大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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中等部2年生、2回目の聖蹄祭です!



Act.020 聖蹄祭と大流星(前編)

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 少し時が進みまして、秋の一大催し物である「聖蹄祭」が1週間後に迫った日。いつもの放課後の練習が終わった後で、trainer さんに呼び止められました。中等部生でありながら酒場で働いていることを(けん)(せき)されるのか、と思っていたのですが、そうではありませんでした。Trainer さんは神妙な顔でこう切り出したのです。

 

「ブレイズ、そろそろ次走の決定と、レースの進路選択をしなきゃならないんだが」

「次走は分かりますが、進路…ですか? いわゆる三冠路線とか、そういう…?」

「そう、そういうことだ」

 

 とうとうこの話題が出てきましたね……私の進むべき進路、すなわちどの競走を走るか、ということ。

 

「今後競走ウマ娘が取る進路は、およそ5つに大別される。まずはいわゆるクラシック路線で、これが『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』からなるクラウン路線と、『桜花賞』『オークス』『秋華賞』からなるティアラ路線に分けられる。これで2つ。ちなみに、メジロマックイーンをはじめうちのチームメンバーは、大抵クラウン路線を走っているな。

3つめは、スプリント路線だ。3月の『高松宮記念』と9月の『スプリンターズステークス』を中心とする短距離レースを走る。

4つめが、マイル路線だ。主なレースは6月の『安田記念』と11月の『マイルチャンピオンシップ』。それ以外にも『ヴィクトリアマイル』なんかもある。

最後に、ダート路線。うちのチームだと、サニーウェザーが希望している進路だな。2月の『フェブラリーステークス』から始まって、6月の『帝王賞』や7月の『ジャパンダートダービー』、11月のJBCシリーズ、12月の『チャンピオンズカップ』と『東京大賞典』などが主なレースになる。地方のレースまで入れるなら、「かしわ記念」「川崎記念」「マイルチャンピオンシップ南部杯」

なんかも選択肢に入ってくるな。

この他にも地方への出向、障害競走路線への転向なんて途もある。尤も、どちらも平地での競走成績が振るわなかったウマ娘が取る進路だな。君なら、クラシック路線にも十分間に合うだろう」

 

 その障害競走路線で大成したナガヤマオンジュー先輩のような例外もいらっしゃるのが、怖いところですね…。人間万事塞翁がウマ娘、とはよく言ったものです。

 それはともかく、様々な進路があるということですね。

 そしておそらく、この進路によって次走が変わる、ということなのでしょう。今年出走可能なG1だけに限定しても4つもありますし。

 主に1,800Mまでの競争の栄冠を狙う方が選択する「朝日杯フューチュリティステークス」、dirt の競走である「全日本ジュニア優駿」、tiara route を目指す方が走る「阪神ジュベナイルフィリーズ」、そして crown route 狙いの方が選ぶ「ホープフルステークス」。どれを走るかで、だいたいこの後の進路が変わってくるのです。 そのため、trainer さんは次走の話も持ってきたのでしょう。

 

「進路を選択する場合、重要なのが自分自身の適性だ。適性に合わない進路は、かなり過酷なものとなる。

ブレイズ、何となく気付いているかもしれんが、君の場合はスプリント路線は適性に合っていない。走れなくはないけど、ダート路線とマイル路線もおすすめはしない。君に合うと思われるのはクラシック路線だ。特に長距離レースのタイムが良いことから考えて、クラウン路線が一番合っていると思う。

もちろん、君がどの路線を選んでも俺は全力で君を応援する。どの進路で走りたい?」

 

 どの進路を選ぶか、ですって? そんなの、既に決まっています。

 

『私も走ってみたかったわね…オークスを』

 

 甦る母上の台詞。

 

「Trainer さん、私は既に進路を決めていますわ。

私の母はかつて、Twinkle Series を走っておりました。しかし身体の成熟が遅く、残念ながら良い成績を残せていません。その母上が言っていたんです、『オークス』を走ってみたかったと…。

母の夢を娘が叶えるのもまた、親孝行の一部でありましょう。従って、私の取るべき途はただ1つ。Tiara route ですわ」

 

