大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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メリークリスマスです! クリスマスという冬真っ只中のイベントの時に、夏の競走の話をするのもどうかと思いますが…。
それはともかく、阿寒湖特別、いよいよ決着。



Act.017 北の地から愛を込めてーーWelcome to Lake Akanko.(後編)

 皆様ごきげんよう、シルヴァーブレイズですわ。

 ただいま競走中につき、すみませんが挨拶は最低限度で!

 

「……!」

 

 序盤の位置取りは成功です。少々強引に割り込む形になりましたが、どうにか3~4番手を確保できました。今から第1 corner へ進入しようという辺りです。

 久しぶりの長距離走、しかもどこか懐かしい感じの芝の上とあって、なかなか気分が昂っておりますね……油断はなりません、こういう時にこそ冷静さを保たなければ。

 現在の私の位置は4番手。先頭で2番イマジンサクセスさんが逃げており、そのおよそ1バ身後方やや外側から5番のジパングアプローズ先輩。その後ろに、私と11番の…名前は存じませんが発走前に私に喧嘩を売ってきた方が並んでいます。私が内側ですね。

 ちらりと後ろを振り返ると、私たちから5バ身ほど離れて後続集団が続いています。おそらくオボロイブニングさんも、あの中にいるのでしょう。

 位置関係が分かったところで、いざ作戦開始ですわ!

 第1 corner に差し掛かる直前、左に並ぶ11番の方に、発走前の無礼に対する返事をしておきます。体当たりという形で!

 ドシンと左肩に鈍い衝撃。…むぅ、さっき仕掛けた時にも感じましたが、やっぱり相手の方は小揺るぎもしませんね。そこは流石の体格差と言う他ありません。まあ良いです。私の狙いは別にありますので!

 

「……!」

 

 こちらを睨み付ける11番の方。その耳に、何とか聞こえる程度の小さな声でボソッと一言。

 

「バカメ」

「…! この生意気な…!」

 

 一気に膨れ上がる11番の方の殺気。結構効いたようですね。ニンマリ笑いを送って怒りの火に油を注いだ後、素早く内ラチに視線を送ります。

 短距離走においては、出し得る最高速度だけ考えればよろしいかもしれません。しかし、長距離走においてはそうはいきません。体力から何から、様々な要素を計算しなければ勝てないのです。

 うちの trainer さんはこう仰っていました。「長距離レースは、頭脳の勝負になる」と。何でも trainer さんの師匠の、そのまた師匠からの受け売りだそうです。体力管理、掛かり防止、針路選択その他あらゆる要素を総合すると、長距離走は頭脳の勝負になる、だそうです。

 私個人としては、これは真理だと思いますわ。なので、競走中は常に冷静であることが求められると思います。

 では、冷静さを保つにはどうすれば良いか? 自身では冷静なつもりでも実際には掛かっている、なんてのはよくある話です。ならばすることはただ1つ、「自身の速度を推し測れる指標を作っておく」こと。

 でも、そんなのどうやって作れば良いのか……内ラチの支柱を数えたら、速度を計算できるでしょうか。ただ、通りすぎる速度が速すぎるような気がします。あの紅白の棒は確か200Mごとに立っていますから、それを使ってみるのは有効でしょう。

 そんなことを考えていた時、左肩に強烈な衝撃! おかげでちょっと内ラチ側に弾き飛ばされました。さっきの方のやり返しですね、痛い……。

 ……やられたらやり返す。倍にする必要はない、ただ「敗北」という結果だけ突きつけてやれば良い。

 ただ、もう少し冷静さを奪っておきたいですね。"仕掛け所"までにさらに煽っておくとしましょうか。

 

 

『涼やかな風を肌に感じる札幌の地、風のようにウマ娘たちが駆け抜けていきます。先頭は変わらず2番イマジンサクセス、1,000メートルのタイムは58秒1と出ましたが、果たしてどうでしょうか?』

『流れがかなり早いですね。冷静さを保てるかが勝負の鍵ですよ』

 

 観客席にて実況と解説のやり取りを聞きながら、メジロマックイーンは言うに言われぬ違和感を抱いた。確かに条件戦、それも2,600メートルにしてはペースが早い。

 

(何故でしょう……。ここまで早いと、スタミナが切れて末脚を使えない可能性が高いのに……)

 

