大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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Act.009 クリスマスと大流星  そしてあの舞台へ…

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 時は流れ、街路樹はすっかり葉を落とし、出かけるには外套と手袋が手放せない季節になりました。冬風に吹かれて転がっていく枯葉を見るにつけ、いつも思うのです。人生とは儚いものだ、と…。

 同じ散るなら、例えば打ち上げ花火のように華々しくありたいものですね。

 それはそうとしまして、私の所属するチーム《シリウス》では、いつにもまして強度の高い鍛練が行われています。"聖蹄祭"が終わった頃から放課後のチーム練習に少しずつ参加するようになった私ですが、傍目に見ても練習内容が厳しくなっており、"併せ"も度々行われています。

 理由は容易に分かりますわ。12月25日に控える《有マ記念》……下半期のレースの総決算ともいえる、大一番の競走です。そこに、ウイニングチケット先輩とゴールドシップ先輩が出走するのですわ。特にウイニングチケット先輩はこの競走を最後に引退する予定であるだけに、気合いが入っておりますね。

 ゴールドシップ先輩も、《日本ダービー》こそマジェスグロリア先輩に敗れましたが、《菊花賞》を勝ってGⅠ3勝(1つは《ホープフルステークス》ですわ)を果たしております。クラシック級では現在最も勢いのあるウマ娘と目されており、距離適性から考えても勝つ可能性は高いと思います。

 

 私はと申しますと、競走や踊りのための鍛練に加えて、聖歌隊の練習が増加しています。何故かって? お気付きになりませんか、この時期となれば聖歌隊最大の出番があるということに。…そう、Christmas です。

 いわゆる「クリスマス・キャロル」を歌わないといけないので、練習が増えているというわけですわ。

 

「♪民皆喜べ、主は来ませり 心を開きて迎え奉れ、迎え奉れ、心を開きて…」

 

 第2学期の期末試験までもが重なっているため、私は現在ものすごく多忙なのです。休日だけでは聖歌の練習時間が足りないため、昼休みも全て活用して、屋上でもどこでも場を拝借して練習せざるを得なくなっております。

 今練習しているのは「讃美歌」112番に入っている『アンテオケ』です。皆様はこの歌詞よりも、もう1つの邦訳である「(もろ)(びと)(こぞ)りて迎え奉れ」の方がぴんと来るのではないでしょうか。

 何故こんなにも異なる歌詞で歌っているのかと申しますと、実は諸外国においては1つの曲に2つの歌詞があるというのはよくある話なのです。この『アンテオケ』もそうですわ。ところが日本に流入してきた際に、本来なら「民皆喜べ」と「諸人挙りて」の2つの邦訳があったはずなのですが、どういうわけか「諸人挙りて」だけが定着してしまったのです。というわけで、日本では「諸人挙りて」の歌詞だけで歌われるようになり、「民皆喜べ」の認知度は低くなってしまったのです。

 ちなみに世界的には「民皆喜べ」の歌詞がよく知られているので、むしろ日本の方が異端なのですわ。

 これ以外にも、「聖しこの夜」「天のみつかいの」「クリスマスおめでとう」など、歌われる聖歌・讃美歌は山ほどあるのです。何とか頑張って、モノにしませんと。

 

「シルヴァーブレイズ……また"交信"かな……? その"感謝"と"祈り"、届いていると良いね……」

「全く以て同意します。神よ、我らに祝福を賜らんことを」

 

 そして屋上で練習をしている場合、大抵ネオユニヴァース先輩に遭遇するのですわ。尤も、テイエムオペラオー先輩に絡まれるよりは遥かにマシなのですけれど(練習時間の確保的な意味で)。

 

 学業と走りや踊りの鍛練が終わってからも、安息の暇はほとんどありません。夕食と入浴で一息吐く間もなく、期末試験の対策です。

 

「鎌倉時代の辺り、もう一回おさらいしないと…!」

「関数とか方程式はやっぱり難しい…!」

 

 サトノダイヤモンドさんやキタサンブラックさんも、ひいひい言いながらも頑張っておりますね。

 

「また間違えた……受動態難しいよぉ…!」

 

 そして相変わらず、サニーさんは「英語」で悪戦苦闘しております……あともう一息で習得できそうなんですけどね…。

 私も負けてられませんわ。えぇと、水兵リーベ僕の船、でしたっけ。

 

「水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム……しまった、ホウ素を忘れてましたわ」

 

 補修に引っ掛かるなんて無様、あってはなりません。頑張るしかありませんわ!

