半分くらいタイトル詐欺になってしまった……明らかにトレーニング以外の場面の描写が多い…!
皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
ふぅ、夕方の春風が心地良い……2,500Mを一息に突っ走った身には、程良い清涼剤になっています。
つい先ほど行われた「選抜レース」ですが、私は見事に勝ちましたわ。おそらく2着以下は、3、4バ身は離れていたと思います。誰にも文句を付けさせない、完全勝利を収められましたわ。
やはり、最後の corner で大外に出ていたのは正解でした…体力が尽きて脚色の鈍る他の方をほとんど気にすることなく、全速力で走れましたわ。そして、最初から体力温存策を取っていたのも正解でした。
ただ、個人的にはまだ cornering と登坂の走法に課題があるように感じます。どちらも、まだ速力を上げられそうに感じますわ。登坂はおそらく純粋な筋力勝負になるでしょうから、大腿や下腿の筋肉を鍛えることとしまして… cornering に関しては trainer さんの指導を受けた方が良さそうですね。後は、最序盤の出遅れが課題となるでしょう。
さて…って、おや? 観客席の方から何やら群衆がこちらへ向かってきています。ウマ娘…ではありませんね、身長がやけに高過ぎます。
その集団がだいぶ近付いてきた時になって、集団の正体がようやく分かりました。その人々は例外なく、胸の辺りに丸い印を付けていたからです。つまり trainer の皆様ということですね。
そして、この人たちの目的が察せられた時には、遅すぎました。
「君! すごい末脚だったな……あれには感動したよ! 是非とも君をうちのチーム《デネブ》にスカウトしたいんだが!」
「何を言うの、その子はうちの《シェアト》に入れるんだから! ねぇ貴女、私と一緒に三冠を目指す気はないかしら?」
「うちの《アルデバラン》は、GⅠウマ娘も輩出している。指導力は確かなものだ。君なら、無敗クラシック三冠も取れるかもしれない…一緒に挑まないか?」
お察しの通り勧誘の嵐ですわ。それも、名前を聴いたことのないところから有名所まで、
お誘いをいただくのはありがたいですが…あいにくと、既に私の所属先は決まっているのです。
「あの、たくさんのお誘いはありがたく存じます。ただ、私は……」
そこまで言いかけた時、群衆の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「ブレイズ!」
「あっ、trainer さん!」
人混みを掻き分けて近付いてくる trainer さんに、手を振って応えます。
「え、もう所属決まってるの…?」
「そうですよ。私の所属先は、《シリウス》なのです」
他の trainer の質問に答えていると、trainer さんが駆けつけてくれました。
「ええっ!? さ、
「おいまさか、西郷の所の子なのか!?」
「そうだよ。すまないが、この子は既に《シリウス》に加入済なんだ。今回は彼女の実力を見てみたくて、選抜レースに出していたんだよ」
勧誘に来た方々を引き下がらせた後、trainer さんは私に向き直りました。
「シルヴァーブレイズ、まずは勝利おめでとう。素晴らしい走りだった……特にあの末脚は、目を見張るものがあったよ」
「お褒めいただき光栄ですわ」
「うん。それでちょっと質問したいんだが、良いか?」
「構いませんわ。何でしょうか?」
「まずは1つめ……今回のレースの中で、自分にとってまだまだ伸ばせるポイントはあるかい?」
……これはおそらく、自己を冷静に客観視できているか、という質問でしょうね。勝利すれば、それに浮かれて課題や問題点を矮小化しがちですから。
ここは正直に答える以外の選択肢はありません。
「そうですね、課題だと感じたのは主に3点。坂の登り方と、cornering の技術、そして最初の出遅れですわ。
坂の登り方はとりあえず、膝などの筋力を鍛えてみれば良いかとは存じますが、cornering と出遅れの対策については trainer さんに教えていただきたいです」
