大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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日常回はなかなか筆が進まないのに、何故かレース回になるとやたら筆の進みが早い…!
思い切って本日2話め投稿です。



Act.013 メイクデビュー戦と大流星

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 さて、本日は皆様お待ちかね、ジュニア級メイクデビュー戦ですわ。私とサニーウェザーさんは、揃って出走することとなりました。場所は京都レース場。本日は曇天なれども風は無し。

 この時期から一斉に新人戦が始まり、各 team の trainer さんがいけると判断した方から順に出走してきますから、各地のレース場では複数回に渡って競走が行われます。サニーウェザーさんが第3R、私は少し遅れて第5Rでの出走です。

 第3Rは既に終了し、サニーウェザーさんがなんとかクビ差で1着を勝ち取りました。そして今から私、シルヴァーブレイズの debut 戦です。

 この一戦は、実は1つの分水嶺ですわ。ここで勝利できるか否かによって、運命が変わってくることも十分あり得ますの。ですが、私の覚悟は十分です。勝って参ります。

 

「緊張しているか、ブレイズ?」

 

 体操服に着替え終えて控え室で時間を待っていると、ちょうど応援に来た trainer さんが声をかけてきました。

 

「緊張? 多少はしていますが、ガチガチになるほどではありませんわ」

 

 私がそう答えると、trainer さんにくっついて来たゴールドシップ先輩が「みたいだな、表情とか固くねーし」と言ってきました。

 

「うん、ほどほどに緊張するのは良いことだ。ガチガチになりすぎるのも良くないが、全く緊張していないというのも(かえ)って良くないからね」

「仰る通りですわ」

 

 頷いたところで、trainer さんが「そうだ、レース前に3点、覚えておいてくれ」と言い出しました。

 

「何ですの?」

「まず1点目、今回のレースコースの特徴だ。芝2,000メートル、今日は雨も何も降ってない。ただ、一昨日が雨だったし、そこから曇ってばっかりだから、バ場状態は(やや)(おも)と見て良いだろう。それに、このレースコースは第3コーナー以外、ほぼ平坦なコースだ。第3コーナーの坂が勝負の分かれ目になる」

「つまり、誰にとっても走りやすいから、3rd corner をどう裁くかの実力勝負になる、ということですわね」

「その通りだ。次に2点目、今回出走するウマ娘たちの得意戦術のデータだ」

 

 そう言って、trainer さんは1枚の紙を差し出してきました。それには、出走バの名前と想定される戦術が書かれています。どうやら trainer さんが必死に情報を集めて分析して下さったようですわ。

 ふむふむ、先行が3人、私を含めて差しが4人、追込が2人ですか。Pace maker になりやすい逃げの方がおらず、先頭集団が先行ばかりで3人、後方集団が私を含めて6人になるということは、展開は2通り考えられますね。終盤までにらみ合いが多く、各ウマ娘が1枚の carpet で覆えるくらいに密集した race になるか、それとも先頭集団が掛かって縦長の展開になるか。そう考えれば、私の取るべき戦術は……

 

「ありがとうございます。頭に入りましたわ」

「うむ。最後に3点目、分かっていると思うが、レースは最初にゴールインした者の勝ちだ。過程はそこに問われない。だから、自分が得意だと感じる戦術で戦ってほしいし、レース中は常に冷静であってほしい。

そして…どんな結果になったとしても、できればあまり気にしないでほしい。初めての公式戦なんだ、誰でも多少なりとも緊張するものだ。だから結果がどうなるかなんて分からないし、これから取り返しなんていくらでもできるからな。俺からはこのくらいかな」

「委細、承知しましたわ」

 

 そこまで話が進んだところで、ふと時計を見上げるとそろそろ時間ですわ。ちょうど係員が呼びに来たところですし、paddock へ、そして本バ場へと行かなければなりません。

 

「時間になったな。頑張れよ、ブレイズ!」

「はい。それでは、シルヴァーブレイズ、行って参ります」

 

