Refrain - Welsh Dragon:Ddraig×Ddraig 作:桜咲く日に
暗い暗い暗い。
視界を覆う。
今度は赤い赤い赤い。
視界を埋める。
暗闇に放り出された体に灯がともる。
とても力強い紅だ。
紅蓮の赤だ。
『……紅蓮の煉獄。地獄より辛い俺の煉獄だ』
誰の声? 彼の声。
記憶にあるかと言えば、きっとあるのだろう。
低く、低く、響く声音は恐怖を助長する。
しかし、安堵さえも助長する。
相容れない感情。
矛盾の想い。
『また、共に生きようじゃないか。相棒』
頬に何かが落ちた。
紅が視界を過ぎる。
紅の髪が綺麗に映る。
どこかの記憶から引っ張り出されたものが現れたかのように見えた気がした。
『世界はそう、易々と目的を明かしちゃくれないさ。俺たちの目的はなんなのか、そう簡単に知らせちゃくれないさ』
緑色の双眸が見つめる。
『……だが、俺たちの根幹が変えられるわけじゃない。やがては同じ所を目指すんじゃないか、なあ相棒』
翼が広げられる。
炎が地を走る。駆けた。
姿が火に煽られ、見えてくる。
『俺らはこれから自分そのものを奪わなければいけない。それは仕方のないことさ。なんせ、世界に同じ質の存在が二つ、いていいはずもない。だが、それでも俺たちは俺たちだ。死んだわけじゃない。“共に生きるのさ”』
世界の始点と終点は結ばれている。だから、平行は生きている。
始まりと終わりの結び目がきつく結ばれていて、その過程のみが重なる世界ごとに少し、また少しとズレをもたらしていく。
『終点はいつも終焉と決まっていた。それを知っただろう、相棒? ならば、誰かが終点を変えなければいけないのさ。終点を変えなければどの世界もみんな死ぬ。それは決まりだ』
物語はバッドしか用意されていない。そういう風に世界は決定したのだ。
だから。
だからこそ、任された。
決められた。
選ばれた。
そして、もう一度生を生きろと命じられた。
紅い紅いあれに。
『その心臓、大切にしろよ。龍と獣の死闘は起きるだけで世界を終わらせる。始めさせるな、相棒』
点火された花火のように、燃え上がりを見せた炎。
それは一匹の龍を視界に収めさせた。
『一度、忘れてもお前は相棒だ。ゼロからここまで築こうか。再び』
◆
どのくらい待っただろうか。
眠りから醒めるのをどれくらい待ったのだろうか。
封印されているように、固く閉じられたら瞳はゆっくりと開く。
『……ああ。今回は随分と長い長い眠りだった。寝ている間に宿主が変わった、なんていうことはないといいが』
ひどく体がだるい。
いや、体などはとっくに無くしてはいるが、感覚としての話だろう。
失った体の部位が時々うずくのと同じ様に。
双眸がギラつく。
狙うものを射抜くように濃く、光りを灯す。
『……俺が起きたんだ。つまりは宿主もそれなりに目覚めをきかすころだろうよ』
その推測は遠からず、といった所だろうか。
今、まさにそれに近しい状況、いや、目覚めさせるには必要かもしれない状態にあるのだから。
◆
堕天使。
黒い翼。
光槍。
元、神の駒。
それらははぐれをなし、やがて群をつくり、果ては種族とまで成り上がった。
背いた罰、証として彼らの翼は純白から漆黒へと色を変える。
これは神からの知らせなのかもしれない。欺こうとした、天使として正しく生きようとしなかった者共への印。
正しく、天使との分別を図るための一種の旗だった。
「兵藤くんですよね?」
可憐な少女が話をかける。
兵藤一誠という少年は一瞬、誰にかけられたものかも理解できずに反応が遅れるが、やがて、顔を彼女の方向へと向け、視線と視線を同じにした。
「ああ、ごめん。俺のこと──」
「えっと、こっち来てくれないかな」
少女はいきなり一誠の腕を強く掴むとそのまま歩き出す。
「な、なんだよ、あんた……」
「……いいから黙って来なさい」
少女の顔は一誠には見えない。
先頭をぐんぐんと歩いていく彼女の歩は多少の荒さを孕み、しかし、それでいて優雅さもかねそろえている。
容姿からしても強引なお嬢様。
今の二人を見れば、彼氏を無理やり連れて行こうとする不機嫌な彼女といったところだろうか。
空は茜。
二人の頬を赤く染め上げ、そして、まもなく夜を迎える。
少女は進む。
その表情は確かな確信を得た何かを持っていた。
◆
当たりを引いた。
少女はそう感じていた。
強い、強すぎる神器の匂い。
中身は知らないが、それでも持っていることに疑いの余地はないと判断した。
濃いのだ。匂いが。
とにもかくにも濃い。
それは、近づかなければそんな分かる訳でないのだろう。
でなければ、一誠がここまで一般に混ざり過ごしているなど普通ではない。どこぞに監視はいないものかと探してみても、やはり、ない。
ならばと少女は行動した。
手を触れる。
人は随分と暖かいな、などと戯れ言を感じてしまった。
しかし、それ以上にピリッとくる。
静電気ではない。
神の贈り物。
神器のそれだ。
彼女がこの町にきたのは一誠のこと、そしてもう一つの事柄のこともある。
しかし、彼女が集中すべきは一誠、ただ一人のこと。
彼女は握っていた手をついに離した。