「そうか、分かった。続いて2つめの質問なんだが、最後のコーナーに入る前から大外に出ていたな。あれには何か意図はあったのか?」
これは、戦術眼を見ようとしているのでしょうか。
「はい。序盤の流れを見て、前の方にいる方々の体力が尽きて沈んでくるだろうと思ったので、それを避けようとしたのです。こんな重いバ場で、序盤からあれだけの速度を出していたら、あの心臓破りの坂で脚が止まってしまうと思いまして」
私がそう答えると、trainer さんは大きく頷きました。
「なるほど……よく分かった。教えてくれてありがとう。
さて、《トゥインクル・シリーズ》出走への検討結果なんだが…」
元々は、「トゥインクル・シリーズ」への出走に問題がないかどうかをこの「選抜レース」で見極める、って話でしたね。自分なりには合格の域にあると思いますが、どうでしょうか。
「……合格、それもコメントのしようがないレベルでの合格だ。勝利に浮かれることなく自分自身の課題を冷静に分析して心得ているし、レース全体の流れを掴む観察眼、素早い状況判断力、焦らず仕掛けどころを待てる忍耐力、末脚、いずれも問題ない。
君さえ良ければ、6月頃のメイクデビューを見据えて調整したいんだが」
「承知しました、それでお願いいたします」
よし、これで《トゥインクル・シリーズ》への殴り込みが決まりましたわね。6月となると、最長でもあと2ヶ月しかない……身体に負荷をかけすぎない程度に、鍛えていくとしましょう。
「ブレイズちゃん!」
「あらサニーさん、お疲れ様です」
Trainer さんと共に部室へ戻ってくると、サニーウェザーさんが待っていました。他の先輩方も一緒にいますね。
「すごいねブレイズちゃん! あれだけ前から離されたところから、一気に抜き返すなんて……びっくりしちゃったよ!」
「いえいえ、私は自分にできることを精一杯やっただけですわ。サニーさんこそ、最終直線でのあの粘りぶりは見事でした」
「負けちゃったけどね…」
「先頭から半バ身差に粘り込んだのなら、十分ですわ。"誰にも抜かさせない"という気持ちで走ることが重要ではないでしょうか?」
「うーん…それだけで良いのかな…」
「気になったなら、trainer さんに詳しく質問すればよろしいでしょう。
それはそれとして、サニーさんは《トゥインクル・シリーズ》には出られそうですか?」
「あ、そうだった! 負けちゃったんだけど、基本的な逃げ方はできていたし、逃げに必要なスタミナもあるから、スピードと根性を鍛えていけば大丈夫、って言われたんだ! それで、一緒に《トゥインクル・シリーズ》での勝利を目指さないか、ってトレーナーさんに言われたんだ!」
「では、サニーさんも?」
「うん! 早ければ6月にデビューだって!」
ふむ、サニーさんも合格ですか。"同期の桜"になれる可能性はありますね。
「おー、ブレイズもサニーもデビューすんのか? 待ってんぜ、この世界を赤く染めてみせな!」
「ゴルシさん、共産主義とかじゃないよね…?」
「まだ純粋なブレイズさんとサニーさんを、変な風に染めないでください!」
ゴールドシップ先輩? 共産主義は流行らないし流行らせませんわよ?
そしてライスシャワー先輩も、下手に突っ込まないでくださいまし…。あと、抗議してくださったリボンカプリチオ先輩には、感謝の意を表します。
「はーい、そこまでだ。とりあえず話を聴いてくれ」
Trainer さんの鶴の一声で、一気に静かになりましたわ。流石ですね。
「ちらちら話に出ている通り、サニーウェザーとシルヴァーブレイズが《トゥインクル・シリーズ》に出走することが決まった。2人とも6月のメイクデビューを目指して、調整に入る。
そこで、今後のチーム練習には2人にも積極的に加わってもらうことになる。併走トレーニングなどの回数も増えるだろう。2人には、先輩方の走りをより近くで観察して様々な技術を得、それを自身の走りに取り入れていってもらいたい」
「はい!」
「分かりましたわ」
さて……私の伝説は、これから始まるのですね。
やってやりましょう……女手1つで育ててくださった母に恩を返すために! そして、偉大な祖先に並び立つために!