 言っていて気付きましたが、「クラシックレース」の路線はアレで良いとして、それを走り終わった後のことも考えておかないといけないですね。まあただ……私の得意な距離を考えれば、「宝塚記念」と「有マ記念」のいわゆる「グランプリ」や、春秋天皇賞などを狙って走るのが早いでしょうね。

 そして、こういった競走に出るとなれば、オボロイブニングさんの逆襲を覚悟しておかねばならないでしょう。あの方は、他の同期生と比べるとなかなか良い末脚を持っていらっしゃる……先の「阿寒湖特別」では、体力をすり減らされて沈没したようですが、それがなければ侮れない相手になっていたでしょう。注意せねば。

 

「トリプルティアラか…分かった。

知っていると思うが、ティアラ三冠にはマイルレースの『桜花賞』が含まれる。君のマイル走のタイムは決して良いとは言えないから、今後はスピードとパワーの2つを中心に鍛えていく」

「承知しました。

それと、『桜花賞』の前に何度か"実戦練習"が必要かと存じます。そして trainer さんも仰いましたが、私が得意とするのは長距離です。他の trainer さんもそれを分かっていて、私の進路を予想していることでしょう。というわけで、ちょっと進路を欺瞞したいと思いまして……ゴニョゴニョ」

「……なるほどな、分かった。それで行こう。これで次走も自動的に決まったようなものだな。鉄砲で良いか?」

「テッポウとは何でしょうか?」

「要はぶっつけ本番、ってこと。本来は長期休養明けにレースに出ることを指す言葉なんだけど、まあ似たような状況になるからな。

まあ、この後はオープン戦も重賞も走らずに、そのレースに直行するってことだよ。ぶっつけ本番になるんでプレッシャーが大きいという欠点があるが、その代わりにギリギリまで練習を行えるし、ライバルに余計な情報を与えにくい」

「ではそれでお願い致します。あ、もちろん今の話は秘密でお願いしますね」

「よし、今はまだ黙っておこう。そうだな、トライアルレースの時に公開する、ってことで良いか?」

「ええ、構いませんわ」

 

 前哨戦(trial race)となると、どのみち私の意図はバレますしね。

 

「よし。さて、こうなるともう1つ、話がある」

「何でしょうか?」

 

 一息入れ、trainer さんは改まった様子で口を開きました。

 

「事情や進路はどうであれ、ブレイズ、君はG1レースに出ることが確定的となった。そうなると、勝負服という問題が出てくるんだ」

「確かにそうですわね。ですが、学園から貸し出しがあるのでは?」

 

 実はトレセン学園では、汎用勝負服の貸し出しがあるんですの。

 そのことを話してみると、trainer さんは「いや」と首を横に振り、次いでニヤッと笑って私を見ました。

 

「君専用の勝負服だよ」

「!」

 

 私専用の勝負服…ですって?

 

「君自身にはそんなつもりは全くないかもしれないけど、実は君は数いるジュニア級ウマ娘の中でもトップクラスに注目度が高いんだ。うちのチームのネームバリューもあるんだけど、それだけじゃない。どうやら、あの阿寒湖特別で一気に注目が集まったみたいなんだ。

ほら、ちょっと前に《月刊トゥインクル》の取材班がインタビューしに来ただろう?」

「そういえば何か色々聞かれましたね」

 

 思い出しましたわ、もうすぐ「天皇賞(秋)」の前哨戦の季節ということで、ゴールドシップ先輩の出走予定の確認とか何とか理由を付けて、取材班が来てました。

 

「あの時の取材名目は『ゴールドシップの出走予定の確認と、レースに向けての意気込み』とか、俺のウマ娘育成ノウハウについてだったんだけど、どうやら君にも注目していたらしい。《月刊トゥインクル》から目を付けられたとなると、世間の目が君に集まっているといっても過言じゃない。

そうなると、ジュニア級G1からでも専用の勝負服を着られるようになるんだ。それだけ強いということで、今後もガンガン勝ってくれるだろう、と期待されるって訳だな」

 

