Refrain - Welsh Dragon:Ddraig×Ddraig   作:桜咲く日に

6 / 20
 愛が入り込んでくる。
 惹かれていく。

 これは、本当に自身の気持ちなのだろうか。
 しかし、とめる気もなく、術もない。

 ただ、傍へ。


愛しき愚王様

 眠気がする。

 頬を撫でる風は、窓からそよそよと彼を包んだ。

 どこからか、桜の花びらが舞い込んだ。綺麗な桃色を葉に映して、彼の顔横へと舞い込んだ。

 一誠はそれを半分開けた瞳でゆっくりと見やる。

 ベッドに横たわる布団の匂いは少しだけ、太陽の香りがした。

 母が干してくれたのだろうか。

 どこか、母さんの香水のような匂いもする。

 それは、とても落ち着く、好きな匂いだった。

 

 いい気持ちだ。

 

 体が解されていくように、心が軽くなる。波を打つ。

 たった一日で起きた怪奇な現実にどこか夢心地のまま瞼は視線に蓋をした。

 全部──夢、だったのだろうか。

 睡魔に犯され、働かない頭をどうにかして廻らせる。  

 寝返りをうちながら、この日を思い出す。

 

 今日こそ、いい夢を。

 人として最後に、よき夢を下さい。

 知らない誰かに、そう伝えた。

 辛いのをもっと共有してあげれなくてごめんね、と謝りを入れてしまう。同情など入らない、なんて突き返されたらどうしようかと彼は少し笑んだ。

 ただ、幸せであってほしい。

 人が目指す先は幸せであって、ほしいと思う。

 

 だからどうか、最後の人夢を──。

 

『──おやすみ』

 

 君が今日は護ってくれる。

 互いに目が覚めて、そしたら、君がいた。

 護ってほしい。

 弱い人の子をどうか今日だけ護って。そして、明日から共に生きよう。

 彼は、ぐちゃぐちゃだ。

 

 想いを整理できない。

 リアスへの想いを仕舞えない。

 それは、“どの”リアスへだっけと、一誠は訳の分からないことを頭に浮かべた。そして、訳の分からないままに夢を見る。 

 

 喰われてもきっと残るような、暖かな夢だった。

 

 誰かの幸せを夢に見る。 

 たまには別の世界に行けたらと思う。夢の扉の先の世界へ。

 

 この夢は、“終わり”を迎えない。

 

 

 

 どこにでもいる。

 小さな悪意は、どこにでもいる。

 いつの時も、人を拐かす。

 ただ、ただ人へこっちこい、こっちこいと手を招く。

 怖い。

 しかし、甘いのだ。

 その甘言こそが己を救うだろう。麻薬のように今だけは、心をすくい上げ、救うだろう。

 どうか、惑わされないようにしてほしい。

 

 神様はいないけれど、信じてほしい。その信じる想いだけは、胸へ留めて、生きていく。

 

 そうしなければ──、

 

「さあ、アーシア」

「はい、レイナーレお姉さま」

 

 連れてかれる。

 持って行かれる。

 あの世へ送られる。

 

「人は嫌でしょう。天使様も嫌でしょう。神様も嫌いでしょう。──それでいいのよ、あなたは。ひたすらに呪うの。恨むの。悔しいよね? 辛いよね? 正しい。それは、きっと正しい。生きながら呪いなさい。死んでからも呪いなさい。きっとそれが人として正しいの」

「はい、レイナーレお姉さま。私は裏切った全てを呪います。壊します。ただ、憎いから」

 

 真の悪意の魔物を心に持つものは、どれも等しく人を連れて行く怖い、怖いお化けである。

 

 

 

 

 桜の木の下で、空を眺めていた。

 舞いゆく花びらを、手を皿にしてみれば受け止められる。

 落ち行くそれらは、ゆっくりと。本当にゆっくりとのんびりしながら地へたどり着く。

 この時期に桃色をつけるこの木々はどんな偶然を世界から戴いたのだろう。

 雲は、動いていないように見えて、片目を瞑り、指で雲を掴んでみれば、数秒後には手から離れていた。

 公園には、小さな子供たちが楽しげにボールを蹴っている。

 その声をBGMに、いつの間にか瞳は光を瞼越しに映していた。

 暖かな春の日。春麗らかな今日の太陽光は、優しい色をしている。

 平和だった。

 

 頭の意識が半分ほど、夢の中へと入りゆくところに、駆ける足の音が聞こえる。

 女性らしい靴の音が砂を踏む音と重なって、近付いてくる。

 

 ああ、眠い。

 

