Refrain - Welsh Dragon:Ddraig×Ddraig   作:桜咲く日に

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 結局、同じところを行くのはなぜだろう。
 
 きっと、混ざった一人の想いが強すぎた。


再度、……再度。

 心が浮遊していた。  

 例えるなら、雲の上に寝転がっているみたいに、ふわふわと浮かんでいるように、体が軽い。

 そこから眺める景色は憎いものが多いが、それでも目を離すことは出来ない。

 夢とはそういうものだ。

 

 遠ざかる意識は、消えない。

 変な感覚だった。

 遠くなっていくのに、いつまでも見えている景色は、色褪せない。

 それでいて、とても残酷なものだった。

 色褪せないからそこ、嫌だ。

 どうせならば、消えてほしい夢。

 しかし、残しておかなければいけないと、誰かがすぐ隣でつぶやいていた。

 横は覗けない。首が曲がらない。目が追えない。

 全部、全部。夢のせいだ。

 

 しかし、目が覚めれば全てが消える。こういうときだけ、本当に夢らしい。涙を流していても、内容は忘れている。

 

 とても、夢らしい。

 

 そんな日が、続いていた。

 

 

 

 

 重なる笑顔にはっとする。

 どこか別の位置へと送っていた意識を心へと戻す。

 こういう時は本当に、現実との境目が難しいなと一誠は思う。

 時々、分からない。

 今が夢なのか、現実なのか。

 実際に夢のような、おかしなファンタジーが自分を迎えているのだから仕方がない。

 しかし、そういうのとはまた違う。

 比喩的なものでなく、感覚として、分からないときがある。

 

 一誠は妄想したことがあった。

 

 この世界と夢の向こうの世界。

 睡眠という扉を介して、向こうにも同じように世界、現実があるのではないかと。

 夢のことは覚えていない。

 だから、向こうの世界に行っている間は、この世界のことも夢と思い、覚えていないのではないか。

 そんな妄想をしたことがある。

 

 睡眠の6~7時間は夢の世界で、こちらと同じ起床している時間ぶんで。

 いわゆる時間の流れが違うのではないか、などとかなりおかしな妄想をしていた。

 

 ただ──夢であってほしいと切実に願う。

 

 起きる度、吐きそうになる。

 振られたような、殴られたような。昔見た映画のようで、ヒロインが奪われる、殺される、取られる。

 そんな時と少しだけ似ているような気がした。

 

 異常だと思っていた。

 

 たかが夢のくせに──現実に干渉しすぎだと思った。

 体調にすら影響する夢など夢の範囲であっていいはずもない。

 どこか、精神的に病んでいるのだと決めつけ、病院で薬を処方して貰うこともあった。

 

 おかしな人間だと思った。

 

 しかし、その気持ち悪さも夜には消える。そして、再び夢を見ては、忘れながらも──。

 

 夢を何度も何度も忘れた。

 しかし、自分のどこかにある意識が度々見せようとしてくる。

 

 そして、何度も何度も消された。

 それはもう、朝は吐きそうであったのに、突然消える。

 そして、どうしてここまで苦しかったのか理解出来ない。それほどにそのときの感覚はなくなる。

 本当におかしな感覚だった。

 

──そう。まるで夢を、喰われているかのように。

 

 

「イッセー?」

 

 優しい彼女の瞳が彼を覗く。

 下の位置から、一誠を上目で見るように。

 

「あ、ああ。すいません。ボーとしちゃって」

 

 込み上げる感情。

 知らない。

 覚えのない、感情。

 

 失礼だと思った。

 初対面同然の彼女に対して抱くにはどこか重々しい。

 しかし、体が勝手に動いてしまう。

 

 抱きしめたい──そう、思ってしまう。

 

 誰だ。誰のせいで、こんなことをする。

 やはり、知らなかった。

   

 意志とは違い、ただ触れたいと、指先が動く。動いた。

 

 一誠の手がリアスの頬へと伸びる。

 きょとんとするリアスに、寂しそうな瞳と抗いの心を映した表情の一誠が。

 その男らしいゴツゴツとした右腕がリアスへ伸びようとして──、

 

「君、何してる」

 

 言葉と共に剣が飛んできた。

 一誠の右腕に刺さる位置。剣が飛んできた。

 正確過ぎる投擲。

 銀色を光らせる刀剣は、どこか悪魔退治にでも使われそうで。

 一誠に向けて、殺意を乗せて。

 

 剣は飛んできた。

 

『Boost!!』

 

 右腕に紅蓮の炎が盛る。

 一度に部室を赤く染め上げ、音声と共に緑光を充満させた。

 

 籠手で弾かれた剣は粒子のように宙へ消えゆく。

 

「──っ」

 

 息をのむ。

 殺意は二度目だが、そう慣れない。だが、心臓に高鳴りはなかった。おかしい心臓に、変わりなどなかった。

 

 扉はいつの間にか開いている。

 音なく、開閉され、侵入してきたものがいる。  

 見えたのは、金の髪色だった。

 サラリと流れるような質感に、特徴的な涙ホクロ。

 目元は美しく、口元は無表情に結ばれていた。

 その彼が口を開く。

 