 なるほど、話はよく分かりましたわ。

 

「で、すまないんだがそろそろ君専用の勝負服のデザインについて、希望をまとめてくれないか。

ざっくりとした物で構わないから、色は何にしたいとか、服の種類とか、装飾品は何にするかとか、まとめてもらえると助かる。

そうした希望を服飾メーカーに送ると、メーカーから予想デザイン図が何枚か送られてくるんだ。その中から気に入ったデザインを選び、さらに細かい意見を付け足し、採寸もして…って感じで、専用勝負服が出来上がる。どうしても時間がかかるから、今から希望を出しておいた方が良いんだよ」

「承知しましたわ。早めの方が良い、ということですね」

「そう、なるべく早く頼む」

「承知しました、早めに出しますね」

「よし。以上で話は終わりだ、疲れているところ引き留めて済まなかったな」

「いえ、私は構いませんわ。では、失礼します」

「おう、気を付けて帰れよ」

 

 ついに来ましたか……私専用の勝負服。

 ふふふ……流石に気分が高揚しますね。

 実は心の中で、既にこれという想像図はおよそ決めてあるのです。宿題をさっさと片付けて今夜中に意見をまとめて、明日にでも trainer さんに伝えることにしましょう。

 

 

 その翌日、「シリウス」部室にやってきた西郷トレーナーは、待ち兼ねていたシルヴァーブレイズから専用勝負服の希望についての意見書を渡された。ウォーミングアップのためにチームのメンバーと一緒に走り出したシルヴァーブレイズを見送り、西郷トレーナーは意見書をちらりと覗いてみる。その途端、西郷トレーナーの目が僅かに見開かれた。

 

「これは……」

 

 そこには、専用勝負服や装飾品の手書きイラストが、説明文付きで描かれていたのだ。しかも、それを着た人形の全身像イラストまであるため、かなり分かりやすい。

 

(たった一晩でこれだけ詳細に……さては前々から考えてたな。

よし、これはそのまま服飾メーカーに送っておこう。これなら、予想デザイン図もすぐ上がってくるはずだ。

彼女の喜ぶ顔が容易に想像できるな…)

 

 人知れずにやける口元を、慌てて噛み殺す西郷トレーナーだった。

 

◆◇◆◇

 

 言われてすぐ、勝負服の案を絵にして提出しましたわ。あれだけ丁寧に描いておけば、誰にとっても分かりやすいでしょう。ふふふ、出来上がりが楽しみですわ。

 さて、そうこうしているうちに聖蹄祭がやってきました。学園中が浮かれているのが分かります。

 今年は去年と違って、「音楽コンクール」はありません。なので、私たちジュニア級2年生以上の方は、屋台を出したり出し物をやったりと、思い思いに過ごす方が多いです。

 私はというと、テイエムオペラオー先輩に勧誘されまして歌劇に出演することになりました。ただ、お誘いいただいたのは光栄ですが……何で私が主演女優みたいになってるんですの……? 私など、脇役で十分でしょうに…。

 あと、「ちょっとミステリアスな言葉遣いをする方に、やってほしい役があるんだ。知り合いにそんな方いないかい?」と言われて、ネオユニヴァース先輩を誘いに行った時はなかなかに骨が折れましたわ。あの方、いかんせん言葉遣いが独特すぎて……。

 

 オペラオー先輩の性格をご存知の方なら、出し物の中身はだいたい想像できると思います。皆様の予想通り(十中八九そうなると私は思っております)、オペラオー先輩ご自身を主人公にした歌劇(オペラ)「英雄王テイエムオペラオー」ですわ。どうやら脚本については、オペラオー先輩ご自身がお書きになった上で、本好きで知られるゼンノロブロイ先輩の監修を受けたようです。

 明確に役を振られているのは、私とネオユニヴァース先輩の他に、メイショウドトウ先輩、ナリタトップロード先輩、アドマイヤベガ先輩、ハルウララ先輩、ビワハヤヒデ先輩、ゼンノロブロイ先輩。

