3月。あっという間に中2が終わってしまった。春休みが開ければ中3になり受験勉強が始まる。
「だいたいバグはなさそうね」
「分岐チャートは文化祭の流用だからな。そこまでひどくはならないだろ」
「シンプルだけどね」
去年、英梨々の誕生日には恒例のガラス細工の他に、ミニゲームを贈った。元ネタは英梨々が年末に描いた同人誌用の物だ。
今年も英梨々は続きらしき話を描いていたので、それを元にADV型のものを制作している。去年と違うのは、今年は英梨々も意識していたらしく登場人物が多いこと。それから一緒に制作していることだ。
「で、結局お前はどのキャラが好きなんだ?」
「それぞれ好きよ。でも、ピンとはこないわね」
「ありきたりって言えば、ありきたりだもんな」
「王道といいなさいよ。王道」
「いや、わかるけどさ」
塔の中に囚われたお姫様は、その村の中では自由だ。幽閉されているようでもあり、匿ってもらっているようにも見える。村のみんなは親切でお姫様に対して誰もが優しい。善人しかいない世界観。
「でも、強いていうならやっぱり領主の息子かしら?」
「やっぱり金かっ」
「別にそういうわけでもないけれど、身分のバランスも取れているし、生活も安定するし、村人も幸せになるし、シンデレラストーリーって感じで一番まとまりがあるわよね」
「まぁそうだけどな」
領主の次男坊は優しくて教養がある。長男はお堅い人物だが政治や外交に忙しく不在、次男は少し抜けたところのあるお坊ちゃん。そんな感じの人物だ。
「あたしの作ったキャラもありきたりだけど、倫也の考えたハッピーエンドも王道よね」
「他に考えようもないしな」
「こういうストーリーって『こういうのでいいんだよ』おじさんが発生するわよ」
「しょうがないだろ。こういうのでいいんだから」
領主の次男坊との婚約エンドは確かに一番明るい。ただ、翳りのあるお姫様は完全に幸せになっているような印象は受けない。どこか打算的なのはシンデレラストーリーでなく、お姫様もいいところの出だからだろうか。
「倫也は?誰か気に入ったのいる?」
「うーん。村の少年かな」
「あら、ショタコンなのね」
「別にそうじゃねーけど。このお姉さんエンドは物語がまだ続くような感じだし、恋愛をできない感じが物憂げで好きなんだがな」
「ふーん。家族愛的な?」
「いや、そうじゃなくて・・・もっとこう、本命は別にいることが示唆されているようで」
2人目は村の少年で、去年のストーリーで少し登場していた。悪戯っ子だが面倒見もいい。お姫様に非常に懐いていて、本人は恋愛しているつもりだが、お姫様にはぜんぜん相手にはされていない。それでも家族を失った背景などが明らかになり、お姫様は彼の義姉になる。そんな話だ。
「人情ものと考えると、確かにいいわよね。こういう恋愛ゲームはなんだか恋愛することが強制されているようなところがあるし」
「そうだな」
「そう考えると、やっぱり騎士(ナイト)はいらなかったかしら?」
「どうだろ・・・赤髪の強い騎士っていうのは、中世世界では王道中の王道って感じがするよな。とりあえず4人の中の1人には、いていいと思うぞ」
「それにね、ちょっと牧歌的でほのぼのしすぎているから、アクションも多少あった方がいいと思って」
「かっこいいよな!」
実際、英梨々の描いた騎士のデザインがカッコいい。お姫様を救出すべき本国から探してきた騎士団の生き残り。お姫様を塔から連れ出して逃げ出すところは、話の整合性に欠けるところがあるが勢いで押し通す。道中の夜盗との戦闘シーンが見せ場だ。
「そうそう、この分岐だと倫也が去年の首無し騎士団を再登場させたでしょ。あそこはいいわよね。守護霊っていうのかしら」