その日の夜、トレセン学園近くの商店街の一角にある飲み屋に、《シリウス》の西郷トレーナーの姿があった。恒例の「GⅠシーズン前激励会」である。
ただ、今回の相手は先輩方ではなく、同期のトレーナーたちと一緒に飲みに来ている。
「
「ああ、1人入ってきたよ……。スイープトウショウといったっけな、魔女みたいなとんがり帽子を被った、すんごいワガママっ子がさ」
「おおぅ…そりゃまた強烈そうだな」
今話しかけられているのは、チーム《ミモザ》の川添
彼はどうも、妙な星の下に生まれてしまったらしい。というのは、彼が担当するウマ娘は決まって一癖も二癖もある……別の言い方をすれば「気性難」なウマ娘ばかりになってしまうのだ。カレンチャンなどまともな性格の子もいるにはいるが、少数派である。
川添に質問を投げ掛けたのは、ライトグリーンのシャツに青のオーバーオール、そしてだて眼鏡という奇抜な格好の男性だった。身長は170㎝前後だろうか、明るい茶色の髪を長めに伸ばして後ろで1つに縛っている。
「千田、そういうお前はどうなんだよ? 最低でもあと1人入れなきゃチーム成立の要件満たさないんだろ?」
「おーっと、それについちゃもう心配ねぇ。この前の選抜レースで1人、スカウトできたからな! しかも、念願のステイヤーの素質持ちよ!」
「おっ、そりゃ良かったな」
「ということは、私と同じですね」
男性2人の会話に、少し落ち着きを感じられる女性の声が響いた。その主はチーム《プロキオン》の
「お、葵ちゃんも?」
「はい。といっても長距離じゃなくてダートなんですけど」
「私も1人、マイルレースでスカウトできました!」
割り込んだのはチーム《エレクトラ》の
「私は今回は出遅れてしまって、まだスカウトできていませんね…。次の種目別競技会を狙います…」
控えめな様子でコメントしたのは、やや肌色の白い女性トレーナーだった。身長は175㎝と高めだが、その身長に比して体格が細いせいでひょろっとした印象を受ける。おまけに長い黒髪で左目が半分隠れており、何だかTV画面の向こうから出てくるかのような感じである。
彼女こそ、チーム《アルナイル》の
「西郷さんの所はどうですか?」
桐生院に質問され、西郷は
「今年は新しい子を取る予定は、今のところないよ」
「え?」
意外な答えに桐生院が首を傾げた時、川添がツッコミを入れた。
「それは去年に新入生を2人も入れちまったからだろ。その分今年は取らないってだけだろ」
「おお、それよそれ」
そこに、ジョッキのビールを呷った千田が口を挟む。
「この前の選抜レース、俺は長距離を走れるメンバーを入れたいと思って見学したんだ。結果的にオボロイブニングに出会ってチームに入れることができたから、それは良い。……問題は、2着に粘り込んだイブニングをあっさり叩き潰した奴がいたってこった! しかもそれが西郷、お前んとこの子だっていうじゃないか!」
「え、まさかシルヴァーブレイズのことを言ってんのか?」
「それ以外誰がいるんだよ! 上がり3ハロン35秒6だなんて聞いてないぞ! イブニングだって36秒3だったのに!」
勘違いを避けるために一言申し上げておくが、メイクデビュー前のウマ娘が出せる上がり3ハロンの平均タイムは1ハロンあたり12秒台後半なので、1ハロンあたり12秒台前半というタイムを示したオボロイブニングは素質が良い方である。……1ハロンあたり11秒台後半を叩き出したシルヴァーブレイズが、おかしいのである……。
実はオボロイブニングは、あの長距離の選抜レースを走っていたメンバー12人のうちの1人である。序盤~中盤は「差し」のポジションで後方に控え、少し早めに仕掛けて最終直線ではバ群を抜け出して先頭に立っていた。そのまま走っていれば勝っていたはずだったのだ……とんでもない末脚を繰り出して大外から襲いかかり、最後の坂の中ほどでイブニングごと後続をちぎり捨てたシルヴァーブレイズという存在がいなければ。
「改めて聴いても、すごい子が入りましたね、《シリウス》には……」
「いや、どうやったらそんなタイム出せるのよ…。しかも有マ記念のコースでしょ? おっそろしいったら……」
感心する桐生院の隣で、うっそりとした様子で相原が呟き、イカの塩辛を口に放り込んだ。
「西郷よォ……そんな子はおそらく二度と出てこないかもしれんレベルの大物になると思うぜ。そのシルヴァーブレイズって子にその気があるなら、無敗クラシック三冠取らせてやれよ」
明日の天気の話でもするかのような何気ない調子で川添が言った台詞に、西郷はぎょっとした。
「ちょ、無敗三冠!? それは流石に…」
