大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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阿寒湖特別が終わって、本格的に夏休みです!



Act.018 大流星の休日(2)

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 今は夏休みの真っ最中。なので学校の授業はありません。そして本日は trainer さんが「レースの直後だし、鍛えているクラシック級やシニア級の子たちが相手だったから、君の想像以上に負担が大きい可能性がある。暑さによる疲労も考慮して、大事をとって2日は休め」とお休みを出してくれましたので、鍛練も自主練以外はないのです。

 というわけで予定の空いた私は、ほぼ同じ理由で休みになったサニーウェザーさん(1勝クラス条件戦を勝ったのです)と一緒に病院に向かっております。目的はもちろん、ライスシャワー先輩のお見舞いですわ。

 サニーさんは花束と伝言入りの色紙を、私は果物の入った籠を持っています。

 

「ライス先輩、治るかな…?」

「そればっかりは天に祈るしかありませんわね。辛いところですが……」

 

 厳しいとは思いますが…神よ、敬愛するライス先輩に奇跡を与えたまえ。

 病院に着いてみると、受付に見知った姿が1人。《シリウス》の仲間ではありませんね。あれは《アンタレス》の……

 

「「おはようございます、ミホノブルボン先輩!」」

「これは、サニーウェザーさんにシルヴァーブレイズさん。おはようございます」

 

 そう、ライス先輩と激戦を繰り広げたミホノブルボン先輩ですわ。

 

「あなたたちも、ライスさんのお見舞いですか?」

「そうです。ご一緒させていただけますか?」

「申し出を了承。ただいまを以て3人パーティを編成。ミッション『ライスさんのお見舞い』を開始します」

 

 ということで、3人がかりでお見舞いと相成りました。

 

「ライスさん、身体の具合はどうですか?」

「うん、お医者さんからは骨はどうやらくっついた、って言われたよ! 歩く練習もできるようになったんだ!」

 

 ブルボン先輩に質問され、笑顔で答えるライス先輩。どうやら骨折の治療の経過は順調らしいですね。

 

「お見舞いの品物を持ってきました」

「わ、ありがとう!」

 

 私たちもお見舞いの品物を渡したんですが…ブルボン先輩が持ってきたのはダンベル? いやまあ、折れたのは脚ですから腕や体幹を鍛えることはできるでしょうが……。

 

「ライス先輩、せっかくですからりんごを剥きましょうか?」

「じゃあブレイズちゃん、お願いして良い…?」

「承知しました、少々お待ちを」

 

 医師から許可が出ていることは知っていましたから、何の躊躇いもなくりんごに手をかけ、さらさらと皮を剥いていきます。そして、

 

「できました、こちらをどうぞ」

「わあ、うさぎりんご! 可愛い……」

 

 これくらいはあっさりと作れてしまうのですわ。

 と、そこで私は気付きました。ライス先輩の枕元に広げられているあれは…「月刊トゥインクル」?

 

「ライス先輩、入院中でも仲間の活躍についての情報収集は怠っておられないのですか?」

「ああ、うん、皆頑張ってるな、ライスも早く走りたいな、って……」

 

 やはりこの先輩、諦めてはいないのですね。可能ならば応援したくはありますが…。

 

「あ、そうだ! これ見て!」

 

 そう言ってライス先輩が指し示したのは、「月刊トゥインクル」のとある記事でした。何々…?

 

『まだまだ残暑厳しい季節であるが、夏休みが終わり、いよいよ年度後半のG1シーズン、そしてクラシックレース後半の前哨戦の季節がやってきた。

 今月号では、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘たちの中でもどの娘に注目すると良いか、解説していく。

 

 まずはシニア級から解説しよう。

 この時期に行われるG1レースといえば、何といってもスプリンターズステークスだ。短距離レースの総決算というべきレースである。

 今回の注目株の1人目は、チーム《アルケス》のサクラバクシンオー。今回のレースを最後に引退するのではないかとの噂もあり、短距離最強というべき実力も相まって注目度は高い。

 そのサクラバクシンオーと真っ向から対峙するのが、チーム《ミモザ》のカレンチャンである。今年の高松宮記念を勝っており、さらに今年のサマースプリントシリーズを総なめする等、実力は確かだ。