 物語の構成を簡単に説明すると、戦乱の時代が長く続いているとある世界が舞台です。諸国が乱立する時代もありましたが、今や「ナルジア国」と「テイエム王国」が世界を二分する状態となっています。名前でお察しの通り、オペラオー先輩はテイエム王国の国王(といっても、この歌劇の第一幕で戴冠したばかり)です。そして、テイエム王国の敵となるナルジア国の君主がナリタトップロード先輩、私は同国の巫女(神官、という方が適切でしょうか)兼軍人です。

 あらすじとしては、第一幕「覇王誕生」の第1場でテイエム王国当代国王役のアドマイヤベガ先輩が、神官からのお告げを元に次代国王をテイエムオペラオー先輩に決定、第2場にて王位の譲渡式(オペラオー先輩の視点からいえば戴冠式)が行われます。初っぱなからAIDA(アイーダ)の「凱旋行進曲」ばりに派手な管弦楽が鳴らされるのは、少しばかり勘弁願いたかったですわ、耳鳴りが起きてしまいます……。

 続く第二幕「覇業の前途」は、テイエム王国内でのオペラオー先輩の統治ぶりが描かれます。第1場から農場を訪れ、農民たち(この中に農民代表役でハルウララ先輩がいました)を激励しつつ、自らも農作業を手伝うオペラオー先輩。第2場は筆頭側近のビワハヤヒデ先輩(文官ですわ)と共に、国内の法制度の制定に奔走するオペラオー先輩。そして第3場では、メイショウドトウ先輩率いる歩兵部隊を閲兵するオペラオー先輩が描かれています。また、この場でオペラオー先輩は、「この戦乱の世は…ボクが終わらせる」と歌っています。国内を安定させ、外敵たるナルジア国討伐に向けて準備万全、といったところでしょう。

 ちなみに、ここまで私の出番は一切無し。私の出番は、第三幕からです。

 

 第三幕の主題は「ナルジアとの戦い」、いよいよテイエム王国とナルジア国の激突です。第1場は、テイエム王国における出陣式。もちろんオペラオー先輩が中核を担っているわけです。第2場は出陣式の日の夜。本陣で休んでいるオペラオー先輩の元に、突然「星読みの神官」を名乗る不思議な人物が現れ、予言を残します。

 

「ASEM……この『星の運命』は"危険"だね……。」

「…!?

君はいったい何者…!? そしていつの間にボクの部屋に入ってきたんだい!?」

 

 この難解かつ独特な表現で察せられたと思いますが、「星読みの神官」の正体はネオユニヴァース先輩ですわ。そして何の前触れもなく、瞬間移動でもしたかのように突然現れる辺りは、先輩の不思議な能力が遺憾無く発揮されていると言えそうですね。水色を基調に、あちこち黄色の線が走ったローブも、ぴたりと合っておりますわ。

 

「西の空、現れた『恒星』は……UNDF……ものすごく大きい。『東の星』の輝きも……薄れそう……。」

「……ふむ、何となく分かった。

その格好からして、君は占星術師の類だね? そして、このテイエム王国は世界の中では西にある……ということは、『東の星』はナルジアで、我がテイエム王国の方が優勢ってことだね?」

「アファーマティブ。私は、『星読みの神官』。

けれど……『恒星』の光に紛れて、『大流星』が"ランデブー"しようとしてる。この逢瀬は……"燃える"ね。」

「ふーむ……何者かがボクに向かってくるかもしれない、ってことだね。だけど大丈夫さ! だってボクだからね!」

「ネガティブ。"ELNKL"……2つの"SPNV"になるかも……。『スターダスト』が増えないよう、祈ってるよ……。」

 

 ドトウ先輩の部隊が見回りに来たことを鋭敏に察知し、はじめから何者も存在しなかったかのようにすっと消えてしまう「星読みの神官(ネオユニヴァース先輩)」。うーむ、我ながらこの先輩を推挙したのは好采配だったと思うのです。こういう"不思議な人物"の役割は、この先輩にぴったりと当てはまっていましたわ!