 メジロマックイーンがそう考えていた時、隣に座る男性…チーム《ラス・アルゲティ》の()() (ぜん)()(ろう)トレーナーが声を上げた。

 

「気付いたか、マックイーン?」

「何がです?」

「デバフかかってるぞ」

 

 レース中にウマ娘が取る戦法は、主に2つある。1つは、自分自身の持つスキルを活かして走ること。もう1つは、「他の出走ウマ娘を弱らせる」戦法である。この弱らせる戦法がデバフ戦法と呼ばれる。

 デバフ戦法の分かりやすい例は、レース中に相手を煽るような言葉を掛けたり、相手のすぐ後ろにぴったりと付けたりして相手のペースを無理やり上げさせる方法だ。相手を掛からせることでスタミナを消費させ、末脚を使えなくして蹴り落とすというものである。他にも、相手の冷静さを奪って位置取りを誤らせ、バ群に引っ掛けて撃沈させるなんて方法もある。

 双眼鏡でコースを見渡し、メジロマックイーンはすぐに気付いた。全体的なペースの早さの原因に。

 

(あれは……!)

 

 シルヴァーブレイズだ。彼女の口元が微かに動くと、隣を走るウマ娘が前に出ている様子が見られたのだ。それに、明らかに身体をぶつけるラフプレーをやっている場面すら見られた。

 

(ブレイズさん……まだ条件戦のランクなのに、もうそんなテクニックを……!?)

 

 他のウマ娘に対するデバフ戦法自体は、決して反則ではない。だが、自分自身のペースを保ち、同時にどれほど過酷なレースでも冷静な判断ができるだけの余裕を残しておかなければ、デバフ戦法を仕掛けるのは困難だ。

 自分のペースを管理し、なおかつ他者の状況まで推測できるだけの観察力・判断力、それらを元に適切な戦術を弾き出す発想力、弾き出した戦術を迷わず実行できる胆力。それら全てがなければ、デバフ戦法は仕掛けられない。

 だというのに、シルヴァーブレイズはそれをやってのけている。しかもまだジュニア級のウマ娘だというのに!

 シルヴァーブレイズが仕掛けたデバフ戦法により、ペースはかなり早いものとなっている。無理やり速度を上げさせられたせいで、先頭付近のウマ娘たちはスタミナの消耗が激しいはずである。また後方集団も、無理やり引っ張られたせいで焦って早めに動くウマ娘が続出し、ペースが乱れているようだ。おそらく、自分のペースを保って走っているのはシルヴァーブレイズだけだろう。

 

「こりゃあ、ブレイズがバチコリやってんのが原因か? プレッシャーに当てられて、逃げの連中が掛かったらしいな。そして後続も釣られて、早めに仕掛けてしまっている……大荒れだな」

 

 千田トレーナーがそう呟いた。

 実は、シルヴァーブレイズとジェラシアスが殺気を撒き散らしてやり合ったおかげで、前にいたイマジンサクセスとジパングアプローズが強烈なプレッシャーをかけられて掛かってしまったのだ。イマジンサクセスは殺気を振り切ろうとして、ジパングアプローズはそんなイマジンサクセスを射程圏内に収め続けようとして、2人が無意識に速度を上げた結果、先頭集団と後方集団が大きく離れてしまったのである。

 そして後方集団でも、前方との距離に焦りを感じたウマ娘たちが早めの仕掛けを展開。そのためレースのペースが大きく乱れてしまっていた。

 

(何なんですのこれ……ここまで来ると、一周回って可哀想にも思えますわね……)

 

 メジロマックイーンがらしくない考えを抱いている間に、レースは第3コーナーへ入るところである。

 

 

 もうすぐ第3 corner に入りますわね……残り600と少々、仕掛けるとしたらこの辺からですわ。

 先頭を走ってるイマジンサクセスさん、少しずつ頭が上がってきてますね…体力がなくなってきていますわ。もうじき失速するでしょう。では手始めにご挨拶を…と!

 外側に出るふりをして、左側にいる11番…競走前に私を威嚇してきた方に、もう一度軽く体当たりしておきます。それと同時に相手の目を見て、ニヤッと笑いかける……「小生意気なガキ」を演じるために。

 

「…ッ! こんの、舐めてんの!?」

 

 相手の身体から噴き上がる殺気…おぉ怖い怖い。でもこれで、気配だけでも11番の方の位置は分かるようになりました。なのでそっちは完全に無視して、前方にいるイマジンサクセスさんとジパングアプローズ先輩の方に注意を向けます。お隣との距離を気配で測りながら、イマジンサクセスさんの耳がしなだれ頭が上がりきるその瞬間を捉えて……ここです!

