「私、後藤ひとりはダメ人間だ」
宇宙の中でひとり、ギターを弾きながら歌う。
──バカだし、運動オンチだし、人の目見れないし
「会話の前に絶対に「あっ」ってつけちゃうし」
──高校に入って1カ月経つのに友達いないし
「心の拠り所はこのギターだけ」
──引きこもり一歩手前です。
作詞作曲、私『押入れより愛を込めて』
私はあれからギターを始めた。
きっかけはあるギタリストのインタビュー。
──バンドなら私みたいな暗い人間でも輝ける?
承認欲求モンスターが生まれた。
モンスターはこれまでの私とは全く違った。
常に前を、真上を見ている。
モンスターはすぐにギターを求めた。
動くことができた。
悲観的な私はギターを弾く。
ど下手だった。
──私だけではうまくならない。
──先人に習おう。
論理的な私は本を薦めた。
なぜか英語が登場した。
ひたすら弾いた。身体が覚えるまで。
爪が欠けても。自然と動くまで。
──動画を投稿しよう。
しばらくしてモンスターがまた動きだした。
弾いてる姿を録画して投稿する。
悲観的な私は阿鼻叫喚する。
けど止まれなかった。
再生数は両手で数えられるほどだった。
コメントも評価もつかない。
けど嬉しかった。
この星のどこかの誰かが私を見つけられた。
──もっと、もっと。もっと!
こうして私は数十万の再生数と引き換えに中学生活をひとりで終えた。
「あれぇ?」
──バンド組めなかったね。
悲観的な私が呟く。
──私なんかが人を集めるなんて無理だよ。
「こんなに再生数もあるのに」
──ギターヒーローは私じゃない。
ギターヒーローはネットの中の私。
高身長高学歴高収入の彼氏持ちの私。
「ギターヒーローは私じゃない」
──じゃあもう一度ギターヒーローになろう!
モンスターはまた暴走した。
ギターを背負い、バンドを巻き、缶バッチを鳴らす。
結果、誰にも話しかけられなかった。
「ギターヒーローってわかんなかったのかな?」
──でもギターほどわかりやすいものもないよね?
論理的な私はかなり困惑している。
──あえて話しかけられなかった可能性は?
「ないないない精神崩壊する」
悲観的な私はいつも通り。
──ギターヒーローにあって私にないもの。
論理的な私もいつも通りを取り戻す。
「彼氏?」
──それだけ?
彼氏以外に。
ギターヒーローにあって私にないもの。
私は自然とギターを取りだす。
「ギターヒーローにあって私にないもの」
ギターは自然と私を動かす。
『ギターッッ!』
その瞬間、私はここにいた。
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