「騎士団の伝説はなぁ・・・掘り下げていきたいよな。あんまりやりすぎると恋愛ADVから離れてしまうけど、少年向けならこっちに力を入れた方がよさそう」
「あたしもけっこう好きよ?ただ、暑苦しい男は苦手なだけで」
「ははっ」
学校で人気の運動部系男子。英梨々は名前すら憶えていないようだ。スポーツ観戦もあまりしないし、アニメの傾向でもそれがでている。例えば人気のバスケやバレーボールアニメも見るにはみたが、夢中にはなっていない。
「そういうわけで、対比として文化系が登場するわけだな?」
「そうね。色のバランス的にも緑は必要でしょ。なんだかんだ人気がないキャラよね」
「うーん。バランスとしてはそうなんだろうけどな・・・このキャラってメガネかけねぇーの?」
「エルフだから目がよくないとおかしいでしょ」
「ああ、そっか」
そして4人目のキャラ。近くの森の中に住むエルフ。ハーブを奏でていて、周りには動物が集まるという神話的な存在だ。緑基調なので、現代版スナフキンに見えなくもない。というか帽子のデザインとか、かなり意識しているのは間違いない。
「倫也がどんなハッピーエンドにするかと思ったけど、隠居って・・・どうなのよ?」
「いやいや、世捨て人エンドはありだろ。なんか戦乱とか政略とかで人生かき回されているようだし、エルフと一緒に静かに森の中で暮らす・・・平和でいいと思うが」
「うーん」
「英梨々はどんな感じの考えていたんだ?」
「動物楽隊を作って、村人とエルフの和解エンドみたいな」
「ハーメルンの音楽隊みたいのか」
「そうね。画面も賑やかにできそうだし、楽器を使っているから明るい感じにもなるわよね」
「いいな。それ・・・」
「もう変更する時間もないわよ」
「締め切りがあるんだな・・・」
英梨々の誕生日は3月20日だ。年度末と考えると確かに締め切りという感じがしなくもない。ダラダラと完成しないゲームを作るよりは、無理矢理でも仕上げてしまった方がいいだろう。
一段落したので、英梨々とリビングに降りて少し休憩をする。
子供の頃に約束した『英梨々と一緒にゲームを作る』という目標は一応達成したことになるのだろうか。
英梨々も一緒に作る気があったらしく、すでにイラストなどは何枚かできていたし、立ち絵も用意されていた。表情差分は喜怒哀楽の単純なパターンのみだ。もちろん立ち絵がぬるぬると動いたりしないので、レトロな印象を受ける。声も付いていない。
「あとはエンドロール作っておしまいかしら?」
「・・・そうだな。微調整はするかもしれないけど。音源がいまいちなんだよな。クラシックだとちょっと荘厳すぎるし」
「ゲームミュージックの流用は?」
「聞いたことあるやつだと、そのゲームを思い出させるだろ」
「いろいろ足らないもんなのね」
「文章も大したもんじゃないしな」
「そうね」
「そこは、もうちょい褒めて励ましてもらおうか」
「いいじゃない?『伸びしろだらけ』なんて言葉もあるみたいだし、あたしの絵だってまだまだ2流なわけだし、ちょうどいいのよ」
「そうでもないだろ・・・」
すでに英梨々のペンネーム、「柏木エリ」のファンは増えているし、SNSでコツコツ更新ているショートマンガを楽しみにしている人も4桁の大台に乗った。
俺が英梨々に匹敵するのは、ラノベ紹介サイトぐらいだが、これこそ他人のフンドシもいいところだ。
「文章なら・・・霞詩子にでも頼んだら修正してくれるんじゃないかしら?」
「そんな気安く頼めないだろ。今やアップしたらデイリーにランキングするような人気作家なんだから」
「そのうちラノベ作家でデビューしそうよね」
「ああいうのが才能っていうんだろうな」
「才能って言葉でばっさりいうのは好きじゃないわよ。それってなんかバカにしている感じがするわ。裏じゃたくさん努力もしているだろうし」
