大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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これまで第三者視点から描く作品を描いてきた私ですが、此度は一人称小説に挑戦してみようということで、拙作は基本的に一人称視点で描こうと思います。
ただ、レースの時はどうしても三人称視点になると思います。ギャラリーの立場から描くこともあると思いますので。

プロローグでは主人公はほとんど出てきませんでしたが、今回初めて主人公の登場です。



Preparatory Stage
Act.001 大流星、現る


 日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称、トレセン学園。

 そこは、日本における最大にして最高のウマ娘教育機関。各地から腕利き……いえ、脚利きのウマ娘が集い、しのぎを削り合って、最高の舞台に立たんとする場所である……と、ちらりと伺いました。

 

 そして私も今日から、その「脚利き」の内に入ることになりますのね。

 

 4月初旬の某日、処はトレセン学園の寮の片割れ「栗東寮」。今私は、その栗東寮の1階にある食堂にいます。時刻は9時20分過ぎというところで、この時間はさすがに授業なども始まっていますから、ウマ娘の、というより人の姿はほぼありません。

 さて、そんな閑散とした食堂で私はいったい何をしているのかと申しますと…… tea time です。この一言だけで、全て表現できますわ。

 入学式は10時からの予定です。寮から学園までは目と鼻の先、道路1本隔てた真向かいですから、既に準備を終えている私にはまだ少し空き時間があるのです。ですので、この空き時間を無駄にするのももったいないと、tea time と(しゃ)()()むことにしましたの。そろそろ私の体内の紅茶分が切れかけておりましたし。

 寮の食堂には、お茶を淹れるための道具は常に備えられていますから、茶葉さえ手に入れてお湯を沸かせば、紅茶を飲むこと自体はできますわ。

 私物として持ち込んだ茶葉……本日は Darjeeling(ダージリン) にしました……の香りを楽しみながら、これまた私物で持ち込んだ角砂糖を1つ落とし、tea spoon でよくかき混ぜて、一口。うーん、やっぱり紅茶がないと、1日やっていけませんわ。

 

「……ん?」

 

 何やら、どこからか視線を感じますね。これは、食堂入り口の方からでしょうか。

 振り返ってみると、食堂の入り口のところにウマ娘の方が1人。背丈の低さと、ちょっとおどおどしたような様子、不安そうな表情から推して、私と同じ新入生でしょう。慣れない環境です、緊張するのも無理のない話ですわ。

 

「こんにちは」

 

 ひとまず挨拶をすると、向こうも小さい声ですが、「こ、こんにちは……」と挨拶を返してきました。これで first contact はどうにかなりますわね。

 

「そんな所に立っていては、お話もできませんわ。せっかくですから、こちらへどうぞ」

 

 続いてはお誘い。ここで運命は分かれます。良き出会いとなるか、それともすれ違いとなるか。

 お相手の方は、少々(しゅん)(じゅん)した様子を見せましたが、一瞬後にこちらへ近付いてきてくれました。

 神よ感謝します、この出会いが良き出会いとならんことを。

 

「こちらへどうぞ」

「あ、は、はい……」

 

 勧めた椅子にもちゃんと座ってくれました。良い方のようですね。

 これまでの経験から考えるに、緊張を解すには紅茶が最も有効ですわ。残り物の茶葉で申し訳ないですが、ひとつご馳走させていただきましょう。

 紅茶を淹れ直している間にざっとお相手の方を観察してみますと、右耳に付いた紺色と黄色のまだらの ribbon と、腰の辺りまで達する薄金色の髪が特徴的な方ですね。それに、顔の両脇で髪を小さく分け、薄緑色の ribbon の飾りを付けています。今の表情はやや硬いですが、これはおそらく緊張のためでしょう。緊張が解れれば、人当たりの良さそうな顔になるでしょうね。

 

「残り物の茶葉で申し訳ありませんが、おひとつどうぞ。緊張が解れますよ」

 

 笑顔で頷くと、相手の方も「じゃあ、いただきます」と少しだけ微笑んで cup を傾けました。本来なら、紅茶は香りを楽しんでから飲むものではありますが、今回は気にしないことにしましょう。