 激励を受け、私は応援に来てくださった皆さんに一礼してから、部屋を出てパドックへと向かいました。

 さっきの trainer さんの最後の言葉「勝負の結果はあまり気にしないでほしい」……あの言葉の意味は、よく分かります。あの trainer さんはウマ娘思いの優しいお方ですから、あんな表現を使ったのでしょうが、真意は分かっていますわ。「敗北という現実を受け入れろ、勝負の世界は厳しい」と、言いたかったのでしょう。

 そして、あの trainer さんは若くして「日本ダービー」を取った俊英ですから、おそらく外部からかかる期待は相当のものがあるでしょう。当然、その教え子たる私、シルヴァーブレイズにも、大きな期待が寄せられているだろうことは容易に窺えます。それを重責と感じる者も、いるでしょうね。

 しかし私に関する限り、心配は一切無用です。私は全て分かっていますし…必ず、勝ってきますから。

 

 

京都レース場 第5R ジュニア級メイクデビュー戦

芝2,000メートル(右・外) 稍重

1番 エンコーダー 差し 6番人気

2番 ミニパンジー 差し 9番人気

3番 トランペットリズム 追込 3番人気

4番 サンセットグルーム 先行 8番人気

5番 アップルシードル 先行 4番人気

6番 リボンマーチ 差し 2番人気

7番 アクアリバー 先行 5番人気

8番 シルヴァーブレイズ 差し 1番人気

9番 ミントドロップ 追込 7番人気

 

 

『注目の1番人気、8番 シルヴァーブレイズ!』

『いい感じに気合が乗っていますね。あの西郷トレーナーが送り出す新たな競走ウマ娘、どれほどの実力か楽しみですね』

 

 いざ paddock へ出てみれば、まあ予想はしておりましたが、私は1番人気に推されておりました。どうやら trainer さんの名声がおおよその原因のようです。それに加えて、私の外見も一因になっているでしょう。何というか、いろいろと目立つのでしょうね。《シリウス》の面々にも同級生にも、一瞬で顔と名前を一致させられましたし。

 まあ、それはそれで構いませんわ。1番人気に推してくださるというのなら、その期待に応えられる走りをしなければ。2位に6馬身くらいの差をつけて、ぶっちぎりで勝って差し上げますわ!

 ……それと、これは GⅠ race でも何でもなく、ただの新人の debut 戦だというのに、この観客の多さは何ですの……。休日だということを抜きにしても、席の少なくとも半分は、人で埋まっているではありませんか。

 皆さんそんなにお暇なのか、それとも何か目的があるのか……。まあ、今はそれは置いておきましょう。

 Paddock では、何かしらの performance をするのが暗黙の了解だと、先輩方は皆仰っていましたわね。でも performance と言われましても、何をすれば良いのやら……そうだ、アレにしておきましょう。

 軽く目を瞑り、指を真っ直ぐ伸ばして右手を持ち上げます。そのまま右手を額へ持っていった後、下に下ろして胸へ。それから左肩、最後に右肩と動かします。

 ご存じの方はすぐに気付いたかもしれませんが、そう、これは十字を切る動きです。

 以前にもお話しましたが、私は Christian ですの。その私にとって一番馴染み深い動作が、十字を切る動きでした。折角ですから、それを使いましょう。同時に祈りも捧げておきます。

 God bless me……神よ、我に勝利を!

