もはやネタにつまって中二病ってなんだよ?(怒)って感じで、とりあえずラブコメあるあるを探していました。
そういうわけでラッキースケベ。
現実的な作りにすると、まぁそんなことはほぼ起きませんね。
今回の話は前回の続きです。
「嘘も方便」という言葉もありますが、倫也の昔話が実話かどうかは置いといて、とっさにそういう話ができるなら優しいなぁと思います。
11月。だいぶ肌寒い日が増えてきた。文化祭の喧噪もすっかり忘れ、平穏な学校生活が戻ってきていた。
ただし、英梨々を除いて。
英梨々だけが、まだニヤニヤして時々思い出している。本人は突然の出来事にパニックになって泣いていたくせに今では上機嫌だ。いったい何があったのか少し説明しようと思う。
俺としては、学校中で噂になって大変だろうなと、冷静になったあと反省していた。とはいえ、時間は巻き戻らない。あの日、何かいい言い訳でもないかとベッドで横になって考えていた。
文化祭の当日は、みんながそれぞれの役割があり、俺も地下のPC部に1人で来場者を待っていた。
クラスの仲のいい男子をはじめ、思いのほかゲーム好きも多いらしく、なんやかんやと誰かしら遊びに来ていた。俺は操作を方法などを解説するが、基本的には放置気味だ。自由に触らせておく。
スポーツ大会の空撮した映像の方が人気が出てきて、こちらは噂が噂を呼んで狭い部屋に人が集まってきた。女子もちらほらと来ている。
そこで噂を耳にした。
「ええ、この先輩でしょー、あたしもひそかに好きだったんだけどー」「マジショックー」
「みんなの前で告白したんでしょ?」「ありえないよねー」「今日来てないらしいよ」「そりゃこれないでしょww」「澤村さん泣いてたらしいよ」
断片的な情報はすでに広がっているらしい。英梨々は一晩たって落ち着いたのか今日はちゃんと登校してきてるし、美術部の方にいる。
本人はさぞかし火中で大変だろうが、統制のとれた美術部にいる限りは大丈夫だろう。
「なんか、すっごいイケメンの人が助けたらしいよ~」
「ええっ?誰?」
「わかんないらしい」
「波島くんじゃないの?」
「伊織くんならすぐにわかるでしょー」
・・・おっ?どうやら、俺の周りは静かだなぁと思ったが、気が付かれていないらしい。これも日頃の陰キャイメージのおかげかもしれない。学年も違うし、存在感の薄い俺は日頃は目立たない。部活で先輩もいないのも功を奏したか。
とっさの判断で、俺はメガネを外して教室に入ったので別人に思われたらしい。
さらに、英梨々が美術部から情報が漏れるのを防いだのだろう。こうなると真相は闇か。後で詳細を出海ちゃんあたりから確認しておきたいところだ。
※ ※ ※
あの日、トボトボと家に帰った英梨々は、食事と風呂をすました後に俺の部屋にやってきた。
冷静になった後にぷりぷりと怒っていたのだ。なんで、俺がその愚痴を聞かないといけないかいまいちわかりかねるが、他に話す相手もいなかったのだろう。
「だいたい人の恋愛をなんだと思ってんの?あんなんで喜ぶ人いるとかしら?」
「さぁ・・・内輪でもりあがってたんじゃねーの」
「ヘディングで頭おかしくなってんのかしらね。普通、あんなことしないわよね」
「で、どんなんだったんだ?」
「どんなだったかしら・・・あたしは呼ばれて手伝いにいったのよね。波島出海でも一緒に連れて行けばよかったのに、1人で行動したのが悪かったのかしら?依頼内容のイラストを大きな紙に下書きして、それをマジックでなぞっていたのよね。あんまりなれない道具だから、慎重になりがちだけど、そうすると線に勢いがでないでしょ」
「ふむふむ」
ずいぶんとストレスが溜まっているらしく、言葉数も多い。
「それで、とりあえず主線を描き終えて、後は陰影の線をどうするか立って眺めていたのよ。本当なら机の上にでも立ちたい気分だったけど、流石に恥じらいもあったのよ。それで人が真剣に悩んでいる時に・・・」
「ああ、英梨々の創作意欲がMAXだったんだな」
「そうよ。当たり前でしょ?それが仕事なんだから。人のものとはいえ、作品に関わる以上は最高のもの、少しで良いものを提供したいというのが、絵師の心得だと思うのよね」