「イッセー、待った?」

「いや、今来たところ」

 

 かつて、初めてこのセリフを吐いた後に、気づけば自分は悪魔になっていた。

 笑えない話が、今は笑える話へと変わっている。人は天使にも悪魔にもなることができる。

 そんな思いを過ぎらせながら、再びもう一度。

 

「今、来たところなんだ」

「ふふ、はいはい。わかったわ。言いたいのね、じゃあ私もつき合うわ。──良かった、待たせたかと思った」

「なんとなく定番だ」

「そうね。人間では定番ね」

「悪魔なら?」

「……さあ?」

 

 再び、顔を合わせて噴き出す。

 おかしなやりとりは、栄養になる。心を豊かにさせる。

 命の季節。

 

「久しぶりね、こうして二人きりになるの」

「そうかな、いや、そうだね。いつもアーシアや朱乃さんがいるし、ゼノヴィアもいるから」

「──ねえ、イッセー。私たちは恋人なのよ。もう少し、二人でいたいわ」

「そう、だね。──リアス」

 

 約束よ。

 笑いながら彼女は言う。

 とても、幸せそうな顔をして、それを言う。

 

 映画を見ている。

 一誠は、どこかのラブシーンを観賞している。

 遠いどこかの星で、失われた愛を見せられていた。

 

──なんだ、幸せな夢なんかないじゃないか。

 

 幸せな夢なんかない。

 どこまでも幸せを映している映画は、そこで途切れないのだろう。

 きっと、夢から醒めることによってのみ、切れるのだから。

 しかし、見続ければ。

 

 見てしまえばきっと。

 

 悲哀のどこかへ彼を連れて行く。

 結末を知り得る映画は、安心することもある。

 しかし、これは真逆を行った。

 知れば知るほどに、見れば見るほどに。

 彼女が幸せを体現するばかりに、かの血の涙は美しく映画を飾るのだろう。

 

 悲しく、泣かせるのだろうか。

 

 ここから、書き直すことは出来ないのだろうか。

 何故、この映画は、今までの夢に至るまでのひとつのシーンだと分かるのだろう。

 

 知りたくないのに。

 

 どうせならば、夢なんか見たくない。見る前に喰われてしまえばいいのだ。

 

 だが──、

 夢からは目を離せない。

 夢とは、そういうものだ。

 

「好きよ、イッセー」

 

 あの人と同じ容姿で、その名前を呼ばないでほしい。どうか、お願いだ。

 

 重ねてしまう。

 彼女が死ぬところまでも重ねてしまうから。

 だからどうか──、

 もう、夢を見せないで。

 

 お願いだ。

 

 “自分”。

 

 俺まで、その想いに巻き込むな。

 

 

 

 

 我、目覚めるは──

 覇の理を神より奪いし、二天龍なり──

 無限を嗤い、夢幻を憂う──

 我、赤き龍の覇王となりて──

 汝を紅蓮の煉獄に沈めよう──

 

 神を殺す。魔王を殺した。  

 覇の理などとっくに奪い去っている。貴様の特権などではない。

 

 貴様を死にやったのは我らである。

 

 とっくに覇王などなっている。

 俺より、下の者が神を語るな。

 

 力こそ、神だと誰かが呟いていた。ならば──、

 神とは二匹しかいない。  

 

 俺は──、この宿主と共に。

 

 いつか、神に届かせよう。

 

 世界の終わりを消し去ろう。なあ、相棒。久しぶりだな、相棒。やっと会えたな、相棒。起きたな、相棒。起きているぞ、相棒。

 

 俺は忘れている。忘れながら──前の俺の意思を、今、この世界の俺と混ざり合った自身へ必ず渡す。

 

 結局、俺たちは同じ所を目指すんじゃないか。なあ、相棒。

 

 世界に同じ質の存在は認められない。だからこそ、俺たちは、混ざり合う。しかし、忘れるな。

 

 “共に”生きているぞ、相棒。

 

 

 

 

『──初めての朝だな。人の言葉で何といったか……ああ、そうだ。今晩は、相棒』

 

 体がぶるりと震えた。

 何故なのか、原因を探る。

 一誠はうつ伏せに寝ていた自身の体をそっと動かした。

 桜の花弁が数枚、床を飾っている。

 ああ、窓が開いている。

 

 一誠は体を起こし、窓を閉めた。

 そのまま、大きな背伸びをして、体を左右へ捻る。

 小気味のいい音が室内へと響き、やっと返答する。

 

「おはよう、なんだけど」

 

