大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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Act.021 聖蹄祭と大流星(後編)

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 現在私は、「聖蹄祭」にてテイエムオペラオー先輩主演の歌劇に出演中です。

 舞台ももう半ばを過ぎ、最終幕となる第四幕「覇道の行方」。この第2場が、次なる私の出演です。

 第1場は、医師役のゼンノロブロイ先輩の必死の治療の末に、オペラオー先輩が何とか意識を取り戻す場面。ロブロイ先輩が神への感謝の気持ちを歌い、オペラオー先輩はナルジア打倒の決意を改めて歌い上げています。あの先輩、本当によくやりますわ…。そして、ロブロイ先輩が薬の調合材料を揃えるため退場した瞬間に、オペラオー先輩の枕元に現れて予言をしていく「星読みの神官(ネオユニヴァース先輩)」も、良い刺激になっています。

 

 続く第2場は、ナルジアの神殿が舞台になりますから事実上私の独擅場です。巫女である以上、占いとは縁の切れないものです。私も占いによって、第1場で描かれたオペラオーの復活を把握することになるのですが……私の占いは、水晶玉を覗くようなものではありません。卓に広げた何枚もの card の中から3枚選び、そこに描かれた絵柄を読むのです。そう、タロット占いですわ。

 本当は黙ってやるようなものですが、ここは歌劇の舞台です。口に出さない思いでも、口に出して歌う必要があります。

 また、これはマチカネフクキタル先輩に教えていただいた上で独学したのですが、タロット占いでは「タロットへの質問を具体的に絞り込む」ことが重要となります。例えば「恋人との関係は今後どう変化していくか?」とか、「離婚した場合、私の未来はどうなるか?」というように、"何を尋ねたいか"を明確にしないといけないのです。

 そして、質問内容を決めた上で「スプレッド」と呼ばれる引き方を決め、それに基づいて card の絵柄を順番に読んでいくのです。ちなみに今回選んだ「スプレッド」は、"スリーカード"と呼ばれるものです。時間軸を定めた読み方ができますわ。

 

「この戦争が終わる時、私はどうなっているでしょうか?」

 

 音楽に合わせて歌うように質問を口にし、場に広げた card から3枚を選んで一列に並べます。左が「現在」、中央が「1ヶ月後」、そして右が「3ヶ月後」にしました。

 私が引き当てた3枚の絵柄は、左から順に「(ムーン)」「ソードの10」「(デス)」。「月」と「ソードの10」は card の向きが上下逆になった"逆位置"、「死」は"正位置"です。

 

「不安…恐れ……」

 

 若干不協和音を混ぜ、不吉な印象を感じさせる piano の音に合わせて呟くように歌います。これは、現在の位置に出た「月」が象徴する単語ですわ。

 見事に私の現在の状況を表しています。オペラオーを討ち果たせたか、ナルジアの将来や自分自身の将来はどうなるのか…といった内容は、不安や恐れに当たるでしょう。

 その「月」が逆位置になっているということは、先行きが不透明で見通しが立たず、身動きが取りにくい状況を表現しています。今の私そのものですね。あと蛇足ながら、「月」には"隠された事柄"という意味もありますわ。

 で、1ヶ月後に待ち構えているのが「ソードの10」……意味は"苦痛""苦悩""悲しみ"等です。それも逆位置ですから、予言としては「耐えきれないほどの苦痛を感じ、これ以上はどうにもできないどん底状況に陥る」になります。要するにお先真っ暗、というわけですわ。

 

「どん底状態になる……つまり、生ける災厄がまた襲ってきて、全てが終わる…。となると、オペラオーはまだ生きているということか……」

 

 この辺りは、なるべく低く暗い声音で歌うのが肝心ですわ…。それによって恨みや憎しみを表すことになりますので。

 

「あの悪魔ども……私の血統のみならず、やっと手にした栄光と安寧までも奪おうというのか……」

 