「その裏を見せないから才能って感じるんだろ。別に悪意はねぇよ・・・」
英梨々もすっかり霞詩子ファンで、趣味で挿絵を送っている。英梨々の挿絵が実は人気に歯車をかけているんじゃないか?と思わなくもないが、作品が面白いのは事実だ。
15歳はまだまだ少年少女で通る子供だ。でも、同時にすでに頭角を表している人がいるのも事実だ。プロで活躍している人もいるし、オリンピックで金メダルを取る人もいる。
ましてや、すぐ隣に画力を向上させ続ける奴がいるのだ。俺だって焦燥感にかられる。
※ ※ ※
春休みになって、暇な美智留がやってきた。こいつの気分の沈みようといったら過去に見たことがない。
「トモォ・・・」
もはや言葉にできないのもわからんでもない。何しろ想い人の伊織が転校することが知ってしまったのだ。もちろん出海ちゃんも一緒で、親の仕事の関係で名古屋に引っ越しするらしい。あの古びた仮住まいに住んでいた理由は、東京にずっといるつもりがなかったのだろう。転勤族の家族は何かと大変である。
「よし。美智留。取引をしよう」
「なんのー」
「転校した後も、伊織に会わせてやる」
「ほんと?どうやって」
「ふむ、但し条件がある」
「トモ、童貞卒業はまだそんなに焦らなくてもいいと思うよー」
「ちがうからねぇ!?」
「むしろ、他の要求の方が不健全だと思う」
「そんなことねぇだろ・・・音楽を作って欲しいんだけど」
「音楽?」
「この曲なんだけどさ・・・」
俺がPCで再生して、ヘッドフォンで美智留に聴かせた。曲はとあるファンタジー系RPGのエンディングテーマだ。これをアレンジしたい。
「ふーふふ、ふふん・・・」
美智留が目をつぶって鼻歌を歌っている。こいつは音楽を聴かせると覚える事ができる。勉強はできないけど、音は覚える。頭の中で楽譜になるのか原理はよくわからない。
美智留が音楽聴いている間、俺は気乗りがしないがスカイポのアプリを使って、伊織とコンタクトをとる。これでネットで顔をみながら会話ができる。
「やぁ、我がカワイイ妹を泣かせた倫也君じゃないか?どうしたんだい?」
「・・・その話は一応解決したから・・・」
「まぁいいさ。僕の恋じゃないからね」
「ああ、そのお前の恋についてなんだがな・・・」
ちょうどヘッドフォンを外した美智留に、ノートPCの画面を見せてやる。
「あっ、伊織ちゃん!」
「というわけで、美智留、引き受けてくれるな?」
「しょうがないなー」
「よし。あとは好きに過ごしていいぞ」
とりあえず、2人の会話を立ち聞きする気もしないので、俺は部屋からでてリビングに降りた。インスタントコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて一息つく。そして出海ちゃんとの対応を思いだした。
※ ※ ※
出海ちゃんには可哀想だし失礼なことをした。バレンタインのチョコを渡すのがどれだけ勇気のいることか、そこまで頭が回らなかった。入院している英梨々のことで頭が一杯だったとはいえ、冷静になると自己嫌悪がひどい。
俺は出海ちゃんに隠していた英梨々との関係をできるだけ正直に話をした。
「もう少し私の恋敵ってなんとかなりませんか?」
という、変な回答が返ってきた。どういう意味か測りかねる。出海ちゃんが俺に多少なりとも好意を持ってくれているのは・・・鈍い俺でもわかる。でも、それはきっと勉強を教えた恩義みたいなものだろう。女子学生が学校の先生を好きになる同じ勘違いに近いに違いない。
「でも、文化祭の時になんとなくわかりましたけどね・・・」
「いや、あれは・・・」
「ちょっと待ってください。倫也先輩。そこで澤村先輩への想いを否定するのって、私に対しても失礼なんですよ?」
「あっ、うん・・・」
