LOST MEMORIES   作:星月

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3話 離別と再会

「黒の騎士団総員に告げる!」

「えっ」

「ゼロ!」

「やった、ゼロが、ゼロだ!」

「本当に!?」

 

 黒の騎士団全員に向けられた回線。

 そのチャンネルに映し出された黒い仮面の姿に、人々は歓喜し、あるいは驚愕の声を上げた。

 

「ゼロ!? 戻って……いや、違う。この信号は!」

 

 藤堂もまさか通信を全て切断した指揮官が再び戻ってきたのかと一瞬考えたものの、交信元である機体――多くの団員の中でもただ一人しか搭乗できなかったという機体を見て、全てを察した。

 

「まさかこのゼロは、君は――」

「これより撤退戦に移行する! 各員、準備にかかれ!」

「撤退戦! ……やはり、これはもう負け戦か」

 

 彼を呼び止めようとして、それよりも早く続けられた命令に藤堂は顔を顰めた。

 政庁を攻略するどころか、コーネリア親衛隊の守りを崩すことができず、藤堂をはじめとした主力部隊は足止めされ、徐々に各方面から敗走または壊滅の知らせが増えている。しかも全体を見回し、命令を下す司令官も不在。エースパイロットも消えた。このままでは全滅もやむなしという場面に来ている。それを理解しての判断だった。

 士気も下がって仕舞えば投降を選択する兵士も増えてくることは目に見えている。

 ――今、ゼロが復帰したというこの状況に乗じない限り。

 

「卜部!」

「お、おう」

「お前は部隊を率い、すぐに確保できるだけのエナジーフィラーのみを持ち、至急D9まで移動しろ。また残る三番隊隊員は近くの逃走ルートを使って同位置へ移動し合流。鍵崎が死んだ今、以降は卜部が三番隊を指揮し、この地から脱出するように」

「承知!」

 

 言葉巧みにゼロは普段と変わらぬ調子で卜部へと指示を飛ばした。

 卜部は主力の中では唯一激戦地から離れた補給路の確保を担っていたために移動は難しくない。いち早く残存兵力との合流を図るには適切な人材であった。

 

「ディートハルト!」

「はいっ」

「学園の司令部の確保はもう不要だ。情報を処分後、部隊を二手に分けてG1ベースに向かえ。後詰めの部隊と共に神楽耶様たちを連れて他の車両で西へ行け。あれは移動するには動きが速くないし、敵の目につく」

「西に?」

「そうだ。可能な限りキョウト六家の方々を救出し、可能ならば海外へ脱出しろ。ここで失うわけにはいかない」

「承知しました。――今は、あなたの言葉通りにいたしましょう」

 

 続いての指示は拠点の制圧にあたっていたディートハルト。

 ディートハルトも仮面の正体に気づいていたのか、少し不満な姿勢を見せつつも彼の指示に淡々と従った。

 情報に広く通じ、ゼロからの信頼も厚かった男だ。彼ならば神楽耶たちも無事に離脱できるだろう。

 

「藤堂!」

「うむ」

「……すまない。お前たちには無理をさせる。今最前線を抜かれれば部隊は総崩れとなるだろう。今そこにいる各隊長達を指揮し、殿を務めてくれ。10分、死守だ。いいな、死守だ。その後は各員脱出ルートを使って脱出してくれ」

「承知した、必ずや守り通そう。――それで君はどうする?」

 

 そんな役割を託されながらも、藤堂は清々しい笑みを浮かべて命令を快諾した。

 本当に頼もしい。謝罪と感謝の言葉を心の内で告げて、ゼロは――

 

「私はこれより追撃に出る敵の側面を突く。――木下。零番隊で動けるナイトメア部隊は何機いる?」

「は、はいっ! 現戦力ですぐに動けるナイトメアとなると、サザーランド一機に、無頼四機ほどかと」

「……そうか」

 

 零番隊副隊長、木下の報告に一瞬ゼロは目を細めるものの、すぐに意識を切り替え部下達に檄を飛ばす。

 