 この一言から、歌に乗せた私の独白が始まります。

 実は私はテイエム王国の生まれで、物心付く前に母上と共に国外追放されてこのナルジア国に流れ着いた身なのです。それも、テイエム王国の中でも結構な身分にいたのにこうなったとか。全て亡くなった母上から聞かされた話なのですが。

 それ以降、私は母上と私自身をこんな目に遭わせたテイエム王国を恨みながら生きてきました。そして自身に宿る魔力と身体能力を活かして、この国の巫女兼軍人まで登り詰めたのです。

 食べるに困ることも多かった、小さい頃の苦難の日々。やっとの思いで脱したと思ったのに、その日々がまた到来しようとしている……かつて私と母上を捨てた国によって。

 

「何が英雄王だ。オペラオー……貴様ごときに、この国は渡さない……!」

 

 そこまで歌ったところで、私の元に1人の神官が駆け込んできて、一度は止まったテイエム軍が再び侵攻を開始した、と報告してきます。同時に君主トップロードからの召喚命令を受け取り、神殿を後にする…というのが、第2場の筋書きです。

 

 場が終わって幕が降りたところで、小さいながらも私の出番ですわ!

 

「本日は歌劇『英雄王テイエムオペラオー』をご覧いただき、誠にありがとうございます。場の転換を待つ間の余興といたしまして、私シルヴァーブレイズから、先ほど行った占いについて解説させていただきます。よろしくお願いいたします」

 

 観客の皆様の拍手が途切れるのを待ち、PCと映写用の機材を用意し、まずは簡単な説明から入ります。先ほど実施していたのがタロット占いであること、card には様々な絵柄があり、絵柄によって意味が違うこと、幾つか引き方(スプレッド)があり、今回私が選んだのは「スリーカード」であること、そして"正位置"と"逆位置"があること。

 前提となるそれらを話した後で、いよいよ私が引いた cards の説明にかかります。1枚目と2枚目の意味は、さっき皆様に説明しましたから、これは省略しますね。そう、大事なのはここからです。

 皆様お気付きのことと思いますが、劇の中で私は3枚目のタロットを読み忘れています。これは台本通りですわ。

 最後に残った3枚目、つまり3ヶ月後を示す「死」の意味は……

 

「最後の3枚目、『(デス)』の意味するところは、"終わり""白紙""古い考えや信念からの脱却""復活のプロセスの始まり"なのです。そして、この「死」が正位置で出たということは、その暗示するところは……物事を終わらせるタイミングが到来し、古い考えや先入観、因習的な物事などから解放される、というものです。

死という表現が使われていますが、決して暗い意味だけではないのです。そのことはどうか、ご理解くださいまし。

…さて、そろそろ第3場の準備が整ってきたようですわ。解説はここまでにしたいと存じます。ご清聴ありがとうございました!」

 

 観客席からの拍手が、私の説明の締めくくりでした。

 

 第3場は、ナルジア王城にまでテイエム王国軍が攻め込み、落城寸前の場面です。やはりというか、国力を大きく上げたテイエム王国には対抗できなかった、というところです。

 今やナルジア側の兵士たちは全滅し、オペラオーの軍に抵抗しているのは私とトップロード先輩だけ、という状況です。しかも、オペラオーとの1対1の決闘に敗れ、トップロード先輩はオペラオーの説得に応じて降伏してしまったのです。

 でも……私が納得する訳ありませんよね? だって第2場で解説した通りなんですもの。というわけで、私は自身の得物……2 yards もの長さのある魔法石付きの杖に、大鎌の刃を取り付けたもの……を振り回し、あろうことかオペラオー軍の包囲網を破って脱走。城壁から飛び降り、そのまま逃げ去ってしまうのです。

 すぐに追撃を命じるオペラオー先輩。そして、トップロード先輩が連行され、周囲に兵士がいなくなった瞬間を狙って、「星読みの神官」がふらりと現れ、予言を残していきます。

 

