皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
ここはいったいどこでしょう……私は確か、トレセン学園の pool にいたはずなのですが……。
私の目の前に広がっているのは、川辺の景色です。ええ、冗談でも何でもなく、幅50Mはありそうな川ですわ。深さは分かりませんが、流れは緩いですね。
空は晴れて青空が広がっており、白い雲がのんびりと流れています。川の周囲には手のひら大ほどの丸い石が無数に転がる川原と、丈の高い草が一面に生えた草原があります。
そして何故か、対岸の川岸から呼ばれているような気がするんですの。
ためらいながらも、私が川に足を踏み出そうとした、その時でした。
「ブレイズ! 戻ってこーい!」
ドンッ!
「!?」
いきなり、聞き覚えのある声が響いたと思った瞬間、見えない何かに胸を強く突き飛ばされ、私は仰向けにひっくり返りました。
次の瞬間には川辺の景色は消えて、一切見えなくなりました。その代わりに今目に映るのは、白い灯りが複数灯された天井らしきものだけ。
ドンッ!
「!!?」
突然もう一度、胸に強い衝撃を受けた、と思った直後に、喉の奥から大量の液体が押し寄せてきましたわ!
「ゲホッ! ゲホッ! ゴホッ!」
「よーし、戻ってきたな!」
激しく咳き込んで大量の液体を吐き出した私の耳に、さっき戻ってこいと言ったのと同じ声が聞こえました。というか、聞き覚えがあると思ったらゴールドシップ先輩の声じゃありませんか。
「はあっ、はあっ……はあーっ……」
口から大量の透明な液体を吐き出し、荒い息を吐いてからふと気付いてみると、ここはどうやら学園の pool らしいですわね。どうやら私、仰向けに寝かされていたようですわ。
「大丈夫か、ブレイズ?」
上から聞こえた声に反応してそちらを見ると、心配そうに私の顔を覗き込む trainer さんの顔がありました。いや、よく見ると見知った方々がみんなして、こちらを見つめております。
「ここは……私はいったい何を……?」
「おいブレイズ、大丈夫か? オメーさっき溺れて死にかけてたんだぞ?」
ゴールドシップ先輩にそう言われて、すっかり思い出しましたわ。
「では、さっき私が渡ろうとしていた川はいったい……?」
「川? っておい、そりゃ
ゴールドシップ先輩をはじめ、皆さんの顔が青くなりましたわ。
「良かったなブレイズ。その川に片足でも突っ込んだら、生きて帰れなくなってたぞ」
「それはどういう意味ですの?」
「オメーが見たその川は、たぶん三途の川だ。あの世とこの世の境目にあると言われる川で、片足でも突っ込んだら、この世には戻れない……つまり死ぬと言われる川だぜ」
ゴールドシップ先輩の説明で、どれほど危険な川だったかがよく分かりましたわ……。かなり危ないところでしたのね、私。
結局この日は、大事をとって保健室に泊まり込むことになりました。Trainer さんの話では、学園全体でみればこうしたことはちょくちょく起きているとのことです。……命を落としかける事態が「ちょくちょく起きている」訳ではないですよね……?
学園の食堂で夕食を済ませ、保健室にて宿題を済ませると、特にやることもなかったため私はすぐに寝ることにしました。照明の落ちた保健室で bed に潜り込むと、日頃の疲れが溜まっていたのか、割にすぐ眠りに落ちていったのですわ。
………。
……何でしょうか、この感覚。何かに、引っ張られているような…? …ん、感覚が止まった?
引っ張られていたということは、普通に考えれば私はどこかに連れ出されたということですね。どこへ連れ出されたのか……って、そういえば目を閉じたままでしたわ。
目を開けた瞬間、いきなり目に何かが飛び込んできました!
「!?」
冷たい…そしてこれは液体の感覚…? 目だけでなく、顔から頭から全身に粒らしい液体が当たっていること、ざあざあという音が聞こえることから、どうやら雨のようです。それも結構な大降り。
慌てて頭を横に振り、目に入った雨水を何とか振り飛ばしてからそっと目を開けてみると、周囲はほぼ完全な暗闇。そして足元に広がる土の感覚から考えて、どう考えても保健室などではなく屋外に私は来ていますね。
でもこんな雨の夜中にいったい何を…?
その時、叩きつけるような雨の音に混じって、シュッという小さな音が聞こえました。同時に、私の後ろの方が急に明るくなったのです。
音からして match でしょう。でも誰がそんなものを…?
そして振り返った私の目に飛び込んできたのは、私の後ろにしゃがむ男の姿でした。暗いので服装の詳細は分かりかねますが、若干太っているように見えます。左手に火のついた match を持ち、右手には…ちょっとお待ちくださいまし、その手に持っているのは knife の類ではありませんか! まさか私の脚にそれを突き刺そうとしてません!? 逃げなければ!