 

 お披露目を終えた後は、薄暗い地下道を通って本バ場へ。Race start の刻は近いです。

 本バ場へ出た後は、発走までの僅かな時間を準備体操をしたりして過ごします。芝の感触を確かめてみると…ふむ、これくらいの重さなら、むしろ私にとっては軽いくらいです。もう少し重くても良かったですね。

 と言っている間に fanfare が鳴り響きましたわ。いよいよ gate 入り、そして race 開始の時間ですね。

 Fanfare が鳴り終わるのを待って、ゆっくり歩いて gate に向かいます。

 私の番号は、確か8番でしたわね。外側の枠番になったのが些か残念ですが、縁起が良いとされる数字、負けるわけには参りません。

 耳をすませば、実況中継を務める男性の声、そして解説役の男性の声が聞こえてきました。

 

『6月の曇り空の下、京都レース場で行われる第5レース、芝2,000メイクデビュー。空模様を反映してか、バ場発表は稍重となりました』

『雨が降ってきたら、難しいレースになってしまいそうですね。天気、()ってくれると良いですね』

 

 芝で「稍重」となりますと、実力は十二分に発揮できそうですね。……本当は rain battle ……つまり雨の日の競走が良かったのですけれど、お天気と運命は浮気者、仕方ありませんわ。

 

『3番人気はこの子です、3番トランペットリズム』

『2番人気を紹介しましょう、5番アップルシードル』

 

 人気ウマ娘の発表……私の知る範囲で言うなら、出走馬の名前が読み上げられている段階辺りですね。

 

『さあ、本レースの主役はこのウマ娘を置いて他にいない! 1番人気、8番シルヴァーブレイズ!』

『気合十分のようです、好レースに期待しましょう!』

 

 発バ機の中は狭いので観客席の方を向くことはできませんが、camera がこっちを見ていますから、おそらく席からはこちらが見えていますわね。右手を胸に当て、camera に向かって静かに一礼しておきましょう。

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました』

 

 さあいよいよ、start の時間ですわ。

 左足を後ろに引き、右足の股関節と膝関節を十分に曲げて、いつでも力を解放できるよう準備します。遥か彼方にあるはずの goal に注意を向け、すっと目が細くなるのが感じられました。

 絶対に勝つ……その心意気が、激しく燃えています。サニーさんは勝ちましたし、私も何としてでも勝たなければ。

 

 不意に、バタン! と音を立てて、正面の金網の gate が開きました。それに一瞬遅れて身体が反応し、芝生を蹴って前方へと駆け出します!

 

『スタート! 各ウマ娘、そろってスタートを切りました!』

『誰が先に抜け出すか、注目しましょう』

 

 わぁっ、という観客席からの歓声を背に、home stretch を駆け抜けていきます。

 競走が始まる前に、trainer さんは言っていましたわね。「レースは、過程は何でも良いから最初にゴールインした者の勝ちだ。自分が得意だと感じる戦術を使い、レース中は常に冷静であって欲しい」と。

 ならば、取るべき手段はただ1つですわ。序盤は後方に位置し、展開を観察しながら脚を溜めて進みます。そして最後の直線に入る直前辺りから溜めた脚を解放し、まとめてぶち抜く!

 

『先行争いは4番サンセットグルーム、5番アップルシードル、7番アクアリバー。

1番人気の8番シルヴァーブレイズは、後方に位置取りましたね?』

『レース展開を冷静に観察しているようです、何か戦略があると見えますね』

 

 何やら聞こえますが、まあ確かに戦略はありますわ。

 さて、ここからは競走に集中しないと。

 確か、3rd corner 以外は坂は特になかったですね。ならば、多少は大外に回っても大丈夫でしょう。重要なのは、脚の溜め方と位置取りですわ。

 最初は集団のやや後方外側に位置し、この position を保ちながら脚を溜めます。そして終盤、3rd corner を過ぎた辺りから少しずつ仕掛けてじりじりと前方に押し出し、4th corner を立ち上がる直前で全力解放、そのまま先頭に出て goal に飛び込む、という形でいきましょう。もちろん、流れは他の方の動きによって変わりますから、「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処」ということになるのでしょうけれど。

 っていけませんわ、この表現は何故か失敗する予感しかしませんの!