「よしっ。ならば無頼二機で良い、私と共に続け。敵の包囲網を崩すぞ。他の零番隊員は連絡が取れる部隊との合流を図れ。負傷者も見捨てるな。――各員、速やかに動け!」

「了解!」

 

 ゼロが、団員達がこの死地を脱するためにと一斉に動き出した。

 藤堂が語るようにたとえ負け戦だとしても、少しでも犠牲を減らすために。

 

 

 

 三番隊は影崎を失った後、当初は各自の判断で敵陣を突破しようと行動していた。

 しかしゼロからの新たな命令が下された事により、今は各々が事前に通達されていた経路を通って合流ポイントを目指している。

 杉山、井上の幹部隊員も同様に。

 二人は反転し、卜部達が待つ地点を目指して無頼を操縦していたのだが――

 

「まずい、追いつかれるぞ!」

「流石に機体性能の差が!」

 

 グロースターとサザーランドで構成される小隊が背後から二人に迫っていた。

 チラッと後ろに視線を送ると、すでに視界に入るほどの距離にブリタニア軍が接近している。

 日本製の無頼とブリタニア製の機体ではどうしても性能で劣る。このままではマズイ。

 

「反乱分子を逃すな! ここで討ち果たせ!」

 

 敵軍は勝利を確信しているのか、意気揚々とロケットランチャーやアサルトライフルを次々と発射し、二人を追い詰めていく。間一髪で射撃は無頼を襲うことは免れたものの、このままではジリ貧だ。

 

「P1,P2! 二つ先の十字路を左に曲がれ! 100メートルほど進んだのち、転進しろ!」

「えっ」

「この声……!」

 

 その窮地を救う声が通信期より響いた。

 機械を通した合成音の指示に、二人は揃って肯定の答えを返し、言われるがまま進路を変えて左折する。

 当然追ってきたグロースター達も彼らに続いて方向を変えて――

 

「弾けろ!」

 

 部隊の半数が過ぎた所で死角である背後から強襲。

 蒼い月下の左腕から放たれる高周波・輻射波動がグロースターの一体を捉えて、機体は耐えられずに爆発四散した。

 

「なっ!」

「伏兵か!」

 

 突然の攻撃を受け、すぐにブリタニア軍が反撃に転じるがその動きは散漫だった。

 月下の廻転刃薙刀が横一閃に振るわれると、アサルトライフルを持つ右腕ごと切り落とし、さらに振り返りざまに横に構えていたグロースターの胴体を両断する。

 さらにスラッシュハーケンを別のサザーランドに命中させると、怯んだ相手に先ほどアサルトライフルを撃ち落としたサザーランドを投げ飛ばし、転倒させた

 

「こいつっ!」

 

 残った部隊から一斉射撃が放たれる。

 数えきれないほどの銃弾が迫る中、ライは操縦桿を小刻みに操作し、後退しながら銃弾を全て最低限の左右の移動のみでかわし切った。

 

「すり抜けた!?」

「これが、黒の騎士団の青い亡霊……!」

 

 命中する直前で銃弾が対象をすり抜けたような錯覚を抱くその光景に、ブリタニア軍は思わず戦慄する。類稀な操縦技術は屈強なブリタニア軍でも驚愕してしまうほどの腕であった。

 

「臆するな! あいつが黒の騎士団のもう一人のエースだ! ここで仕留めなければ後々の災となる!」

「りょ、了解!」

 

 そんな中でも部隊長だけは立ち直るのが早い。

 部下達が自然と足がすくんでしまう中ですぐに指示を飛ばし、退いていく敵を率先して追いかけ始めた。

 彼につられて他の軍人も青い月下へと目標を定めて再び追走し、

 

「今だ、撃て!」

 

 道路を挟んで待ち構えていた二体の無頼が左右から精密射撃が敢行された。

 瓦礫の中に身を隠す形で待ち構えていた敵軍にブリタニア軍は最後まで気付けず、先頭を走る隊長が撃破されてようやく事態の変化に気付いたのだった。

 

「隊長!」

「そんな!」

「……終わりだ」

 