 

◆◇◆◇

 

 学業、鍛練、聖歌の練習に日課の祈りとお茶の時間、という具合で毎日首も回らないほど忙しい中、2学期期末試験が終わって1つのヤマ場を越えました。最後に残っていた数学の試験が終わった時には、心底ほっとしたものですわ。

 とはいえ、この季節は流行り病もありますし、気を抜いてインフルエンザにでも感染しようものなら、寝クリスマスとかいう情けないことになってしまうでしょう。気を抜かず、体調管理には気を付けねばなりません。寝クリスマスなんてことになったら、Christian として罰当たりにも程がありますからね。

 え、私の試験の成績? 大まかな傾向は変わりませんわ。相変わらず「国語」は苦手です……敬語はともかく、あの堅っ苦しい評論文の読解問題はどうにかなりませんの…? 数学と「英語」は満点、理科も9割以上の得点率で及第点、社会科が歴史でややつまずきましたね。飛鳥文化や国風文化といった文化系を、もう少し復習しておかなければ。

 

 期末試験が終わった直後から、寮の雰囲気が何だか晴れやかになったような気がします。まあ、それも無理はないでしょうね……何せ Christmas が目の前に迫っているわけですし。

 寮内では、誰も彼もがお出かけの予定やら実家への帰省やらの話で盛り上がり、あるいは12月末に行われる競走に向けて盛り上がっています。寮の壁や掲示板には、寮長たるフジキセキ先輩が主催する「クリスマスパーティ」のお知らせに加え、「有マ記念」や「東京大賞典」、「中山大障害」といったGⅠ級競走の広告が貼り出されています。まあ、「中山大障害」については美浦寮のナガヤマオンジュー先輩一強だと思われますが…。

 また、「クリスマスパーティ」に向けての準備も始まっています。寮の談話室には(もみ)の木が置かれて飾りが付けられている他、輪っかになった樅の飾りもあちこちに見受けられます。そして寮生の皆様も、各々部屋を飾ったりしているようですね。

 私も飾り付けに協力するとしましょう。商店街に園芸店ってあったでしょうか。

 何故園芸店を探しているのか、と問われますと、ヤドリギを飾ろうとしているからですわ。日本ではあまり見かけないかもしれませんが、ヤドリギは欧州では標準的な飾り付けとして使われるのです。葉を落とし枝だけになった木のてっぺんに、緑色の塊となってくっついているヤドリギは、「困難に打ち勝つ」「忍耐」などの花言葉を持ち、永遠を象徴する植物として人気が高いのです。

 え? とある魔法使いの映画で見た? はて、何という映画でしょうか?

 ともかく、同室のリナルドモントバンさんや、学友のサニーウェザーさん、キタサンブラックさん、サトノダイヤモンドさんに贈り物を買いに行くついでに、ヤドリギも探してみるとしましょう。

 「パブ 止まり木」の主人に聞いてみれば、何か良い情報が得られるかもしれません。忙しすぎてこのところ顔を出していませんでしたが、久しぶりにご挨拶に伺うとしましょうか。

 

 

「なるほど、ヤドリギか……。確かに、イギリスを含むヨーロッパ諸国じゃポピュラーな飾りだな」

 

 「パブ 止まり木」にて、私の話を聞いた master さんは少々難しそうな顔をして考え込みました。

 久しぶりに来たこの店ですが、紅茶の味ははっきりと分かるくらいに美味しくなっていますね。店内では暖炉にくべられた薪が時々パチリとはぜて火の粉を撒き、他のお客さんが話に花を咲かせています。何とも暖かい雰囲気ですわ。

 やはりお客さんの数が増えていますね。何だかんだ人気が出てきたのでしょうか。

 