 

 最初の直線を通り過ぎ、右回りに最初の corner へ進入していきます。先頭争いはどうやら、7番アクアリバーさんがひとまず勝利したようですね。しかし、5番アップルシードルさんが、隙あらば前へ飛び出そうと狙っております。

 現在の私の位置は、9人中6番手。先行争いをしていた3人が先頭集団を形成し、残りの出走ウマ娘が後方集団となってこれを追っている形です。先頭集団と後方集団の距離は5〜6バ身、観察した限り前にいる皆さんは完全に掛かっているようですわ。そして後方集団の真ん中辺りに私がいる、ということですね。

 先頭との距離はざっと12バ身程度。およそ計算通りですわ。あと、先行集団の方はちょっとかかり気味のように見えますね。

 2nd corner を過ぎて、2番目の直線……「向こう正面」というらしいですね、そこに私たちは差し掛かりました。

 先行集団の様子を見る限り、最初の1,000Mにかかった時間はざっと1分ちょうどくらいでしょうか。新人戦にしては少し早い時計です、おそらく掛かっておりますね。ですがこれくらいなら、多少速度を上げてもある程度いけそうですわ。

 さて、もう少ししたら仕掛け時ですね。前方はというと、5番アップルシードルさんが抜き返して1着になっています。今のところ、ペースを作っているのは彼女ですね。その半バ身ほど後ろに、4番サンセットグルームさんと7番アクアリバーさんが続いています。ここで9番ミントドロップさんが動き、抜きにかかっていますが……仕掛けるタイミングが早いように思えます、ちょっと焦っているかもしれませんね。3番人気の3番トランペットリズムさんは、私のほんの少し後ろにいます。

 3rd corner に入る前に、少しずつ脚の回転数を上げ、小手調べに前にいる1番エンコーダーさんを外側から抜いておきます。

 いよいよ問題の 3rd corner 、坂がきついですね。明らかに失速している方も見えますが……この程度ならっ!

 3rd corner が終わり、坂を駆け降りて 4th corner へ。

 私の周囲には4人、大外はがら空き。先頭にいる5番アップルシードルさんまでの距離は3バ身、少し詰まりましたわね。しかも、アップルシードルさんは……いや、よく見ると、彼女だけでなく先頭集団の皆さん全員、脚の回転数が落ちてきています。さっきの坂もあって、どうやら疲労が出てきたかしら。

 よし、暖機運転は完了。行きますわよ!

 

 (とき)は来たれり、()(しつ)に火を入れよ。

 勝利は偉大な祖先のために。Course は短し走れよ私!

 燃え上がれ闘魂、脚を回せ!

「大地を駆ける、白銀色の(シルヴァー)大流星(ブレイズ)となれ!!」

 

 

 一方、こちらは観客席の最前列。チーム《シリウス》からは、トレーナーたる西郷秀明と、メジロマックイーン、ゴールドシップ、アップツリー、そしてさっき走ったばかりのサニーウェザーが、京都レース場に来ていた。ライスシャワーをはじめ他のメンバーは、レースが近いため学園で追い切りをかけている。

 

「トレーナーさん、ブレイズさんには何と言ってきましたの?」

 

 メジロマックイーンの質問に、西郷トレーナーは1つ頷いて答えた。

 

「他の皆にかける言葉と同じだよ。初めての公式戦で誰でも緊張はするものだから、どんな結果になったとしても落ち込むな、って言った」

「……やはり、トレーナーさんは優しいですわね」

「……何のことだよ」

「真に言いたかったのは、そういうことではないでしょう?」

「………」

 

 射抜くように真っ直ぐに放たれたメジロマックイーンの質問に対し、西郷トレーナーの返答はなかった。だが、やや視線を逸らす彼の仕草は、質問に対する肯定の意思を雄弁に物語っていた。

 

「やれやれ……たまには正直に言って良いと思いますよ? 『たとえハナ差でも負けは負け、レースの世界は厳しいものだ』と」

「そんなこと言って、変にプレッシャーかかって走れなくなったらどうすんだよ。ただでさえ俺は世間から注目されてるんだ、当然ブレイズに向けられる期待も相当なものになる。実際サニーも、かなりのプレッシャーを感じたって言ってたし」