けっこうずばずばという。踏み込んでくる。俺としては、なあなあとやり過ごしたい。
「つまり、倫也先輩は澤村先輩が好きってことですよね?」
「いや・・・あの・・・前も話した通り・・・澤村はいじめられてたことがあってだな・・・あいつが泣くようなことはしたくなくてだな・・・」
「どうして、倫也先輩があたしからチョコを受け取ると、澤村先輩が・・・あっ、もしかして澤村先輩も倫也先輩のこと好きなんですか!?」
「いや、それはない」
「そこは断言するんですね・・・」
なにしろあいつは、フィアンセがいるらしい。どこぞのスペンサー村の村長だか、伯爵家だかは知らんが・・・いいとこのボンボンなのは間違いない。
「そういうわけで、あの日は澤村が入院していてだな・・・俺はプリントを届けないといけないし、気が動転していて・・・だな・・・」
なんでだろ?チョコ受け取っても良かったような。
「もういいです。とにかく、倫也先輩が澤村先輩を好きなんですね」
「・・・もうそれでいいです・・・」
恋愛話はよくわからない。これでも恋愛アドベンチャーを文化祭で発表したのに・・・まったく分岐がわからない。今の出海ちゃんはもしかして出海ルートへの分岐なにかなんだろうか?選択肢があれば予想もできるが。
「倫也先輩のバカァー!」
と、涙声で訴えられて、出海ちゃんが走っていった。なんか振られ方も元気だな・・・、というか、俺は振ったのだろうか・・・?
いやいや、泣かれるのもどうだろう?確かに気が動転していたとはいえ、断ったのはよくなかった。素直に受け取ればよかったかな。
俺はそのあと、出海ちゃんを追いかけて、再度謝った。謝り倒した。土下座するか迷ったがここは自重する。その上で、「ホイワトデーは何か贈らせてもらうから」と約束だけして、なんとか機嫌をなだめてもらった。
考えてみれば出海ちゃんは本来なら小学生だ。白黒でしか物事を考えられないのかもしれない。
その後、出海ちゃんにはホワイトーデーの贈り物をした。ささやかなクッキー詰め合わせ缶詰だった。それを喜んで受け取ってくれたし、転校後も連絡をとる約束をして、一応は解決したつもりだ。
※ ※ ※
部屋に戻ると、美智留はもう伊織との会話は終了していた。
「もういいのか?」
「うん。トモ、ありがとー」
「いやいいけど。じゃ、いくか」
「どこに?」
「家電量販店の電子ピアノコーナー」
「そこで録音できるのー?」
「ああ、USBに録音できる。実験済みだ。聞いたら弾けるんだろ?」
「一応ね」
「それに、フェミニンマートの曲をまぜてアレンジすればいいから」
「へぇー?」
「それが流行なんだよ」
フェミニンマート。全国にチェーン展開するコンビニエンスストアだ。ここの入場曲を他の曲に混ぜる動画がどういうわけか一定の需要がある。
この後、俺たちは家電量販店に移動し、そこで美智留に電子ピアノを弾いてもらった。いくつか曲調や雰囲気を伝えると、次々と弾いてくれる。原曲の趣は残っていても別な音楽が完成していく。
やっぱり美智留は美智留で天才なのかもしれない。運動も抜群だし、あまり努力しないという点では、もっとも天才肌なのかもしれない。英梨々は少なくともペンダコができるぐらいはいつも絵を描いている。
「トモ、あっちのエレクトーンの方がアレンジが聞くけど」
「そうなのか?任せる」
「録音できる?」
「どうだろ・・・えっとだな・・・ああ、できるぞ」
美智留がエレクトーンを弾く。こちらの方が電子音でゲームに合っているかもしれない。これぐらいできるなら、PCの音楽ソフトの制作を覚えてしまった方が早い気もする。今度、メカ音痴の美智留に仕込んでみるか。いちいち家電量販店まで足を運ばなくていいしな。
「ばっちりだ。ありがとう。美智留」
「いえいえ、どういたしましてー。これ、何に使うの?」