「クリスマスオーナメントを売っている店はいくつかあるし、園芸店もあるんだが、ヤドリギ売ってたかな……ちょっと待っててくれ、聞いてみる」

 

 しばらく席を外した master さんは、ややあって持ってきました。

 

「良かったな、あったぞ」

 

 どうやら園芸店を含めて2つの店に、ヤドリギを売っているそうですわ。店の場所と名前も教えていただきました。

 

「ありがとうございます、master さん。助かりました。

また紅茶をいただきたいですし、よろしくお願いいたします」

「分かった。嬢ちゃんのおかげで、うちの店の評判が上がって客足が増えてきたんだ、嬢ちゃんならいつでも歓迎だよ」

 

 「パブ 止まり木」を出た頃には、決して高いとは言えない陽がやや西に傾きかけていました。できれば日没までには買い物を済ませておきたいですね…急がなければ。

 

◆◇◆◇

 

 12月のことを、古い言い方で「師走」というそうですね。何でも、師匠などの上司にあたる方ですら、あちこち走り回らなければならないほど忙しくなることから、そう呼ばれるようになったとか。

 その言葉を彷彿とさせるほど、あっという間に時が流れて、とうとう12月24日になりました。クリスマスイブだ、等と言って皆様浮かれておりますわ。お出かけの予定を立てておられる方もいるようですが……残念ながら、私は少なくとも午前中は遊びには行けません。教会の方の用事ですわ。

 何といっても Christmas の言葉通り、イエス・キリストの降臨日なわけですから、当然のようにクリスマス・キャロルを歌わなければなりません。つまり、聖歌隊員たる私の出番というわけです。

 

「♪We wish you a merry Christmas, we wish you a merry Christmas.

We wish you a merry Christmas, and a happy new year!」

 

 教会を震わせる聖歌、静かに聞き入る聴衆……まさに Christmas の風物詩ですね。

 今日は、歌う聖歌の数が多いのはもちろんですが、牧師さんのお説教もいつもより気合いが入っているように思えますわ。この特別な日ですし、私もいつもより献金を多めにしておきましょう。午後から出かける予定があるので、あまり多額は献金できませんが、やむを得ませんわ。

 回ってきた献金袋に、財布から取り出したなけなしの千円札1枚を投下……神よ、本年はありがとうございました。来年も、私たちに祝福のお恵みをくださいますように。

 

 教会での用事をすっかり終え、聖歌隊に解散の号令がかかった時には、時刻は正午を大きく回っておりました。友人たちを少々待たせてしまっていますね、急がなければ。

 午後からは、サニーウェザーさんやリナルドモントバンさん、アウダーチさんと出かける予定なのです。何でもイルミネーションを見に行くとか。その前に昼食ですね。

 こんなこともあろうかと、合流場所を「パブ 止まり木」にしていただいたのですが……何分裏通りにある目立ちにくいお店ですので、果たして上手く合流できるかどうか……。

 

カランカラン(ドアベルの音)

「いらっしゃい……お、ブレイズの嬢ちゃんか。お友達が待ってるぞ」

「あ、来た来た! ブレイズちゃん、こっち!」

 

 Master さんの台詞と、こちらに手を振るサニーさんを見るに、どうやら杞憂に終わったようですわ。

 

「良いお店知ってるんだねブレイズちゃん……いつも通る道のすぐそばに、こんなおしゃれな店があるなんて知らなかったよー」

「うん、たまには紅茶にサンドイッチも悪くないかな……あたしはご飯の方が好きだけど」

 

 どうやらここの sandwich は、モントバンさんもお気に召したようですね。

 

「私はこのアップルパイですね。濃厚だけどしつこくない甘さと、これはレモンかな、ほんの少しの酸味が良いアクセントになっています。カスタードクリームがついて、本格的な英国風になっているのも高評価です」

 

 そして、あら? アウダーチさんが食べているのは……

 

「私が伝授した、英国式の…?」

「そうなんだ。今じゃうちの一番人気なんだよ、表面はサクサク、中はしっとりで、リンゴの果肉とはちみつが良いハーモニーを奏でてる、ってな。しかも、イギリスに行ったことがある人ですら、本場の味がこんなところにあった、って感動してたぞ」

