陽だまりの世界に、馴染めるか
「……どれだけ見ても、普通の街だね」
仕事に向かうであろう人や、学校に向かうランドセルを背負った子ども達。
……ここだけ見ていると、前世に戻った感覚がしなくも無い。
残念ながら、俺の性別は女だし、この街の外は未だに荒廃していると言い切れる状態だ。
「……前世、か」
学校に行って、面接を受けて、働いて。
死に方だけは普通じゃ無かった俺。
優しい両親や、妹に、その時仲の良かった友人達は、もう居ない。
その事を振り返っても、そうなんだとしか、思えない。
悲しさも、後悔も、怒りも……不思議な事に一つも湧いて来ない。
……ん?あんな所で何をしてるんだろうか。
「兄ちゃん……」
「あと、少し……!」
木に引っかかった風船を、取ろうとしているのか。
木に登っている方は……見た感じ、俺と同じ学校の生徒らしい、年は……どうだろうか、男は大体、この時期が二次成長期だろ、判断しかねる。
「……あ、取れた」
「ふぅ……はい、これ」
「わぁ!兄ちゃんありがと!」
「……ああ、もう手を離すんじゃないぞ」
「うん!分かった!」
お人好しだな。
もう少しで始業式が始まるんじゃないか、と言う時間に、のんびり人助けをするとは。
俺は転入、と言う形だから、のんびり街を見ながら登校出来ている訳だが。
「……」
「……あ」
相手は、こちらをじっと見ている。
……不審者ではないとだけ伝えよう、うん。
「えっと……見ててごめんね、嫌だった?」
「……あ、いや、その……」
?
返答に困った様子で、口籠るお相手くん。
俺の顔に何か付いているんだろうか。
「……うちの学校の制服着てるけど、こんな所に居て良いのかなって」
「あー……確かに?」
他人から見れば、転入生か在校生かなんて判別出来ない訳で。
お相手目線、時間ヤバそうなのにこちらをじっと見ている不思議な女の子って感じなのか。
……と言うか。
「そう言う君こそ、大丈夫?」
「……あ」
同じ服を着ていると言う事は、だ。
相手も時間がヤバい訳で……あ、明らかにヤバいって顔してる。
「……急いだ方が、良いんじゃないかな……って、あらら」
「ヤバい!急げ俺!遅れたら……!!」
何か約束事でもあったらしい、既に走り去っていた。
早いなー……あれ、止まっちゃった。
急に止まった、彼の視線の先に居るのは……さっきの少年より小さな、泣いている女の子。
……そう言う星の元にでも生まれたんだろうか、彼は。
焦ってるのに、女の子をどうにかしようとしているが、逆に泣かせてしまっている、どうやら解決策が浮かんでないらしい……しょうがないか。
「大丈夫?」
しゃがんで、女の子に目線を合わせ、出来る限り優しく語りかける。
「うぅ……おねえ、ちゃん……」
「お母さん達、どうしたの?」
「おかーさんと、はぐれちゃった……」
「家までの、道とか分かる?」
「分かんない……おかーさん、どこぉ……!」
寂しいのか、一気に泣き出してしまった。
……って、そうだった、こっちもだった。
彼は……困惑しながら棒立ちしている、いや何してんのさ。
「……早く行きなよ」
「!……だけど、その子が」
「この子は私がなんとかするから……遅れたら、大変なんでしょ」
「……悪い、助かった!」
意図を察したのか、一気に走り出して行ってしまった。
……よし、あとはこの子だな。
「……大丈夫、お母さんはすぐに見つかるよ」
「……ほんと?」
「本当だよ、お姉ちゃんに任せて」
△△▲△△
あの後泣いていた女の子を、どうにか元気付けながら母親らしき人を見つけ、学校までたどり着いた。
朝から風船が引っかかった少年に、迷子の女の子って……何と言うか、濃い一日だな、まだ終わってないけど。
「……すいません、今日転校してきた
「ん?ああ、転校生か……
どうやら小田先生……と言う人が、俺の担任になるらしい。
変な人でなければ良いんだが、どうだろうか。
「はいはいっと……おお、こりゃまた顔が良いのが来たもんだ」
「如月です、よろしくお願いします、小田先生」
「おう、よろしくな……ちょうど良いな、そろそろHRの時間だ。案内するから着いて来てくれ」
「分かりました」
どうやら良い人だったらしい。
イケオジ?と言う風な先生だ。
小田先生に案内され、校内を歩いて行く。
道中、教室側から視線を感じたりもして、学校だなーと言う感じを前世振りに味わったりもした。
転校生と言うのは得てして珍しい者であり、好奇の視線に晒される者だと言う事を、改めて思い知った。
「着いたぞ、ここが俺の担当で、これからお前が過ごす教室だ、覚えといてくれ」
「分かりました」
「後は……そうだな、俺が呼んだら教室に入って来て、自己紹介を……って感じだ、大丈夫か」
小田先生に了承の意を伝え、呼ばれるまでの間に学校について考えてみる。
まだ新しさを感じさせる建物に、多いとは言えないけど確かな数居る教員。
全員が魔力を持っているとしたら……うーん、大丈夫かなうちの組織、殲滅されない?