 左隣の殺気が極大に達するその直前、踏み込んだ左足に満身の力を込めて芝を蹴り飛ばし、一気に前に出る!

 

「うわ!?」

 

 背後から微かに聞こえる悲鳴…あの方はどうやら、私に体当たりを返そうとしたみたいですね。ですが、当たる直前に私が加速したので空振りしたようです。

 体当たりは進路をこじ開けるのには使えますが、欠点があります。走る姿勢を崩さねばならないので、使い(どき)(たが)えると自滅してしまうのです。姿勢を崩したあの方は、もう勝手に沈んでくれるでしょう。そんなのは放っといて、失速したイマジンサクセスさんと、ジパングアプローズ先輩の間にできた隙間に身体をねじ込む! チビにはチビなりの利点があるのです!

 

「なっ!?」

 

 先輩の驚愕を聞き流した時には、もう私の前には緑の芝しか見えていません。まだ体力には余裕がある。さあ、あとは全力で駆け抜けるだけ!

 

(とき)は来れり、()(しつ)に火を入れよ。

勝利は偉大な祖先のために。course は短し走れよ私!

燃え上がれ闘魂、脚を回せ!

「大地を駆ける、白銀色の(シルヴァー)大流星(ブレイズ)となれ!」

 

 

 

 先頭の2番イマジンサクセスが失速し、代わって前に出た5番ジパングアプローズが「6」と書かれたハロン棒を通過した瞬間、一気に白銀色の風が噴き上がってきた。…ただし、大外ではなく内側から。

 

『さあここで先頭は5番ジパングアプローズ、いや! 10番シルヴァーブレイズが仕掛けた! このまま一気に差しに行くのか!?』

 

 スタミナが切れかけているウマ娘たちを衝き、シルヴァーブレイズが一気に前へと飛び出した。そのまま先頭で第4コーナーに入っていく。

 しかも、シルヴァーブレイズの抜き方が尋常ではない。最内で粘っていたイマジンサクセスがスタミナ切れで失速し、ジパングアプローズとの間が開いたその瞬間に、稲妻のごとき末脚を一閃させて内側から追い抜いていったのである。失速のタイミングを狙っていたのだとしても、そんな際どい隙間を潜ろうと考えるだけの発想力といい、それを躊躇なく実行する勝負度胸といい、隙間の広さを正確に把握する空間認識能力といい、只者ではない。

 

「「嘘でしょう(だろう)!?」」

 

 メジロマックイーンと千田トレーナーの驚愕の叫びが重なった。まさかそんな方法で壁を突破してくるとは、思わなかったからである。

 

『さあウマ娘たちが第4コーナーへと入ってきます!』

『どんな結果が待っているか、目が離せません!』

『まだ差がある、ここから先頭を捉える子は出てくるのか!?

400を切って、先頭を駆けるのは10番シルヴァーブレイズ、リードを2バ身3バ身取る!』

 

 後続のウマ娘たちが必死に追いすがるが、シルヴァーブレイズはぐいぐいと相手を引き離していく。まだスタミナが十分残っていると見られ、その末脚は明らかに他のウマ娘のそれを凌いでいた。

 「マジかよ!?」と千田トレーナーが驚く。

 

『10番シルヴァーブレイズ、速い速い! もはや独走状態!

残り200! シルヴァーブレイズ強すぎる、リードは5バ身! ジパングアプローズ追走、内からプライムシーズン、外からマイトリート、リードサスペンス突っ込んでくるが2番手まで! 先頭はシルヴァーブレイズ、変わらない!

