これまでの人生で一番輝いて一番惨めな時間だった。
──異議なし。
全ての私が大きく頷く。
先日私は念願のバンド活動ができた。
ボーカル無しのインストバンド。
ドラムの虹夏ちゃん。
ベースのリョウさん。
マンゴー仮面の私。
ライブでは外の音をうまく拾えず突っ走る演奏しかできなかった。
──人と合わせたことないからそもそも。
悲観的な私か、論理的な私か。あるいは両方か。
「虹夏ちゃんは慣れたら大丈夫って言ってくれたし。
また練習しようって誘ってくれたから」
──社交辞令では?
──うまくならなかったら変わりを連れてくるのでは?
「練習しないと」
ついでに飲食バイトも始めた。
──ついでに。
「飲食バイトを。私もう陰キャじゃないのでは」
モンスターはまた暴走して登校した。
結果、誰にも話しかけられずお昼。
階段下の謎スペースでお弁当をひとり食べる。
ここは人が寄りつかず静かで最適。
『昨日カラオケ楽しかったね』
階上からの話し声に思わず身が凍る。
『喜多ちゃんやっぱり歌うまいな』
『やめちゃったけどバンドでギターもしてたらしいよ』
──そういえば虹夏ちゃんが新しいボーカルギターが欲しいって言ってた。
論理的な私が思いだす。
「私も探したほうがいいんだよね」
でも初対面の人に話しかけるなんて。
──むりむりむりむり!
悲観的な私は必死に首を振る。
『あっ喜多ちゃん。やっほー』
階上から走る足音が響き、周りの声色は一段高くなった。
「一体どんな子何だろう」
思わず身を乗りだして様子を伺う。
キターン!!
──かわいい!
──絶対にいい子だ!
──人望があってその上ギターまで弾けるなんて!
私のアイデンティティが!
「ギターヒーローのアイデンティティが崩壊する!」
全ての私が悲鳴をあげて崩壊した。
──うらやましい。
悲観的な私を除いて。
気がつくと私は喜多さんのクラスまで来ていた。
窓の隙間から喜多さんをうらやましげに見ている。
見ているだけ。
悲観的な私は話しかけることなんてできない。
こんな時ギターヒーローならどうするか。
──キターン!!
あっだめだ。
ギターヒーローは崩壊してキタさんに生まれ変わってる。
なら。
喜多さんならどうする。
──言え。
──言うんだ!
言え!
「あっあの!」
私は話しかけてしまった。
喜多さんに窓越しから。
喜多さんは驚いて私を見る。
『あなた2組の後藤さんだよね?』
──私のこと知ってる!
──いい人!
違う!話しかけなきゃ!
「バッギッボッ!」
私は太陽から逃げだした。
どの私が好きですか?
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悲観的な私
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論理的な私
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承認欲求モンスター
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ギターヒーロー
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マンゴー仮面の私
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キタさん
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私
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語り手の私