 

 西郷トレーナーの隣で、サニーウェザーがぴくりと耳を動かして頷いた。

 

「そこにさらにプレッシャーをかけるなんてできるもんか」

「それはそうですわ。ですがシルヴァーブレイズさんに限って、プレッシャーに萎縮することはないと思います。あの子は時々、驚くほど聡明なところを見せてきますから、おそらくトレーナーさんの真意も分かっているのでは?」

 

 実際、以前にチーム練習の中で併走トレーニングをしてみた時、メジロマックイーンはシルヴァーブレイズの後ろにライスシャワーとゴールドシップをへばり付かせた。これでマークされた時の走りの練習をしようと考えたのだが、シルヴァーブレイズは何の説明も無しに一瞬でマックイーンの狙いを見抜き、ジュニア級の身体で無理をしない範囲でではあったが見事にトレーニングをこなしてみせたのである。サニーウェザーは掛かってしまったというのに。

 

「……まさか、な」

「ブレイズさんのカンは、あまり侮らない方がよろしいと思いますよ」

 

 マックイーンがそう言った時、ゲート入りのファンファーレが鳴り響いた。

 

『6月の曇り空の下、京都レース場で行われる第5レース、芝2,000メイクデビュー。空模様を反映してか、バ場発表は稍重となりました』

『雨が降ってきたら、難しいレースになってしまいそうですね。天気、保ってくれると良いですね』

 

 シルヴァーブレイズは、見る限りかなり落ち着いた様子でゲートに入っていく。

 

「あいつ本当に初めてのレースか? 心ん中で念仏でも唱えてんじゃねーのか?」

 

 ゴールドシップが呟くように言った。

 実際、シルヴァーブレイズの落ち着きぶりは初めてのレースを迎えるウマ娘にしては珍しいくらいである。明鏡止水、まるで何も感じていないかのようだ。

 

「ブレイズちゃん、頑張れ…!」

 

 拳をぐっと握ったサニーウェザーがそう言うと同時に、ゲートが開いた。一斉に9人のウマ娘たちが駆け出していく。

 

『先行争いは4番サンセットグルーム、5番アップルシードル、7番アクアリバー。

1番人気の8番シルヴァーブレイズは、後方に位置取りましたね?』

『レース展開を冷静に観察しているようです、何か戦略があると見えますね』

 

 今回もシルヴァーブレイズは、後方脚質を選択したらしい。

 

「選抜レースの時と同じですね。ですが、今回は出遅れなかったみたいです」

 

 メジロマックイーンがそう言った。

 

「確かにな。ただ、ブレイズはやはりまだスタートが上手いとは言えない。まだ課題が残っているな」

 

 西郷トレーナーがそう評するうちに、先行する3人が飛ばし、それをシルヴァーブレイズを含む6人が追いかけるという流れが出来上がった。その流れを観察することしばし。

 

『順位を振り返っていきます。

現在1番手は7番アクアリバー、5番アップルシードル並んでくる。

内から内から! 4番サンセットグルーム。

5バ身離れて9番ミントドロップ。

1バ身後方、2番ミニパンジー。

2バ身差1番エンコーダー、その外側に8番シルヴァーブレイズが並んで、後方2番手に3番トランペットリズム。

6番リボンマーチが最後方といったところであります』

『前後が大きく開いた、縦長の展開になっていますね。後方のウマ娘たちは差し返せるでしょうか』

『1,000メートルのタイムは59秒8と出ました。どうでしょうこの展開?』

『前が掛かっているかもしれませんね。このままハイペースで流れる展開もあり得ます。誰が勝つか、読みにくくなってきました』

 

 実況放送を聞いて、アップツリーが気付いた。

 

「トレーナー、何か速くない?」

「ああ、新人のデビュー戦にしては速い。おそらく前の3人が競い合った結果、互いに意地の張り合いになって掛かってしまったんだろう」

「そうなりますと、後半にブレイズさんが逆転する可能性もありますわね」

 

