田舎者に冒険者は難しい?   作:おもちぴん様

1 / 11
字が読めないので体で払う

 中世の識字率は数%と言われている。

このファンタジー世界も例に漏れず、貴族、商人、聖職者と平民の一部の者だけが読み書き出来る。

 

 魔法?そんなもの文字が読めなくても使える。

魔力を込めて放つだけ、魔法書なんぞ意味は無い。

魔法書を読まなくても魔法を使えるやつは使えるし、使えないやつは魔法書を読んでも使えない。

 

 魔法使いよりも代書屋、代読屋が貴重な世界。

安全に稼ぐなら文字を学べと言われる世界で、冒険者となった一人の田舎者の物語を見ていこう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ですから、ご自身の名前と出身地を記入して下さい!命を落とした時に一応は連絡をしますので!」

「だからお姉さんが書けば良いじゃん!俺は字は読めねえし書けねえ!早く書いて!」

「そう言ったサービスはしていません!代書家の方に頼んでください!」

「"だいしょか"ぁ?誰だあそいつは!」

 

 とある町の冒険者ギルドの受付で一人の少女が騒いでいる。

服はボロボロでズタ袋を担ぐその姿は、見るからに田舎者だ。

 一攫千金を夢見て都会に出てくる田舎の若者は多い。

多くは夢破れ、田舎よりも辛い現実に直面する。

この若者はどうだろうか?

 

「おい!"だいしょか"って奴は誰だ?」

 その少女は受付の反対側、酒場となっている方に振り向き大声で尋ねた。

話を聞いていた親切な何人かが酒場の隅のテーブルにいる男を指差している。

少女は"ありがとな!"と礼を言うとそのテーブルに向かった。

親切な者達はサムズアップしてお礼に応え、少女の動向を見守る。

 

「おい!お前が"だいしょか"か?これ書いてくれ!」

「ん……金を払え1000cpだ」

「金取るのかよ!後で払ってやる!」

「先払いだ」

 

 どうやら代書には金が必要なようであった。

1000cpは都会では数日働けば稼げるが、田舎から出てきたばかりの若者にとっては大金である。

 なにせ田舎は物々交換が主流だ。

金は村長や家長しか持っていない。

当然少女も1cpたりとも持っていなかった。

 

「先払い出来ないなら駄目だ。それともその体で払ってくれるのか?」

 代書家の男は少女を馬鹿にする様に言い放つ。

それに対する少女の回答は早かった。

 

「体で払ってやるよ!おらあ!」

 渾身の左ストレートが代書家の男の顔面に突き刺さる。

良い音がして代書家は酒場の床を転がった。

少女は転がった代書家に近づき、頭を掴み言い放つ。

 

「書け」

 代書家は俺に手を出して~、バックには何々がいて~、と喚き散らしているが少女は

煩そうにそれを聞いているだけだ。

微塵も怖がっている様子は無い。

 

「おい!こいつの利き腕どっちだ?」

「「「右」」」

 

 先程の親切な者達が一斉に答える。

実は彼らも代書家であった。

仲間……いや気に入らない商売敵に世間知らずの田舎者をぶつけて見たところ、

思ったよりも面白い事になった為、悪ノリしているのだ。

 この時代、娯楽は少ない。喧嘩も立派な娯楽である。

もっとも喧嘩と言うには一方的過ぎるが……。

 

「じゃあ左腕は折っても困らねえなあ!」

 代書家の男の"右腕"を持った少女が大声で言い放つ。

観客は"そっち右だぞ"と言っているが少女の耳には届かない。

 やがて少女は"えいっ"と可愛らしい掛け声と共に、通常は曲がらない方向に腕を折り曲げた。

"ぎゃあ"と大きな叫びが代書家の男の口から発せられ、同時に口からは泡が吹き出し、気を失う。

少女はそれを見て舌打ちし、文句を言いながら男を蹴り始めた。

 

「気絶したらさあ!誰が俺の名前と出身地書くんだよ!おら!起きろ!」

「お嬢ちゃん、ワシが書いてあげるからその辺で辞めときな」

 流石に見かねた代書家の一人が少女に話し掛ける。

 

「さっきの親切なおじさんか!良いのか!金無いぞ!」

「良いよ。面白いもん見れたしな」

「やったぜ!あっ!ちょっと待ってくれ」

 そう言うと少女は気絶した代書家の懐を漁り、財布を抜き取った。

鮮やか!都会のデビュー戦で暴行に窃盗の合わせ技だ。

誰にでも出来ることでは無い。

まあ、この時代に貴族を守る法律はあっても平民を守る法律など無い。

つまりこれは合法である。少女は何も悪くない。

 

「ほい1000cp。へへ、初めて金払った」

「名前と出身地くらいなら100cpくらいが相場じゃぞ」

「え!そうなの?まあ迷惑料ってことで」

「ほいよ。名前と出身地は?」

「アウト!出身地はロウ村!」

「アウトと……ロウ村な……。ほい書いたぞい」

「ありがとさん!受付行ってくる!」

 

 少女改めアウトは礼を言うと書類を出しに急いで受付に向かった。

先程の騒ぎを見ていた為か、受付の女性は少し青褪めた顔で書類を受け取る。

その後、二言三言交わしてからアウトは冒険者証を受け取り、晴れて冒険者となった。

 

 冒険者証を受け取ったアウトは酒場の方に振り向き、店主の方に向かう。

先程の一方的な喧嘩を思い出し、店主に緊張が走るが杞憂の様である。

迷惑料として先程の臨時収入の殆どを店主に払い、少女は冒険者ギルド兼酒場を去っていったからだ。

 

 後に"無法者(アウトロー)"の語源となる少女のギルドデビュー、

それはそれは鮮烈なものであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。