「いや、お前なら十分いけるっしょ。ライスシャワーで菊花賞、ウイニングチケットで日本ダービー取ったんだろ? まだ俺たちの世代は誰も、ダービーどころかクラシックレースのタイトルも取ってないんだぜ。何ならG1タイトルもまだって奴の方が多い。その中でいの一番、しかもまだ30になるかならんかって若さでダービー取るなんて、お前の実力は相当なもんだよ」
枝豆をつまみながら、千田がコメントした。
「そんなお前のところに、あんな素質の持ち主が入ってきたんだ。おそらく無敗三冠を達成するのにこれ以上整った条件が揃うことはない、と思う。『やるなら今』だ、ブレイズで無敗三冠目指せよ」
例になく真剣な千田の表情に、西郷も押し黙るしかなかった。
「確かにな……最終的にはシルヴァーブレイズの意志を尊重するが、その刻が来たら、ブレイズに三冠路線を勧めてみる」
「西郷さんが無敗三冠達成したら、祝勝会やらなきゃですね……」
入江の呟きに、川添が乗っかった。
「だな。もちろん、その時は西郷の奢りでな! だってレースの賞金たんまり出るだろう?」
「おま!? なんでだよ、そこはお前らが奢る場面だろ!?」
「いやいやいや、これぞ真のGⅠトレーナーだっつって、太っ腹なとこ見せねーと」
「そうですよ!」
「き、桐生院!? 貴様裏切ったなァ! 前にハッピーミークでJBC取って、お前もGⅠトレーナーになってただろ!」
「おーごーり! おーごーり!」
「相原! 乗っかるなぁぁ!」
「西郷さん、よろしくお願いしますよ…?」
「入江まで!? 包囲網築きやがって、お前らこういう時だけなんでそんなにウマが合うんだよ!? マックイーンが春天勝った時だって、初GⅠ祝いって言ってお前らに奢らされたじゃねーか!」
「そういう役回りだからだろ?」
「しれっとタカるな千田ァァァ!」
完全に弄られる西郷であった。
◆◇◆◇
皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
本格的な鍛練が始まった今日この頃、「スピードトレーニング」と称する芝の上での併走や、「パワートレーニング」としての腹筋や腕立て伏せ、「根性を鍛える」として坂路を走る、などの練習が入ってきております。これぞ本物の鍛練、という感じがしますわね。
今日も今日とて鍛練……なのですが、今日はどうやら毛色が違うようですね。Trainer さんからは、「水着に着替えてプールに集合」と伺っています。
……ものすごく嫌な予感がするのですが、もしかしてこれ、泳ぐということではないでしょうか……。もしそうなら、私は……
「ブレイズちゃん? 何だか顔色が悪いけど、大丈夫?」
顔に出ていたのでしょう、サニーウェザーさんが心配そうに尋ねてきました。
「え? ええ、大丈夫でしてよ」
実際には、全く大丈夫ではないのですが……。
私がそう答えると、サニーウェザーさんは私の顔をじっと見て、言いにくそうにこう尋ねてきました。
「こんな言い方してごめんなんだけど、ブレイズちゃん……もしかして、泳ぐの苦手?」
言い当てられてしまいましたわ……。
「お恥ずかしながら……」
そうです。私、実は結構なカナヅチなのです。どうにも水に苦手意識がありまして、浴槽にもまともに浸かれないんです。何故ここまで水嫌いなのか、自分でもよく分かりませんわ。
「今日はスタミナトレーニングを行う。
ブレイズとサニーのために少し解説すると、スタミナとは要は体力のことだ。で、そのスタミナを付けるためには有酸素運動が有効だとされている。その有酸素運動の代表例が、水泳だ。
それに、水泳は身体にかかる負担が少ない。水による浮力の恩恵を得られるからな。
ということで、今日は水泳によるスタミナトレーニングを行う。柔軟体操をしっかりやってから、プールに入ってくれ」
ああ、やらねばならぬということですね……。仕方ない、腹を括るとしましょう。
まあ実際、重力に身体を引っ張られながら走る地上よりも、浮力の助けを得られる水中の方が負荷が少ない、というのは理解できます。何とかやってみるしかないでしょう。
それに、今回は《アンタレス》との合同鍛練のような形になっています。ミホノブルボン先輩を筆頭に、実力者の方が揃っておりますわ……先輩方に負けないくらいの気概を持たないと。
うむむ…… trainer さんに
もう5往復くらいは泳いだでしょうか、 そろそろ脚が重くなってきています。これを泳ぎきったら、少し休憩させていただきましょうか。
Pool の底に、残りの距離が10Mであることを示す赤い線が見えました。もう少しですわね。
前方を行くライスシャワー先輩に続いて、このまま泳ぎきってしまおうとした、その瞬間でした。
不意に、右脚にパキッという、これまでに感じたことのない感覚が走ったのです。その瞬間、痛みと共に右脚が動かなくなりました!
