田舎者に冒険者は難しい?   作:おもちぴん様

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春は曙

 春、それは別れと出会いの季節。

希望と諦めの季節でもある。

倫理観がクソ以下の、このファンタジー世界にも春は来るらしい。

 一年、これは町に出てきた田舎者達が冒険者を諦め、村に"かえる"か、単なる肉体労働者に職を"かえる"、平均の時間である。

 田舎者の中の田舎者、未だに自分の名前も書けない、暴力の化身たるアウトはと言うと……。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お前、丸くなったな」

「はあ?誰が丸くなっただって?」

「お前だよお前。何か体型が球体に近づいてるぞ」

 

 肥えている事を酒場の店主に指摘されていた。

冬場、碌に動いていなかったアウトは太った。

冬眠前の熊の様に、それはもうブクブクと。

 今と違い、この時代に於いて体重は富の象徴である。

貧乏人は朝から晩まで肉体労働するので太る暇がないためだ。

太っているのは頭脳労働者で貧乏人をこき使う側である。

ある意味、代書家とガキを使っているアウトもそっち側なのかもしれないが、肉体労働者の間ではデブの扱いは酷い。

 

「俺は太ってねえ!皆が痩せただけだ!」

「何言ってんだお前。気でも狂ったか?」

 店主がデブの謎の理論に頭を悩ませているとギルドに明らかに田舎者の様な服装の若者がやって来た。

春は出会いの季節、ギルドの中は右を見ても左を見ても田舎者だらけだ。

しかし、その田舎者は少し違った。

 

「こんにちは!ロウ村から来ました!」

 しっかりとした挨拶!

そう、あの田舎者が礼儀正しく挨拶をしたのだ。

 そして、その出身地が問題であった。

ロウ村──去年大暴れしたアレと同じ出身地である。

 冒険者ギルドにいる者たちは身構えた。

アレと同じ村出身地の奴がこんなに礼儀正しい訳は無い。

巧妙なカモフラージュ、こいつは嘘をついている。

肉体派の"アレ"とは違い、"コイツ"は頭脳派だ。

油断してはならないと。

 

「……おい、お前の同郷だぞ。どんな奴だ?」

 ヒソヒソ声で店主がアウトに新入りの人柄を尋ねる。

「あ?見たまんまの奴だけど」

 アウトの返答に思わず聞き返す店主。

「え?お前の村って礼儀正しい奴いるのか?!」

「俺がいるじゃねえか!」

「うるせえデブ」

「あのー、すみません」

 頭の痛くなる会話をしている二人に、その新入りが話し掛けた。

どうやら店主がまともな服装をしているので、ギルドのお偉いさんと勘違いした様だ。

この世界は見掛けが9割、偉い奴は良い服、偉くない奴は悪い服を着ているので着眼点は良い。

 

「お、おう、何だ?見かけねえ顔だな」

「はい、田舎から出てきたもので」

「……お前、本当に田舎出身か?」

「ええ、バリバリの田舎者ですよ」

 アレとは違うベクトルでヤバそうな奴を前に頭を抱える店主。

何でこんな両極端の奴が同じ村にいるんだと。

アレとは正反対な奴は更に続ける。

 

「えーと、僕と同じロウ村から来たアウトって人知りません?」

「ああ、よく知ってるぜ。そこに居るだろ」

「え?何処ですか?」

「俺の隣の奴だよ、目でも悪いのか?」

「よう!誰だっけ?」

 新入りは声を掛けてきたアウトを暫く見てから店主の方に向き直す。

 

「ハッハッハ!これが都会流の冗談ですか?」

「いや、こいつだって」

「いやいや、アウトさんは、こんな人の形をした豚じゃないですよ。アウトさんはねえ……」

 ………30分後。

「分かりましたか?」

「おめえがやべえ奴だって事が分かった……お前の村って変な奴しかいねえんだな」

「Zzz……んあ?聞いてなかった」

「チッ!この豚が!」

「じゃあ僕はこれで。あとその豚に二度とアウトさんの名前を騙らない様に言っといて下さいね」

「はい」

 こうして新入りは爪痕を残しギルドを去っていった。

何気に代書家を使わずに冒険者登録をしていたので、そのインテリジェンスは相当なものである事が伺える。

 偶然か神の思し召しか、はたまた悪魔の誘いか。

この町のギルドは爆弾を2つ抱える事になった。

 

 その後、冒険者達の間で瞬く間に"ロウ村の新入りには近づくな"と言う噂が広まり、噂を話半分で聞いたある者は精神的にダメージを負う事になる。

被害者は日に日に増えていき、遂には強制ダイエット依頼が発令された。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ──数日後、酒場。

今日がダイエットの期限である。

成功報酬1万cp、これで痩せられなかったら強制労働である。

酒場に来た面々は、今か今かとアウトの来店を待っていた。

 そしてその時は来た。

"バンッ"と扉を蹴り飛ばし、アウト来店である。

スラッとした手足に、面長の顔、顎の下もタプついていない。

 

「ずいぶん……鍛え直したな……」

「復活ッ!アウト復活ッッ!」

「久し振りにあいつの顔思い出したわ」

「顔は一緒だろ、顔は」

 感想は人それぞれであったがダイエットは成功した様だ。

 さて2つの問題の内1つは片付いたが、もう一方はまだである。

件の精神破壊モンスターは、未だにアウトを探して町を徘徊し、多数の被害者を出していた。

 

「よし!アウト、ぶん殴ってこい!」

「どこ居るか分かんねえんだけど」

「悲鳴が聞こえた方に行けば、その内会えるだろ」

「チッ!面倒くせえな!」

「ギャー!もう分かったから!アウト最高!」

「さんを付けろ!デコ助野郎!」

「「……」」

「すぐそこにいるみてえだな。さっさと行ってこいや!」

「おう!殴らせろ!」

 来店して5秒で退店。いつものアウトが帰ってきた。

 

 店を出ると数日前に酒場で見かけたアウトの同郷、つまりは田舎者が善良な一般市民を恫喝、いや洗脳していた。

 そこに現れたるわ、彼の田舎者が崇拝するアウトご本人。

田舎者、ヒョウと驚き、アウトを崇め奉れば、繰り出されるは老若男女平等パンチ。

あはれ田舎者、自身の思い届かず、路傍の石となりけり。

 

●春の特別マッチ

 田舎者 VS 田舎者

 勝者 田舎者 1R 00分03秒 左ストレート

 

 春は脈動の季節。

冬の分も働くのだ冒険者達。

日銭を稼ぐ為に。

 

 

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