 どうでもいい会話を人と龍が交わす。鏡を見てみれば、目元が少し赤かった。

 また、夢を見ていたのだろうか。

 時々起こる夢世界は、彼の心を濡らした。

 ただ、違うことがひとつだけある。

 

 気持ち悪くなかった。

 吐かない。

 

 それだけでもツキがあると思えば良かった。日々、薬を飲むのは勘弁して貰いたいと一誠は思う。

 

 そして、若干の鳥肌。

 怖いんだ。

 

 覚悟を決めたのは昨夜のはずだった。悪魔という種族へ仲間入りするのは本日のはずである。

 

 ただ──人を辞めるのか。

 それだけで、どうにも怖かった。

 前日まではやる気しかなかったマラソン大会が、当日を迎えると緊張でどうにもならなくなる時のように──ひたすら、怖い。

 

 まるで、どこか遠い世界へ連れて行かれるような気がした。

 

 このまま、時間が止まり、もう少し考える時が欲しくなる。

 

 彼女の傍へ行きたい。

 

 しかし。

 

 行くのが怖い。

 

 何故、悪魔なんだろうか。

 自身と彼女が普通の学生であったならば、この運命は変えられたのか。

 

──いや、伸ばしても無駄だ。その女がどうではない。

 みな、死ぬぞ。

 

 君は、お前は誰なのか。

 名前はなんなのか。

 

『相棒、お前の母君が呼んでいる。行け──お前が文字通り変わる日だ。人としてのその命、その顔。……よく、見せておけ』

 

 わからないことは、やはり、わからない。

 今はその扉をでて、母の朝食を脳が満腹と止めるまで食べておこう。

 おそらくは変わらない。

 普通に生活を送る日々にそこまでの変化はないのだろう。

 

──ただ。産んでくれたことに感謝し、その体を変えることを許して下さい。

 

 そう一誠は思う。ひたすらに思った。

 

 ただ、この動悸はおそらく止められない。

 

 かけられたら呪いの魔法は解けない。

 あの、名前を呼ばれた時から、どうにもかかってしまったのだ。

 

『イッセー』

 

 名前には呪いがある。呪術的な何かがきっとある。

 

 一誠にとっての彼女の言葉は──とても苦しく綺麗な呪いだった。

 

 

 

 

 赤き龍が世界にはいたという。

 白き龍も世界にいたという。

 

 双眸を光らせる彼らは、獰猛な口元をひどく歪ませ、牙をむく。

 

「それらの龍は、恐ろしいドラゴンでした。それはそれは、恐ろしかったのです。しかし、魔王様は言いました。かのような、世界を滅ぼす龍をほっとくわけにはいかない。魔王様は悪魔たちに呼びかけ、退治に乗り出します。やがて、兵は揃い──」

 

 彼女は思い出している。

 魔法陣を紅に展開させ、兵士の駒を待っていた。

 急ぎの用事を、特別な案件だからと他の仕事を退け、渋々と請け合ってくれたアジュカ・ベルゼブブの連絡を待っていた。

 

「龍は、言いました。『魔王ごときが、悪魔ごときが龍の決闘に介入してくれるなよ』と。しかし、魔王様は言い放ちます。──「世界を守る者が悪魔であって何がいけないか。龍ごときが我らの世界を汚してくれるなよ」。悪魔軍はそれにより大きな雄叫びをあげます。龍はついに牙をむきました。『ギャオオオオオオォォォォン』。悪魔軍と龍との戦争が幕を開けたのです──」

 

 リアスは、淡い電気のように光を発光する魔法陣を眺めていた。

 

──彼を離さないから。

 

 離したくない。紅と赤。

 運命なんだと、彼女は思う。

 これは、決まっていたことなんだ。

 世界がきっとこの出逢いを必然としたのだと思い込むようにした。

 そうであるならば、きっと。

 

 彼は、離れない。

 

 家族を、離さない。

 私は王。グレモリーの王様である。彼らは死んでも守りたい。

 護りたい。

 この髪が焼けようと、どのような状況であろうとも、家族だけは見捨てない。

 例え、名を捨てても、彼らだけは捨てない。

 

 王として彼女は未熟で、愚かで、才能がない。

 それでも彼女はこう思ってしまう。

 

 家族になる彼をもし、殺そうとする者がいるのなら。

 私は盾になりたい。

 

 みんなを護る王──盾でありたい。

 王の命は彼らのために、彼らは私のために。

 どんなに惨めでも。

 例え、弱くとも。

 

 母のような、姉のような気持ちで彼らを見たとき、彼女は盾になりたくなる。母は、いつだって子供の味方である。己の強さとか、そういうものではなくて。ただ、心を盾に、愛してあげられる。