「ガチモンじゃねーか……なんでブレイズがそんなのの作り方知ってるんだよ?」

「日頃の研鑽の賜物ですわ」

 

 日頃から、美味しいお茶菓子の作り方を追求していますからね。そこに妥協は一切存在しません。

 質問してきたモントバンさんにも、少しくらい私の姿勢を見習って欲しいですわ…何事にも真摯に取り組む、という意味において。何せ彼女は結構なものぐささんですから。

 

「そんで、ブレイズの嬢ちゃんは何にするんだ? 教会の方で頑張ってたってのは知ってるよ、昼食まだなんだろう?」

「そうでしたわ。あまり時間があるとは言えませんし、時間短縮できるものでお願いします」

「うちで出せる時短メニューとなると…アレしかないな。良いのか?」

「構いませんわ。たまには白身魚も良いでしょう」

「分かった。紅茶は何にする?」

「そうですね……本日は Orange Pekoe にしましょう」

「セイロンだな、分かった」

 

 私が何を注文したか、聡明なる読者の皆様にはすぐお分かりになったでしょう。…そう、英国が誇るアレですわ。

 

「お待ちどう。ご注文のフィッシュアンドチップスとセイロンのセットだ」

 

 ご存知、Fish&Chips&Vinegar です。英国料理でファーストフードといったら、これを外すことはできないでしょう。

 

「えっと…ブレイズちゃん?」

「どうしました、サニーさん?」

「それ、平気なの…?」

「? 平気、とは?」

 

 普通に食べられる代物ですが…何か問題でも…?

 

「いやブレイズ、それを平気で食べれるってなかなかやベーよ……」

 

 何故かモントバンさんの顔が、少しひきつっておりますね…。

 

「実はですね…ブレイズさんが来る前に、私とサニーさんとモントバンさんで、フィッシュアンドチップスを1つ注文したんですよ。メニューにあったので、どんなものか試してみよう、という好奇心があって。

その結果が、その、ね…。私はまあまあイケたんだけど…」

 

 アウダーチさんが言葉を濁しましたが、何となく分かりましたわ。お口に合わなかったということでしょうね。

 道理でアウダーチさんの前に、アップルパイに混じって魚らしい揚げ物が置いてあるなと思いましたわ。

 

「とはいえ、さすがに私もお腹いっぱいだから、できたらこの白身魚のフライ食べて欲しいな、って…」

「承知しました、お任せください」

「ところでブレイズちゃん? ひょっとして、アレも食べられるの…?」

「アレ、とは何ですか?」

「……ウナギのゼリー寄せ」

「それとマーマイトとか」

「あんなの酢無しでも平気ですわよ。それと Marmite ですか、普通に食べられますよ?」

「「「………」」」

 

 何故か3人に引かれてしまいました…。え、ひょっとして皆さん食べられないのですか…?

 

 

 昼食の後はお喋りや買い物で時間を潰し、陽が落ちてから最後の予定となりました。イルミネーション…光で満艦飾された建物を見に行こう、というわけです。

 

「きれい……!」

「見に来てよかったですね、サニーさん」

「さみー…帰りたい…」

 

 モントバンさん…夢のないことを仰るんじゃありませんよ…。

 ふむ……実際に見てみると、こういうのもなかなか乙なものですね。今までこういうものはあまり注目していませんでした…ある程度余裕を持たなければ、芸術なんかを楽しむこともできない、ということでしょうか。

 

「「「♪Light up ミライへとKIRAめけイルミネイション  セカイをドレスアップ colourful wonderland」」」

 

 どこからか聴こえてくる歌声。この声は確か、コパノリッキー先輩にワンダーアキュート先輩、ホッコータルマエ先輩でしたか。

 見回してみると、光り輝く建物を背景にした特設舞台の上で、ちょうど3人の先輩方が踊っています。こういう場面で歌い踊るのも、おそらく応援してくれる方々への御礼の一部になるのでしょう。

 それにしても……母と暮らしていた時は、こうしてイルミネーションを眺めたりする余裕はありませんでした。Christmas の時に、小さなケーキに蝋燭を並べて灯りをつけるのがせいぜい、というところでした。

