世にも美しい夜を超えてから少し後。
執筆活動に励むと意気込む依頼主と屋敷を守っていくことを決めたアンジーに別れを告げた菊は草原にいた。黒い袴の上から麻のローブを被り、ガラガラと回る大きな車輪の少し前をゆったりと歩く。
「お嬢ちゃん! よろしくな!」
「ああ、任せてくれ。これでも腕には自信がある」
「そりゃあ心強い! もうすぐ盗賊が彷徨いてる一本道に出るからな、あの時みたいに頼むぜ?」
彼女は用心棒をしながら、壊れた義手を修理できる職人がいる街を目指していた。依頼人ギルデロイ・ ロックハートからもらえた依頼料は正直雀の涙。義手どころか一食分にもならない額だった。
自分で提示しといてなんだが、少なすぎやしないか?
結構頑張ったぞ、私。
そんなこんなで
ゴブリン製の短剣を商品にしていたらしい商人が街中でゴブリンに襲撃を受けていた際に手助けしたのだが、その際に馬車の影に隠れて出てこなかったのだ。その事件がきっかけで用心棒にと依頼された。
渡りに船と次の街まで同行することになったので、人助けは我が身を救う事を実感した。
不意に周囲に警戒しながら歩いている菊の鼻を
「海が近いな」
「よくわかるな! ここからすぐ近くだ。……願くば、
馬車の上から叫ぶように祈る商人の願いも虚しく、パチンと何かが破裂するような音と共に黒装束に身を包み、首元に鈍く光る揃いの輪をつけた
現れて即座に鈍く光るものが宙を切り裂く。菊は咄嗟に刀を抜き、商人に向かって放たれた短剣を弾いた。固いもの同士がぶつかる甲高い音が平穏な荒野を切り裂く。
「何奴……と言っても、無駄か」
摺り足で前に躍り出た菊が声を張り上げる。
「じょ、嬢ちゃん! 出番だ!!」
背後でプロテゴを張りながらこちらを伺う商人に、情けないお調子者の旧友の姿を幻視しながら、菊は片手で刀を構えた。微風が彼女の左袖を揺らす。ドラゴンとの戦いで破損した義手は代わりがないままだ。だが、この程度の相手であれば片手で十分。
「……お前たちに恨みはないが、この侍 菊之丞、1度受けた依頼は完遂するのが流儀でね」
示し合わせたかのように一斉に飛びかかってくる
一太刀。
彼女はたった一つの動作を以て、3体もの
気配がすっかりなくなったことを確認し、構えを解いた菊は血溜まりに沈む
「──切り捨て御免」
・
イギリス、ダイヤゴン横丁、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店
イギリスの冬は底冷えする寒さで、この時期になるとめっきり人出が少なくなるのはマグルも魔法族も同じ。防寒着を着込んだとしてもダイヤゴン横丁の店はみな閑古鳥か鳴いているのが常であった。そんな横丁の真ん中辺りに位置する古き良き書店では、寒さを打ち消すような姦しい声が響いていた。
店内の隅に設置された豪勢な一枚板の机には、ひとりの優男がニコニコとしながら差し出される本に羽ペンでサインを書いていた。真っ白な歯を見せつける笑みをかけられた、藤色のドレスを着込んだ夫人は頬を少女のように赤らめながら言い募った。
「あのっ! 応援しています!」
「これはこれは、ありがとうございますマダム! これからの私の活躍にも乞うご期待あれ!」
金のウェーブした髪を軽く後ろで束ねた、青空の瞳を持つ男。やけにキラキラとした男は、古臭い書店にはそぐわないと言ってもいいだろう。スカイブルーの鮮やかなマントを着込んだ男はいかにも高価そうな造りの本のページを1枚捲ってサインをし始めた。インクは特製の品でライラック色。
いかにもキザっぽい筆致で手早く名前を書くと、素早く立ち上がって藤色の夫人の隣に並んだ。すると素早い動きで小柄な魔法使いがカメラを手に飛んできた。
「日刊預言者新聞です! 今話題の小説についてですが、実体験なのでしょうか?」
カメラで並び立つ姿をおさめながら、日刊預言者新聞の記者は質問を投げかけた。夫人は鮮烈なフラッシュに目を瞬かせながらも、頬を染めて台を降りる。
残された男──ギルデロイ・ロックハートは歯を見せるように笑うと、ウインクを一つした。
「もちろんですとも! なんといっても、私は冒険家でね! 闇の魔法生物には含蓄があるのですよ。今回の話で目玉になるのはこの私がドラゴンを──」
ペラペラと口を止めず、話続けるロックハート。彼の手には、一冊の本が燦然と輝いていた。本には大きくロックハートのハンサムな写真と共に、こう刻まれていた。
──『
これは、ある魔法生物の”愛”と”決別”の物語である──
-END-
完走! まだ一章だけど!
ロックハート氏は本を何冊出してると思う?
なんと!7冊!一応構想は練ってるけど書けるかな……書きたいな……(現在2章半ば執筆中)
菊ちゃんのお家事情についても考えてはいるし、ホグワーツ編も書きたいですね
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
また次の章で会いましょう!