多少まぶしさを感じる白い空間。
どこまでも無が続くその空間に、オレはいた。
「――――――――」
声が聞こえる。
遠く、小さな声だが、なぜだか脳裏によく響く。
ただ、何を言っているのか、聞き取ることができない。
意識が朦朧としているからだろうか?
いや、オレは死んだんだ。意識なんてものはないはず。
「――――――――――――――」
「――――――――――――」
別の声も聞こえる。
どうやら声の主は二人いるらしい。
どちらも女性の声だ。
浄土からの迎えの者だろうか。
ならば、そろそろリンに会えるかもしれない。
もしリンに会えたら、その時はまず謝ろう。
『火影になってカッコよく世界を救うとこ見せてね!』
そう約束したのに、火影とは真逆の道を歩んでしまったことを。
許されなくたっていい。謝ることができれば、そして再びその顔を見ることができるなら。
「と―――ず――――――水――――き――」
だんだんと声が大きく、はっきりとしてきた。
それと同時に、急激に全身の感覚が研ぎ澄まされているのを感じた。
白い空間を見ている、声が聞こえている。
空気を吸っている、自分はいま横になっている。
まるで生きているかのように、それらを感じるとることができた。
なるほど、案外浄土というものは現実世界に近いのかもしれない。
「あっ、ちょっ――ってツクヨ! この人意識――りそう!」
ツクヨ…? ツクヨとは誰のことだろう。先ほど聞こえたもう一人の声の主のことだろうか。
それに、聞き間違えでなければ「この人意識が戻りそう」と言っている気がする。
意識がもどる…どういう事なのだろう。
いや、自分でも自然と最初に感じていたじゃないか。
意識が朦朧としているからだろうか? と。
白だった空間が暗転し、ものすごい倦怠感を感じるようになる。
チャクラ不足で動けなくなった時の感覚とものすごく似ている。
だがその瞬間、自分が生きていることを強く実感した。
オレは生きている…? なぜ?
あの時オレは確実に殺された。カカシ達の前で散って逝ったはず。
だが、もし生きているならば。
もし何かの間違いで生きているのであれば。
すぐにでも起きなければならない。
起きて、まず状況を確認しなければ。
仲間の元へ、そして、こんどこそ木の葉へ帰るのだ。
一刻も早く――!
強烈な光が暗転した世界を照らし、意識を取り戻した。
重いまぶたを開き、そこに見えたものは、見渡す限りの青い空と、こちらを心配そうにのぞき込む二人の少女。
「あ、起きた」
ツインテールの少女が、気の抜けた声でそうつぶやいた。
〇〇
事の顛末をツインテールの少女に説明してもらった。
「なるほど、つまり君たちがオレを呼んだんだな」
「は…はい。…その、ごめんなさい……」
「いや、謝るほどのことじゃないさ」
ツインテールではない方の、内気そうな少女が涙ながらに謝ってきた。
聞こえてきた会話は、彼女たちのもので間違いないだろう。
曰く、口寄せの術を再現しようとしたところ、オレが現れたとの事だった。
どうやらオレは彼女たちに口寄せされたようだ。
しかし、どういうことだろう。
通常、動物を口寄せをするには契約をしなければならない。
だが、彼女たちとは初対面。口寄せ契約など存在しない。
そもそもオレは、一度死んでいる人間である。
死んだ人間を口寄せするには、穢土転生や輪廻転生を用いなければならない。
話から推測するに、通常の口寄せの術により呼び寄せられたようだが、一体どういうことだろうか。
そんなことを考えていると、ひとまず近くのベンチで休もうと提案された。
それもそうだと思い、立ち上がろうとしたのだが、力が入らずにふらついてしまう。
不足しているチャクラを補うため、練ろうとしたがうまくいかない。
結局、ベンチまで自分より年下であろう少女二人に支えられるはめになってしまった。
座ったあとは会話もなく、暫く時間が流れた。
二人とも、どうしたらよいのかといった様子だった。
まぁ知らない人相手なのだ、無理もないだろう。
こういう時は…そうだ、自己紹介をするべきだな。
「二人とも、支えてくれてありがとう。
オレの名前はうちはオビト、気軽にオビトとでも呼んでくれ。
よければ、二人の名前も教えてもらえないだろうか?」
二人は顔を見合わせる。
最初に名乗ったのはツインテールの少女。
「ど、ドーモ、オビト…殿。お初にお目にかかります、小生ミチルと申す」
内気そうな少女が続ける。
「初め、まして…。ツクヨと、言います……」
ツクヨが名乗り終えると、二人はそそくさと移動しキメポーズを取った。
「そして、私たちは忍術研究部!」
「百鬼夜行連合学院最強の…忍者集団……です!」
ドドン! という効果音のようなものが聞こえた気がした。…まぁ気のせいだろう。
にしても、先ほどミチルが忍術研究という単語を口にしていた。
百鬼夜行連合学院という学校に聞き覚えはないが、もしかしたら彼女たちも忍なのかもしれない。
額当ては着けてないようだが。
それから気になる点がもう一つ、彼女たちの容姿についてである。
ミチルは、タヌキのような耳としっぽ。
ツクヨは、ウサギに似た垂れ耳。
最初は飾り物をつけているのだと思ったが、時々動いているところを見ると本物のようだ。
動物のような容姿という意味では、暁の一員であった鬼鮫に近いだろうか。
ゼツのような特異な見た目の存在もいたことだ、今更彼女たちの容姿もそこまで摩訶不思議…というわけでもないだろう。
二人に共通しているのは、形こそ違えど、何か模様のようなものが頭の上に浮いている事。
ミチルは手裏剣のような形、ツクヨは花のような形をしている。
写輪眼のような、血継限界による特異体質の現れなのだろうか?