その手には汗が付着し、夕陽による日光でキラキラと光っている。
彼女はそれを気にもとめずに服をさっと撫でて拭い去ると口を開いた。
「いまさらだけど、こんにちは。それとも人はこういうとき今晩、だったかしら」
彼女は顔を半分ほどに地に沈めた太陽をバックに妖艶に笑む。
来ている服装は学生のもの。しかし、顔──表情はそうではない。
大人の艶美。魅力。
そう、まるで天使のような神聖なものを汚したような背徳感を思わせるなんとも言い難い美しさ。
最早、人ではない。
「……なんか怖いな、あんた」
一誠は恐怖を募らせている。
不思議な感覚だった。
手を握られた。
この容姿。
男なら喜んだっていいのだ。
それでも、やはり恐怖が大きい。
しかし、彼女はそれを聞いてより笑む。
嬉しそうに、楽しそうに。
「ええ。怖いでしょ? だってね、あなたを殺すんだもの。怖くなくちゃいけないわ」
うふふ、と口から漏れるそれは死をもたらす呪いにしか聞こえない。
夜が来る。
死を迎えに来る。
このタイミングを待っていたのか、どうか。
それは知る由もない。
だが、彼女は薄暗い空に同調させるように背から何かを出した。
「……は? お、おい。背中からなんか生えてるじゃねえか!」
「あら、不思議? そうね。人からすればとても不思議ね。綺麗でしょう? 美しいでしょう? この羽、冥土土産に一本いかが?」
彼女は翼から一本の羽を抜き取り、手元で遊ばせた。
黒い、黒い翼が双璧をなし、宙を舞う。そのたびに翼から落ちる羽が一誠の周辺へと落ち、一誠はわざわざ一本もらう意味が解らなかった。
「妖怪かよ、お前……ッ!」
歯軋りが響く。
「ふうん、随分と精神が強いのね。殺したくて、殺したくてたまらないのにもったいなく感じてきたわ」
ボンテージ姿の彼女。
その肢体はつまり、エロい。
もう何回か羽ばたけば見えそうなほどにはエロい。
しかし、それでもその殺気を前に、股関を増長するよりも、恐怖の助長のほうがよっぽど早かった。
「……ねえ、あなた、私と来ない? 来れば殺さないであげてもいいのよ。可愛がってあげるわ」
甘い声。
飴玉をころり、ころりと転がしたようなとても甘い声。
味はイチゴミルクといったところか。
彼女は翼をはためかせ、ゆっくり、そっと一誠へと近づく。
そして、その手で一誠の頬を触れた。
優しく撫であげ、耳元にそっと息を吹きかける。
いい匂いがした。
「おねえさんと来ない? ね、イッセーくん」
名前は呪いの言葉。
呪術的なにかがあったのか、一誠の思考は塗り替えられる。
しかし、一誠の目に映る女はひどく何かと重なった。
彼の何か、琴線。トラウマ的ものに触れたのかもしれない。
怒り顔。憤怒。哀しみ。
二種類の感情が上手に表情筋を操り、形をなしてゆく。
「……てめえ、レイナーレか……ッ!」
「……は?」
一誠の口から聞こえた文字。
外人のような、とにかく日本のものではない。その前に、姿が人のものではないが。
「あれ……。今、俺、なんて言って……」
一誠は自身の感情に戸惑いを見せた。知り得ない言葉までも吐いて、涙を一瞬のうちに流し、唇を噛み締め、血を流す。
意味も理解できずに、ただ、数秒前の感情を紐解いていく。
それは彼女が出来たという嬉しさからの下落か、シスターの死を目の当たりにした記憶か。
両方か。
ここは世界。
別の世界。
“まだ”生きている平行の場所。
死にいった平行は終わりを迎えた所で止めたビデオのように時を止め。
やがて、この世界もそこへ行きつくはずなのだ。
まったく、同じ世界などない。
必ず、違う。
レイナーレがここで一誠をすぐ殺害しなかったように、じわりじわりと違いが重なる。
空から降りゆく雪の結晶は、同じものが二つないという。
まったく違いが分からないのに、きっと雪同士ならばまったく違うと言いはるほどに違うはずなのに。
“外”から見ればただの丸く青い星なのだ。どの世界も。
今まで何万何億と、おそらく生き物が考えられる量よりずっと多く、雪の結晶はあった。なのに、全部違う。
同じ戦いは二度とない。
同じ恋も、二度とないのだ。
「……あれ、私、名乗ったかしら。まあいいわ。それよりも、どうするの?」
再び、勧誘。
持っている神器がただの『龍の手』程度ならばどうでもいい。
しかし、もともとは危険視され、ここまで嗅ぎつけた。
そして、触れてわかる。
「お、俺は──」
──さっさと起きろよ、小僧
謎の声。あの声。
──なぜ、貴様ほどに霊格が高いガキが起きていない
その声は恐怖と安堵を増加する。
──“人”と悪魔、そしてドラゴンの質を最初から持っている霊質、見たことがないな
悪魔。
──目の前の女はただの敵だ、そんな下級にこの赤龍帝が頭を下げるなよ
もう、下準備は出来ている、いや、出来ていた、整っていた。
最初から、この時まで。
魔力を目の前で感知する時まで、生命危機を煽る殺気を浴びる日まで。
最初から、神帝は龍帝に託していた。
想いを喰らい、無限を超える。
人の夢とは想いの形。
あまりのエネルギーをようし、世界の均衡を破るのも想い。
なればこそ、無限を寄せ付けず、夢はそれを超える。
ドライグは起きているのか?