10番シルヴァーブレイズ、堂々1着ゴールイン! 他の追随をまるで許さない、大楽勝でした!』

 

 実況の言葉通り、6バ身もの差をつけたシルヴァーブレイズは悠々とゴール板の前を駆け抜けていった。ほぼ勝ちは決まっていたであろうが、最後まで手を抜くことはなかった。「ウサギとカメ」の寓話を例に挙げるまでもなく、勝負は最後まで何が起きるか分からないからである。喜ぶのはゴール板を通過してからだ。

 

「ともかく、これで勝ちですわね。良かったですわ……」

 

 掲示板の1着の欄に「10」と番号が表示され、続けて「確定」の文字が出るのを見て、メジロマックイーンは安堵の息を吐いた。その隣で千田トレーナーが頭を抱える。

 

なんてこった(マンマミーア)……誤算だったな。ブレイズの素質を侮ったつもりはなかったが、まさかこうも圧勝とは……」

 

 しかし、それも一瞬のこと。千田トレーナーはすぐに両手で頬をぱしんと叩き、いつもの明るい顔に戻った。

 

「マックイーン」

「何でしょう?」

西(さい)(ごう)の奴に伝えといてくれ。ブレイズはやはり無敗三冠取れる素質がある、ただし道は険しいぞ、ってな」

「え? …はい!?」

「じゃ、俺はこれで。イブを慰めてくるわ」

 

 すたすたと立ち去った千田トレーナーの背中を、メジロマックイーンは呆然と見送るしかなかった。その耳に、「素晴らしいですっ!」という奇声が届く。

 

(あれは、「月刊トゥインクル」の乙名史記者…?)

 

 どうやら取材に来ていたらしい。びっしりと文字の書かれたメモ帳を手に、「早く記事にしなければ!」などと言いながら立ち去っていく。

 シルヴァーブレイズはというと、ウィナーズ・サークルにて勝者インタビューに答えている。ついでに応援に来ていたファンの人々に笑顔で手を振り、さらに即席の握手会までやって愛嬌を振り撒いていた。

 その一方、実況者は興奮した様子で声を上げ続けていた。

 

『何という強さ! 今でも信じられません!

クラシック最後の一冠を狙う上がりウマ娘たちを、全く寄せ付けませんでした! この娘こそ、来年のクラシック戦線の主役となるのでしょうか、シルヴァーブレイズ!』

 

 

8月2日 札幌レース場第9R

2勝クラス条件特別競走「阿寒湖特別」

芝2,600メートル 右・良

 

結果

1着 10 シルヴァーブレイズ 2,41,0

2着 8 リードサスペンス 6

3着 7 プライムシーズン 1

4着 9 マイトリート アタマ

5着 6 アレイキャット 1/4

 

 ちなみにジェラシアスは7着。そして、千田トレーナーのいう「イブ」ことオボロイブニングは、完全に道中の競り合いで掛かってしまい、スタミナが尽きてブービーの11着に大敗してしまった。ついでにいえばイマジンサクセスもスタミナ切れで撃沈し、オボロイブニングよりさらに遅れて12着の最下位入線である。

 何というか、総じて力の差がくっきり浮き出る結果となってしまった。

 

◆◇◆◇

 

 数時間後、すっかり陽の暮れた札幌市。

 第9Rと発走が遅かっただけあり、シルヴァーブレイズのウイニングライブはすっかり遅くなってしまった。ファンの方々も大分待たされた…はずであるが、皆元気そうである。

 いつもなら、条件戦のライブ曲は「Make debut!」なのだが、出世レースと言われる「阿寒湖特別」のウイニングライブは、違う曲を踊ることになる。気分を一気に盛り上げてくれるような、トランペットの勇壮な前奏が鳴った後、センターを担うシルヴァーブレイズが美しい歌声を響かせ始めた。

 

 

♪キミと夢をかけるよ 何回だって勝ち進め 勝利のその先へ!

 

 

 そう、「ユメヲカケル!」である。

 

(懐かしいですわね、この曲は……)

 

 観客席に陣取りサイリウムを振りながら、メジロマックイーンは昔のことを思い出していた。かつてマックイーンは、トウカイテイオーやナイスネイチャと共にしばしばこの曲をライブで歌っていたものである。

 

(あの頃に戻りたい、というのは山々ですが…仕方ないですわね)

 

 かつてを懐かしむ名優の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

 

 同時刻、東京都府中市。

 チーム《シリウス》のトレーナーたる西郷 (ひで)(あき)は、チーム練習の記録を打ち終えた後、トレーナー室のPCを操作していた。検索エンジンを立ち上げ、「阿寒湖特別」と打ち込んでエンターキーを押す。弾き出された検索結果の上でカーソルがネズミのように素早く動き、あるサイトをダブルクリックした。

 それは、レースにおける各種の記録を記したサイトだった。もちろん、今年の阿寒湖特別の記録もある。それを画面に表示した直後、西郷トレーナーの視線が固まった。

 