「えっ、ちょっと…無視は酷くない?」
「ん…? あぁ、すまない少し考え事をしていた」
「まぁ、それなら仕方ないケド」
期待していたリアクションが得られなかったのか、頬を膨らませ不満そうなミチル。
なんだかテンションの上がり下がりが激しい子である。
「話は変わるんだが、ここはどこなんだ?」
「ここ? ここは学校近くの公園だよ」
「いや…、そうじゃなくてだな…。
すまないが、百鬼夜行連合学院という学校に聞き覚えがないんだ。
火の国とか、風の国とか、できればどこの里に近いかまで教えてくれると助かるんだが…」
「火の国? 風の国? なにそれ、ツクヨ聞いたことある?」
「いえ…、聞いたことないです…」
「何…?」
五大国を知らない? そんな馬鹿な。
どんなに教養のない子どもでも、五大国の名前くらいは分かるはず。
だが、反応的にふざけている感じではない。
本当に知らないようだ。
「あ、あの…部長、もしかして……」
ツクヨが青褪めた顔で、ミチルの肩をちょんちょんとつつく。
「どしたのツクヨ?」
「オビトさんは…キヴォトスの外の方なのではないでしょうか…?」
「えっ」
それを聞いたミチルの顔も青くなっていく。なにか悪い状況なのだろうか。
そしてキヴォトス、これまた初めて聞く単語である。
…なんだか、先ほどから話がかみ合ってないような気がする。
「オビト殿の住んでる自治区がどこか聞いても…?」
「ジチク…? なんだそれは」
固まるミチルとツクヨ。
「あっ…、終わった」
ミチルはそう小さくつぶやくと、スッとその場で倒れこんでしまった。
「ええええぇっ!? ぶ…部長、しっかりしてください!
わ、私はどうしたら…ふぇぇぇぇぇ……」
泣き出すツクヨ。
あまりにも状況が飲み込めない、もう訳が分からなくなってきた。
オレは一体、どうすればいいんだろうか…。
〇〇
日が暮れてきた。
遠くでカラスが鳴いている。
公園を囲う木々から抜けてくるそよ風が、身体をくすぐるようでなんだか心地よかった。
あの後、目を覚ましたミチルは、「上半身裸じゃ寒いだろうから、何か着るものもってくる!」と言い残して、ツクヨと共にどこかへ行ってしまった。
さて、二人がいない間に現状を整理しよう。
オレはカグヤとの戦いで命を落とした。
その後、ツクヨとミチルという少女たちによって口寄せされ今に至る。
ただし、生贄を用いたという話がなかった為、穢土転生ではない。
また、彼女たちは輪廻眼を持っていない為、輪廻天生でもない。
どうやって? というのは考えても埒が明かないのでこれ以上は考えないことにする。
とにかく、普通はありえない死者の口寄せを、契約も無しに何らかの形で成功させたのだ。
それから、今いる場所について。
キヴォトスと呼ばれる超巨大な学園都市で、その中にある百鬼夜行連合学院の運営する自治区にいるらしい。
少なくとも五大国のどこでもなく、存在しているかも怪しい。
ただ、オレが「キヴォトスの外から来た」という気になる発言もあった。
そのへんはおいおい精査していく必要があるだろう。
そしてオレについて。
まずチャクラが圧倒的に不足している。
何度か練ろうとしたのだが、僅かに生み出すことができる程度で、どうにもうまくいかない。
様々な要因が考えられるが、いずれにせよ、暫くは忍術や写輪眼の使用を控えた方がいいかもしれない。
幸いにも身体の方は五体満足で、体調も悪くなく、健康面では問題なさそうだ。
「お~い! オビト殿~!」
ミチルの声がする。どうやら帰ってきたようだ
笑顔で手を振りながら、小走りでこちらに向かってきている。
「部長…ま、待ってください…!」
遅れてやってくるツクヨ。
その両手には大きな紙袋をぶら下げていた。
まぁ、なんにせよ、今必要なのは情報収集だ。
少しの間、彼女たちを頼りにさせてもらおう。