「すごいプロ意識だな・・・」
ちなみに描いていたのは人気アニメの主役の男で、英梨々も好きなキャラで描きなれていた。描きかけの状態で事件に巻き込まれたのが惜しまれる。
「その時に後ろで話かけられたのよね。フラッシュモブっていうのかしら?男子数名が踊りだして」
「なんだそれwwwウケるwww」
「あんたねぇ。笑いごとじゃないわよ?あたしの創作意欲はどうしてくれるのよ。くだらないへたくそなダンス見せられて、愛嬌をふりまけるほどあたしは大人じゃないし、媚びは売りたくないわね」
「そこらへんは英梨々だな」
たいたいマンガを描いている時の英梨々なんて別人で怖いぐらいだ。つまらない邪魔をすれば怒るのも無理はない・・・そんなこと、誰も知らないだろうが。
「周りの誰も止めないし、あたしはわけがわからないまま、ぼっーと立ってたわよ」
「そりゃそうだよな・・・」
「そしたらね。そしたらね・・・うぅ・・・」
「おいおい・・・思い出して泣くなよ」
「もう泣かないわよっ。ほんとくだらないんだから。その誰よ?名前も知らないサッカーバカに告白されたのよ。なんて言われたかしらね?『君が好きですぅ~♪』みたいな感じで、何かのコントかしら?」
「お前・・・よくそれで泣けるな。普通笑うだろ・・・」
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?ヘディング脳なの?笑えるわけないじゃない」
「なんでだよ・・・」
「なんであたしの人生初告白イベントがそんなくだらないものにされなきゃならいのよ?創作は邪魔されるし、思い出はひっかきまわされるし、悔しいやら、情けないやら・・・で、感情吹っ切れたのよね・・・」
「まぁ、水でも飲めよ・・・」
英梨々がコップのお茶を飲んだ。英梨々には英梨々でいろいろあるんだな・・・
「ふぅ・・・。ひどいと思わない?」
「ひどいよな」
俺もキレて壁を殴るぐらいにはひどかったと思う。でも、それは理由がわからず英梨々が泣いていたからだし、その光景が小学生の時に英梨々がオタク疑惑で(疑惑じゃないけど)でいじめられていた時を思い出させたからだ。
英梨々にはそんな思いはさせたくなかった。
俺だって最初から見ていたら笑ってしまったかもしれないし。英梨々だって俺がいたらこっちに助けの視線を送ってきたかもしれない。余裕が少しあれば笑い話にできたはずだ。
創作活動中で素の陰キャ英梨々全開だったから、対応しきれなかったのだろう。いつもみたいに学校用お嬢様バージョン英梨々なら、もう少し違った結果になったに違いない。
それに相手だって、自信満々のイケメンサッカー部とはいえ・・・このやり方なら振られても笑い話にできると踏んだのかもしれない。
結果的に踏んだのは飛び切りの地雷だったのだけど。
英梨々が口膨らませている。とりあえず、俺としてはいじめみたいな事件にまきこれたわけじゃないし、英梨々が泣いてしまった以上は被害者確定だ。どんな風に噂が広まるか知らないが、英梨々ファンは男女ともに多いのはバレンタインとホワイトデーで証明済だ。
「ひどい初告白だと思わない?」
「ああ、思うよ」
英梨々が何度もそういってくる。確かに思い出作りという観点からすると一方的過ぎるのかもしれない。しかし、校舎裏に呼び出されたり、伝説の木の下で告白受けるのも稀だろう。
「ああ、でも英梨々・・・」
いうべきか、いわざるべきか・・・
「何よ?」
「お前の『初告白』って、『初告白され』・・・か?っていうのは、それじゃないぞ」
「えっ?何言ってんの倫也」
「忘れているんだな」
「そうだったかしら・・・」
ふむ。そんなもんだろう。何しろ幼稚園の年少の頃のことだからな。早生まれのちっこい英梨々が覚えていないのも無理はない。
「気が済んだろ?明日も忙しんだから、今日は早く寝ろ」
「ちょっと待ちなさいよ倫也。・・・それって、相手が倫也なのかしら?」
「勘のいい子は嫌いだよ」
「えっ、そうなの・・・思い出すから・・・」
「バカいってねぇで、コート着ろ」
風呂上りに来るとか、風邪ひいたらどうするんだ。ただでさえ体が弱い方なのに。