「嘘だろ…?」

 

 西郷トレーナーも、既にメジロマックイーンからレース結果を聴いている。従って着差は気にしていなかった。問題は別のことである。

 

「上がり3ハロンが、34秒0だと…!?」

 

 それが、今回のレースにおけるシルヴァーブレイズの末脚である。

 リードサスペンスが33秒8というタイムを出しているため、最速ではない。だが、それに次ぐ強烈な末脚だ。ちなみにリードサスペンスは、後方から追い込む戦法を取ったため、気付いた時にはシルヴァーブレイズにセーフティリードを取られてしまっていたのだ。そのため最速の末脚を以てしても、追い付けなかったのである。

 

「しかも、メイクデビューより0.1秒速い……」

 

 起伏のない札幌レース場とはいえ、レース距離が600メートルも伸びているのに、上がり3ハロンのタイムが0.1秒縮まっているのは只事ではない。「鍛練の成果」という一言だけではこの結果を説明できない。

 そして西郷トレーナーは、ある結論に達した。

 

「洋芝適性か…!」

 

 世界各地にウマ娘レース場は数あれど、日本と海外では基本的に芝質が違う。具体的には、アメリカやヨーロッパの芝は草丈が長い。そのため自然の地形を活かしたコース設計と相まって、日本のウマ娘にとっては「重い」ことが多いのだ。

 日本国内だと、札幌や函館のレース場では擬似的に洋芝を体験できる。特にヨーロッパとは緯度が似通っているため、芝質が似てくるのだ。

 そんなレースコースで、しかも2,600メートルの長距離で、格上のはずのクラシック級の上がりウマ娘すら平然と叩き潰せるだけの実力。しかもデバフ戦術まで仕掛け、相手を完全に嵌めた上で勝っているし、普通では考えられないような方法でぶち抜いている。

 我ながら恐ろしい子をチームに入れたものだ、と西郷トレーナーは戦慄を禁じ得なかった。

 

(この子なら、もしかすると……あのレースでも、勝てるか……?)

 

 西郷トレーナーの頭には、あるレースが浮かんでいる。

 芝2,400メートル、タフなバ場とトリッキーなコース、そしてレベルの高い出走者たちによって、日本のウマ娘の挑戦を弾き返し続けているあのレース。フランスのロンシャンで行われる、「世界最強決定戦」といっても過言ではないGⅠレース。その名は、(がい)(せん)(もん)賞。

 日本のウマ娘は、未だ誰も取ったことのないビッグタイトルだ。だが、高いステイヤー適性と洋芝適性を両立し、相当に実力をつけたシルヴァーブレイズなら、あるいは……

 

(いや待て待て、あんなの新人や中堅トレーナーが取れるタイトルじゃないだろ! 捕らぬ狸の皮算用じゃないか!)

 

 ぶんぶんと首を横に振り、西郷トレーナーは意識を切り替えるのだった。




シルヴァーブレイズのこれまでの戦績:3戦3勝
6月中旬:メイクデビュー戦(京都 芝2,000 右・外 稍重)
7月下旬:1勝クラス条件戦(東京 芝1,800 左 良)
8月上旬:2勝クラス特別競走「阿寒湖特別」(札幌 芝2,600 右 良)
次走:未定


というわけで、2回に分けてお送りした阿寒湖特別回でした。
6バ身差とは、圧勝と言っても良い着差です。先輩方を相手に、ここまで強いレースをするとなると、シルヴァーブレイズの実力は傑出しているとみて間違いないでしょう。

ところで、2,600メートルで6バ身差……何か気付きませんか?


では次回予告です。マックイーン、よろしく…って、またパフェ食ってんのか!

「仕方ないじゃありませんか! 北海道のクリーム美味しいんですもの!」

後で西郷トレーナーから特別練習(推定プールトレーニング)を課されても知らんぞ?

「それは怖いですわ…。
さて、次回はちょっとした休日回の予定です。どうもブレイズさんは、ライスさんのお見舞いに行くつもりらしいですね。あと、何か予定があるんだとか。
次回『大流星の休日(2)』 更新は年を跨ぐまでお待ちくださいませ」


マックイーンに言われてしまいましたが、2023年における拙作「大地を駆ける一筋の流星」の投稿は、今回が最後です。
少し早い挨拶ですが、拙作をご愛読いただきありがとうございました。来年2024年もよろしくお願いいたします!
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