 私が今のような経験ができるのも、母が頑張ってお金を稼いで、この学園に入れてくれたからですわ。母に感謝し、神に感謝し、今この時間を過ごさせてくれる友人たちに感謝し……そしていつか、恩返しをしなければ。

 その後は栗東寮へと帰還し、フジキセキ先輩主催のクリスマスパーティを楽しみました。先輩も良い催し物を考えますね……進級して上級生となった時には、私も先輩のようなことをしなければ。それが、上級生の義務(ノブレス・オブリージュ)というものでしょう。

 

◆◇◆◇

 

 日付が変わって12月25日。もう学校は冬休みに突入しましたので、授業はありませんわ。ということで、午前中はサニーさん他の友人たちと過ごしています。といっても外出ではなく、栗東寮の中で過ごしていますわ。宿題もやらないといけませんし。

 そして午後からは、私とサニーさんは…いえ、メジロマックイーン先輩やライスシャワー先輩も含む《シリウス》総出で、中山レース場へ出かけることとなりました。目的はもちろん、ウイニングチケット先輩とゴールドシップ先輩の応援です。そう、この日こそ『有マ記念』の本番ですわ!

 TVや他の映像記録で目にしたことは何度もありますが、いざ実際にその場に来てみると、何というか圧迫感がすごいですわね…。何万人という人間が詰めかけて、誰も彼もが応援したい選手の姿を思い描き、その選手を応援している……その熱量は相当なものです。

 …え? まるで、私がこの場に来るのが初めてであるかのような表現をしている、ですって? 鋭いですわね。

 お察しの通り、私はこの「有マ記念」を生で見るのは初めてです。いえ、そもそも競バ場に来ること自体が初めてであると言えるでしょう。

 どういうわけかと申しますと、以前に私の家が母子家庭であることはお話したかと思います。…そして、今さら隠すことでもないでしょうから言ってしまいますが、我が家の暮らしぶりは裕福とは無縁のものでした。生で競走を見に来る余裕すらなかった、というわけですわ。

 私が《トゥインクル・シリーズ》を走ろうとしている理由の1つは、競走に勝った時に出される賞金なのです。それを以て、少しでも母に恩返しをしたいのですわ。…まあ、最大の理由は「偉大な祖先に並び立つため」ですが。

 

「頑張ってくださーい!!」

「応援してますよー!」

「みんな、ありがとおぉぉ!! よーし、勝ってくるぞー!!」

「任しときな! このレッドホット・ゴルシちゃんの拳で、世界を真っ赤に染めてやるぜぇぇ!」

 

 気合が入りまくった2人の先輩方を見送った後、私たちは観客席の最前列に移動しました。一般客ではなく出走ウマ娘の関係者なら、こんな間近で見ることができるのですね……ありがたや。

 バ場にぞろぞろと出走ウマ娘の方が出てきましたわ。ウイニングチケット先輩とゴールドシップ先輩の他には、エイシンフラッシュ先輩、今回が引退レースとなるマジェスティシップ先輩などなど、総勢16人のウマ娘が出走しています。いずれ劣らぬ実力者揃いですわ……その中で真の実力者たり得るのはただ1人、勝者のみ。

 

『さあ、ただいまより本日のメインレース! 皆様お待ちかねの、今年下半期の総決算グランプリ! 有マ記念のファンファーレです!』

 

 実況の声が響いた後、制服を着た係員が手に持った旗を振り上げました。それと同時に楽隊が派手な音楽を奏で始め、見守る群衆が一斉に歓声を上げています…! 想像していたより遥かに凄まじい迫力ですわ!

 

『年末の中山で争われる夢のグランプリ、有マ記念! 貴方の夢、私の夢は叶うのか!』

 

 出走するウマ娘の方が順番に枠入りしていきます……いやが上にも緊張感が高まっていくのが、はっきりと感じられますわ。

 

『3番人気に入ったのは、2番のエイシンフラッシュ。非常に落ち着いた様子で、良い仕上がりと思われますが、結果は果たしてどうなるでしょうか!

続く2番人気は、本レースを以て引退となります9番のマジェスティシップ。毎度出遅れる彼女ですが、そのハンデを覆して有終の美を飾れるか!