英梨々を家に送るため、一緒に外に出る。
今日は暖かかったので外気温はそこまで寒くはない。風が少し拭いているからコートがあった方がいいのかもしれないが、俺は別に着ていない。
英梨々と並んで歩くが、英梨々はずっと考え込んで思い出そうとしている。首をかしげていることから、さっぱり思い出せないのだろう。もしかしたら記憶から消えているかもしれない。
英梨々の場合は視覚的な記憶は俺なんかよりもずっと優れているが、単純な暗記やエピソード記憶などは俺の方が優れている。年少の3歳となると、覚えてない方が普通だろう。
「あんた、作り話じゃないでしょうね?」
「何が?」
「倫也があたしに告白したこと」
「うーん。なんかその言い方だと誤解を産みそうだな・・・」
「あんたがいったんでしょーが」
「いやそうなんだけどな・・・。英梨々って長靴の絵を描いたの覚える?」
「長靴の絵?」
「水たまりの長靴の絵」
「えっと・・・それって幼稚園の頃の?」
「そそ」
「覚えているわよ。あの透明な長靴よね?」
「それ。長靴の絵を描いたのは覚えているんだな」
「あれっていつ頃の話よ」
「年少の梅雨時じゃねーかな」
「・・・そんな、昔のこと覚えているわけないでしょ」
「だよな」
英梨々の長靴の絵は、普通の子とぜんぜん違っていた。普通の幼稚園児は長靴なんて横向きでしか描けない。なんなら小学生でも横向きでしかかけないだろう。
英梨々は後ろ姿を描いていた。水たまりの上を跳ねるように歩く長靴の構図だ。みんなが楕円の水たまりを塗りつぶし、縦線の水色の雨を降らす絵を描いているのに、英梨々の水たまりは淵がないし、カラフルだし、水が弾けていた。
何よりも透明な長靴がちゃんと透明に見えた。
「その絵がどうかしたの?」
「あの絵ってさ、みんな理解できなかったんだよな。後ろ姿で歩いている長靴だろ」
「うーん。はっきり思い出せないけど、そんなだったかしら?水たまりの上を跳ねているような・・・」
「そう、それ。あれさ、線がないからみんなからはぐっちゃぐっちゃに見えたんだよな」
「ぜんぜん記憶にないわね」
「それでさ、英梨々は途中からきた転園生だし、金髪だし、ぜんぜんしゃべれないし、小さいし、マイペースだったからさ、みんなに下手くそーっていじめられたんだよ。まじ、覚えてないの?」
「まるで記憶にないわよ?というか、幼稚園の頃の記憶なんてあるかしら・・・」
「沢山ことは忘れるだろうけどな。まぁ俺もそんなに全部覚えてるわけじゃねーよ」
「そう。それで?」
「俺さ・・・」
英梨々の家というか屋敷は、俺の家から坂道を上った先にあって、すぐに家の前まで着いてしまった。閉まっている門の前で立ち話を続ける。
「なんか、ぜんぜんみんな絵の意味を理解していなくてさ、そりゃ他の子よりもわかりにくかったけど、英梨々の絵はとてもきれいでさ。他の女の子みたいな虹なんて描いてないのに、カラフルで虹が水たまりに映りこんでいるようでさ。すごく感動したんだ」
「そ・・・そう?べ・・・別にあんたのためじゃないわよ」
「いや、いまツンデレいらんだろ」
立ち止まると涼しい。空は快晴で星がちらほらと見える。
「うーん。本題が見えないわね・・・」
「英梨々に伝えたんだよ『英梨々の絵が好きだよ』って」
「ありがと」
「それがさ、別に緊張したわけじゃないけど、『英梨々が好きだよ』って、言ったんだよな~。あ~記憶から消したい」
「・・・バカっ」
大袈裟に頭を抱えた振りをする。ばからしい話だ。隣で英梨々がクスクスと笑っている。
ようやく笑顔が戻ってきた。
「まっ、とにかく、お前の初告白されはそれだからなっ。今日のやつよりマシかどうかはわからんが」
「そうね。でも、ありがとね」
「おう、じゃあな」
手を振って坂を歩き始めると、英梨々が後ろから声をかけてきた。
「ねぇ倫也。もう一度言いなさいよ」
「何を?」
「さっきの『英梨々が好きだ』ってところ」
「知るかっ!」
「ケチねぇ~。じゃあ、あたしは部屋に戻って今日のことを思い出してまた泣くとするわ」
「あのなぁ・・・」
上書きでするつもりか。そんな風に思い出って塗り替えられるものだろうか?