「──この気、やはりドラゴンか」

 

 その青年は口元に歪みを見せた。

 右手に光の粒子が集い、形を成していく。

 夜をより濃く、黒く染める。

 

「ちょうどいい。この剣、主の騎士としてその不躾者に捧げよう」

 

 黒い刀身に、赤い線が渦を巻いていた。毒々しい。

 彼はその剣を一誠へと向ける。

 

「祐人…!? どうしたのよ!?」

 

 リアスが軽い叫びをあげた。

 朱乃は何かを悟ったような顔をした。お菓子を非難させ頬張り続けているとはいえ、小猫も睨みながら訝しげな瞳を向けている。

 

「龍の血の匂いがしたからね。いや、まさかだとは思ったけれど。──ドラゴンは問わず殺さねばならない」

 

 憎い。

 ただ憎い。

 それだけを映す眼光は、鋭い。

 剣眼とでも言おうか。

 見るだけで、刺そうとする彼の目は殺気のみで作られていると言っても信じてしまう。

 

 強烈な意思だった。 

 

『──相棒。それを今喰らうなよ? あれは龍殺しの力がある。大した力もないが、人の肉体ではな』

 

 ドライグが一誠にのみ聞こえるよう、口にした。

 この会話もどこか慣れたものだと一誠は思う。

 そこに違和感など、ない。最初から。

 

「祐人! その剣は使ってはダメだって言ったじゃない! あなたにかすりでもしたらどうするのよ!」

「部長。自身の剣に裂かれるならそれは、騎士として消えるべきです」

「それにイッセーはお客よ! よしなさい!」

 

 リアスの制止。

 しかし、祐人はそれを一瞥するが、どうにも納得などしてはいない。

 ただ──彼がその剣で身を汚した場合、どうしてそこまで危険なのか。一誠は現時点では図れなかった。

 彼は言葉を吐いた。

 

「ドラゴンはね──世界の力なんかじゃない。戦、悪意を呼ぶ笛だ。いつの世も、龍は殺されてきた。わかるかい? 龍は、人を苦しめる。意志でなくとも、利用されたとしても。その強い因子は──人を壊したんだ」

 

 

 まるでそれを見てきたかのように語る。呟く。

 更に訴える。

 あらゆる伝達の意識を持って、当人は一誠へ届けた。

 龍が憎い。

 

「君のことは知らないよ。同じ学校ということくらいしか。それでも──部長に龍を宿す手で触るんじゃない」

 

 言い切る。

 そこまで、言い切る。

 

 彼はそこまで言った後、剣を消した。まるで、意識が戻った後のように、ハッとしていた。

 そして、腰を曲げる。

 

「……申し訳ありません、部長。多少興奮してしまいました。彼に非もないのは理解していますが──抑えられずすいませんでした」 

 

 恥を込めた謝罪だった。  

 後悔ともいう。

 一時の感情に振り回されたことを真に悔いていた。

 一誠は、先ほどまで憎々しく口を開いていた祐人の切り替えに驚いた。 

 

「それを言うのはイッセーによ」

 

 リアスが咎めるようにそう口にする。祐人は、渋い顔をしながらも一誠に向き直り、視線を合わせた。

 

「すまなかったね。……神器関係は意識をしないように心がけてはいたんだ。人は選べない。しかし、あまりにも龍気が強くて……ごめん、どうかしてたよ。同級生を斬ろうとするなんて」

 

 頭を下げた。

 どうしたらこのような意識の切り替えが出来るのだろうか。あまりに激しい。痛々しく、嘆きの意志。

 よく止められたと、そう誉めてしまいそうなほどに。

 激情。  

 

 ただ──、祐人はそこで一旦言葉を切り、再び一誠を睨み、見据えた。

 

「一応聞くけど──君は、人間、でいいのかい?」

 

 たった、一行。それだけを問う。

 しかし、それに意味はどれだけ乗っているのだろう。

 ずしりと重圧のある言葉に、一誠は言霊というものを僅かばかり信じた。

 よく今までバレなかったな、とでも言いたげな表情。

 一誠は返答した。

 

「どういう意味なんだ?」

「正直──人の気配より、龍の気配が濃い。神器がある以上、人であると信じたいけれど、神器は移植が可能だ。年を重ねれば人に化けることも出来ると聞くし、君は──」

 

 リアスが口を開こうとした。

 止めさせようと思ったのだろう。

 しかし、それより早く、部室に声を響かせた者がいる。

 

 それは、帝王の令だった。

 

『おい、小悪魔。あまり、調子に乗り、しこくするなよ』

 

 嘲笑のこもった声音。それでいて、ものをいわせぬ圧倒感。

 部活の名の通り、貴様など小悪魔だ。ふざけた調子で、そう言う。

 しかし、龍のふざけは相手を食らう前の遊びだ。猫がネズミを取るときのように。

 

「イッセー……今のは」

 

 リアスが手と手を握り締めながら、恐る恐るといった様子で聞いてくる。

 

