日常系の小話としては長閑で好き。
1月。正月気分が抜けきらない冬休みの終りの日。空は快晴は冷たい風が吹いていた。
俺と英梨々は大きな川沿いの土手を歩いて散策している。こんなところまで来るなら凧のひとつも用意してくればよかった。これだけ風が強いならよく上がったことだろうに。
「この辺にあるらしいわよ」
「そう言われてもな・・・」
あたりは雑草だらけの場所である。俺が見ただけじゃ区別はつかない。植物の名前など花が咲けば多少はわかるかもしれないが、葉っぱをみただけじゃぜんぜんわからない。ましてや地面から出ている緑色の草など、雑草以外のなにものでもない。
「じゃ、探すわよ」
英梨々がしゃがんで雑草を見始めた。これが四葉のクローバーを探している女の子なら、金髪ツインテールの美少女も映えるのだが・・・ベージュのダッフルコートにはすでに雑草のゴミが付いていた。
こんな寒い中にいったい何をしているかというと、「七草」探しだ。春の七草は雑学の基本だろう。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトノケノザ、スズナ、スズシロ。食ってもたいして美味くなかった記憶しかないが、一応季節感のあるイベントではある。
※ ※ ※
英梨々がyoutubeの動画を見ながら、「ラノベのイベントといえば、無人島のサバイバルよね」と言った。
俺はデスクに向かって真面目に勉強をしていたから、英梨々が何かのアニメ情報でも見ているのかと思ったら、なにやら怪しげなサバイバル動画を見ている。ザリガニをたくさん捕まえ、その場で携帯コンロの鍋にザリガニを放り込んでいる。ワイルド極まりない。生えている雑草を解説しながら摘み取り、同じ鍋で煮ていた・・・
嫌な予感しかしない。
「確かに遭難とかで2人きりシチュエーションはあるあるだよな」
「倫也って、サバイバル知識ある?」
「ない。ぜんぜんない。まったくない。ないからね?」
「そんなに強く否定しないでいいわよ。別に期待なんてしてないわよ」
「そっか・・・」
「これから、覚えればいいんだし」
「絶対、何かさせるつもりだよね!?」
無人島生活。テレビで見ている分には非日常的で面白いかもしれない。が、やりたくはない。
「というわけでいくわよ」
「どこに?」
「うーん。七草が採れる場所」
それぐらいならなんとかなるかもしれない。春の七草という割には、冬真っ盛りなんだけど・・・どういうことなんだろう。
ある程度ネットで調べ、電車で川沿いまで移動した。
※ ※ ※
「これ、ナズナよね?」
「ちょっと待ってろ」
アプリを立ち上げて撮影するば、あら不思議。すぐに何の植物か判明する。
「うん。ナズナだな」
ナズナはペンペン草。そこらへんに生えていて見つけやすい。
「倫也、タンポポも食べられたわよね?」
「そこらへんに生えているタンポポが食べられるかは知らんけどな」
「同じでしょ」
春の七草にタンポポはないはずなんだが。英梨々が持ってきた袋にタンポポも積む。
「あと、あれハコベラじゃね?」
意外と目が慣れてくる。さっきまで緑一面だった雑草も、それぞれの個性がだんだんと分かってきた。
アプリで確認して、ハコベラもゲットする。
「順調ね」
「この辺だとこれぐらいだろ。後は水田とか畑の周りにあるみだいだぞ」
「セリと・・・ゴギョウ?」
「ホトケノザもだ」
「畑ってどこにあるのよ?」
「さぁ・・・あとダイコンとカブだけ買って帰ろうぜ」
寒いけれど長閑だった。空が澄んでいて薄い白い雲が風で流されている。やっぱり凧上げがしたかった。
「クローバーも食べられるわよね?」
「あーそんな気もするが・・・」
調べる。加熱すれば食べられるみたいだ。それを伝えると英梨々がクローバーも積み始めた。
そこまでして野草を食べたいとも思わない。俺はコンビニの袋にゴミを拾っては集めていた。なんでもない場所なのに、いたるところにゴミが落ちている。
「英梨々、クローバーは毒性があるから、そんなにいっぱい食べたらダメらしいぞ」
英梨々が摘むのをやめて立ち上がる。それから背伸びをして大きなあくびをしていた。まったくもって美少女の無駄使いである。
英梨々は気が抜けているようで緊張感がまるでない。サバイバルごっこならもう少し緊張感があるべきじゃないだろうか?
ふと、そんなことを思った俺は・・・さっきみつけた縄のゴミを思い出す。1メートルぐらいある。
英梨々は両手の親指と人差し指で四角を作り、そこから風景を覗きこんでいた。絵でも描きたくなったのかもしれない。川はゆったりと流れていて、風で表面が時々キラキラと細かく輝く。
「英梨々!ヘビ!!」
そういって、英梨々に縄を投げつけた。
「えっ?なに・・・ひゃ!?」
振り返った、英梨々は飛んできた縄を見てよけそこなってバランスを崩し、尻もちをついた。運動神経はない。
「あっ・・・ごめっ」
「ちょっとっ!何すんのよ!」
「だから、ヘビ・・・」
英梨々が尻もち付いたまま、俺をジィーと睨んでいる。やめて、その素で怒った感じ。もう少し可愛らしいリアクションとるとか、涙目になるとか、あると思うんだけど。
英梨々が無言で立ち上がって、服についた汚れを手で払い落している。
「倫也って、ほんとガキよね」
「・・・すまん。って、英梨々!ヘビ!」
「もういいわよ・・・」
「足元!」
とりあえず俺は身構えて、後ずさりする。記憶を掘り起こす。確かあれは・・・アオダイショウ。無毒なはずだ。
「えっ?やめてよぉ・・・」
英梨々が跳ねるようにこっちに逃げてきた。体長は50㎝程度の小さいサイズのものだが、見慣れていないのでとても気持ち悪い。
「もう、うそでしょ?」
「ほら、あれ・・・いるだろ」
「どれ・・・うわぁ・・・ほんとだ」
英梨々がすぐにケータイをかざして撮影を始めた。なんていうか、そういう反応なの!?商魂たくましいじゃなくて、漫画魂たくましいとでも言えばいいのか。
「貴重な資料ね」
「おまえ、ヘビ平気なのかよ・・・」
「爬虫類館とか、怖いものみたさにいくわよね」
「あ~、あるな。でかい蛇とかだろ」
「あれぐらいならカワイイじゃない」
「その感覚はわからん・・・」
英梨々が距離を取って撮影している。これで後ろから押したら、本気で怒るんだろうな。小学生の時だったらそうしたかもしれないが、今は中二だ。そこまで大人気ないことはやならない。
「そろそろ帰ろうぜ」
「そうね」
英梨々がバッグにケータイを閉まって空を見上げた。今日は天気がほんとにいい。英梨々は白い毛糸の帽子をかぶっていたから、そこから出ているツインテールだけが輝いている。
「カイト持ってくればよかったわね」
それは俺がなんども思っていたことだ。英梨々がこちらを向いて少し笑った。七草集めはまだ俺らには渋すぎたと思う。
(了)