田舎者に冒険者は難しい?   作:おもちぴん様

4 / 11
わんわんわん

 "ぎゃああああああ"、朝の静寂に代書家の叫びが木霊する。

叫びの原因は田舎からのお上りさんの少女。

名はアウトと言う。

 彼女は、治療魔法をかけてもらい骨折から回復した代書家の腕を再度へし折り、依頼書を読んでもらっていた。

 

「野犬退治?犬っころ数頭に大した額だなあ!おい!あんたもそう思うだろ!」

「いででてで!叩かないでくれえ!」

 

 たかが犬と侮るなかれ。

その口にある歯は鋭く、雑菌に覆われている。

治療魔法は傷は癒やすが病毒の類は治せない。

初心者殺しのトップを毎年争うのは野犬と親切そうな冒険者の先輩だ。

どれほど恐ろしいか分かるであろう。

 

「お嬢ちゃん、そんな装備で大丈夫か?素手でやると噛まれるぜ」

「おやっさん!酒瓶貸して!」

「駄目だ。どこかの誰かさんが武器に使うから在庫が少ないのよ」

「なんて悪い奴なんだ」

「ほんとにな」

 

 結局のところ、素手で依頼にあたるのは危険と考えたアウトは、適当な廃材(丸太ん棒)を工事現場でもらい野犬の出没スポット(町外れの農場)に向かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「犬ころ!出てこい!ぶち殺してやる!」

 町外れの農場にアウトの恫喝が響き渡る。

野犬に人間の言葉は分からぬ、しかし殺意には敏感であった。

自分達に向けられた明確な殺意に反応して、野犬達はその姿を現した。

その数10は下らない。

 開戦の狼煙は野犬側からであった。

グループの中でも格下と思われる貧相な犬が我慢も効かず飛び出してきたのだ。

アウトはそれを持ち手だけ荒く削り布を巻いた即席の棍棒で打ち据える。

鳴く間もなく犬は絶命、しかしまだ数の上では野犬が上であった。

 数的優位は覆そうにも無いかと思われたが、ここでアウト、掟破りの敵前逃亡。

野犬のリーダーはそれを追わない様に吠えたが、所詮は犬っころ。

3匹の跳ねっ返りがアウトを追いかけ始める。

暫くしてクルリと反転したアウトはその3匹を瞬く間に叩き殺し、また数の差を詰めることに成功する。

返り血を浴びた彼女は、その血を拭いながらまたもや野犬の群れに近づいて行く。

顔は獰猛そのもの、流石の野犬も恐怖を感じるほどだ。

後十歩ほどの距離に近づいたところだろうか、状況が動く。

 

「わんわんわん!」

「!?」

 

 動いたのは咆哮による恫喝によるもの。

そして"わんわん"言っているのは、犬ではなくアウトだ。

先に鳴いた方が犬の中では負けの様だが、そんなもの人間が知ったことではない。

殺意の混じった咆哮により、野犬のリーダー以外は恐慌状態になり、そこをアウトに狩られた。

 リーダーにはまんまと逃げられたが、依頼は達成だ。

"野犬を10匹殺してほしい"、それが依頼内容であるから。

殺した犬を一箇所に集めたアウトは、依頼主を呼びに行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 肉が焼ける匂いがする。

この世界では犬食(いぬじき)に関して特に忌避感はない。

貧しい時代だ──食べられる物は食べる様な価値観が根付いている。

今の状況はと言うと、農場の責任者と農夫にアウトが加わり、焚き火を中心に車座となり各々が焼けた犬肉にかぶりついていた。

久々の肉食(にくじき)にみんな顔を綻ばせている。

 

「いやあ、お姉さん。人は見かけによらないなあ」

「ほんとほんと。そんな細い体でどうやって殺したんだい?」

「そりゃあこうよ!」

 

 シュッシュッと肉を片手に拳を繰り出すアウトとそれを見て"やんややんや"盛り上がる農夫達。

当然、アウトは一匹逃したことは黙っていた。

しかし、それは問題ないだろう。

 一度痛い目を見れば野生の動物はそこには近寄らない。

しかも、部下を全て失ったのだ。

牙を抜かれたも同然であった。

 

 一夜明けた早朝、アウトは藁の中で目が覚める。

農場のベッドと言えば藁、藁と言えば貧乏冒険者の友である。

保温性と通気性に優れ、夏は涼しく、冬は暖かい。

馬鹿にされがちな某豚3兄弟の藁の家は意外と合理性の塊なのだ。

 話が逸れたが、目を覚ましたアウトは農場を出て、ギルドを目指した。

町外れの農場だ、ギルドまでの距離は少しある。

その道すがら、アウトは見覚えのある犬を見つけた。

そう、昨日逃した野犬のリーダーである。

 

 棍棒は焚き火の薪になりました──現在のアウトは無手であった。

負けはしないだろうが下手すれば病毒でじわりじわりと死んでしまう。

もはや万事休すかと思われたが、彼女はケリをつける為に走って野犬に近づいた。

野犬もアウト目掛けて走り出す。

 交差する刹那、アウトの手が野犬の喉輪を掴んだ。

そして、ゴキリと骨が折れる音がして野犬は息絶える。

クソ度胸とクソ力(ぢから)を併せ持った彼女ならではの対処法であった。

当たり前のように死骸は放置。

中世倫理観を舐めるな。後のことなど知ったことではないのだ。

 

「ただいま〜。完了サイン貰ったから受領お願い」

「お嬢ちゃんお帰り……怪我は大丈夫そうだな」

「あたぼうよ!棍棒でこれよ、これ!」

「……その棍棒は?」

「薪になった」

 暫しの沈黙がギルドを支配した。

その沈黙を破ったのは受付である

「はい、報酬の5000cpです」

「うひょお!何に使おうかな」

「貯金しろ、貯金」

「……田舎者はな貯金なんてしねえんだよ!※」

「そ、そうか。すまねえ」

※諸説あります。

 

 ここまでの依頼達成率は2/2で100%のアウト少女。

次の依頼はどうなることやら。乞うご期待。




2000文字目標で書いております。
ドカ食い気絶してたら投稿遅れました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。