──窓を震わせたそれ。

 体を否応なく縛り上げ、聞くものの思考をどこか抗いがたいなにかに変更させる言の力。

 まさしく、帝王の令だった。

 

 祐人の額に汗が浮かんだ。

 朱乃の笑顔が消える。

 小猫が菓子を食うのをやめた。

 

『Boost!!』

 

 左腕にも右腕同様の炎が駆けた。

 包み込むそれは、やがて緑光を発し、形態を露わにする。

 一誠の両腕を覆う、紅蓮の帝王。

 その、腕。

 

『悪魔と会話をするなど“生前の戦争”以来だな。リアス・グレモリー』

 

 天から見下ろす龍の瞳は、上級、下級などと定めることもしない。どれも変わらず、ただ、悪魔である。

 

「……もしかして。いや、でも……赤い……、でも両手に籠手では──」

 

 リアスが自身の知識を走馬灯のように素早く逡巡させた。

 その中に、両手の籠手は資料にない。肩口までを覆うものもない。

 つまり、知らない。

 

『赤龍帝ドライグ。名前くらい聞いたことがあるはずだ』

 

 部内に電撃が走り抜けた。

 唇を震わせている。

 

 戦慄した。

 この世界に置いて、ドライグの名は大きすぎる。それこそ、見つけ次第、宿主は処刑されたほうがいいとまで言われるほどに。

 

 鼓動を早くさせる。

 

「……赤龍帝?」

「……リアス、これは眷属どうこうなどという軽いものではありませんわ。報告義務が起きます」

 

 リアスの呆けた声が部室に木霊した。朱乃のが彼女の耳元で囁き、深刻そうな顔をする。

 

「……魔王を殺し、神を瀕死にしたところで再び喧嘩を始め──共に相死にした最強の一角。将棋で言えばきっと飛車角の……角」

 

 小猫がそこでひさびさに口を開く。今は飴を舐めていた。

 しかし、その説明からもわかるように、やがて死にかけた神が最期に行った業が、二匹の封印でもある。

 

 ただ、神が死んだとは、伝えられていない。

 

「……なぜ、赤い龍帝が」

 

 祐人から漏れた言葉。

 途方もない。

 力を肉体の許す限り、永遠に増加する化物が目の前にいた。

 彼は、自分がバカだと思った。

 

 桁が違った。

 龍が憎いからと、簡単に手を出していいような存在ではない。

 世界中の神、そのヒエラルキーの頂上に構えていた神を超えるとされた龍の帝王。

 

 神格持ちの龍でしか、相手にはならず。

 三種の軍すらも、何億という兵士を引き連れた軍すらも止められなかった二匹の片割れ。

 触れてはいけない。

 

 書物でしか、見たことのない伝説の龍が言葉を発し、

 

 籠手からこちらを凝視しているのが分かる。

 

「……ドライグ。一つ、聞いてもいい?」

『なんだ、娘』

 

 リアスは息をのんだ。

 兄より、上の存在はいないと信じていた。

 そう、教わってきた。

 

 周囲にも緊張が走る。

 

「い、ん。ごほん。イッセーは……あなたの力に呑まれない?」

 

 聞きたいこと。それは彼の安否。

 平気なのか。

 生きることに支障はないか。

 不安だった。

 

 不思議と気をかけてしまう。

 

 何故だろう。

 世話を焼きたい。

 

『ああ、問題などないな。むしろ──俺はこいつを死なせない』

 

 リアスは見たような気がした。

 籠手越しにではない。

 一誠の背後に首を持ち上げ、双眸で射抜く龍の影が見えたような気がした。

 

「……イッセー。よく聞きなさい」

「は、はい。なんですか?」

 

 リアスは一誠の肩を強く、両側から掴んだ。

 そして、顔を近づけ、視線の位置を同じくする。

 睫毛さえ、数えられるほどに距離は近い。

 

「あなたの中にいるのは普通じゃない。世界を滅ぼせるほどに暴れまわったドラゴンよ。意志だけはしっかりしなさい。忘れないで。あなたが手綱を握るの。離しちゃダメよ。いい? なにかあったら言いなさい」

 

 冗談などは微塵もなかった。

 ちょっと前までの面倒臭そうな彼女ではない。

 一誠にそのような危険物を宿したような意識はない。

 それでも、外から見れば、それはやはり危険であり、暴走すれば容易く国が消える。

 もはや、彼一人の責任ではない。

 知ってしまった。

 だから、

 

「……ありがとうございます」

 

 愛しく感じる、想い。

 どこの、世界であっても、彼女の根幹は変わらない。

 どこまでもお姉さんで、優しい。

 

 優しい、人だった。

 

「お願いがあります」

 

 離れたくない。

 

 わかんない。どうして、こんな思いが湧き出るのかを教えてくれないか。

 

「先輩の眷属に俺を加えることって出来ますか? 悪魔へ人が仲間に入る方法はありますか?」

 

 どこまでも、抑えの効かない魔法にかかったように、一誠は、再び彼女のもとへ。

 

──リアスの所へ。




 風呂でのぼせてしまいました。
 というわけで、ここまでで。   
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