 他にもヤマニンゼファー、ニシノフラワーといった強豪が揃い、マイル路線からはノースフライトも参戦。さらに、クラシック級ウマ娘からアストンマーチャンが殴り込みを表明する等、かなりの混戦模様となっている。誰が勝ってもおかしくないほどの実力者ばかりであり、最後まで行方の分からないアツい勝負が繰り広げられそうである。

 

 続いてクラシック級を見てみよう。

 まずは菊花賞をめぐるクラウン路線、現在最有力視されているのが日本ダービーを勝ったジャングルポケット(チーム《ポルックス》所属)だ。皐月賞を制したアグネスタキオンがいない今、間違いなく菊花賞勝利に最も近いウマ娘である。「夏の上がりウマ娘」たちの中では、チーム《カストル》のマンハッタンカフェが有力候補となるだろう。

 続いて秋華賞をめぐるティアラ路線に目を向ける。やはり注目すべきは、チーム《スピカ》のダイワスカーレットとウオッカだ。この二大巨頭に、その他の実力者たちがどこまで追随できるか、というのが本誌取材班の大方の意見としてまとまっている』

「で、ここを見て」

 

 ライス先輩が指し示したのは、記事の続きの部分でした。

 

『また、ここまでクラシック級やシニア級の話題ばかり書いてきたが、実はジュニア級にも、早くも有力バの芽が生えつつある。

 本誌取材班が注目しているのが、チーム《シリウス》のシルヴァーブレイズだ。《シリウス》ということで、若くして日本ダービーを取った西郷秀明トレーナーの教え子であり、トレーナーの期待を裏切らない実力を既に見せ始めている。

 6月中旬に京都レース場でデビューして以来、ここまで3戦3勝。しかも、3戦目となった「阿寒湖特別」(2勝クラス、8月2日札幌9R)においては、上がり3ハロン34秒0という末脚を叩き出し、後続に6バ身差をつける完勝。クラシック級の上がりウマ娘たちですら問題にしない、文字通りの鎧袖一触ぶりを見せつけた。ジュニア級にも関わらずこれほどの実力を示したのは驚くべきことであり、本誌取材班は彼女の今後の動向に着目している。』

 

 

「また仰々しい書き方を……」

 

 うんざりですわ……わざわざこんな書き方しなくても……。おかげで思わず、持っていた「月刊トゥインクル」を放り投げてしまいましたわ。ライス先輩ごめんなさい。

 

「って言っても、これ事実じゃないの? ブレイズちゃん」

 

 そう言いながら、サニーさんが「月刊トゥインクル」を拾っています。

 

「阿寒湖特別で後続に6バ身差とか」

「確かにそれは事実ですが……」

「クラシック級やシニア級の相手に6バ身差だよ? 普通に考えて、とんでもない勝ち方だよ?」

「そんなにとんでもないことでしょうか?」

「ブレイズちゃん……」

 

 何故かサニーさんが呆れておりますわね。何が問題なのでしょうか? 勝ちは勝ち、負けは負けでしょうに。

 

「阿寒湖特別でブレイズさんが競った相手には、クラシック級やシニア級のウマ娘がいました。この方々は、レースの経験がブレイズさんより多い訳ですから、ブレイズさんから見れば格上の相手にあたるはずです。その相手に6バ身差で勝った時点で、ブレイズさんの実力が隔絶したものであることが示されています」

 

 ブルボン先輩の説明は機械的でしたが、それでやっと分かりましたわ。つまり、本来なら相手が勝つ可能性が高いはずのところを、とんだ番狂わせを引き起こしたということらしいですね。

 

「だからブレイズちゃん、すごいことしてるんだよ…?」

 

 ブルボン先輩のお見舞い品のダンベルで重量挙げをしながら、ライス先輩が説明を添えてくださいました。そういえば腕は折れていませんから、鍛えようと思えば鍛えられるのですね。

 

「それはまあ、分かりましたが……私にとっては、相手が誰だろうと勝ちは勝ち、負けは負けですわ。どこまでも勝敗という現実しか存在しない、たらればはあり得ない…それがこの世界でしょう」

「厳しいんだね、ブレイズちゃん…」

「いや、皆様そこは重々承知した上で走っているのでは?」

 

 私だけ、認識がずれているのでしょうか……?

