田舎者に冒険者は難しい?   作:おもちぴん様

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基礎には青い血が流れている

 ここは町の外れ、居住予定区拡張エリア。

食詰め者の溜まり場。夢破れた田舎者の終着点。

 そんな場所に好き好んで行く冒険者の卵がいた。

察しの通り、主人公様(アウト)である

 

 受付で場所を聞いた彼女は馬もかくやのスピードで現場に向かう。

途中見覚えのある頭を怪我した何人かの横を通り過ぎたが無視だ。

彼女からすれば終わったこと、既に彼女の記憶の忘却曲線上に彼等はいた。

ボコボコにされたトラウマがあるのか、彼等からはアウトには近づかない様である。

 

「工事の手伝いに来ました!」

 町の外れに着くなりアウトは叫んだ。

早朝ではあるが既に工事は始まっている様だ。

その叫びは無情にもトントン、ガタガタと言う工事の音に紛れ、工事の監督には届かない。

気が短い彼女は近くにいた作業者を捕まえ、監督を呼んで来るように"お願い"した。

 暫くして監督の男が彼女の前に現れた。

それは見るからに貴族で、頭を使うのは上手そうだが体を使うのは不得手そうであった。

男はアウトを見るなり言い放つ。

 

「何だ娼婦か?」

 二の句は告げられなかった。

アウトの左ストレートが顔面に突き刺さったからである。

代書家との騒動のデジャヴ、町に来て2日連続3回目の暴力。

 しかし、代書家の様な破落戸とは違い、相手は本物の貴族。

バックにはマジモンが付いている。

彼女の命運は尽きると思われたのだが……。

 

「おいっ!そこのお前埋めるから手伝え!」

「あんた監督やったのか?よっしゃ!あそこの基礎に埋めようぜ!」

 如何に法に守られた貴族相手だろうがバレなきゃ犯罪ではない。

これ、中世無法時代の掟なり。

無事に貴族は基礎の素材となり、この地の礎となった。

流石は青い血が流れているだけはある。

これぞノブレスオブリージュ。

 

 さて、急に監督がいなくなった現場はと言うと……。

貴族の取り巻きへの仕返しが行われていた。

今まで抑圧されていたが切っ掛けがあればドカンだ。

一気に感情が爆発し、直に取り巻き達も彼等の主と同じ様に礎となるであろう。

 

 責任者が粗方いなくなったが、工期は待ってはくれない。

何もせずにいるとみんながみんな打首獄門の刑である。

そのため、それぞれの区画のリーダー達が場を仕切り始めた。

 しかし、その状況に待ったを掛けるものがいた。

本日工事現場初仕事、貴族殺害の首謀者、代書家ボコしの荒くれ者、そう我らが主人公アウトさんである。

 事もあろうに彼女は一番強い奴が仕切るべきだと言い放ち、流れる様に近くにいたある区画のリーダーをボコった。

その後の工事現場はコロシアムの様相である。

人が殴られ、金が賭けられ、酒が飲まれ、工事は進まず。

結局コロシアムは給金払いの責任者が来るまで続いた。

貴族がいない事を怪しまれたが、女を引っ掛けに行ったと説明すると納得したようだ。

 

 そして、皆が待望した給金は貴族経由ではなく直払いとなった。

中抜きが無くなりみんなニコニコ良い事尽くし。

今日は喧嘩していただけなのに貰う物は貰う。

有り体に言って、皆クズである。

 

 一夜明けた次の日、皆反省したのか粛々と工事を進めていた。

なんとあのアウトも真面目に働いている。

粗暴ではあるが根は真面目なのだ。

しかし、騙されてはいけない。

"オークがエルフの村の開墾を手伝う"が如く、普段悪いことをしている奴が、普通の事をしていると良い人に見える現象なだけだ。

 

 昨日の遅れを取り戻すかのように皆が働いているその頃、何時まで経っても戻らない貴族の家の者が騒ぎ始めていた。

彼等は急ぎ工事現場に行くと、リーダー格と思われる男達に貴族の行き先について確認し始めた。

工事現場の面々が口裏合わせをしていた事で、結局何一つ得るものはなく屋敷に帰ることに……。

 

 それから一週間後、結局、貴族は行方不明扱いとなり、後任の現場責任者が到着した。

後任はもちろん貴族である。

 工事現場の面々は"また殺るか?"と闘志を漲らせていたが杞憂であった。

意外にも清廉潔白な貴族で理不尽な仕打ちも中抜きも無かった為、現場の者は大喜びである。

流石のアウトもマトモな人であれば手は出さない。

 

 後任が来てから工事は今までの3倍くらいのスピードで進み、指定の工期に対し大分余裕がある形になった。

この時代、間に合いさえすれば何をやっても良いのでコロシアムは都合第5回くらいまで開催され、5期連続チャンピオンとしてアウトが君臨した。

 彼女が冒険者になって約1ヶ月、その全ては工事に費やされており、ギルドにも顔を出さなくなったので完全に過去の人となっていた。

娯楽の無い時代である。流行り廃りは今以上。

 

「ギルドに行くの忘れてた」

「なんだチャンピオン、あんたギルドから来てたのか」

「おう。文字とか習ったけど忘れたわ」

「ガハハ、あるあるだな」

「今日で終わりだし、明日はギルド行くかな」

 

 次の日、ギルドは彼女の事を思い出し、代書家はまた腕を折られる事になる。

何はともあれ工事お疲れ様です。


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