 

 第3場、ここでいよいよ私の登場です。テイエム王国軍襲来すとの報告、続いてナルジアの国軍が苦戦しているとの報が伝えられ、君主たるナリタトップロード先輩じきじきにオペラオー先輩討伐を命じられる場面です。でも、ここはそこまで重要な場面ではありませんわ。前座に過ぎません。

 最大の魅せ場となるのが第4場。場面はテイエム軍とナルジア軍の戦闘中、テイエム軍の本陣。戦況はテイエム軍優勢で、ナルジア軍が崩れかけている、とオペラオー先輩がドトウ先輩から報告を聞いているところです。敵軍の総崩れを確たるものにするため、ドトウ先輩率いる精鋭歩兵隊に出撃を命じるオペラオー先輩。そして本陣ががら空きになったところに、刺客として私が殴り込む、という筋書きなのです!

 

「うあっ!?」

「なっ…がぁっ!」

 

 見張りについていた2人の兵士を瞬く間に倒し、一気にオペラオー先輩の元に突っ込む!

 

「…!」

 

 私の持つ短剣が届く寸前で、オペラオー先輩も剣を抜いてギリギリで一撃を受け止める。そしてここから、私とオペラオー先輩の剣舞になるのです。歌劇で剣舞というのも、なかなか見られない光景でしょう。

 

「むっ、刺客か!?」

「オペラオー…その命、貰い受けますっ!」

キンッ。ガキン!

 

 効果音(舞台の裏方の方が上手くやってくださっています)と共に、私が次々と繰り出す斬撃を、取り回しが悪いはずの長剣で受け止め、あるいはいなすオペラオー先輩。最初は奇襲により流れを握った私の優位、という訳です。

 流れるように7合も打ち合った後、一旦距離を取る私とオペラオー先輩。

 

「君は確か、ナルジアの巫女シルヴァーブレイズ、だったね! 巫女が神殿にいなくて良いのかい?」

「あいにく私は巫女であり、軍の指揮官でありますので!」

 

 言葉での応酬に続いて、剣の打ち合う音。一気に距離を詰めた私の連撃を、長剣を振るって受け止めるオペラオー先輩。

 

「おおぉ…!」

「すげぇ!」

「オペラオー先輩カッコいい…!」

「オペラに剣舞って新鮮だなぁ」

 

 雰囲気に呑まれてきたか、観客席からの歓声が微かに聞こえてきます。それを聞き流しつつ、さらに数合の打ち合い! そしてここから、私の身体能力が問われます。

 連撃の後、私が少し距離を取った瞬間に横一文字に飛んでくるオペラオー先輩の剣。それを宙返りでかわし、着地と同時に膝を曲げて力を溜め、一気に肉薄! やっている私も大概ですが、懐に飛び込まれて動きにくいはずのオペラオー先輩も、かなりの役者ですね。上手くやってくださっている…!

 

「おおっ!」

「あんなことする奴初めて見た…!」

「あれ誰だっけ、オペラオーの相手」

「キャスティングのとこに書いてるだろ」

 

 観客のどよめきの中、鍔迫り合いの中でオペラオー先輩が口を開きます。

 

「やるではないか!」

「この死に損ない、とっととくたばりやがれ…!」

 

 台本の台詞がこうなっているのです。許してくださいまし、オペラオー先輩。

 

「でも君の実力は大方把握、したよっ…!」

 

 ここで攻守交代です。オペラオー先輩の方が剣の腕が上であり、奇襲の効果が切れた私が劣勢に追い込まれる筋書きになっているんです。

 

「…っ!」

「どうしたんだい? 動きが鈍ってきているよ!」

 

 余裕を見せるオペラオー先輩に対して、だんだんと動きが遅くなる演技を行う私。10合もの打ち合いの末に追い込まれ、そして…

 

キィーン!

 

 見事な効果音と共に短剣を空中に弾き飛ばされる私。オペラオー先輩が剣で下から上に斬り上げたのです。

 そしてここが、更なる見せ場ですわっ!