 

 

 

 お見舞いが終わった後、夏祭りに行く準備ということで寮に戻ってみると、部屋の扉に付けられた郵便受けに1通の封筒が挟まっていました。宛先は私。そして差出人の名は「シルバーアクセサリ」…つまり母上になっています。

 机に向かって封を切ってみると、出てきた手紙にはこう書かれていました。

 

『愛しの娘シルヴァーブレイズへ

 

 暑さ厳しい日が続いていますが、身体の具合は大丈夫ですか? あなたは昔から夏バテすることが多かったので、少し心配しています』

 

 ……母上、確かに私は夏の酷暑は苦手ですが、鍛練のおかげか最近は耐えられるようになってきておりますよ…。

 

『昨日、仕事場の同僚と回し見た「月刊トゥインクル」に、あなたの名前が載っているのを見てびっくりしました。私も仕事や家事の合間を縫ってニュースを聞いたりしていたのですが、1人で集められる情報の量にはやはり限界がありますね』

 

 封筒の消印は2日前になっていますから、おそらく母上は「月刊トゥインクル」を仕事の休憩時間にでも読んだ後、帰宅してすぐにこの手紙を書いて投函したんでしょうね。

 

『出世レースにも数えられるあの阿寒湖特別を、勝ったそうですね。それも、クラシック級の夏の上がりウマ娘の方々を相手に、6バ身差の完勝だったとか。

あなたは、とても良いトレーナーさんがついたようですね。調べてみたら、若くしてダービートレーナーの称号を取った方だそうで、私もあの当時こんなトレーナーさんがついていたら、と思うこともあります』

 

 母上は身体の仕上がりが遅かったため、あまり活躍できぬまま終わってしまったそうです(昔ちらりと聞いた限りでは、勝利こそしたものの、どうやら Open class にも行けなかったとか)。その当時のことを思い出しているんでしょう。

 

『クラシック級という単語を聞くにつけ、いつも思うことがあります。私もオークスを走ってみたかった、と。

今の時点でオープンクラス昇格の資格を得ているあなたなら、もしかするとオークスを走れるかもしれません。でも、油断はしないように。

オークスを走れるのは、同世代の中でも本当に上澄みの一握りだけ。さらに、そこに到達するためには非常に多くのライバルを相手にしなければなりません。きっととても手強い方もいるでしょう。

それに、ケガの危険は常にあなたの足元に大口を開けて待ち構えています。少しでも異変を感じたら、すぐにトレーナーさんに言いなさい』

 

 よく承知しておりますわ、母上。何せケガをした人が、すぐ身近にいるんですから。

 

『あなたがトレーニングに勉強にと忙しいのは分かっています。でもたまには、手紙を書いてください。返事を待っています。

 

シルバーアクセサリより』

 

 ……やれやれ、これは一筆書かねばならないでしょう。私が筆不精でないのが幸いですね。

 

 

 その頃、トレセン学園グラウンド。

 

「よーし、一旦休憩だ!」

 

 メガホンを口に当てて声を張り上げているのは、チーム《ラス・アルゲティ》の千田 善次郎トレーナーである。その呼び掛けに答えて数人のウマ娘たちが集まってきた。だが、そのうちの1人は顔にありありと不満の色を浮かべている。その1人に向けて千田トレーナーは声をかける。

 

「イブ、気持ちは分かるが少し休め。急いては事を仕損じる、焦っても仕方ない。少し休んで、次のトライで良いタイムを出せば良い」

「はい……」

 

 その相手、オボロイブニングは不承不承といった様子で千田トレーナーの指示に従った。テントで作られた日陰に入り、水筒に入ったスポーツドリンクを一息に呷っている。

 

(あれ以来、練習にさらに熱心になってるんだが…正直危うい。これ以上はやり過ぎになるレベルだ。上手くコントロールしないと…)

 

 自らも水分補給しながら、千田トレーナーは考える。

 オボロイブニングがこうなったのは、昨日からだった。何がきっかけでこうなったのかは、千田トレーナーもよく分かっている。

 オボロイブニングは6月下旬にデビューし、2戦2勝。それも、2戦とも後続に2バ身差は付けての勝利を収めていた。正直なところ、調子に乗っていた部分はあっただろうと千田トレーナーは考えている。その状態で一昨日の8月2日、2勝クラス特別競走「阿寒湖特別」に臨んだオボロイブニングは、12人立てのレースで11着と大敗してしまったのだ。