混ざり合ったドライグは起きているか?
どこかで前のドライグが言っている。
──己の想い、心臓に夢幻に吸収できるか? “相棒”
世界は、目的を教えず、しかし、二人はそこを目指すはずだ。
「いて……痛えぇえぇぇッ!」
一誠は頭部を激しく抑えこむ。
後に胸に手を当て、強く震える。
「……チッ。私の力に当てられたか。厄介ね。暴走でもされたらたまらない。……まずは致命傷だけ負わせましょう」
レイナーレは一誠から飛び退き、後退した。それと同時に手元に光槍を出現させ、それを数本形成する。
「……ちょーと、痛いけどゴメンねぇ。Mだと助かるわ」
一瞬の投擲。
人間の数倍の力。
それは槍投げのアスリートを軽く凌駕し、当然ながら、ミサイルのようなスピード。
人には見切れない。
だが、一瞬。投擲する前の一瞬。
機械音が公園に響いた。
空は暗闇。
虫が鳴いていた。
◆
『Ddraig Over Boost!!』
視界が鮮やかな緑色に変わる。
美しい宝玉。
染み込みように、深い緑。
その中に龍の瞳が見えたような気さえする。
「…………」
意識は離れている。
一誠の目は、何を映している。
ただ、勢いを留めない槍の光が緑の景色を切り裂きながら向かっている。
それを、見ている。
そして、捕らえている。
『BBoostt!!』
重なり合う機械音。
“手から肩にかけて”嵌められた、赤い腕。
刹那に指先から片口までを覆い尽くしたその腕。
そして、その“両腕”。
『Ddraig Booster Left sceond revolution!!』
片方、左の腕が形を変える。
爪先が大きく、鋭く。
宝玉がより輝きを増し。
“龍”のそれに近づいていく。
目の前まで迫る槍。
音速。
風を裂きながら、血の花を咲かせようとする死の槍。
公園は既に緑とかし、それを破るように駆けるのは槍。
複数の槍が四股を射抜くだろう。
動きを封じ、彼女──レイナーレは一誠を堕天使の巣窟へと持ち帰る。
だが。
おそらく、叶わない話だ。
一誠が一本の槍に指を向けた。
ビー玉ほどの魔力が生まれる。
そして、指を弾いた。
──赤い一撃。
当初、神を凌駕した天の龍。
世界最高神を上回るそれを下に位置させた神格持ちの龍を除く、最高の龍帝。
赤い一撃。
流星の如く、空を刈るそれは、槍を破壊してもまだ足を止めない。
そのまま、通過しながら、公園に張られた結界すらも多大に破壊していく。
そして、一撃により起きた暴風に煽られ残りの槍は一誠に当たることなく、力尽き、地に落ちた。
「な、なんなのよ……。Ddraigってあのドライグなわけ!? いや、まさか……龍の手の亜種程度なら儲けものくらいしか考えないってのに……ッ」
狼狽。
隠すことはできない汗。
彼女は止まらない脇汗を隠すことなく、ただ、女性として見せてはいけない表情をしていた。
「こんなガキに……ッ!」
至高(と、思いこんでる)な彼女は許せない。
なぜ、このような少年やシスターにあのようなものが宿り、自身はただの堕天使なのか。
ただ、理不尽な怒りだった。
「むかつく……ッ!」
彼女は展開についていけていない。
結界が破れていることも、悪魔たちが異変に気がついたことも、理解していない。
『Ddraig Booster Left third revolution!!』
再び、機械音。
さらに、左腕は形を変化させ、より、禍々しく、より忌々しく、三の種から見れば憎らしいほどに近くなっていく。進化、していく。
いや、進化などしていない。
本来の、あったはずの籠手へと“戻っている”だけなのだ。
だが、片口まで覆われていてはどうにも籠手ではないかもしれないが。
体はいまだ、人。
しかし、その心臓は違う。
その心臓から漏れる血は龍の血で。
その心臓は一誠とドライグの想いを喰っている。
その心臓は、心臓と同質ではない肉体に包まれている故に、他者の夢を見ない。