 

「……!! すごく美味しいです!」

 

 ほら、やっぱり。紅茶を飲んだとたん、お相手の方はぱあっと、花が咲くような笑みを浮かべてくれました。

 

「お気に召しましたか?」

「はい!」

「恐縮ですわ」

 

 こちらも微笑みながらお答えして、淹れ直した紅茶に手を付けます。英国の table manner では、主人が客人より先に紅茶を飲むのは失礼に当たりますので、それに倣った形ですわ。

 ついでに申し上げるならば、紅茶を飲む時は茶器は音を立ててはいけませんの。

 

「紅茶って、こんなに美味しい飲み物だったんですね……」

「ええ。紅茶で大事なのは淹れ方ですわ。どれほど良い茶葉を使っても、淹れ方が拙ければ美味しい紅茶は淹れられませんの。逆に言えば、淹れ方さえしっかりしていれば、残り物の茶葉からでも美味しい紅茶を淹れられる、ということですわ」

「へえ……! あの、もう1杯いただいても良いですか?」

「構いませんよ。お気に召したようで何よりです」

 

 まだお名前も伺っていない見ず知らずの方ですが、こうしてお茶の席に友がいる、というのはそれだけで大いに価値のあることですわ。

 

「貴女、学年はどちらになりますか?」

 

 相手の方が2杯目の紅茶を飲み終えたタイミングを見計らって、気になっていたことを尋ねてみます。

 

「あっ、実は私、今から入学式なんです!」

 

 やはりというべきか、同学年でしたわね。

 

「あら、それでは……同期の桜、ということになりますわね。実は私も、今日これから入学式に行きますの。

よろしければ、ご一緒しても?」

「はっ、はい! 喜んで!」

 

 早速お友達ができたかもしれませんわ。

 

(神よ、良き出会いに感謝いたします。Amen.)

 

 ささっと両手の人差し指を交差させ、table の下で十字架を作って神に祈りました。実は私、Christian ですの。

 

「私、サニーウェザーって言います! よろしくお願いします!」

 

 ぺこりと頭を下げるお相手の方。名乗ってくださったのですね。

 

「Sunny Weather……素敵なお名前ですね。晴れの陽の光が、貴女の行く先と栄光を照らす祝福の光となりますように」

 

 Majestic とか Royal といった表現に比べると庶民的な感じはありますが、それでも良い名前ですわ。羨ましいです……私の名前は、ある意味では対照的ですから。

 

「ありがとうございます! ええっと……」

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。失礼しました。

シルヴァーブレイズと申します。今後とも、よろしくお願いいたします」

 

 そう、今まで名乗っていませんでしたが、私の名はシルヴァーブレイズ。

 

「シルヴァーブレイズさん……そっか、それで銀色の綺麗な髪をしているんですね!」

 

 そうそう、私自身の描写を忘れておりました。これは失礼しましたわ。

 私の外見的特徴ですが、最も目立つのはその髪色ですわね。頭髪は肩甲骨の下辺りまでの長髪で、色は「鹿毛」と呼ばれる茶色、尾も茶色です。ここまでなら、どこにでもいるウマ娘の特徴と大して変わらないでしょう。しかし、私の頭髪と尾は、先端に行くに従って色素が抜けたような銀髪に変わる、gradation がかかった色になっております。私もこれまでに何人かのウマ娘の方にお会いし、又は映像で見てきましたが、こんな髪を持った方は見たことがありません。あと、私は左耳に黒いハンチング帽を被っております。

 髪色と並んで目立つのが、瞳の色ですね。右目が緑色、左目が濃い青色という先天性虹彩異色症(虹彩異色症とは金銀妖瞳(ヘテロクロミア)のことですわ)なんです。

 肌の色は、普通のウマ娘の方よりちょっと白っぽい程度の肌色です。

 え、身長と体重と3 sizes? 仕方ないですわね……ここだけの話、身長は140㎝、3 sizes はB68H50W68です。体重は至って適正ですわ。

 