脚を動かそうとして…動かない!? なんで!?
ちらっと下を見ると、何かで両足が縛られています! 火で微妙に見える限りですと、あれは赤と黒の布…… scarf っぽい? 光の反射から見て、絹製でしょうか。
「悪いな、これも金のためだ」
呟くように言った男の声に聞き覚えがある、と思った時、match の灯りで男の顔が微かに見えました。それを見て全て思い出しましたわ。こいつは確か、調教師の…!
男の右手に握られた鋭角的な金属の輝きが、私のふくらはぎに迫る…!
「いやあぁぁぁぁぁーーっ!!」
「……はっ!?」
一瞬で景色が変化したことに、私の理解がしばらく追い付きませんでした。さっきまで雨降りしきる夜の屋外にいたはずなのに、今は明らかにどこかの室内としか思えない光景が眼前に広がっています。鳥のさえずる声が聞こえ、窓からは暖かい日光が差し込んでいます。
そこでようやく思い出しました、昨日私は保健室に泊まり込んだことを。ということは、今見えているのが現実の景色であり、さっきまでいた屋外は夢だったということですね。
「はあっ…はぁーっ……」
深呼吸して心を落ち着けます。
ひどい夢でした……それにしてもいったい何故、ウマ娘にとって第二の生命線とも言える脚を切られるなんて夢を見たのでしょうか?
もちろんながら、身体の具合はあまりよろしくないですね……これは今日以降の鍛練にも影響が出そうですわ。
早めに対処したいですが、どうしましょう……そうだ、教会で神に祈りを捧げてみましょうか。
思い立ったが吉日、という言葉もありますし…今日は礼拝の日ではありませんが、鍛練の前に少し出かけるとしましょう。学園から教会までの距離を考えれば、全力で走れば練習に間に合うはずですわ。
はぁ、はぁ……掃除当番をこなした後に全速力で走った結果、不調ながらも何とか計算通りにたどり着けましたわ。寮の部屋から新約聖書だけ掴んで飛び出してきましたが、これがあれば祈りは十分でしょう。
平日の昼下がりということもあってか、教会内に人気はかなり少ないです。落ち着いて祈りを捧げられるでしょう。
いつものように席に座り、膝の上に新約聖書を広げ、右手の指を伸ばして額→胸→左肩→右肩と動かして十字を切り、「主の祈り」の言葉を口にします。
「天にまします我らの父よ、願わくは御名をあがめさせたまえ。……」
祈りの言葉を唱えるうちに、意識が研ぎ澄まされるように集中していくのが分かります。
続いて、懺悔の祈りを口にします。
「あわれみ深い父なる神様、私の罪をお許しください。……」
本来 catholic と違って、protestant では告解の儀式はないのですが、己の限界を見誤ったのは明らかに私自身の罪でありましょう。ということで懺悔いたします。
「……救い主、イエス・キリストの御名によってお祈りします。Amen.」
略式も略式の祈りではありますが、神様はぴたりと向けられた祈りに対してはきちんと応えてくださるとされています。ならば、これでも十分ではないでしょうか。
静かに聖書を閉じ、席を立ちました。そして教会を出たところで…気付きました。身体が、軽くなった…?
明らかに、教会に入る前に感じていた身体の鈍さが、完全に消えています。早速願いが届いたのでしょうか…?
振り返り、教会の入り口に向かって静かに呟きます。
「神よ、どうか私をお導きください。イエス・キリストの御名によって祈ります。Amen.」
これで良し。鍛練の時間が迫っております…遅れる訳にはいきませんわ! 急がなくては!
「大地を駆ける、
そして私は、学園に向かって全速力で駆け出したのでした。
イベント「お大事に!」発生。
シルヴァーブレイズのやる気は不調になった
コンディション「練習ベタ」になった
スピードが10下がった
賢さが10下がった
イベント「保健室にて」発生。
判定失敗、バッドステータス「練習ベタ」回復せず。
イベント「神社でお祈り!」ならぬ「教会でお祈り!」発生。
判定成功、バッドステータス「練習ベタ」が治った
やる気が2段階上がって「好調」になった
ちなみにですが、保健室におけるシルヴァーブレイズの夢にはちゃんと元ネタがあります。成功判定になった場合の流れも含めて、分かる方にはすぐ分かるでしょう。
というわけで、短いながらまさかの悪夢2連発という回でした。ブレイズお前……大流星の「死兆星センサー」が自分自身に反応してないか…?
「全く、とんでもない夢を見ましたわ。今回ばかりはついてなかった、というべきでしょう」
今回も、の間違いじゃないのか? ナカヤマフェスタのベビーカステラで地獄を見ただろうに…。
「何のことやら分かりかねますわ。
さて次回、いよいよですわ……新馬せ、間違えました
次回『メイクデビュー戦と大流星』 更新は少しばかりお待ちくださいませ」