Refrain - Welsh Dragon:Ddraig×Ddraig   作:桜咲く日に

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遅れまして、ごめんなさい。


紺碧

「……あんたのせいで、一誠くんのお家に行きそびれた」

 

 空の色合いは朱から紺碧へと色彩を大きく変える。雲さえもが、その空色に操られるように己を変えた。

 ゼノヴィアはそれを眺めながら、空がやや赤から青黒くなるのはどうにも不思議だと感じていた。

 どうしてだろうか。

 学は自分なりに、それこそ信徒として必要とされる範囲をこなしてきたはずだというのに、こういう時、無性に寂しさを感じる。きっと、先ほどまで一般的な『学校』に足を運んでいたから、おかしな感傷がひょっこり顔を出した。…そう思う。

 “もし”の自分をいつの間にか脳裏に浮かべている。

 

「拗ねるのも、愚痴るのもひつこい奴だな。お前は」

 

ゼノヴィアはにべもなく返す。

 

「だってだって。別に執着まではしないけれど、でも、もう少しくらいさ」

 

 イリナは口先をすぼめ、不満を漏らした。

 余程イリナはゼノヴィアが無理やり連れ出したことが気に入らないらしい。

 しかし、それも仕方がないのかもしれなかった。青春盛りの年齢に、好きな相手を前にしたらそうもなろう。ましてや数年跨いでの再会。むしろ何もなければそれは薄情とすら思える。

 後は付け加えるなら──これまたひつこいくらいに、殴られた頭を撫でているのもなんとなくわざとらしい。

 

「それよりもコカビエルに対しての手段を練らねばならない。奴は一級品だ」

「でもさ、あんたも気付いてるとは思うけど、やっぱりこの町にコカビエルが来たのって偶然じゃないと思うの」

「分かっている。この町には魔王の親族が二人。そして、先の戦争でやり合ったであろう二匹のうちの一匹がいるからな」

 

 赤龍帝──という伝説がこの町にはいる。かつて世界を相手に蹂躙の牙を剥こうとした龍と同等とは言えないかもしれないが、確かにいるのだ。

 そして。

 魔王の親族が二人。悪魔の根城がひとつ。部下の堕天使が好き勝手にした教会。

 むしろ異形が集まらない方がおかしいのだ。こういった因縁が強い地域に。

 

「……聖剣と伝説の堕天使。よくよく考えなくても、勝率は低いな」

「でしょーね。でも、大きな成果を上げられるのなら死んでなんぼの仕事でしょ。……ゼノヴィアは天然物だし、とても珍しいけど、聖剣の因子さえあれば、エクスカリバーまでは使用することができる。適合するかの問題はあるけど──数がいるからそこまで問題じゃない。つまりは私たち戦士の換えなんて──」

 

 そこでゼノヴィアが言葉を遮るようにイリナの唇へと指を当てた。

 

「あまり言うなよ、やる気がなくなる」 

 

 イリナの表情に憂いが去来する。そして、訥々と話し始めた。

 

「ごみん……。でもだって、私たち……多分、死ぬからこれで。私たち、S級のはぐれさえ手間取るのに──いつも読んでる聖書に出てくる“登場人物”が相手なわけじゃん。……怖く思うのはおかしくない」

「だから、赤龍帝にあんなにも執着を見せたのか」

 

 死んだら、もう逢えないから。

 気を抜けば震える。死を考えれば、吐きそうになる。今までは希望的観測を含めて、どうにかなると信じてやってこれた。しかし、今回は希望を観測するに至らず、明確に意識する血の匂いと今まで見てきた仲間の死に己の未来を重ねてしまう。

 コカビエルは総督であるところのアザゼルとは違い、好戦的であるという。戦闘するとなれば、見逃すことはない。

 そして、我らの神をも深い眠りに至らしめるほどに凶悪な龍二匹を敵にして死んでいないのだ。

 奴の性格からすれば間違いなく前線で槍を振るったに違いないというのに。

 

「……大丈夫だ。主が加護を下さるよ」

「……主、か」

 

 二人は神に逢ったことはなかった。当然だった。神は生きていない。しかし、聖書には残り、こう記されている。

 

『──神は、戦の傷を癒すために眠りについた。主の夢見はいつまでも民を映し、そして眠りながら我らに加護をお与えになる』

 

 実際のところ、どこまで信徒として信じていけばいいのか、果たして正解が存在するのかは分からなかった。けれども、しかし無条件で信じることこそ、真の信徒だと誰かが言うのであれば、それこそ確かに真実なような気がしないでもない。ただ、思うことひとつ。

 私たち、人形みたいだわ──。

 

 

 一騒動が起きたのは、翌日の旧校内でのことであり、また確かな殺意が込められていた言葉が発端となった。それを見ていた悪魔たちの数人は、戸惑いを隠すことなく挙措を失っている。

 

「だから言っているんだっ! 僕らが単独でコカビエルを迎え撃つ必要があると!」

 

 声高な発言は、槍のように鋭く鼓膜に刺さるような感覚がする。木場祐人が叫んでいた。

 アーシアが一誠の手を強く握りしめる。己の弱さを分散するようなその仕草に、どこかさらに苛きを強めたのは祐人だった。

 リアスが深く瞼を閉じて、言葉を脳内で整理する。やがて、祐人の感情の波が平坦に近付くまで待ってから、ようやっと口を開いた。

 