そして1番人気の登場です、7枠13番ゴールドシップ! クラシック2冠の実力を、遺憾なく発揮できるでしょうか!』

『私が一番期待しているウマ娘、気合い入れて欲しいですね!』

『さあ各ウマ娘、ゲートイン完了しました! 貴方の夢、私の夢を乗せて、第●■回有マ記念!』

 

 さあ、いよいよ競走開始です!

 

『スタートしました!

おーっと! やらかした9番マジェスティシップ、大出遅れ!! 10バ身近い大差です!

そして13番ゴールドシップも後方からのスタートになりました!』

 

 マジェスティシップ先輩が出遅れた瞬間、やたら大きな歓声が上がったのですが…まさか、あれがお約束だとでもいうのでしょうか?

 群衆が上げる歓声の中、選ばれた16人の精鋭ウマ娘たちが走り抜けていきます。やはり、映像で見るのと生で見るのとは迫力も熱量も全然違いますね……。

 今はまだ「トゥインクル・シリーズ」に参入してはいませんが、身体が成熟すれば私もこんな大舞台で走ることができるのでしょうか。

 実況によれば、最初の1,000Mは1分0秒5で通過したとのこと。さすがに精鋭が集まっただけあって、距離の割に流れが速い気がしますね。

 事前に読み込んだ情報によれば、《有マ記念》では残り1,000M辺りから攻防戦が始まり、残り600Mとなる第3~最終 corner ではかなりの激戦になっているとか。そして最終直線が短い上に途中に急な登り坂がありますから、後方から突っ込む脚質は不利だとされていましたが、果たして…

 

『残り600メートルの標識が近くなって、ここで後続が差を縮めにかかる! さあ目覚めるかゴールドシップ! このまま一気に差しに行くのか!』

 

 遠いのではっきりとは見えませんが、どうやらゴールドシップ先輩が動いたようです。おそらく大外から差しにかかったのでしょう。

 最終直線での攻防に入った時、そこには大外から勢い良く上がってくるゴールドシップ先輩の姿が。その後ろ外側にはマジェスティシップ先輩の姿も見えますね。ウイニングチケット先輩は……いました、内側ですね! しかし内側はだいぶ密集しています、抜けられるでしょうか?

 

『内を狙ってエイシンフラッシュ! エイシンフラッシュが鋭い末脚で突っ込んでくる! 大外からゴールドシップにマジェスティシップ! ウイニングチケットが内から先頭を窺うが、これは届かないか! 先頭は13番ゴールドシップだゴールインッ!

今年もクラシック級のウマ娘が制しました! ゴールドシップ、堂々3つめの金メダル!』

 

 ウイニングチケット先輩は5着に敗れてしまいましたが、ゴールドシップ先輩は見事にこの競走を勝ちました。あの追込は本当に見事としか言えませんわ……参考になりそうな部分も多いですね。帰ったら、記録映像を見返すとしましょう。

 

◆◇◆◇

 

 年が明け、だんだんと暖かい日が増えてきました。第3学期の期末試験が目前に迫ってきており、科目の多さと復習範囲の広さ、そして学習内容の複雑さに、悲鳴を上げる同学年生が続出しています。

 そんなある日、私とサニーさんは揃って trainer さんに呼び出されました。放課後の練習の時に、やりたいことがあるのだそうです。

 体操服に着替えて練習場に来た私とサニーさんを前にして、trainer さんはこう仰いました。

 

「本格化を迎えてから、そろそろ君たちも今の身体に慣れてきた頃だろうと思う。というわけで、今日は《トゥインクル・シリーズ》出走への準備段階として、適性検査を行う。俺としても君たちの適性を把握しておかなければ、適切な指導ができないからな」

 

 なるほど、敵を知り己を知れば百戦危うからず、という格言の通り、まずは己を知れ、ということですね。

 そして話していませんでしたが、実は私は1月が終わる直前に本格化を迎えたのです。サニーさんも恵方巻きの時期に本格化を迎えており、2人してやっと本格的な鍛練ができるようになった、というわけですわ。

 