 メジロマックイーンがそうコメントする頃には、レースの隊列はいよいよ「淀の坂」を登っていくところである。そして第4コーナーへ差し掛かったところで、実況が叫んだ。

 

『間もなく第4コーナーカーブ、まだ動きは少ない……おおっと、ここで8番シルヴァーブレイズが動いた! 大外からじりじりと押し上げていく!』

 

 

 下り坂の途中から仕掛けてみましたが、この感じならいけますね。このまま大外へ持ち出しつつ、脚の回転数を最大まで引き上げ、一気にまとめてぶち抜く!

 

『さあいよいよ直線だ! どのタイミングで誰が仕掛けるのか!

残り400、最初に立ち上がったのは5番アップルシードル、差がなく9番ミントドロップ。7番アクアリバーが並んで三つ巴の争いですが! 外から8番シルヴァーブレイズが来たっ! なんという末脚だ、前方のウマ娘たちをごぼう抜き!』

 

 皆さんも苦しいようですね、脚が鈍っている様子が見て取れます。同じように、私の脚も重くなってきていますわ。

 しかし、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと申しますの。手加減はありませんわ!

 もう誰も、私の前にはおりません。後はこのまま全速力で走り、goal に飛び込むだけ!

 

『8番シルヴァーブレイズ、先頭に並ばない! かわした、完全に抜け出した! 速い、速い!

8番シルヴァーブレイズ、リードは1バ身! 後続のウマ娘たちは捕らえられるか!?』

 

 蒸気機関車が汽笛を鳴らし、速度を更に上げる画像が脳裏に浮かびました。これはキてますわ!

 

『200を通過!

先頭は変わらず8番シルヴァーブレイズ、リードは2バ身に拡大! 3番トランペットリズム食い下がる、しかし距離が縮まらない!

8番シルヴァーブレイズ、脚色は衰えない! 2番手以下を完全に突き離して、今、1着でゴールイン!』

 

 派手な赤系の色に塗られたゴール板が、右の視界を掠めて後ろへ吹っ飛んでいきました。競走は終わったようですわね。

 脚の回転数を減らし、少しずつ速度を落としていきます。高速で走っていたことで狭くなっていた視界が、戻ってきました。息が大分上がっておりますね……まだまだ鍛練が必要ですわ。

 さて、1着は確実と思いますが……一応 monitor を見てみましょう。

 完全に立ち止まり、右手を胸に当てて呼吸を落ち着けながら monitor を見上げると……ちょうど結果が出たところでした。「確定」の赤い表示が出ていますわね。

 

『勝ったのは8番、シルヴァーブレイズ! 期待に違わぬ強さでレースを制した! 次のレースが今から楽しみです!

2着、3番トランペットリズム! 3着は6番リボンマーチ!』

 

 2着との差は4バ身。流石にかの Eclipse のような、2着との差が10バ身以上なんてことはできませんでしたし、6馬身勝利ともいきませんでしたが、それでも完全勝利の域ですわね。

 応援してくださった皆様、そして私の走りをご覧になりました皆様、本当にありがとうございました。その意志を込めて、まずは観覧席に手を振った後、深々と一礼させていただきます。

 そして神よ、我に勝利をお与えくださり、ありがとうございました。もう一度十字を切り、感謝を捧げます。

 さて、この後は確か winning live でしたわね。何故 race 後に winning live なのかは、いまいちよく分かりませんが……これが掟だと言うのなら、郷に入っては郷に従え、ですわ。Live の練習はしてありますし、最後まで努めさせていただきます。

 

 

「すごーいブレイズちゃん! 後ろをあんなに離して勝つなんて…!」

 

 シルヴァーブレイズが先頭でゴールした直後の観客席。手すりから身を乗り出し、サニーウェザーがキラキラした瞳をターフに向けている。アップツリーも、シルヴァーブレイズの勝利を喜んでいた。