 相手にはクラシック級やシニア級のウマ娘が複数おり、最初から不利を強いられた。イブニング自身も、そのことは分かっていた。問題は、彼女と同じく2戦2勝で出走してきた同期生(シルヴァーブレイズ)が6バ身の大差圧勝を成し遂げたことである。

 しかも、後でトレーナーと共にレース映像を見返した際、オボロイブニングはとんでもないことに気付かされた。あのレースの最中、前方との距離の開きに焦りを感じた彼女は早めに仕掛けたのだが、実はそれはシルヴァーブレイズの罠だったのだ。隣を走っていた選手を何度も挑発し、殺気を撒き散らしてやり合ったことで、逃げていたウマ娘たちを掛からせて無理やりペースを上げさせると同時に、後方のウマ娘たちをも焦らせて早めに仕掛けさせ、結果としてスタミナ切れにして叩き落とすデバフ戦術を、仕掛けていたらしいのである。オボロイブニングはそれに、まんまと嵌まってしまったのだった。

 デバフ戦法で相手のペースを崩させ、その一方で仕掛けた自身は冷静さと余裕を保って走り、最後に一気に突き放してウイニングランできるほどの実力。

 同期なのにここまで実力差があるのか…と、オボロイブニングは打ちのめされた。その愕然と悔しさが反骨心に変換され、今に至るという訳である。

 

 まだオボロイブニングはプレ・オープンクラスの条件戦を走らなければならないし、シルヴァーブレイズの次走も発表されていない。しかし、オボロイブニングとトレーナーが共通して確信していることが1つあった。それは、シルヴァーブレイズとの対戦機会は必ず来る、ということである。

 千田トレーナーは、オボロイブニングは十分にG1を取れる素質があると考えていた。イブニングでそうなのだから、あのシルヴァーブレイズは当然G1を狙える実力であるはずだ。そして、オボロイブニングとシルヴァーブレイズの距離適性は、両者とも中~長距離が得意とダブっている。つまり…どこかで必ず、再戦の機会が来る。

 その再戦の時に、シルヴァーブレイズに勝てば良い。

 

((オープンクラス以上、とりわけG1レースともなれば、シルヴァーブレイズは確実に出てくる。早ければホープフルステークス、遅くてもクラシックレースでは戦えるのはほぼ間違いない。その時に勝つ!))

 

 それが、オボロイブニングと千田トレーナーの共通認識だった。

 

 

 そして、休みを出した《シリウス》の西郷秀明トレーナーはというと、メンバーの練習を少し早めに切り上げ、トレーナー室にて天井を見上げて考え込んでいた。その内容というのが…

 

(シルヴァーブレイズの進路と次走、どう提案するか……)

 

 これである。ある意味贅沢な悩みかもしれないが、シルヴァーブレイズの適性が広いため、どのレースを走らせるか悩んでしまうのだ。

 

(彼女にとって一番適性が高いのは、言うまでもなく芝の中・長距離だ。それは間違いない。問題は、彼女がそれなりに芝のマイル適性やダート適性まで持ってることなんだよな…)

 

 これほど適性の幅が広いと、どの路線を走らせるのが本人にとって幸せなのか、読みにくい。

 競走ウマ娘にとって「幸せ」とは何なのか。その問いに悩むことなく答えを出せるトレーナーなど、まずいないだろう。何故なら、適性が合っているのに様々な要因でレースに勝てず、幸せとは言えないウマ娘が山ほどいるからだ。反対に、適性が合っている路線をウマ娘自身が希望せず、本来適性外であるレースで成功して幸せになる例もある。その好例が、短距離路線を勧められながらそれを拒否し、クラシックレースのクラウン路線で無敗二冠を達成したミホノブルボンだ。

 うっかりすると、トレーナーの価値観の押し付けになってしまいかねない。いつも他のウマ娘にやってきた以上に、シルヴァーブレイズの希望を明確化せねばならないだろう。

 

