出海ルート前哨戦のクリスマスの話の翌年。いつの間にか英梨々ルートに戻っているので、こんなひどい展開になるんだな。
謝っておこう。ごめんなさい。
仕上がってみると、英梨々がけっこうなツンデレになっているので表題に採用。
12月。人生には決断すべき時がある。
なんでもない日常の連続も何かを選び続けているのかもしれない。しかし未来がどのように変わるかはあまり予想できない。報われない努力もあるだろうし、惰性で生きてチャンスを逃したこともあっただろう。
しかし、イベントは大きな選択で未来が変わることがはっきりとわかる。
PC部で黙々とプログラムを打ち続ける日々。今は雌伏の時だと自分を言い聞かせ、教本通りに練習し、オリジナル性は追及しない。いつか自分で作りたいゲームはあるが、まだ力が不足していた。絵がどんどん上手くなっていく英梨々に比べて、気持ちばかりが焦ってしまう。
コン!コン!とノックの音がした。このノックの音は出海ちゃんだ。ガチャリとドア開いて、人懐っこい笑顔で顔をのぞかせる。
「倫也先輩、ちょっといいですか?」
「うん」
「これ・・・」
俺は作業を止めて立ち上がり出海ちゃんが持っているものを受け取った。クリスマスカードだ。
「ありがとう・・・?」
「クリスマス会の招待カードです。今年もうちで開催する予定なんですけど、倫也先輩に来てもらおうと思って」
「ああ、うん。去年はバタバタしちゃってごめん」
「・・・いえ」
ふぅ・・・。先延ばしできない問題もある。今年もダブルブッキングするわけにはいかないだろう。でも、断るって難しいな・・・
「あのさ、出海ちゃん。気持ちは嬉しいんだけど、今年も予定が入っててさ。毎年参加しているボランティアで、去年は両方に迷惑かけちゃったから」
「はい。でも、一応作ったので受け取ってください」
「あっ、うん」
「では、失礼します」
ペコリと頭を下げて出海ちゃんはドアを寂しそうに閉めた。俺は手にしたクリスマスカードを見る。今年は開始時刻が昼間になっていた。
英梨々のところは夜にクリスマス会が行われる。これなら、両方に参加することが可能だけど・・・
※ ※ ※
休日の俺の部屋。いつものように英梨々が遊びにきていた。
英梨々が体育座りをしながらコントローラーを持って黙々とゲームをしている。文化祭の時に作ったシューティングゲームの続きで、今は2面まで出来上がっていた。
「倫也、ここ無理じゃないかしら?」
「どこ?」
俺はデスクで勉強をしていた。寸暇を惜しんで勉強する。短い時間の使い方で差はついていくものだと信じている。
俺は英梨々の隣に座ってゲーム画面をみる。英梨々はキーボードを押して巻き戻し、プレイを再開した。
2面終盤の難所だ。二股分岐から4列編隊の敵がでてきて逃げ道がほとんどない。しかも、壁が邪魔で敵を素早く倒せないようになっている。
「ああ、そこな」
「クリアできるのよね?」
「俺はできたけどな」
「なんか悔しいわね」
「でも、本来はそうやって遊ぶものじゃないしな」
今、英梨々は縛りプレイをしている。無強化機体での攻略だ。これはゲームバランスの問題で、強化すればサクサクと効率よく攻略できるが、無強化でも攻略できるようにすると完成度が高い。
例えばスピードを上げないと回避できないステージは完成度が低く、無強化の鈍い機体でも早めに敵を倒したり、回避誘導することで攻略できたりする。
古いゲームでは敵を一切倒さずにクリアできるものもあったぐらいだ。
「どうやんのよ」
「まずだな、そこよりももっと速い段階で・・・そう、そのあたりな。そこでまず上に出てくる敵を前面に出てすばやく倒す。次に、下の分岐に機体を寄せて・・・」
「こうね・・・?」
「そう。そのまま下に位置しつつ後ろに下がってだな・・・ギリギリで上の分岐に進む」
ボーンッ!と機体が壁にぶつかって爆発した。
「はぁ?この鈍いコックで?」
「そうだよ・・・元々は戦闘機だったんだがな・・・」
文化祭バージョンではカッコいい戦闘機とメカニックな敵だった。草案は俺が出し、英梨々がリデザインし、俺が再びドットに落とし込み、英梨々が細部のドットを修正した。