 その時、ゴールドシップは気付いた。西郷トレーナーが無言で震えていることに。

 

「おいトレーナー、どうしたんだよ? 頭ん中ボルケーノエクスプロージョンでもしたか?」

 

 この質問に、西郷トレーナーは絞り出すような声で答えた。その右手にはストップウォッチが握られている。

 

「……なんだ」

「ん?」

「不安なんだ…」

「何がだよ?」

「俺は確かにダービートレーナーにはなったが、自分の経験の量や年齢から考えてまだ新人、良くて中堅トレーナーってとこだ。そんな俺で、果たしてあの子の真価を引き出して目一杯活躍させる手伝いができるんだろうか、って…」

「は…?」

 

 そうは言ったものの、ゴールドシップはすぐに気付き、ストップウォッチを覗き込んだ。そして。

 

「おいおい嘘だろ、これアイツのタイムかよ!?」

 

 思わず声を上げてしまう。他の面々も、次々とストップウォッチの示す数字に驚愕を禁じ得なかった。

 

「え……これヤバくない?」

 

 アップツリーが顔をひきつらせる。

 

「えっとトレーナーさん、私のタイムって35秒2、でしたよね…?」

「あぁ、そうだ」

 

 震え声で尋ねたサニーウェザーに、西郷トレーナーはそう答えるしかなかった。

 そして最後にストップウォッチを覗き込んだメジロマックイーンが、目を真円まで見開く。

 

「さ、34秒1…? 上がり3F、34秒1…?

前回より500メートル短くなって最終直線に急坂がないとはいえ、なんで1秒以上も縮まってますの…?」

 

 もちろん、このレースの全出走ウマ娘の中で最速の上がり3ハロンのタイムである。

 

 

(レース結果)

京都レース場 第5R ジュニア級メイクデビュー戦

芝2,000メートル(右・外) 稍重

1着 8番 シルヴァーブレイズ タイム2.04.7

2着 3番 トランペットリズム 4バ身差

3着 6番 リボンマーチ 1/2バ身差

4着 7番 アクアリバー クビ差

5着 4番 サンセットグルーム ハナ差

6着 1番 エンコーダー 1バ身差

7着 5番 アップルシードル 1/2バ身差

8着 9番 ミントドロップ アタマ差

9着 2番 ミニパンジー クビ差

 

 

「お疲れさん、シルヴァーブレイズ。上手くやったな」

「サニーさんが頑張って勝ってましたので、私としても負ける訳にはいかないと思いまして」

 

 競走を終えて観客席の方に近付くと、最前列で trainer さんと《シリウス》の皆さんが待っていました。Trainer さんが声をかけてきましたので、偽らざる本音をお答えしておきます。

 

「お疲れブレイズちゃん! 今回もすごい走りだったよ…!」

 

 サニーさん、褒めてくれるのは良いのですが、何故少し顔がひきつってますの……?

 

「やっぱり、アタシの見込んだ通りだったぜ! あん時無理にでも連れてきといて良かった!」

 

 ゴールドシップ先輩、喜んでくれるのはよろしいのですが、あの誘拐同然の勧誘方法はもうちょっとどうにかならなかったんですの……?

 

「よーし、サニーも勝ったことだし、今日はトレーナーの奢りで打ち上げだー!」

 

 Trainer さんが苦笑いしてますわよ、ゴールドシップ先輩。

 

「パフェも追加でお願いしますわ!」

 

 そしてマックイーン先輩!? どうしてさらっと乗っかってますの!?

 というより、前から思っておりましたが……マックイーン先輩、甘いものがお好きですね。その……あまり言いたくはありませんが、体型と体重の維持に苦労しておられるのでは?

 

「ゴールドシップ先輩? 打ち上げはよろしいのですが、winning live が終わってからにしてくださいまし」

「あったりめーじゃん! オメーのライブ見逃すなんて、絶対ありえねーよ!