 そしてこの射撃を合図に、後退していたライが再びブリタニア軍に襲いかかる。

 さらに背後から引き返してきた杉山、井上の両機も襲撃し、四方から攻撃を受けたブリタニア軍の小隊はあっという間に壊滅したのだった。

 

 

 

「よし。これで周囲のブリタニア軍は一掃した。杉山、井上の両名は再び卜部達との合流ポイントに向かえ。以降の君達への指揮権は卜部に預ける」

「あ、ああ」

「待って! ……ゼロ、あなたは?」

 

 指示を終えるや、背を返す月下を井上が呼び止める。

 二人も察していた。

 黒の騎士団員の中でもただ一人だけの為に調整された専用機である青い月下を動かせるのは一人しかいない。

 だから、その彼がゼロの仮面をかぶって一体どうするつもりなのか尋ねずにはいられなかった。

 

「私はこのまま藤堂達が戦う地へと向かう。紅蓮とガウェインがない今、一番注目が集まるとしたらこの機体だ。この機体が現れたとなれば敵は必ずや追いかけてくるだろう。その間に君達は戦地から離脱するんだ」

「なら私たちも!」

「駄目だ!」

 

 確かに敵の注意は避けるだろう。

 だが、その代わり彼は逃げ場を失う事になる。

 一人でそんな事はさせられないと井上が訴えるも、ゼロは強い口調でその提案を拒絶した。

 

「ここで完全に復活の芽を失うわけにはいかない。――必ず、彼は、カレン達は帰ってくる。彼らならば今度こそ日本の解放を成し遂げてくれる。その時のために、君たちは生き延びるんだ」

 

 この戦いで負けたとしても、また再起するために少しでも戦力を残すのだと。

 今この場にいない二人へ最大限の信頼をこめてゼロはそう口にした。

 

「……カレンの事、どうかよろしくお願いします」

「お、おい! ――ライ!」

 

 最後にゼロは、ライは愛する者への想いを託して、その場を後にした。

 制止の声を全て無視して、最後の殿の役目を果たすために、敵の精鋭が待ち構えている真っ只中へと突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 まさに鬼神と呼ぶべき働きであった。

 敵幹部は捕縛し、見せしめとすることが望まれているという事情はある。さらに味方を逃すべく何度もブリタニア軍に突撃を繰り返し、時間を稼いでいるその姿に気づいたギルフォードが感服し、破壊ではなく捕縛を命じたというのも一因だろう。敵を捕えるというのは破壊する以上に困難なものだ。

 だが。たとえそうだとしても。

 単騎で軍用ヘリコプター5機、戦闘車3機、サザーランド23機、グロースター6機を破壊。

 さらにグラストンナイツの二人が脱出を余儀なくされ、ギルフォードのグロースターもランスと右腕を失って、ようやくエナジー切れを起こした敵のエースの捕縛に成功した。

 果たして一体どんな姿をしたパイロットなのかと、これほどの戦果を残した敵を見届けようとしたギルフォードは操縦席から出てきた仮面を目撃し、戦慄した。

 

「ゼロ!?」

「……いや、違う。貴公だろう、フトウで私と戦ったパイロット」

 

 軍人たちが予想しない敵の首領の姿に戸惑うも、以前にも戦い、そして敗れていたギルフォードはすぐに正体を見抜き、ゼロへと問いかける。

 

(ギアスは……使えないな)

 

 この場を逃げ切るにはギアスを使うしかなかった。それくらいはライも理解していた。

 しかし、行政特区日本の悲劇を目にし、そしてかつて自身もギアスによって全てを失ってしまったことを思い出していたライはそれを実行に移す気にはなれなかった。

 今使えばきっと自分も親友の過ちを繰り返してしまう。

 それだけは避けたかった。

 

「ギルフォード卿。一つだけ頼みがある」

「ほう。テロリストが私に何を臨む?」

 

 包囲され、ナイトメアも使えない今、脱出は不可能だ。

 自分の行く末を察したゼロは正面に立つギルフォードを見据え、最後の交渉へと臨む。

 