(それと、そろそろブレイズに「アレ」の希望デザインも聞かないとな…)

 

 天下に名だたる「月刊トゥインクル」がシルヴァーブレイズに注目している以上、彼女にかかる世間の期待はかなり大きい。そうなると、ウマ娘にとってはとても大事なあの一張羅…"専用勝負服"をジュニア級G1から着られるようになってしまうのだ。デザインを決めるにはどうしても時間がかかるため、早めに動かねばならない。

 西郷トレーナーの悩みは、なかなか尽きそうになかった。

 

◆◇◆◇

 

 さて、午後からはサニーさんと一緒に夏祭りにお出かけですわ。たまにはこういう催し物で楽しむのも良いでしょう。

 結構な人出ですわね……会場となっている神社に来てみると、もうかなりの人混みになっていました。あっちこっちに屋台の出店も出ている他、何やら企業の物販展示もやっているらしく、すごい熱気ですわ。

 

「…アイスクリン?」

「暑いから冷たい物食べよっか」

 

 何やら聞いたことのない名前の物を売っているな、と思ったら、あっさりサニーさんが購入を決めてしまいました。

 さっと見た感じは、普通のアイスクリームと変わらないようですが…何が違うのでしょうか。

食べてみると…ふむ、味は乳製品のものが濃いようですね。もしやそこが、普通のアイスクリームとは違う、ということでしょうか。冷たくて美味しいですわ。

 

「美味しいねこれ!」

「ええ、よく冷えてますからこの暑い日にはぴったりですわ」

 

 こういうお祭りも悪くないですわね……小さい頃は、あまりこういうことを楽しめませんでしたから。

 以前にちらりと申し上げましたが、私の家は裕福ではなかったのです。まあ母子家庭ならば、仕方のないところもありますね。まあともかく、浴衣なんて綺麗なものを着たり、出店で美味しい物を買い漁ったりなんて、できなかったものです。でも今は、競走で勝った時に賞金を少し稼ぐことができますから、これまで育てていただいたお礼として母上に少し仕送りしても、私が自由に使えるお金が少しあるのです。

 おかげで、着物を借りたり出店でこうやって美味しいものを楽しむことができるのですわ。

 

 ちなみに、私とサニーさんは2人とも浴衣に着替えています。私は白を基調に青や紫で紫陽花の花をあしらったもの、サニーさんは薄桃色を基調に濃いめの赤や紫で菊の花をあしらったものですね。サニーさんはいつも伸ばしている長髪を結い上げて、赤や白、黄色の花を象った髪飾りを付けていますから、印象がまるで違います。マ子にも衣装、とはよく言ったものですね。

 なんて思っていたら、屋台街に見覚えのある顔が。…お客ではなく、店主の方で。

 

「何やってるんですか先輩…」

「ピスピース! ブレイズとサニーも来てたのか! とりあえず、ゴルシちゃん印の焼きそば買ってかねー?」

 

 そう、ゴールドシップ先輩。そういえばこの先輩、前にも文化祭で焼きそば作ってましたね。

 

「またたくさん作ってますねゴールドシップ先輩…」

「そりゃ、誰が来るか分かんねーしな! 備えあれば嬉しいな、だぜ!」

「憂い無し、なのでは…?」

「済まないが、焼きそばをもらいたい」

 

 そこへ割り込んできたのは…出ましたね、オグリキャップ先輩! それにしても、登場と同時にお腹の鳴る音が大きく響くなんて、どういうことですの…?

 

「おおーっ、オグリじゃんか! 待ってたぜ!」

「とりあえず、ソース焼きそばを15個」

「よっしゃ行くぜ!」

 

 どこからか、明らかにオグリ先輩専用と思われる大きな容器を取り出し、それに焼きそばを盛っていくゴールドシップ先輩。瞬く間に、私とサニーさんの見ている前で茶色の大きな山が作られました。

 

「へいお待ち!」

「ありがとう」

 

 そしてあっという間に、その大きな山が消え去っていく……あの異次元の食欲はいったい何なんですの…?