「……おーい、入って来いよ」
……ダメだな、今はとりあえず、自己紹介だ。
返答し、教室に入る。
俺を見て騒めいている、そんな珍しいか?
黒板に名前を記し、自己紹介しようとして……誰かが、教室に駆け込んで来た……あらら、彼は……。
「あ……如月涼音、よろしくね」
「……あ、よろ……しく?」
息も絶え絶え、見るからに急いで走ってた、と分かる、その姿。
……何で俺より教室に来るのが遅いんだろうか、追い越した?
「まーたお前か」
「すみません、色々ありまして」
「おう、とりあえず席座っとけ」
どうやらそれなりに常習犯らしい、彼は。
……毎回人助けをしているんだろうか、色んな意味で凄いな。
「如月の席は……おお、遅刻魔の隣か、ちょうど良い目印だな」
ふむ、彼の席の隣……おお、窓際の席か。
それと同時に、クラスの男子達が……?
「またお前か
「クソッ!何で陽真ばっかり……顔か、顔なのか……!?」
わあ、凄い。
まるで小説のワンシーンだな、これ。
陽真、と呼ばれたお人好し君は、どうやら顔の良い女子と仲が良いらしい。
良い事じゃないかな、俺に惚れられる危険性が無いだけその方が良い。
……なんて考えながら、疲れた顔をしている、件の彼の隣の席に座る。
小田先生が新学期についての説明を行っている、先生は生徒にとても親しまれている様で、オダセンだとか言われ、すごく絡まれている。
だが冗談混じりに返答しているのを見ると、こう言うのはいつもの事らしい、良い先生だな。
「……さっきは、ありがとな」
「ん?ああ……目の前で立ち往生されてたら、流石にね」
そう返すと、苦い顔をする……
「いや、あれは……俺が話しかけたら、余計に泣き出しちゃってな……」
「親が居なくて不安だったんだと思うよ、あの後もずっと泣いてたからさ」
「……と言うか、転校生だったんだな」
……誤魔化したな。
まあ良い、そんな深掘りする様な話でも無いからな。
「うん、私は始業式の後で良かったんだけど、思ったより早めに家を出ちゃってさ、それで街を見ながら登校してたら……」
「……そりゃ不思議に思うか」
「そうだよ、まあ……流石に同級生だとは……」
「おいこら遅刻魔と転校生早速イチャイチャしてんじゃねぇぞ?」
あ、そういやHR中だった。
小田先生にバレてしまった。
「すみません、小田先生」
「すみません……後、イチャイチャする程如月とは仲良くないっすよ、小田先生」
「はっはっは!冗談だよ」
また、恨みの視線を集める彼、主に男子から。
まあ恨みと言ってもそんな大した事じゃ無いから大丈夫だろう。
「っと、後は自由時間だ、転校生に質問するなり、友達と会話するなり好きにしな」
「よっし!なぁ如月さん!この後……」
「ねえねえ、どこから来たの?」
「その髪綺麗だねー」
「俺は……」
うわ、凄い人数。
……だがまぁ、これなら何とか学校生活は送れそうだな、うん。
あれ、あんまり進んでない気がする。
まぁ気にしない気にしない……うん。
それはそうと、名前のルビ振りって、全話共通で最初の一回だけで良いんですかね。
※各話最初の一回ずつに変更しました。