「!!」
しかもです、今の衝撃に驚いた私は、持っていた kickboard を手から離してしまいましたの。……自分の身長より深い場所で。
考えられ得る限りの、最悪の事態ですわ!
「ガボゴボッ……!」
必死に両手で水を掻いても、身体が全く浮き上がりません! おまけに水を飲んでしまって、動きが鈍くなってきましたわ……
「………!」
息が……苦しい……。
もしや、私は……ここまで、ですの……?
「………」
駄目……意識を、保てませんわ……。
事態の発生にいち早く気付いたのは、ゴールドシップだった。
次は自分がトレーニングしようと、ビート板を持ってプールの縁で待機していた彼女は、こちらに向かって泳いでくるライスシャワーとシルヴァーブレイズを、見るともなしに見ていた。だからこそ、急にシルヴァーブレイズの動きがおかしくなったことに、誰よりも早く気付けたのだ。
「ブレイズ!」
彼女が叫ぶのと、シルヴァーブレイズが持っていたビート板が宙を舞うのとが、ほぼ同時だった。
何が起きたかは明白である。シルヴァーブレイズの脚がつったに違いない。
(死なせるか!)
泳ぎが苦手なことも忘れて、ゴールドシップはそのままプールにダイブした。
幸い、この辺の深さは155㎝しかない。身長170㎝のゴールドシップなら、底に脚が届く。問題は、シルヴァーブレイズの身長が140㎝くらいしかないことだ。彼女はプールの底に脚がつかない。それはつまり……今の彼女を待つ運命が「溺死」に決せられかけている、ということを意味する。
チームメートに目の前で死なれるなど、寝覚めが悪いどころの話ではない。
「ブレイズちゃぁぁぁん!」
飛び込み台に登っていたらしいサニーウェザーの悲鳴が、プールいっぱいに響き渡る。そこでようやく、チーム《シリウス》とチーム《アンタレス》の全メンバーが、事態の発生に気付いた。
プールサイドが騒然となる中、邪魔になるビート板を放り捨てて、ゴールドシップは必死にシルヴァーブレイズの元を目指す。その後方で、ライスシャワーの悲鳴が聞こえた。おそらく後ろを振り返って、何が起きたかを悟ったのだろう。
やっとのことでゴールドシップがシルヴァーブレイズの元にたどり着いた時には、既に彼女は水中に沈みかけたままぐったりとしており、一刻の猶予もなかった。
力任せにシルヴァーブレイズの身体を担ぎ上げると、ゴールドシップは周囲を見回す。と、プールサイドで手招きをしているリボンカプリチオの姿が目に止まった。
「カプリチオ! そっちに連れてく、手ぇ貸せ!」
「分かった!」
反転して戻ってきたライスシャワーと合流し、シルヴァーブレイズを連れていくゴールドシップ。プールサイドでは、メジロマックイーンが周囲に指示を飛ばしていた。
「カルンウェナンさん、AEDを!」
「はいっ!」
「アップツリーさんは保健室へ連絡してください! あと、念のため担架もお願いしますわ!」
「はい!」
どうにかプールサイドにたどり着いたゴールドシップは、リボンカプリチオの助けを借りてシルヴァーブレイズをプールサイドに寝かせた。そして自分自身とライスシャワーも、プールから上がる。
そこへ、飛び込み台から降りてきたサニーウェザーと、チーム《アンタレス》の面々がやって来た。その先頭にミホノブルボンの姿を見出だし、ゴールドシップが叫ぶ。
「ブルボンは触るなよ! いいか、絶対だぞ! AEDぶっ壊れるからな!」
ミホノブルボンは精密機械との相性が致命的に悪い。彼女が触れて壊れなかった精密機械は、セグウェイの「ゴルシちゃん号」くらいのものである。
ここでミホノブルボンがAEDに触れたら、確実にAEDは壊れてしまい、シルヴァーブレイズの最大の命綱が切れてしまう。それだけは絶対に避けねばならなかった。
なので、鬼気迫る表情で叫んだゴールドシップには、悪気は一切無い。無いのだが、いかんせん字面が悪い。
「了解しました。AEDには触れません」