「まだ、"SPNV"の危険は去っていないよ……」

「!? また君か…毎度不思議なんだが、どうやってボクのところに来ているんだい?」

「"ワームホール"だよ……。

『双子星』の片割れが、その命尽きようとしてる……。"選択"を、間違えないで。もし誤れば……君の星に『マリナー』ができる、と思う……」

 

 またもやあっという間に、まるで消えたかのようにいなくなってしまうユニヴァース先輩。オペラオー先輩は、この難解な予言に頭を悩ませるのでした。

 

 そして、おそらく私の第三の見せ場となるであろう、第4場。落城したナルジアの王城を脱出した私が、テイエム王国側の捜索隊に発見され、最後の戦いを挑む場面です。

 テイエム王国に屈することを認めなかった、ほんの僅かな同志と共に、差し向けられたテイエム王国の大軍に挑む私。しかしその戦力差は絶望そのもので、ついに味方は全員が戦死。私はたった1人で戦う羽目になりました。しかも、オペラオー自身の出陣とあって、相手は精鋭揃いです。まさに絶望ですわ。

 けれど、こうなることは織り込み済。私の狙いは別のところにあるのです!

 

「戦神よ、我に力を与えたまえ。地に刻まれし刻印もて、我が魔力を糧として敵に鉄槌の一撃を振り下ろさん。

消し飛べ! 《グランドスラム》!!」

 

 私の狙いは、大地に書き込んだ魔方陣を使って大規模爆発を起こし、一瞬にしてオペラオーを大軍ごと葬り去ること。そのために、発見されたことを奇貨として、魔方陣を書いた地まで敵を誘きだしたのです!

 呪文を唱えた直後、私の足元…正確には舞台下から溢れ出す白い光。演出は予定通りですわ!

 

「しまった! 魔方陣に書き間違いが…!」

 

 私の叫びは、落雷にも似た轟音(効果音ですわ)に掻き消されていくのでした。

 大量の白い煙幕と光の演出により、観客席から遮られる舞台。観客たちがざわめいている間に、私は急いで"メイクアップ"をしなければなりません。

 着色料の缶を持ってきてくれたサニーウェザーさんと、こくりと頷き合い……そして、私の象徴たる白い大流星を茶色に塗り潰していきます。それも、オペラオー先輩の髪の色に似た、明るい茶色に。

 これが意外と大変なんですの……何度か練習しましたが、いずれも時間ぎりぎりでした。今回も、煙幕が切れる10秒くらい前に何とか終わった感じですわ。

 

「爆発魔法だ! それも、ここら一帯を吹き飛ばすほどの規模なんて…こんな大規模なの見たことないぞ!」

「おーい! 生きてたら返事しろー!」

「無駄だろ、あんな爆発だ。おそらく先発隊は誰も……ん?」

「おい、あそこ! 誰か倒れてる!」

「あの爆発を乗り切ったのか? 奇跡だな」

「ちょっと待った! この衣装に、折れてはいるがこの杖は…まさか!」

「こいつはシルヴァーブレイズか! あれだけの爆発でみんな吹っ飛ばしておいて、自分だけ生きてるなんてどれだけしぶといんだよ!」

 

 魔方陣を書き間違えたことにより、暴発してしまった大規模爆発魔法。しかも、爆心地は魔方陣の中央ではなく私自身になってしまいました。そのせいで私は何とか爆発から生き延びたものの、大きな被害を受けて気を失ってしまったのです。

 意識を失って倒れている私を取り囲む、テイエム軍の後続部隊の兵士たち。そこへ、「待ちたまえ!」という言葉と共にオペラオー先輩が登場。

 

「ふむ、確かにシルヴァーブレイズだね。生きているのか?」

「どうやら生きてはいるようです。気を失っていますが」

「陛下、こやつに止めを!」

「陛下に逆らうなど、不敬にも程がありますぞ! 死罪より他にありません!」

 

 周囲の兵士たちが意見を述べる中、私のそばにしゃがむオペラオー先輩。何かに気付いたようです。しばし観察し、そして立ち上がると同時に一言。

 