ブレイズの声やたら綺麗だし」

「っ!?」

 

 いけません、ゴールドシップ先輩が唐突に褒めてくれましたので、動揺してしまいましたわ。

 

「ブレイズ、顔赤くなってるよー?」

 

 そしてそこで突っ込んでこなくてよろしいんですの! アップツリー先輩!




《現在公開可能な情報》
シルヴァーブレイズのゲーム内ボイスの一部

(目標レースターンでやる気が絶好調の際にウマ娘と会話)
・私が半 furlong 走る間に願い事を3回唱えてくださいまし。きっと、叶いますわ。
・見ていてくださいまし、trainer さん。大流星(ブレイズ)の名に恥じぬ走りで、勝利を手にしてまいります。
・神よ、我に勝利を、さもなくば死を与えよ! God bless me! Amen.(言い終えた後、十字を切る特別モーションが入る)

(目標レースターンでやる気が好調の際にウマ娘と会話)
・気分良し、体調良し……ふむ、何も問題ありませんわ。紅茶もいただきましたし、勝ちにいきましょう。
・本日は天気晴朗なれども芝重し……なんて言いません。勝ちにいくだけですわ。
・枠順も決定済み、鍛錬は十分、やる気もある。賽は投げられた……あとは勝つのみ。

(目標レースターンでやる気が普通の際にウマ娘と会話)
・ちゃんと鍛えてきましたし、あとは鍛錬の成果を示すだけですわ。
・Target is in sight. Shoot!
・準備運動良し、対戦相手の確認良し。いつでも戦えますわ。

(目標レースターンでやる気が不調の際にウマ娘と会話)
・うーん、何だか嫌な予感がしますね……発走前にもう一度、戦略を見直しておこうかしら。
・勝利か、完走か…… To win or not to win, that is a big question.
・ちょっと不味いかもしれませんね……紅茶を1杯、いただくとしましょうか。

(目標レースターンでやる気が絶不調の際にウマ娘と会話)
・身体がきつい……とりあえず、完走することだけ考えさせていただいても、よろしいでしょうか……。
・怪我をしないように……。神よ、どうか私を守りたまえ……。
・むしろ考え直すべきか……この状態で走って勝てば、偉大な祖先に並び立つ1歩になり得る、と……。

(レース出走)
・シルヴァーブレイズ、行ってまいります。

(スキルのボイス再生(短縮版))
・大地を駆ける、白銀色の(シルヴァー)大流星(ブレイズ)となれ!

(スキルのボイス再生(ロング版))
・貴方にとって、私は何者ですか? 希望の願い星? 絶望の死兆星? さあ、Last Judgementです!

(レースで1着)
・神よ、勝利の恩寵に感謝いたします。(GII以下)
・これでまた1歩、偉大な祖先に近付けますわ。(GI、URAファイナルズ等)

(レースで2着)
・あと1歩及ばず……次は負けませんわ。

(レースで3着)
・まだ力不足と申されますか、神よ。ならば捲土重来を!

(レースで4〜5着)
・ご先祖様に合わせる顔が…… revenge は果たします。

(レースで6着以下)
・くっ……神よ、我に試練を与えたもうたか……。


育成目標「ジュニア級メイクデビュー戦に出走」達成。
以下の育成イベントを視聴しました。
「メイクデビューに向けて」
「目標達成:大流星、始動」


というわけで、シルヴァーブレイズのメイクデビュー戦でした。
若くしてダービーまで取った優秀なトレーナーの教え子となれば、その背にかかる期待は相当に重くなるでしょう。そのプレッシャーに負けることなく、見事に勝利を収めてくれましたね。今後が楽しみです。

「作者さん、次回予告いっても大丈夫ですか?」

あ、話しすぎた。了解、サニーよろしく!

「はい!
緊張のメイクデビュー戦終わり……ブレイズちゃん速かったな……。でも、まだ緊張を解いちゃいけないですね。だって、レースの後に必ずやる大事なことが、残ってるんだから!
次回『初ライブと大流星』 更新は少し待っててね」
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