アウトが衝撃的なデビューを果たした夜、ギルド併設の酒場はその噂話で持ち切りであった。
曰く、言葉を解さないとか、口より先に手を出すとか、意外と礼儀正しいとか、まあ全て事実が語られていた。
そして、その話題の中心人物はと言うと……。
「ここで寝て良い?」
「駄目だ」
絶賛、酒場の店主にゴネ中であった。
田舎者あるあるその1、文字が書けないから宿屋が取れない。
その辺を心得ている者は、文字は読めないが自分の名前と出身地くらいは書ける。
「良いじゃん。金が無いから宿屋泊まれないんだよぉ」
「……昼間の金は?」
「全部あんたに払った!」
「ちっ!仕方ねえなあ!」
世の中金。
付届けが効いたのか、店主は渋々アウトの店での寝泊まりを許す。
その直後を見計らってか見計らなくてか、昼間に体で払った代書家の男が、5人ほど人相の悪い男達を連れたって酒場に襲来した。
代書家の男はアウトを見つけるなり言い放つ。
「あいつだ!やれ!」
途端、酒場はファイトクラブと化した。
5対1で不利かと思われたアウト少女であるが、しかし、そこは文字よりも喧嘩に詳しい彼女の本領発揮と言ったところである。
自身の近くのテーブル席から酒瓶を取るやいなや、一番最初に近づいてきた男の頭をクラッシュした。
喧嘩は勢いが大事。そこからはアウト無双である。
流石に刺すのは躊躇われたのか酒瓶を取り替えること5回、他の4人とついでに代書家の男の頭をクラッシュ、クラッシュ、クラッシュ。
最後は身ぐるみ剥いで酒場の外に放り出した。
この間10分も掛かっていないだろう。
何事もなかったかのように酒場は普段の喧騒を取り戻した。
アウト本人はと言うと、剥いだ身ぐるみを迷惑料として店主と酒瓶の主に渡し寝た。
あまりの早業に誰も口を挟む余裕は無かったと言う。
◆◆◆
明けて朝、夜とは違った喧騒でアウトは目を覚ます。
これでも田舎者の端くれ、日が昇る前に起きて、日が落ちるまで働く事に関しては一家言ある。
昨日の暴れっぷりは胡蝶の夢だ。きっとそうに違いない。
「何だぁ!この騒ぎは?」
「くっくっくっ知らないのか少女よ。これは"依頼争奪戦"だ──」
依頼争奪戦──、依頼の更新が早朝に行われる為に起こる現象。
冒険者達は、身入りの良さそうな依頼を探して代読(代書)家に内容を教えてもらう。
彼らにとっては稼ぎ時である。
「俺、文字どころか数字も分からねえんだけど」
「ランクと数字の文字くらいは分かった方が良いぞ少女よ」
「じゃあお前が教えろよな?」
「はい」
拳を握ったアウトを見て、偉そうに話していた男は素直にランクと数字について教える。
ランクは下からF、一番上はA、数字は0から9で、合計16個だけだ。
しかしアウトが全てを理解するのは朝の喧騒が終わってからであった。
「要は自分のランクで数字が大きい依頼を探せば良いんだな!」
「そ、そうだ。分かればよろしい」
「お礼にこれをくれてやる」
「ひぃ!辞めてくれ!」
男は拳が飛んでくると身構えた。
偶々、昨夜の喧嘩に出くわしていたため、彼の脳裏には割れた頭がよぎる。
しかし、来たのは拳ではなく抱擁であった。
アメとムチを使い分けるアウト。
輩のトップにならすぐにでも慣れそうである。
「おしっ!お礼終わり!依頼、依頼〜」
「ありがとうございますっ!」
しばらくして離れたアウトに、万年女日照りの男は感極まり思わず感謝する。
周りで見学していた者達はポカーンとし、やがて色めき立った。
彼らはスカスカになった依頼ボードの前でウンウン言っているアウトに近づき話し掛ける。
いつの世も男は単純だった。
「お嬢ちゃん、何か困ってる事は……」
「ねえっ!」
話し掛けた男への返答は拳であった。
先程教えられた事を思い出しながら依頼を探しているのだ。
邪魔が入れば怒りを覚えるのはもっともである。
殴られた男達の山が依頼ボードの前で完成した時、アウトは一つの依頼書を取った。
「"F"で数字も大きい!おい代書家!読め!金は後払いだ!」
「えっ、私も抱擁が良いんだが……」
「あ?」
「何でもないです!読ませて頂きます!えーと、壁の工事の依頼ですね」
「え!工事して金もらえるのか!それにする!」
この世界、特に田舎の工事関係は殆どが奉仕という名のタダ働きであった。
アウトの村も例に漏れず、むしろタダ働きどころか働きが悪いと言われ鞭が飛んできたくらいだ。
もっとも鞭を飛ばしてきた奴は皆に砂にされ、森の養分となったが……。
田舎者は日頃の労働でムキムキなのだ。
ヒョロがりの代官なんぞボコボコだ。
ムキムキの代官も数の暴力でボコボコだ。
話が逸れたが工事で金が貰えるという事でアウトのテンションは最高潮に達していた。
早速、受付カウンターに行き、受け付けを済ませ工事現場に走る。
一日目の行いで粗暴な者と思われていたが意外と真人間なアウト。
果たして彼女は無事に工事を終わらし、報酬をゲットすることができるのか?