レトロなデザインに見えても手間にかかっていた。文化祭が終わった後も、コツコツと趣味とプログラムの練習で2面を作っていたが、英梨々が「戦闘機だと怖いからコミカルにして」という要望から、機体はコックさんになり包丁を投げつけ、飛んでくる食材を料理しつつ進む仕様になってしまった。
ちなみに当たり判定は変えていないのでコミカルな二頭身コックの帽子は攻撃を受けても問題がない。
コントローラーを受取り、手本をみせてやる。テストプレイは死ぬほどやっている。完全再現するTASが必要なほど洗練はされていなし、シビアではない。
「ふーん。なるほどねぇ・・・なんか迫りくる壁にギリギリかわすコックが可愛いわね」
「そこからヒントを得て作ったからな」
一定時間同一方向キーをいれると、コックが汗をかくグラフィックになる。壁をギリギリ避けるとそれが発動するのだ。このくだらなさ。
英梨々が成功して、クスクスと笑っている。
「あとはボスだけだから」
「うん」
英梨々もすでに何周、何十周とクリアしていた。短いゲームなのでテストプレイとしては十分だろう。大きなバグも見つかっていない。
英梨々がボス戦を戦っているのを隣で見ていた。無強化なのでなかなか手強い。ボスは巨大なホールのイチゴケーキで、削れていくうちに内部のイチゴに見立てた核がむき出しになる。そこにひたすら包丁投げつけるのだ。
ボスの攻撃も弾幕が分厚く、鈍い機体でかわし損ねると追い詰められて死ぬ。
ボーンッ!
「・・・倫也、難しすぎない?」
「いや、そういう縛りをしなれければいいだけの話だからね?」
「倫也はクリアしたのよね」
「一応な」
英梨々の残機数がなくなったので、タイトル画面に戻って、最初からプレイを始めた。
俺としては見飽きた画面なので、デスクに戻って勉強を続ける。音を聞いているだけ英梨々がどの辺を攻略しているかなんとなくわかるようになってしまった。
「そうだ。倫也。あんたどうすんのよ?」
「何が?」
「クリスマス会。波島出海に誘われているでしょ?」
「ああ・・・うん。なんで知ってるんだ?」
「あたしのところにもクリスマス会の招待状が来たからよ」
その発想はなかった。しかし、伊織がいる以上は英梨々が参加するとは思えない。
「それでお前はどうするんだ?」
「だから聞いてるんじゃないの。倫也が波島出海のクリスマス会に参加するなら、あたしの方は来なくていいわよ」
「ということは、英梨々も出海ちゃんのクリスマス会に参加するのか?」
「するわけないでしょ。バカ。あたしはちゃんと自分がピエロとしての役割を演じるわよ」
毎年行われる澤村・スペンサー家のクリスマス会は、外交官の父親としての顔もあって来客が多い。100名近く集まる。英梨々はそこの大事な一人娘で、華やかなアクセントになる。
「そうか。俺も断ったよ」
「そ・・・そうなの?なんでよ?」」
「うーん。なんでだろ。去年しんどかったから」
「なによその理由。もう少しポジティブな理由で答えなさいよ」
「割りのいいバイト代が出て、プレゼントも貰えて、簡単な作業で、その上うまいものがつまみ放題。断る理由が見つからんぞ」
「うちの手伝いをなんだと思ってんのよ・・・まぁ、別にいいけど、今年はないわよ」
「なんで!?」
「はぁ?バカなの?あんたが去年遅れてきたからでしょ。約束守れない人に与える仕事はないわよ」
「シビアだな!いや、そこをなんとか・・・」
澤村家のクリスマス会は大勢来るので、執事とメイドさんも総出で出勤する。仕事が多いのだ。俺も多少は配膳などを手伝うが、主な役割は愛嬌を振りまいて疲れてしまう英梨々をバックヤードでなだめることだった。
「まいったな・・・」
「そんなにうちに来たいのかしら?」
「人生計画っていうのがあるだろ。資金繰り問題は切実なんだよ」
「・・・そこまで露骨にお金の話ばかりされるとさすがに引くわよ?」
「すまん」
土下座しておこう。
「ちゃんと言うべきことがあるでしょ」
「英梨々と一緒にクリスマスが過ごしたいです!」
「・・・っ!」
見上げると英梨々の顔が真っ赤だ。ふふっ、チョロインめ。
・・・だが、たぶん俺も耳まで真っ赤だ。勢いとはいえ恥ずかしいセリフを言ってしまった気がする・・・。
「もう少し反応しやすいセリフにしなさいよ!バカ!・・・はい、これ」
英梨々の手元には綺麗なモスグリーンのクリスマスカードがギュッと握ってあった。
(了)