そう返事するミホノブルボンの表情はほぼ変わらない。……が、よく見ると眉が少しだけハの字になっている。凹んでいるらしい。だが今は、オチコミホノブルボンに構っている余裕はなかった。
ミホノブルボンがショボンブルボンと化した時には、既に心肺蘇生法の準備が整えられていた。ライスシャワーが手に持っていたビート板をプールサイドに置き、そこにシルヴァーブレイズの頭部が乗せられる。そして、シルヴァーブレイズの側にリボンカプリチオがしゃがみ、両手を組み合わせて彼女の胸に当てた。
「行くよ! 1、2、3、4…!」
心臓マッサージを始めたリボンカプリチオの傍らで、ゴールドシップはシルヴァーブレイズに呼びかけた。
「ブレイズ! 戻ってこーい!」
《現在公開可能な情報》
シルヴァーブレイズのゲーム内ボイスの一部
(なお、CVは竹達 彩奈さんを想定してください)
(育成時のウマ娘との会話)
・Everything is practice. 何事も練習あるのみですね。さあ、本日のmenuのご指示を。
・What is not started today is never finished tomorrow. ゲーテ氏の名言ですわ。
・Use makes perfect. 理論を習ったらまず走ります。習うより慣れろ、ですわ。
・Stay hungry, stay foolish. 貪欲が成長の必要条件ですわ。
・Make hay while the sun shines. 鉄は熱いうちに打て、ですわ。鍛練も同じことですの。
(やる気が絶好調の際にウマ娘と会話)
・本日は天気晴朗、調子も良好。絶好の鍛練日和ですわ。さあ、やりましょう。
・Trainer さん、本日は何をなさいますか? 実のところ、一刻も早く身体を動かしたくて堪らないのですが…。
(やる気が好調の際にウマ娘と会話)
・準備運動良し。暖機運転は完了、いつでも指示をどうぞ。
・紅茶分の補充は完了、いつでも動けますわ。
(やる気が普通の際にウマ娘と会話)
・本日はどうしましょうか。
・鍛練のお時間ですね。……水泳だけはお手柔らかにお願いします。
(やる気が不調の際にウマ娘と会話)
・んー……何だか身体の動きが鈍いような……?
・……どうも少し雑念が入りがちですね。怪我しないように気を付けないと……。
(やる気が絶不調の際にウマ娘と会話)
・気分が乱れていますね……雨が降る夜のように……。
・すみません、鍛練より先に tea time にさせていただけませんか……?
(体力が一定以下の時にウマ娘と会話)
・Never give up とは言いますが、これはさすがに休養が必要ですわね……。
・I'm exhausted. ……Trainer さん、身体が重いです……お休みをいただいてもよろしくて?
(トレーニング成功時セリフ(勉強以外))
・承知しました。
・Roger that.
・よし、やります。
(トレーニング成功時セリフ(勉強のみ))
・Knowledge is power.
(トレーニング失敗時セリフ(勉強以外))
・やりすぎたかしら……。
(トレーニング失敗時セリフ(勉強のみ))
Too difficult to understand…….
見ての通り幾つか名言や格言が混じっています。
スピードトレーニング Lv.1×2→成功
パワートレーニング Lv.1×1→成功
根性トレーニング Lv.1×1→成功
スタミナトレーニング Lv.1×1→失敗(今ココ)
ゲーム流に表現するならこうですね。
なおこの後のイベントは、「お大事に!」ではなく「無茶は厳禁!」になります。
え、西郷トレーナーの同僚に何やら見覚えのある人がいる? はて、誰のことでしょうか?
トレーニング失敗で大変なことになったシルヴァーブレイズ。彼女の運命や如何に!?
なお、次回予告担当のシルヴァーブレイズが人事不省に陥ったため、今回の次回予告はお休みです。