しかし、自身の夢は永遠に喰らえる。
ただ、増加すればいい。
そのための龍帝だ。
『BBoostt!!』
増加、増加、増加。
増えるごとに緑は光り、赤く濃い色を腕に見せる。
「伝承と違う……。なぜ、両手に籠手が……」
怖いのだ。
未知が怖い。
知らないことは怖いはずだ。
そして、意識があるのか、ないのか。わからないコイツが怖い。
狂戦士のような、そんな雰囲気があるわけではないが、理性があるのか判断しかねる相手ほど恐ろしいものはそうない。
意味わかんないからだ。
考えてるのかも、全部わからない。
◆
『起きたか、小僧』
視界を収めるのは紅蓮の炎。
赤い世界。
『──随分と遅刻したわけだが、気分はどうだ』
一誠の目の前にいる巨大。
首が痛いほどに見上げなければわからないそれは、ドラゴン、とでも言うべきそれだ。
『そう怖がるなよ。これでも懐かしさを感じているんだ。以前に出逢ったことのある宿主かもしれないとな』
時を経て、再び、肉体を変えながらも赤い龍を宿した、そんな推測を楽しそうに語る。
『起きるのに時間がかかったのは俺のせいでもあるのだろう。俺自身、目が覚めたのは先刻だ。──なあ、お前、なんだ?』
なんだ?
首を捻る龍は滑稽だ。
しかし、その目は冗談を欲しているわけではない。
ただ、知りたいのだ。これからのために。
『俺の力がバグを起こしている。片腕にしかないはずの籠手が──いや、籠手ではない。腕全てを覆うあれはなんだろうか。まあ、いい。それが両腕にある。そして、左の“部屋”には誰もいない。右には歴代の奴らが鎮座している。それも怨念が薄い。吹けば飛ぶほどに。生前の力さえも戻っているものがある……。おまえ、知らないか』
聞き覚えのない言葉。そして、懐かしく失われた言葉。
声。
知らぬ間に涙が伝う。
『……泣く、か。そうだな……。俺もどこか泣きそうな気分だ。なあ、相棒』
相棒。
「──ドライグ」
ドライグ。
『……やっぱり、俺を知っている。ああ、もちろん覚えているとかではない。心が知っている。お前の魂が俺の名を残している。……そんな感じがしないか? 兵藤、一誠』
盟約。
世界は目的を隠す。
そう、簡単に教えちゃくれない。
なぜなら、終点を終焉としたのは世界だ。
しかし、心は、想いは世界に逆らうのだ。
神器は世界に逆らい、流れの反対をいき、そして力を掴む。
たとえ、世界が記憶を封印したとして。
この絆はとめられるか?
『嬉しい誤算だ。この力。お前の心臓。おかしな事しかない。まるで、何かを成せという啓示のように』
その心臓が何かはわからない。
匂いはする。
それ自体も世界は隠そうとしている。
だが、あればいい。使えれば。
それが何か、知らなくてもいいのだ。知ったところで誰も信じない。
『ただ、いつか意味を知るだろう。なぜ、この力が今、俺たちに必要だったのか。なればこそ、詮索の意味はない。ただ今は、“俺と共に生きようか”、相棒』
笑う。
裂けた口元を歪める。
一誠は彼に近づき、触れた。
ドライグが顔を降ろしてくる。
今はドライグの鼻先を撫でながら、
「俺は兵藤一誠だ。ドライグ」
『ああ、赤龍帝ドライグ。お前の相棒の名だ。──二度と忘れるな』
ここで、ご挨拶を。
こんにちは、今晩は、そしておはようございます。
この落書きSSは、勉強やトレーニングなどの合間……というよりも長風呂な私がお風呂の間暇だなと思い、やらないよりは文章の練習になるかなと、そんな思いでスマホ片手に湯船に浸かりながら書いていくものです。
後はですね、設定云々は突っ込みたいところもあるでしょうが、
おそらく続けられるのであれば文中で説明するでしょう。
原作キャラにもレイナーレと同じく境遇や性格、または(もしかしたら)所属組織の改変をするでしょう。
では、ご縁があればまたお会いしましょう。