ラーメン大好き小泉さんU 俺と彼女の不可思議な幸福 作:しゅみタロス
今の若いモノは常に楽をして生きている、そのぐらい世の中便利にもなったし簡単にもなった。
安田「こんなもんか」
こだわりを持つことは疲れる、若い奴らは常々贅沢を言う。トーストやゆで卵だけの朝食もシンプルながら奥が深い、それを時代錯誤かカッコつけか、世の中人とは多種多様な人生観で生きている物だ。
安田「行って来るよ、愛しのハニー」
妻を亡くして10年、一人の老いぼれが仕事一本で生活するのもなれたものだ、それでも今を生きると言うには少々合わない、周囲には常に繋がりが目に見える形で残るからだ、それでも自分位はと割り切れてしまうのも年故だろう。
安田「少し熱くなってきたな、アイスコーヒーでも買っていくか」
世の中で一番の贅沢は面倒事を背負わない事だ、関われば自分も巻き込まれる、知らない内に同じ立場にいる。そうして抜け出せなくなるのはごめんだと誰もが避け続けるだろう。
楽して生きていたい?自分には関係ない?自分の我儘が通るぐらい自分の価値観を大事にしたい?他人や自分の事で悩みたくない?それは誰もがそうしたいしそうでありたい。ほら、何も間違っちゃいないだろう?
ガチャッ
安田「さて、今日の依頼はと……」
だが、俺はそう言う奴とは少し違う、逆に他人の面倒事に首を突っ込むのが好きだ。
俺は弁護士だ、人様の事情をあの手この手で解決する、そんなモノ好きな老いぼれこそこのアンダーソン法律事務所の所長の俺だ。
安田「渋谷で起きた火災事件か、容疑者はこの2人、何か裏がありそうだ」
手がかりと言うのは、常に本や映像にこだわらない。被害者の声や当時の状況、足跡を辿りながら掴んでいくものだ。
安田「つまり、彼らは花火で遊んでいたと」
警察「夜中に物凄い音を立てていて、近所からクレームだらけだったとか」
安田「容疑者2人は花火で遊んでいた以外に何かありましたか?」
警察「現場に残されていたものの中に焦げた植物がありましたが……」
安田「ほう……」
その後
留置場
安田「君達、ちょっと話を聞かせてくれるかい?」
少年「はい」
手がかりや確証を集めたうえで当人の話を聞く、それで一致すれば裁判の必要なく少年たちを救える。
安田「花火をしていた君たちは、どうして火災を引き起こしたんだい。近辺には大きな物音はしていたが花火が住宅に引火する様なモノは現場に何一つ無かったが」
少年1「僕たちも気を付けてたんです、火災にならないようちゃんとルールは守ってました」
少年2「でも予想外だったんです、水につけた使い終わりの線香花火にまだ火が残ってて、家の朝顔に引火して……」
安田「残り火か、思った通りだ」
俺は少年たちに伝えた。
安田「花火は楽しいがルールを守っていてもどうしようもできないトラブルがある。今後はちゃんと大人と一緒に花火をやりなさい。これで君たちは自由だ」
少年「ありがとうございます」
若い奴らは恐れと言うものを知らない時がある、それ故面倒事も多い。少しでも前に進める様に導くのも大人の務めだ。常々そうした厄介事の一つや二つ、手を貸してほしいのならいくらでも貸してやるんだが。
安田「こんな時間か、仕事にかまけて昼飯を忘れていた」
一日の中で、俺は3食の食事を欠かしたことは無い。食事にもこだわるのが俺だ、行き先は常に一軒だけだ。
ガラッ
安田「失礼するよ」
凛「あ、アンダーソンさん。今から昼食ですか?」
安田「少々仕事でね、今日の日替わりランチは何があるんだい」
凛「日替わりランチは
安田「おお、それは良いね。それじゃあそれを頼むとしよう。冷たいウーロン茶もつけてくれ」
凛「はい、かしこまりました」
安田「はははは、若いのによく働くなぁ。凛君は」
今の時代、楽は出来てもそれには多くの努力や先人の知恵が積み重ねがある。思い通りに行く事もあればそれだけ多く失敗を繰り返しただろう。俺もそうして生きてきたから今の時代には思う事がある。それは……
凛「お待たせしました、油淋鶏ランチです」
安田「ああ、ありがとう」
凛「では、ごゆっくり」
安田「さて、頂くとしよう」
定食の小鉢は梅漬けの大根、赤く染まった大根には梅と紫蘇の香りが開く。ポリポリとした食感と程よい水分、何より梅と紫蘇の刺激の強い酸味が食欲を掻き立てる。こういうのがいいんだよ、実に旨い。そして油淋鶏、キャベツの敷かれた上に大きなモモの皮つき唐揚げ、醤油とゴマ油の匂いが実に腹を奥をくすぐる。一切れ箸で持ち上げる、光沢にも似た黄金色の衣と油が実に眼福だ。食べれば鶏肉の旨味とネギとショウガ、ゴマの風味がガツンと強く感じそのあとに追って来る醤油の濃さ、パリパリとした鶏の皮は軽やかな音を響かせながら楽しませてくれる。そしてそこから大盛りでアツアツの白米を一気に掻き込む、油淋鶏と一緒に食べればご飯がいくらでも進む、この白米あっての油淋鶏と言える。
安田「ふう、年甲斐にもなく夢中になってしまったな」
冷たいウーロン茶をゆっくりと嗜みながらの一休み、これが終わればまた面倒事の相手をしなくちゃならない。
安田「さて、お勘定を頼むよ」
孔「まいど、アンダーソンさんは相変わらず人助けに精が出ますね」
安田「大蓮寺君、君の様なモノ好きと同じ穴の狢なのは忘れちゃ困るねぇ」
孔「ははは、一本取られましたな」
安田「まあ、こうして飯をここで食べるぐらい気に入ってるのは確かだからな、また来させてもらうよ」
孔・凛「ありがとうございました」
凛「じゃあ、俺そろそろ小泉さんのまかない作るよ」
孔「おう、頑張れよ」
今の時代に思う事と言えば、長い人生で面倒事を背負い続けてきた毎日は満足だったかだ、世の中後悔する奴は努力や積み重ねを多くしてこなかった人間だ。そんな毎日に一日でも頑張って手に入れた誇らしい何かがあれば夢があると思わないか?面倒事と努力は違う、何か意味を遺せるだけでも自分にとってはそれは努力だ。
俺もこの先まだ長く生きるだろうが、最後まで面倒事に首を突っ込む毎日を過ごしたい物だな。
最後に君に問いたい。
未来の自分に、何か遺せるものはあるか?