 

「す、すごいねオグリ先輩…」

「見ているだけでお腹いっぱいになりそうですわ…」

 

 言葉も出ない、とはまさにこのことですね…。結局オグリ先輩の食べっぷりに耐えかねてその場を去ったのですが、よく見るとあちこちにトレセン学園の方がいらっしゃいますね。

 

「やっぱりお好み焼きおいしー♪ でも、できたらエビイカホタテ、ズワイガニ全部乗せが良かったかなー…」

「あはは、ミラ子ホントにお好み焼き好きだね…」

 

 やけにお好み焼きをがっついているあの銀髪の方は、確かヒシミラクル先輩でしたか。楽しんではいるようですが…その、ちょっと崩したような感じの私服はどうにかならなかったんですの…? もう少し、場に合った格好というものがあるような気がしますが…。

 

「スペちゃんちょっと食べ過ぎデース!」

「おーおー、さすが総大将は違うねー」

 

 あのお2人は、エルコンドルパサー先輩にセイウンスカイ先輩。皐月賞や菊花賞での見事な逃げや、凱旋門賞での激戦はよく覚えていますわ。

 そしてスペシャルウィーク先輩は、視界に入れませんでした。何故って? オグリ先輩と同じことをしているのが容易に想像できるからですわ。あの食べ物の山を見るのは、正直言ってもう嫌なんですの…見るだけで食欲が失われてしまいますわ。

 と、視線を向けた先に何やら華やかな色の集団を発見。今の時刻を考えると、これは確か…

 

「あ、そういえばもうすぐパレードの時間だよ!」

 

 やはりそうですわね。あの鳥の羽飾りのような衣装は、見間違えようがありません。確かサンバを踊る方の衣装でしたね。

 これで、良い目の逸らし先ができましたね。

 

「ブレイズちゃん、もうちょっとしたら始まるみたいだよ! 席取っとかないと!」

「そうですね…ではサニーさん、お願いできますか? 私は冷たい飲み物を調達してきます。この暑い中では流石にしんどいでしょう」

「じゃあお願い!」

「承りました」

 

 たまには、競走のことを忘れて一時を過ごすのも悪くないですね…。あ、でも夏休みの宿題は忘れないようにしなければ。




後半に出てきた夏祭りは、「府中市商工まつり」をモデルにしています。知ってる方はすぐピンときたでしょう。

ちょっと大きなネタバレをします。
実は「シルバーブレイズ」と名付けられた競走馬が、なんと日本にいました。血統は、父タニノギムレット、母シルバーネックレス、母父サンデーサイレンス。このシルバーブレイズが生まれたおよそ1週間後に、ダービーを含む7つのG1タイトルを取った名牝馬ウオッカが生まれています。
ということでお察しの通り、日本のシルバーブレイズはウオダス世代です。ウマ娘化された競走馬とも、たった1度ながら対戦しているのですよ(新馬戦、結果はダイワスカーレットの4着)。
その他、このシルバーブレイズが戦った相手を調べると、年上の名馬の産駒がずらっと並んでいます。多いのは98年世代から01年世代辺りでしょうか。
対戦回数最多はスペシャルウィーク産駒で15回(あのブエナビスタと戦ったこともあります)、同率でキンイロr…ステイゴールド産駒(ドリームジャーニー含む)。次いでアグネスタキオン産駒(ダイワスカーレットも含む)が14回、アドマイヤベガ産駒が12回、エルコンドルパサー産駒とマヤノトップガン産駒がそれぞれ8回などとなっています。
対戦相手のブルードメアザイア(母父)のバリエーションも多く、フジキセキやメジロマックイーン、タマモクロス、シンボリルドルフ、ミスターシービー、なんとマルゼンスキーまでいました。

…何でそんな情報明かしたか、って? そりゃ今後ネタに使う可能性があるからですよ。


それと、評価8をくださいましたryu-no様、ありがとうございます!


「トレーナーさん、次回予告の時間ですよ?」

お、もうそんな時間か。んじゃブレイズ、よろしく!

「承知しました。
夏が終われば、『天高くウマ娘肥ゆる秋』と言われる季節が巡ってきます。りんごの季節ですし、私も食べ過ぎないようにしなければ。まあそれは置いておいて、太らないためには energy を消費すれば良いわけですから、私も新しいことを始めたのです。
次回『新しいことと大流星』 更新はしばしお待ちくださいませ」
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