「んっ・・・ちょっとゲームを作っててだな」
「あっ」
「どうした?」
「あたしもしかして・・・トモのオタク活動を手伝っちゃった?」
「いや、そうでもないぞ。気にするな。よし、下でジェラートでもおごってやろう」
「わーい・・・ってなんか騙されてない?」
「騙されてない」
アイス代の数百円で数一曲が手に入るなら安いもんだ。おかげでイメージ通りのものが手にはいった。
※ ※ ※
英梨々の誕生日まであと2日。締め切りが迫る中、徹夜で作業を続けている。英梨々には「最後は自分で仕上げたいから」と伝えて会っていない。
エンドロールを美智留の曲に合わせて編集する。他の部分に比べてここだけ音源に迫力があり、自分が最初に作った文字主体のエンドロールでは物足りなくなってしまった。そこでセピア色に加工した英梨々の絵のスライドも混ぜ合わせると、なかなかいい感じに仕上がった。
続いて、隠しキャラクターのプログラムをする。こちらの出現条件は厳しい。まず正規ルートの4名を攻略する必要がある。英梨々なら当然するだろう。ただし、最後に分岐が表示されて相手の申し出を断ることができる。
断るとバッドエンドというわけでもないが、ハッピーエンドにはならない。塔の窓から星空を眺める姫様エンドだ。これは英梨々原作のオチでもある。誰も選ばない。
もしかしたら、こっちこそが正史なのかもしれない。アンニュイな印象の表情が印象的だった。
英梨々も時々窓の外を眺めてぼんやりとしていることがある。まるで日向ぼっこをしているネコみたいに平和そのものだけど、美少女のせいかその姿が様になる。
このラストの絵は去年と同じマンガ原作のものを使い、これを画像加工でレトロなマンガ風に仕上げる。それによってモノトーンでも違和感がなくなる。
断ったルートでクリアするとフラグが一つ立つ。フラグが立ったことは一見わからないが、ニューゲームを始めるとお姫様の部屋の棚にアイテムが一つ増える。
アイテムは肉、キャベツ、麺、ソースの順で増えていく。はっきり目立たないように背景に溶け込ませるが、英梨々ならすぐに気が付くだろう。
4つ集まると隠しキャラが登場する。しかし、立ち絵は黒い影だ。これはしょうがない。
この塔に囚われたお姫様の元ネタは英梨々の先祖の話にある。亡国の第六皇女。といってもスペンサー家はその皇女でなくて、皇女が幼い時に拾った召使い=執事(スペンサーの意味)の少年こそが先祖になるらしい。かなり眉唾だが。
亡国の姫君というワードが少女の心をくすぐるのはわかる。その逃亡劇に付き従ったスペンサー少年こそ、やはり本命とみるべきだろう。
英梨々の話によると、この姫君は逃亡先の王子と結婚している。功績のあった少年・・・成長してスペンサー青年が、拝領した村が現在のスペンサー村だ。今も文化的な村として存在している。
そういうわけで、俺はスペンサー少年をゲームの隠しキャラにした。もっとも、隠しルートのストーリーは短いし分岐もない。あくまでもおまけだ。
「ふぅ・・・」
気が付けば明け方近くになっていた。少し横になって寝る。
※ ※ ※
翌日。最後の仕上げをする。
スペンサー少年の物語は、後からお姫さまを追ってきて合流するのは赤髪の騎士と同じだが切実さが違う。
こっちはお気楽でニコニコしていて、途中で商売をしていて金貨を稼いでいた。ちょっと人を喰ったようなところがあり、お姫様に対しても物怖じしない。
再開の喜びで感涙しそうなお姫様相手に、「部屋が汚れすぎです」といって掃除を始めたり、「ちゃんと食事を取れてますか?お肌が荒れています」と小姑のような細かい指摘をする。
お淑やかに振舞っていたお姫様も、ついつい昔に戻ってしまってお転婆娘に戻ってしまう・・・そんな感じの茶番が続く。
