いきなりこの作品から読む方のために軽く解説しておきますと、英梨々ルートを完成させるために、試行錯誤と紆余曲折している作品であります。
小学生時代のいじめ問題から派生したケンカの解釈を変える事で、倫也と英梨々は今も仲良しな中学時代を送っています。
でも、英梨々が腐女子であることは秘密のため、倫也と英梨々は学校では基本的に口をききません。
そんな二人の中二時代の物語。
今日は穏やかな春の日で、優しい風が少し吹いていた。
春休みが明ければ中二に進級する。
新一年生の入学式まで桜がもちそうにないので、俺と英梨々はこうして近所の桜坂を散策している。
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?中二病っていったら、右手に宿る邪神でしょ」
「いや・・・邪眼だろ。常考」
自分でも分かっている。正解のくだらない論争ほど不毛なものはないことを。ましてや、こんな春うららな桜満開の日にもめるようなことではないことも。
「ぐああぁ・・・この右手の封印がぁ・・・」
英梨々が右手を前に突き出して指を開いてぷるぷると震わせている。俺は迫真とはいいがたいチープな演技にツッコミもいれず、必死に笑いをこらえている英梨々を見て溜息をついた。
「で、その後どうなるんだ?」
ライトイエローのフレアスカートにはおよそ似つかわしくない。ガニ股で操気弾でも出てきそうなぐらい英梨々は踏ん張っていた。
「べ・・・べつに何も起きないわよ」
ふと、我に返った英梨々が耳を赤くして、何事もなかったかのように歩き出した。
「続きがあったと思ったんだけどな」
「封印されているっていったでしょ」
「でも、それだと邪神が宿っている証明にならないよな」
「じゃあ、あんたの邪眼はどうなのよ」
そうきたか、別に俺に邪眼があるなどと一言も言ってないんだが。
「ふっ」
余裕をもって鼻で笑い、俺はメガネをシャツの胸ポケットにしまい、右目を手で隠した。
「俺の右目はお見通しさ」
「なんで、右目を隠して右目で見えるのよ」
「・・・」
「わざわざ変えなくてもいいわよ」
「そこはスルーしろよ」
桜は咲き誇っていて、一面がピンク色の世界になっている。坂の上が一番見渡せていい。周りにも近所の人達が歩いて桜を眺めている。
「で、何が見えるのよ?」
「そうだなー」
「考えてないじゃないの」
「み・・・未来が見えるんだよ」
「どんな?」
「この場所で、カワイイ女の子に出会う気がする」
「それ、見えてるんじゃなくて、あなたの願望ですよね?」
「ヒロユキ調で言わないでくれる!?」
英梨々がクスクスと笑っている。柔らかなオレンジ色のポンチョがとても似合っていて可愛い。
※ ※ ※
俺の部屋に戻ってきた。2人で熱い煎茶を飲んで、少し冷えた体を温める。
「証明するわよ。あたしの右手に宿った邪神を」
「まだ続けるのかよ・・・」
「倫也を驚かせてあげるわ」
英梨々が俺の机の引き出しから折り紙を取り出した。なぜ俺の部屋の折り紙の場所など知っているかというと、半分ぐらい英梨々が勝手に使っているからだ。それどころかその折り紙は俺のじゃない。英梨々のものだ。所有権はどうでいいか。
コンパスやら定規をつかって、英梨々が折り紙に模様を描き始めた。
「ほう・・・魔法陣か」
「上手いでしょ」
「ああ、実に英梨々らしいよ」
「今回はちょっと簡単なものにするわよ」
4枚の折り紙に英梨々が魔法陣を描いた。円と幾何学模様に読めない文字が適当に書いてある。
それをベッドの上に一枚置いた。
「倫也、その魔法陣に右手を置いてくれるかしら」
「こうか?」
言われたままに、俺は右手を魔法陣に置いた。英梨々がその近くにもう一枚魔法陣を置く。
「今度はそれを左手」
「・・・ふむ」
「で、こっちの魔法陣に右ひざ」
「こうだな」
「そう、で、最後にこの上に左ひざをのせてくれるかしら?」
「わかった。で、どうするんだ?」
「そのまま目を閉じて。呪文を唱えるから」
「なんか本格的だな・・・」
俺は目をつぶった。なんかイメージと違うけど怪しい雰囲気はでている。そして、カシャカシャとシャッター音がする・・・
「ちょっと、顔をこっちに向けてくれるかしら?」
「目をつぶったまま?」
「開けてもいいわよ」
俺は振り向くと、英梨々がハァハァしながら写メを連続して撮影していた。
「お前なぁ・・・」
「さすが魔法陣ね、見事な中二病ホイホイよね」
俺はやっと気が付いてベッドから降りた。魔法陣を描いた4枚の折り紙を回収する。英梨々にしてやられたのだ・・・俺はバカ正直にベッドの上で四つん這いになってしまった。
英梨々が撮影した画像をチェックしながらニヤニヤしている。どうにも俺に被写体としてモデルをさせたいらしく、マンガの資料のためとはいえ無理な要求も多い。この四つん這いポーズも恥ずかしくてずっと断っていたものだ。
「こんな簡単なのに騙されるなんてなー」
「別に騙してないわよ。魔法陣の力でちゃんと倫也を捕獲したじゃない」
「納得できないからなっ!?」
「まぁ、見てなさいよ・・・」
英梨々はスケッチブックをテーブルの上に置き、立ち上がって印を結んだ。動作はカッコいいがキレがいまいち。
「リーテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトラレール!」
うん。誰もが覚える基本の呪文だ。封印を解放する呪文では一番有名だろう。
もちろん、青い光が発するでもなく、しばしの沈黙のあと、英梨々は黙って座ってスケッチブックになにやら描き始めた。
シュールだ。
「やっぱり、オリジナルの呪文の方がよかったかしら?」
「いや、今更迷うなよ・・・お前はよくやりきったよ・・・」
「そう?そうよね」
自分で言い聞かせて、うなずいている。
英梨々は絵を描き始めると、だんだんと集中していく。話しかけると機嫌が悪くなる。だから俺としては隣でラノベをのんびり読むぐらいしかできない。
ずずずっとお茶を飲んで、静かな時間を2人で過ごした。
※ ※ ※
「出来たわよ倫也」
「んあ?」
「何寝てんのよ・・・!ほらっ」
春眠暁を覚えず、もう夕方だけど・・・少し眠ってしまったようだ。
英梨々のスケッチブックには、俺の四つん這いの姿が、裸にされて描かれていた・・・
「あのなぁ・・・」
「ふふふっ、これが邪神の力よ」
俺はなんて優しくツッコミをいれるべきなんだろう?
「それ・・・右手の邪神が目覚めたわけじゃなくて、英梨々の性癖が目覚めただけだよねぇ!?」
自信ありげに不敵なの笑みを浮かべていた英梨々の顔が真っ赤になった。
(了)