「仰る通り、名前通りの色合いですわ」

「あとすみません、ブレイズというのは……?」

「Blaze は、『大流星』という意味です。大きな流れ星ですわ」

 

 そう、これが先ほど、私が「ある意味では対照的」といった理由ですわ。

 皆様は、流星と聞いて何を思いますか? 日本では、「流星を見たら消える前に3回願い事を唱えると、それが叶う」とよく言われます。縁起の良い物と言われる、ということですね。

 ですが、歴史を(ひも)()いてみると、流星は縁起の良い物としてではなく、むしろ不吉な物として扱われることが多いのです。

 有名なのは「Den lille Pige med Svovlstikkerne」……日本では「マッチ売りの少女」と呼ばれる話でしょう。あの話の中では、「流れ星は誰かの命が消えようとしている証」だと言われています。その他にも、「流星を見たら3回唾を吐かなければ不幸になる」などとも言われますわ。

 好印象を抱かせる名前である「サニーウェザー」とは異なり、不吉の象徴と扱われる名を持つ者……それが私、シルヴァーブレイズなのです。「対照的」だと言ったのは、そのためですわ。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします! シルヴァーブレイズさん!」

「ええ。さて、そろそろ時間ですわ。後片付けをして、参りましょう」

 

 時計の針が指す時刻は9時30分。今片付ければ、ちょうど良い時間に会場に到着できますわ。

 

「あ、それじゃお手伝いします!」

「ええ、良くってよ」

 

 こうして、入学式前に1人、お友達ができることとなりました。

 

 

 後片付けを終え、一旦サニーウェザーさんと別れて、私は自分の部屋へと戻って参りました。

 私の部屋は寮の2階、205号室です。入った時点で既にどなたかの荷物が部屋いっぱいに置いてありましたから、どなたかと同室になるのは間違いありません。

 その私物ですが、まだ完全には広げられていないようです。ということはおそらく、同学年の方と同室になるのでしょう。お相手は既に不在にしていましたから、挨拶はまた後で、ということですね。

 着替えは既に終わっていますから、後は見た目を整えるだけ。化粧は校則で禁じられていますから、髪に櫛を入れ直し、顔周りを確認すれば大丈夫ですわ。

 

「うん……うん……よし、問題ありませんわ」

 

 声に出して確認完了。

 あ、言うのを忘れておりましたが、声に関しては少し自信がありますの。地元ではちょっとした美声家として通っておりました。教会の聖歌隊もやっておりまして、そこでは「私の歌を聴くためだけにわざわざ来た」という物好きな方もいましたの。

 容姿を整えた私は、最後にトレセン学園指定の鞄を肩から下げ、部屋に鍵をかけました。これで準備は万端、いざ参りましょう。

 

 1階にてサニーウェザーさんと合流した後、学園生活の想像や、最近の競走のことなど話しながら歩くことしばし。到着しましたわ、この地に。

 どこか年季を感じさせる校門に、大きく書かれた「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」の校名。それを見上げるだけで、心がざわついてきます。これから私の戦いが始まるのだ、と。

 さあっ、と髪を揺らす風。校門脇の桜の木から、薄い桃色の花びらが風に拐われてひらひらと飛んでいきます。その花びらの行く先はどうなるでしょうか。(はかな)く地に落ちるか、力無く水面に浮くか、それとも……どこまでも飛んでゆくか。

 

「いよいよだね、サトちゃん!」

「頑張ろう、キタちゃん!」

 

 一筋の白い毛を持つ黒髪の方と、diamond のような形の白い模様を持つ茶髪の方が、真新しい制服に身を包み、校門をくぐるのが見えました。彼女たちも私と同じ、新入生なのでしょう。Teammate となるか、それとも rival となるか……運命は浮気者ですわ。

 校門とその奥に見える校舎を見上げたまま、固まっているサニーウェザーさんにそっと声をかけます。

 

「どうしました、サニーウェザーさん?」

「っ……あ、いえ。ここから、始まるんだなぁって……」

 

 同じことを考えていたようですね。

 

「貴女に、英国のことわざを送りましょう。

A journey of a thousand miles begins with a single step.」

「ええと、それはどういう……?」

「一千マイルもの長い旅路も、最初の1歩から始まるのだ、ということです。『千里の道も一歩から』という意味になりますわ」

「ああ、そういう意味ですか!