「あんたの焼きそばが食べたいんだけど」
「ええ、かまいませんよ。材料はあるみたいですし」
棚からから、食材を持ち出して手早く焼きそばを作る。
時代が中世だから完全にギャグパートなわけだがそれでいい。おいしそうに食べるお姫様の満面の笑顔は、英梨々の写真をクレヨンタッチに加工したものだ。
俺は英梨々みたいな上手な絵は描けないが、まったく描けないわけじゃない。昔は俺だって漫画家になりたかった。才能に見切りをつけるのが早かっただけだ。
この英梨々お姫様の画像は、ギャグパートに合っていて気に入っている。少し間の抜けな笑顔とそこからみえる八重歯がとても可愛い。
この隠しルートはエンドロールが流れず、この画像でFINの文字がでて終りだ。
プログラムを組み終えて、俺はバグテストを行う。どのルートもショートストーリーなので、読み飛ばせばクリアまではそんなには時間がかからない。フラグ管理も完璧で問題なくクリアできる。
英梨々の誕生日にはなんとか間に合わせることができた。
※ ※ ※
英梨々の誕生日会が終り、俺は家に返ってきて風呂にはいり、ベッドの上でゴロゴロしていた。
ピコン。とPCに音がなってメールが届いたことを知らせる。
見てみると英梨々からだった。添付ファイルには立ち絵と表情の差分がある。みたところ・・・これはスペンサー少年かな?なんか黒髪メガネになっているのだが・・・
『なんで幽霊みたいに黒い影人間が立っているのよ。さっさと修正しなさいよ』
なんという横暴。英梨々にはちゃんとDVDにして渡した。箱は時間がなくて作れなかったが、ちゃんとDVD印刷もしているし、クリアケースにいれるカードも作った。英梨々は受け取ってお礼をいうと、そわそわしていたので、俺は早く家に帰ってきた。
というか、なんどもデバックをしてプレイしているはずだが、何がそんなに嬉しいのかよくわからない・・・もし、俺が隠しキャラを作っていなかったら渡すのをためらうほどだ。
それでしばらくたって、先ほどのメールが来た。
俺はすぐに修正パッチを作り、英梨々に返信した。これは画像の差し替えだけなので作業は簡単だ。
ピコン。とPCに音がなって、またメールが届いたことを知らせた。
『なんだか、焼きそばが食べたくなったわね』
どうやら無事にクリアできたらしい。良かった。感想はいい加減だが、こんなもんかもしれない。もうちょい喜ぶかと思ったが。
でもまぁ良かった。ひさびさにすごく頑張った気がする。文章は自分でも恥ずかしいほどだし、分岐やフラグ管理もシンプルなものだ。まだまだ修正の余地はたくさんあるが、とりあえず動くゲームをちゃんと作れただけで満足する。
『俺は疲れたんで寝る。お誕生日おめでとう。英梨々。おやすみ』
そう返信しておいた。
PCをシャットダウンして、俺は大きなあくびを一つした。もしかしたらまた英梨々から返信があるかもしれないが、急ぎの用事はないはずだ。
寝る準備をして、ベッドに横になると、ケータイの着信音がメッセージが来たことを知らせた。また英梨々からだ。
> 倫也って、わかってるようで、やっぱり分かってないわよね
なんのことだろう?心当たりがない。ゲームのことを話しているとは思うのだが。
< えっ?何が?
> そういうとこ。おやすみ。今日はありがと
< ああ、つまらない作品ですまなかったな
> そんなこと一言もいってないわよ!バカ
さっぱりわからん。やっぱり俺がバカなんだろうか。そうなのかもしれない。
< 今日は寝る
< また今度教えてくれ おやすみ
英梨々からは自家製の『溜息スタンプ』が送られてくる。ディフォルメされた金髪ツインテールが両手のひらを上にして、ヤレヤレとつぶやいる。
『あくびしているスタンプ』を送信し、そしてもう英梨々の返信には返信せずに眠った。
(了)