「コースとして、ダートの2,000メートルと、芝の2,500メートルを押さえてある。それぞれ『東京大賞典』と『有マ記念』をモチーフにしたコースだ。また、これで同時に芝1,200メートルや芝2,000メートル、芝1,600メートル、ダート1,600メートルなどのコースにも対応できる。これらのコースを全力で走ってもらいたい。そのタイムや走りのフォームを見て、バ場適性と距離適性を判断する」

 

 こうして、準備運動の後に適性検査が始まりました。

 距離を変えバ場を変え、延々と1時間は走りましたね。おかげで私もサニーさんもヘトヘトになってしまいました。

 そんな私たちの元に、板状の端末を抱えた trainer さんがやってきました。どうやら検査の結果が出たようですね。

 

「それじゃ、適性検査の結果発表だ。まずサニーウェザー」

「はい!」

「君はダート専門だな。短距離は向かないが、マイルや中距離ではいいタイムを出している。スタミナがあるようだから、今のところはどちらかというと中距離向きかな。もちろん、トレーニング次第ではマイルレースでも戦えるだろう。

現時点での課題としては、姿勢がやや崩れがちなことと、そこから来る全体的なスピードの遅さだ。今後のトレーニングで改善を目指そう」

「分かりました!」

 

 確かに、土のバ場ではサニーさんに置いてきぼりを喰らってばかりでしたわ。…その代わりに芝の上ではぶっちぎりましたが。

 

「次にシルヴァーブレイズ」

「はい」

「君はいわゆる『両刀型』だ。芝は文句無し、ダートはトレーニングしてフォームを直せば問題なく走れるだろう。距離適性は、短距離は不向きだな。マイルはトレーニング次第というところ。中距離以上は自信を持って良い、典型的なステイヤータイプだ。

スタミナはすごいものがあるな。当面はスピードと勝負根性、それに筋力を中心に鍛えることになるだろう」

「承知しました」

 

 やはり、この trainer さんの観察眼には信を置けますわね。

 

「それじゃ、今日はここまでにしよう。2人ともクールダウンに入ってくれ」

「「はい!」」

 

 これで適性検査は終了。まだ脚質適性が不明ですが、そこは今後の"併せ"とかの中で判明していくでしょう。

 待ち遠しいですわね……公式戦の舞台で他のウマ娘の方と()う、その瞬間が。




はい、クリスマス前後の話でした。
明かされるシルヴァーブレイズの過去の一部……やはりというか何というか、ぶっちゃければ貧乏だったようです。おそらくお母さんはかなり頑張って、ブレイズの学費を稼いだことでしょう。そのことに感謝の気持ちをちゃんと持っているブレイズには、何とかしてトゥインクル・シリーズで勝って欲しいものです。
そしてシルヴァーブレイズの味覚ぶっ壊れてる説が浮上……うなぎのゼリー寄せを酢無しで食べられる、マーマイトを普通に食べられる、とはどう考えても普通じゃありませんよね。
あと、聡明なる読者の皆様はもう分かっていますよね? 障害競走で一強だというナガヤマオンジューと、有マ記念を走っていたマジェスティシップの元ネタがどの競走馬なのか。

《現時点で公開可能な情報》
シルヴァーブレイズとサニーウェザーの適性について

シルヴァーブレイズ
芝A ダートC
短距離G マイルC 中距離A 長距離A
逃げG 先行A 差しA 追込B

サニーウェザー
芝G ダートA
短距離F マイルB 中距離A 長距離B
逃げA 先行C 差しD 追込E

なおサニーウェザーはいわゆる「モブウマ娘」の1人であるため、ゲーム内でも登場しています。そのデータと比較していただくと分かりますが、主人公補正で適性が底上げされています。


こんな場末の小説にも、なんと評価をいただくことができました!
評価8をくださいましたryu-no様、ありがとうございます!!


それでは、次回予告入ります。ブレイズ、任せた!
「承知しましたわ。
実は、第一章『Preparatory Stage』は今話でおしまい。次回から第二章『Junior Stage』に入ります。やっと、私が走れる時が来たという訳ですわ! まずは小手調べと参りましょう!
次回『初レースと大流星』 更新は少々お待ちくださいまし」
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