 傷つけさせたくない。

 辛い思いをした子たちばかり。

 もう、やなんだ。もう、一生ぶん泣いた子たちばかりだ。

 これからは一生笑ってほしい。

 

 笑ってくれればそれでいい。

 楽しいと、いってくれればもう、満足だった。

 朱乃がそばにいて、からかってくる。それが好き。

 小猫が幼い頃──ご飯も食べれなかったあの子がおいしそうにお菓子を食べる。それが好き。

 祐人が、剣を誇らしげに見せてくる、笑う。それが好き。

 

 そして次は彼。

 

 あの奥に潜む悲しみを私は晴らしてあげられるだろうか。 

 リアスの心は穏やかだった。

 寂しさを含みながらも穏やか。

 

 今日も彼に会える。

 

 どんな話をしようか。

 悪魔のいいところをたくさん教えてあげよう。

 ワクワクするような魔法を見せてあげよう。

 彼がどんなに凄くても、後輩。

 先輩は、心の何かを晴らせるようになれるだろうか。

 

 気になる。

 

 気に入ったのだから、しょうがない。そう、しょうがないさ。

 

「龍は言いました。『参った。降参だ』。地に落ちた龍は涙を浮かばせながらそう、言います。魔王様は剣を空へ掲げました。──それから龍はどこかで眠りにつき、悪魔、そして世界の危機は去ったのです──」

 

 これを初めて読み聞かせて貰ったとき、悪魔がどれだけ凄いか誇らしくなった。

 悪魔は世界のヒーローなんだと疑わなかった。

 

「……ま、実際はイッセーに宿るドライグにコテンパンなわけだけどさ。前魔王か……、歴史本でしか、顔も見たことないから実感がわかないわ。お兄様が魔王でなかった時があったなんてなあ……」

 

 プライベートの彼女は、どこまでも普通の女の子である。

 悪魔や人、それらは決して離れていない。

 表裏一体。

 どこか、重なる影に笑みを零す。

 

 人を初めて見たときは、興奮したのを憶えている。

 初めての契約、初めての眷属。初めてが彼女には、たくさんある。

 

 これからも初めてが彼女を惑わすだろう。それでも、彼女は未知の世界に希望を持っている。

 新たな家族を手に入れて、未来を進む。

 

『……ス君。リアス君!』

「うわっ! 幽れ──……、ごほん。おはようございます、アジュカ様。本日は急用を優先していただき言葉もございません。深く、感謝しております」

『……いや、顔だけで連絡魔法陣に現れたのは悪かったかもしれないが。まあいい。──駒の調整は済んだ。ただし、これを他人に話す行為は慎むことだ。君はこれまで以上に注目を受けるだろう。だが、これはサーゼクスも言ったことらしいが、負けないよう、努力しなさい。あの龍を飼うのは君だ。間違っても──喰われないよう、気を抜いてはいけない』

「……申し訳ありません。わかりました。ありがたくお言葉頂戴いたします。しかし、これだけ。首に紐をつけるのではありません。私は眷属たちと手を繋いで歩いていきます」

 

 突然、顔を等身大に現したアジュカ・ベルゼブブにリアスは椅子をガタンと引いてしまった。

 それに対し、顔をしかめさせたアジュカだが、すぐに切り替え、忠告を行う。

 リアスは深々と頭を下げた後、瞳に力を入れ、あのように言った。

 それにアジュカは、目を閉じ、やがてゆっくりと開ける。

 

『ウェルシュドラゴンの王──期待している』

 

 それだけを言うと、紅の魔法陣は明かりを消した。

 

「……誰にも負けない。私は」

 

 八つの駒をぎゅっと、大事そうに握りしめながら、口にする。

 

 そろそろ、校舎に生徒が集まり始めるだろう。

 彼女は廊下を歩きながら、紅髪を揺らす。

 先ほどの、プライベートな彼女は既にいない。

 いたのは、盾になろうとしている愚王が一人。

 世界で、一番眷属を愛している女性が一人、いるだけ。

 

 

  




謝りを入れるならば、話しが進んでいないことです。

思いついたことを、どんどん書いてごめんなさい。
そして、左手が痛いです。
スマートフォンでの執筆、手を痛めます。

しかも、風呂へ入るまでに書いてしまうという。
ダメですね。  

走り書きな所がでてもあれなので、
更新速度は一週間に一度くらいがベストかもしれません。
風呂の時間にしか書きたくないので。

次回からは、物語をアーシアへ移せたら嬉しいです。
では、また次回で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。