 

「これで、終わ…!?」

 

 ここからは全体の動きがわざと遅くなります。刹那の場面転換を描くためですわ、皆様も各種映像作品でよく見たことがあるでしょう。

 剣を取り直しながら勝ち誇ったような顔をしていたオペラオー先輩の表情が、ゆっくりと驚いたものに変わる。それに対して、私は体勢を立て直しつつ、懐から小さな拳銃のような物体を取り出してオペラオー先輩の胸に照準を合わせる!

 

バシュッ!

「ぐあ…!」

 

 私が取り出した小型の bow gun、そこから飛び出した矢に心臓の辺りを撃たれて、剣を落とし膝を衝くオペラオー先輩。

 そう、これが私が意見具申した"刺激"です。暗殺者としての私の乱入、そして最後に待ち構えていた切り札。これに驚かない方は、そうそういないでしょう。特に、以前からオペラオー先輩の歌劇を観賞していて、その傾向を知っている方ならば。

 

「な…!」

「えっ…!?」

「うそ、こんなんある!?」

 

 観客席のどよめきを聞く辺り、完全に成功したようですね…っ!

 

「わあぁぁオペラオー陛下が! 全員、あの不届き者を討ち取ってください!」

 

 相手が絶命したか確認する暇もなく、歩兵隊を率いて戻ってきたドトウ先輩(ナルジア軍の最後の抵抗を粉砕して戻ってきたのです)に発見され、「仕方ない…三十六計何とやら。願わくはナルジアに栄光を!」とだけ言い残して退場。私の出番は一旦ここまでです。

 まさかオペラオー先輩が狙撃されるなんて、誰も予想していなかったでしょうね。幕の降りた舞台の前には、観客の皆様が大きくざわついている様子がはっきりと見えます。

 いやー、見事に決まりましたわね!

 

「ブレイズ君、見事だったよ! やはり君は我がオペラオー劇場の主演女優に相応しい!」

 

 そして舞台裏にて、早速オペラオー先輩に褒めていただきました。

 

「お褒めいただき光栄の至りです、オペラオー先輩。私としては、あの宙返りが失敗しないかと内心ひやひやしておりました」

「ボクは信じていたさ、君なら決めてくれるとね!」

「練習では半分より少し少ない程度の成功率だったのに、ですか?」

「パートナーを信じなければ、剣舞なんて決まるものじゃないよ」

 

 うーむ、この圧倒的自信は流石という他ないですわね…。

 

「さて、いよいよ終幕だ。期待しているよ!」

「微力ながら精一杯努めさせていただきますわ」

 

 では、もうひと踏ん張りと行きますか。




(注) 今回のオペラに使用されている楽曲ですが、だいたい作詞: テイエムオペラオー、作曲: サウンズオブアース、トランペット演奏: ヤマニンゼファーです。

「星読みの神官」の語録とその意味はこちら。

『恒星』…テイエム王国、及びその王たるテイエムオペラオーのこと。

UNDF…unidentified(未確認の)。前例がないくらい大きいことを意味している。

『東の星』…ナルジア国。

ELNKL…不明なこと、分からないこと。

SPNV…スーパーノヴァ(supernova)。超新星。超新星となると、すぐ思い付くのは「超新星爆発」であろう。つまり、当該箇所ではオペラオーとブレイズが共に死ぬかもしれない、と言っている。

『スターダスト』…星屑、かつて星だったものの成れの果て。転じて死体、またはその一部。

ネオユニヴァースがタニノギムレットやヤマニンゼファーと並んで「二次創作者殺し」と言われる所以がよく分かりました…。『難しい』ですね、彼女を描くのって…。とりあえずゲーム中のネオユニヴァース語録を徹底的に調べて傾向を掴み、それに拙作で使う言葉を当てはめる方向を目指しましたが、違和感のない仕上がりになっていれば幸いです。
そしてブレイズの進路はティアラ路線、次走は朝日杯フューチュリティステークス。勝負服はどんなデザインになるでしょうね。


「作者さん、次回予告に来ました」

お、サニー。次回予告頼んだ!

「はい! と言っても、みなさん想像できていると思いますが、次回は聖蹄祭の後半です。オペラの第四幕以降とかが描かれることになりそうです。
次回『聖蹄祭と大流星(後編)』更新は少し待っててね 」
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