

「……疲れた、なぁ」

 

 

 何を目指しているんだろうか、俺は。

 身代わりになってここに来た事に後悔は無い、彼女達の為なのだから。

 だが、ここに来て俺は、それまでよりも大勢の人を殺した。

 

 それに……あの時、隊長さんに怪物、と呼ばれて……()()()を、感じたのは、何でだろうか?

 

 

「……ああいや、まあそっか」

 

 

 なるほど、そう言う事か、そう思うしかないよな。

 人を大勢殺した俺は怪物だ、間違い無い。

 だが、それなら殺人鬼でも変わらない、なのに怪物と呼ばれた時だけ妙に嬉しかった。

 

 

「怪物は、勇気ある人間に殺されるのもの」

 

 

 つまり、俺は……。

 

 

「殺されたいの、かな?」

 

 

 自殺したいわけでは無く、殺されたい。

 そう思うと、何と無くだが、気持ちが少し軽くなった……気がする、納得したのだろうか。

 

 

「……強欲、だなぁ」

 

 

 機械人形(キラードール)、なんて呼ばれてる癖に。

 殺人鬼が現代の法律によって機械的に裁かれる、と言うのでは無く……勇者と怪物の様な、物語の様に死にたいらしい、俺は。

 うん、うーむ……イカれてるな。

 納得はした、と言うかこれ以上ない程に腑に落ちたのだ、否が応でも納得してしまう。

 

 

「自分の為に、殺して来たのに……死に方は、自分で選びたい、のか」

 

 

 そう思うと、また自分が嫌になる、でも死ねない。

 あの時、そう願われたから。

 

 ああ、彼女を理由にする自分がもっと嫌だ、だがそれでもだ。

 だから、こそ、俺は……。

 

 

「どうか……私を殺して見せて、見知らぬ勇者(ヒーロー)

 

 

 当分死ぬつもりはないが、今すぐにでも死にたい。

 

 

「それまでは……怪物でも、構わないから、さ」




ボイスチェンジャーとかを使用した際の声の表現の方法どうすれば良いんですかね?
今の所「《》」と言った形式で表すつもりですが。
魔力の詠唱なんかと合わせるとセリフがとんでもない事になるのでちょっと……ねぇ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。