「あなたは、物言いがそこまで雑だったからしら、祐人」

 

 氷柱のような言の弾は、しかし、激情を誘うだけである。けれども、リアスが開いた双眸の奥にある憐憫や慰め、そして大切に想うそれが見え隠れしているのを、騎士たる彼は見逃すことなどできなかった。だからゆえに、ただ唇を噛むだけである。口内で切れた皮膚から滲む血の味に、嫌な記憶ばかりが検索されるようにどこかで映像化される。

 斜視してくる祐人へ、リアスは、立て板に水といった具合に言葉を並び立てた。

 

「エクソシストと、水面下での交流──コカビエルの迎撃共闘なら、まだいいでしょう。向こうも、結局は死なれて剣を奪われるのを望むはずもないのだから。

 ただ派遣でき、なおかつ戦力としてコカビエルに対応できる可能性のあるものが今のところ、彼女たちしかいなかった。

 だからこそ、こちらが裏切りや何か金品利益を要求しないのであれば、天界も願ったり叶ったりではあるでしょうね。納得しないものもいるでしょうけれど。

 でもね──」

 

 少し、とめる。

 祐人を睨んだ。

 

「ここで、身勝手な行動をして、それでどうなるの? 作戦に闖入した悪魔として狙われて、誰かが死んだら責任は取れるの? あなたの命と引き換えにでもする? できないでしょう?

 私たちが向こうを一撃に葬るのは、難しいでしょう。けれど、エクソシストの持つエクスカリバーは──言いたくはないけれどアーシアのような防御を持たない悪魔には、必殺なの。

 最悪、コカビエルに加えて、エクスカリバー所有者ふたりとの戦闘になるのよ。──一歩間違えば全滅するわ」

 

 ──あなたは、それが分からないほどに無知ではないでしょう?

 言外に込められた言葉を構築し、想像する。

 言いたいことはよく理解していた。けれども、ただどこかで卑劣なことを考えてしまう。

 ──やっぱり、心の底からの悪魔には、元人間の感情が残ったままである僕の、この感情の蠢きまでは理解してもらえないんだ。

 悪魔は、本来徹底した合理的思考を携え存在している生き物であり、人間の言う感情的側面を重視していない。あくまでも効率を考え、それに基づいた生き方を推奨しているからだ。

 ゆえに、合理性からはずれる感情の流れや一時の波に揺らされるようなことは基本的に、“ない”。人間と多大に関わるようになってからは、多角的な体面性や生き方を学んではいるだろうが、しかし祐人は元天界側の存在であった。

 悪魔になってからは天界やエクソシストを睥睨するような心持ちでいるというのに、悪魔の合理性を垣間見ると、悪意になる前の自分のものの見方が案外ひょっこりと顔を出してしまう。

 なんとも、ずるい日和見のような男だと、自分でも思う。

 だけれども、仲間を殺されたことのないこの人たちには、どうやってもこの感情を理解できないと、考えてしまうのだ。

 嫌で嫌で嫌で。そうでいながら、肯定したくてたまらない。

 エクスカリバーを破壊するということは、エクソシストに憎しみを持つことは、悪魔的には間違いではない。

 だから、皆が例え危険な目に遭う可能性を考慮しても、肯定していた。そして、眷属のみで、コカビエルという闖入者を倒すことを。

 膠着状態が続く。祐人は、諦めの表情で言った。

 

「だったら眷──」

「抜けさせないわよ」

 

 読まれ、返される言葉にしばし呆ける。

 

「冷静な見方をしなさい。下級であるあなたが、最上級の堕天使、およびその配下──もいるでしょう、それとエクソシストふたり。どうにかなるというのなら、その自信過剰に絶句するわよ」

 

 祐人は喫驚の表情を見せた。

 誰だ──この人。

 こんなにも冷たい目線で射抜かれるなんて、誰々なんだ。

 本当に部長なのか。

 

「じゃあ……どうしたらっ……」

 

 泣きそうになりながら、祐人は頬に力を入れ、表情を崩さないよう努力した。

 リアスの相好は一変する。

 

「ずっと一緒にいなさいと、昔に話したでしょう? 離れることは許さないわ。だから、現実的に納得できる話を提示して」

 

 私だって、散々に婚約の件で迷惑をかけた。だから、同じ分だけ迷惑をかけられても全然いいよ。けれども、祐人の言う言葉は逸脱し過ぎていて、政治的にも──平民ならまだしも、魔王の妹が絡んだとなれば、それは大事件になりかねないのだから、最低限話のいくものを出してほしい。

 そう優しく、祐人の頭を撫でながらに言った。

 ずるい優しさだと思った。

 絶対に反対のできない優しさだと、そう感じた。

 こういった諭し方は反駁の余地がない。祐人は口を開く。

 

「……あのエクソシストと、話をさせては貰えませんか?」




久々になってしまいました。ごめんなさい。
もう少し早く投稿します。
自分としては、一万字程度書いてから投稿したいのですが、
しかし一万字ともなると、早々にできあがらなく、
また、三千から五千ほどであれば、ちょこちょこ投稿は早くなるのでしょう。
ですから、これからはその程度でも投稿して不満がないのであれば、
そうしたいと考えています。

もう一度、遅れましてごめんなさい。
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