それとブレイズさん、英語の発音がものすごく綺麗……。まるで外国人みたいです」

 

 そりゃあ当然ですわ。英語は私にとって、第二外国語どころか母国語と言っても差し支えないのですから。

 

「帰国子女、というところですから、英語は得意なのですよ」

 

 そういうことにしておきましょう。

 

「学園では確か、一般の中学校や高校レベルの内容の授業もあるんですよね?」

「そう伺っていますね」

「それじゃ、英語の授業とかもあるのかな……ブレイズさん、分からないこととか教えてもらえますか?」

「分かりましたわ。こちらとしても、どうにも国語に苦手意識があるので、教えてもらえるとありがたいのです」

「国語なら得意ですよ! 困った時は、お互い教え合って乗り切れそうですね!」

「ええ。神よ、良き出会いに深謝いたします。

では参りましょう、サニーウェザーさん。ここが、私たちの start line ですわ」

「はいっ!」

 

 すっかり緊張が解れた様子のサニーウェザーさん。

 彼女と共に、決意を新たにした私は校門をくぐって敷地内へと入りました。まず目指すは、校舎の教室ですわ。そこが集合場所に指定されております。

 

 この先に待つ物は何か、それは God knows(誰にも分かりません). それでも、私たちは行かねばなりません。

 こういう時には、希望の祈りが有効です。

 右手の指を全て伸ばした状態で、額・胸・左肩・右肩と動かし、十字を切って神に祈りを捧げます。

 

恵みの源なる天主、主は約束を違えざる御者にましますが故に、救世主イエス・キリストの御功徳によりて、その御約束のごとく、我らに終わりなき命と、これを得べき聖寵とを、必ず与え給わんことを願い奉ります。

Amen.




 主人公たるシルヴァーブレイズですが、もちろんオリジナルのウマ娘です。
 ですが彼女は、若干異質な存在です。「シンデレラグレイ」のノルンエースやルディレモーノ、ミニーザレディのような、元ネタの存在しない完全オリジナルではなく、かといってスペシャルウィークなどのようなプレイアブルウマ娘たちとも異なります。本当に、少し変わった立ち位置の存在です。

 シルヴァーブレイズはいったい何者なのか。その小さなヒントは、作品タグに隠されています。
 なお、実はシルヴァーブレイズの容姿、髪色などにはちゃんと元ネタが存在しています。一部は想像で作ったものですが、大半はそうではありません。

 今回登場したウマ娘のサニーウェザーですが、ちゃんとゲーム内に登場しております。いわゆる「モブウマ娘」の1人として。
 私が「ウマ娘」をプレイした限り、育成シナリオでは彼女はダートレースにしか出ていませんね。マイルか中距離のレースで見かけています。ただ、モブウマ娘の適性がランダムになる闘技場レースでは、時々芝レースも走っています。

 ちなみに初っ端からネタ入りです。まあ、物好きな方なら今話のタイトル見た時点で気付いておられるでしょう。


「あの、私はいつまで待てばよろしくて?」

えっ? しまった! 次回予告のために待ってもらってたのに…シルヴァーブレイズさん御免なさい!

「そちらから呼び出しておいてさんざん淑女を待たせるとは、良い神経ですわね。後で蹴り上げられても存じませんよ?」

すみませんごめんなさい!

「御免で済んだら警察は要りませんわ。
まあそれはそれとしまして、次回で正式に入学です。友達100人できるかな、とは歌われますが、rival100人できるかな、の間違いではないでしょうか。そして学級に馴染めるかどうかも、重要な鍵ですわね。私はやたら目立つ格好をしていますから、悪目立ちしないようにしないと…。次回、『入学と大流星』 お待ちくださいまし」
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