「黒の騎士団をはじめとした人々は皆、私の指示でこの場に集結したもの達だ。責任は全て私にある。どうか彼らには温情を施していただきたい」

 

 命乞いの言葉はなく。

 最後まで総司令官の責任を背負って、彼は部下たちの恩赦を求めた。

 ゼロとして捕縛されれば極刑は免れない。それくらいわかっているはずなのに。 この局面で一切臆する姿勢を見せない相手に、ギルフォードは感心するばかりだった。

 

「……いいだろう。ギルバート・G・P・ギルフォードの名に誓って、他の捕えたものたちへの扱いは私が取り計らう。ただしゼロ。貴公の処分は本国預かりとする。それでよろしいか?」

「感謝する」

 

 騎士としての最大の敬意であった。それを感じとり、ゼロも短く礼を告げる。

 その場で仮面の正体を明かす事もなく、ギルフォードはゼロを本国へと移送し、その沙汰を待つこととなった。

 

 

 

 

 

 

 皇歴2017年。

 植民地エリア11で立ち上がった一人の反逆者・ゼロ。彼が率いる黒の騎士団はトウキョウ租界を奪取すべく、ブリタニア軍へと一大決戦を挑んだ。

 後に「ブラックリベリオン」と歴史に刻まれるこの戦争は、黒の騎士団のリーダーであるゼロ、そしてゼロの片腕と称された双璧の片翼の死という結果で幕を閉ざすのだった。

 

 

 

 

 その大戦からおよそ半年後。

 ブリタニア帝国内の宮殿の一室にナナリーの姿があった。

 エリア11から連れ去られた彼女は現在ブリタニア皇帝の加護のもと、平穏な生活を送っている。

 しかし久しぶりに戻ってきた故郷とはいえ、慣れない周囲との関係や環境に一抹の寂しさを感じていた。

 

「お兄様……」

 

 ポツリとナナリーは愛する兄の名前を口にした。

 突如離ればなれになってしまった今、あの戦いに巻き込まれてしまっていないか、不安は尽きない。

 しかし目も見えず足も不自由な彼女に出きることは少なかった。ただ無事を祈る日々が続く。そんな日常が、なんとも歯がゆい。

 

「……えっ?」

 

 しかし。

 ふと耳に聞こえた足音に、ナナリーは戸惑いを隠せなかった。

 目が見えないナナリーは代わりに聴覚が非常に敏感だ。足音だけで誰なのか判別できるほどに。

 直後、扉が三度ノックされる。

 

「ナナリー皇女殿下、お客様がいらしております」

 

 使えているメイドが来賓を告げた。

 すぐにナナリーが入室の許可を出すとゆっくりとその扉が開かれる。

 

「お兄様、お兄様なのですか!? 本当に!? お兄様!」

 

 もう一度足音を聞いて核心に至ったナナリーは満面の笑みを浮かべ、見えない相手に問いかけた。

 数えきれないほど想った兄。その声を早く聞きたくて、ナナリーはメイドの存在も忘れ、何度も同じ言葉を反芻する。

 

「——そのように言っていただけるとは。やはり血の流れでしょうか。もしもルルーシュ殿下がお聞きになられていたらきっと喜ばれていたでしょう。

「えっ?」

 

 しかし期待した声は帰ってこなかった。

 兄の声ではない。だが、つい先日まで聞き馴染んでいた声だ。

 

「あっ」

 

 そういえば前にも同じようなことがあったような、とナナリーは少し前の記憶を思い返して、兄とよく似た人物の名をゆっくりと口にする。

 

「……ライさん、ですか?」

「おや。私の事はもう誰かからお聞きになられておりましたか? さすが、お耳が早い」

 

 その名を呼ぶとやはり聞き覚えがある、けれどどこか距離を感じるような声にナナリーは違和感を抱いた。

 そのナナリーの様子を知ってか知らずか、銀髪の少年はそのまま自己紹介を続ける。

 

「はじめまして、――いえ、お久しぶりです、ナナリー皇女殿下。私はライ・サンチェスと申す者です。このたびはエニアグラム卿より推薦のお言葉をかけていただき、はせ参じました」

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