「あんたありがたく思いなさいよ。あたしはいつも告白を避けて生きてきたんだからねっ」
「ああ、そうですか。良し分かった。お前の願いを叶えてやろう」
門の前に立っている英梨々は、くすんだオレンジ色のハーフトレンチコートを着ている。フードも付いていてオシャレな雨合羽に見えなくもない・・・
「俺、安芸倫也はっ・・・エリンギが好きです!」
ヒュ~@@ と木枯らしが吹いた。
英梨々のスカートが揺れてめくれ上がった。
「・・・あんたねぇ、真面目にやりなさいよ」
英梨々がスカートを手で押さえている。角度的には見上げる形で申し分なかったが、いかんせん風の力が足らない。まったく確認できず。
「なぁ・・・英梨々」
「何よ。バカ」
「俺、ラッキースケベの才能はないんだな」
「知らないないわよ。変態」
「じゃあな、また明日な」
「うん。おやすみ。倫也」
※ ※ ※
文化祭も終り片付けが始まった。その点でPC部は楽だ。何しろいつもとそう変わらないのだから。ドアに貼ったPC部のポスターだけをはがして、PCをシャットダウンする。
部屋のレイアウトが変わって配線を床に這わせたので、躓かないように養生テープで固定していた。それをバリバリとはがしていく。
コン!コン!とノックがして、出海ちゃんが入ってきた。
「倫也先輩。ちょっといいですか?」
「どうしたの?また澤村に問題でも起きたか」
「いえ、今日は平穏でしたけど、ちょっと確認とお願いが」
「何の?」
とりあえず、出海ちゃんにイスをすすめて座ってもらう。
「ここまで噂って届きました?」
出海ちゃんは部屋をキョロキョロとみている。教室でなく倉庫仕様なのだ。雰囲気が違うのだろう。
「澤村のか?」
「はい。昨日いた美術部の子は緘口令が布かれて、倫也先輩のことは秘密になってます。といっても、倫也先輩のこと知っている子いませんでしたけど」
「ということは、俺も誰にもしゃべるなってことだよな?」
「そういうことです。でも、澤村先輩は『安芸なら、悪目立ちしたくないから放っておいてもしゃべらないわよ』って言ってました。なんなんですかね?その信頼感は」
「さぁ?でもまぁ、俺からしゃべることはないよ」
「そうですか。それでですね・・・」
「まだあるの?」
「昨日、倫也先輩ってメガネ外してたんですね」
「ふふふっ。逆変装な。意外と気がつかれないんだぜ」
「そうみたいですね。というわけで、イケメン探しがはじまってますから気を付けてください」
「はははっ、あれは行動がだろ?」
「そうなんでしょうね。私もドキッとしましたし、ああいう壁ドンってずるくないですか」
「狙ってしたことじゃないから・・・バレないように気をつけるよ」
「以上です」
「わざわざありがとう」
出海ちゃんが立ち上がって部屋から出ていく時に振り向いて、
「倫也先輩と澤村先輩って、別に付き合ったりしてないですよね?」
「んん?学校では会話もしたことほとんどないよ」
「ですよね・・・でも、昨日は手をつないでましたよね?」
「気のせいじゃないか?でも、あの場所から連れ出してやりたかったからさ」
「そうですか」
追及が激しかったら、小学生時代にいじめられていた話でもして辻褄をあわせようと思ったが納得したようだ。
「あっ・・・」
出海ちゃんが配線に足を取られて転びそうになった。俺はコードで引っ張られたノートをPCを慌てて抑える。
出海ちゃんは転ばずにバランスを取って姿勢を戻した。
「ごめん。出海ちゃん・・・配線片付け中だった」
「いえ、平気です・・・失礼します」
出海ちゃんが部屋から出ていった。
やはり、ラッキースケベの才能はないようだ。
(了)