「シルヴァーブレイズの処遇はこのボクに預けてもらう! とりあえず、城まで運んでくれ!」

「「「え?」」」

「彼女に少し聞きたいことがあるんだ。そのためには回復して目を覚ましてもらうしかない! 処刑するにしても、多少の情報を得てからでも良いだろう。

早く運ぶんだ!」

「「「ははっ!」」」

 

 意外な命令に驚きながらも、兵士(役のウマ娘たち)は私を担ぎ上げて運んでいくのでした。その光景を見詰めて、オペラオー先輩が一言。

 

「まさか、『選択を間違えるな』というあの予言はこういうことだったのか…? だとしたら、『双子星』というのはボクと…!」

 

 そして、追加で命令を出すオペラオー先輩。

 

「直ちに城に特急遣いを出せ! ハヤヒデ君に至急調べてもらうことがある!」

 

 そして、物語の終盤となる第5場。舞台は、旧ナルジア王城の一室です。

 オペラオー軍に同伴していた医師役のゼンノロブロイ先輩の治療を受けている私。未だ意識を取り戻しておらず、ロブロイ先輩が必死になっています。

 

「うーん、顔色とかは悪くないし……それなのに目覚めないなんて、これ以上どうしたら良いんだろう……」

 

 頭を悩ませる先輩の演技、なかなかのものがありますわね。脚本の監修も担当してくださったというのに、あの先輩も大概多才ですね…。

 

「そうだ、もう1つ試してない薬草があった。それを試してみようかな。それと、容態は安定したけど目覚めないって陛下に報告しないと……」

 

 呟くように歌いながら一旦退場していくロブロイ先輩。ロブロイ先輩がいなくなった直後に、私の意識が戻るという筋書きなのです。

 

「うぅ……ここは、地獄、でしょうか……?」

 

 ある意味ベタな発言と共に、弦楽器の静かな音色に合わせてゆっくり起き上がる私。そして、包帯を巻かれた両手を見下ろしてぽつりと一言。

 

「……いえ、どうやらこれは現実ですね。私はまだ、生きている……」

 

 ちなみに筋書き上では、私はまだ自分自身の見た目が変わったことに気付いていません。あの特徴的な白い流星はすっかり塗り潰され、オペラオー先輩と同じような明るい茶色に変わっているのです。ついでに瞳の色も変化しており、これまで右が緑、左が青だったのが、両目とも群青色になっていますの。

 私の見た目が変わったことで、観客の皆様から少しのざわめきが聞こえてきます。予定通りですわね。

 

「神よ、どうかお答えください。何故に私は、生き残ってしまったのでしょうか……?」

 

 寝台の上で、静かな曲に乗せた私の独白が始まるのです。

 

「私は、あまりにも多くの人々を狂わせてしまった……。敵味方問わず、戦火に(たお)れた人々も……その家族の人たちも……。特に、あの暴発した魔法に巻き込まれたオペラオー軍の兵士たちなんて、骨も残らず吹き飛んだに違いない……。

そこまで多くの人を死なせたのなら、私は真っ先に裁かれ、タルタロスに幽閉されるべきはず…。なのに何故、生きているんでしょう……? 生きていられる資格など、私には…ない、のに…っ!」

 

 途中から両手で顔を覆い、泣く演技です。これ、思っていたより大変なんです……稽古で何度オペラオー先輩にダメ出しを喰らったか、数えきれませんわ。

 

「何故、あんなにも多くの人を死なせなければいけなかったのか、それすら分からない…! 分かるのはただ1つ。私は……生きていて良い人じゃ、ない……!」

 

 ひとしきり泣いた後、私の目は寝台の側にある机に止まりました。その上に、医療用の刃物が置いてあったのです。おそらくロブロイ先輩が、瀉血か手術のために使った後で片付け忘れたものでしょう。

 

「生きる資格なんて、私には、ない……」

 

 どこか虚ろな瞳を演出しながら、痛みに震える(という演出をしております)手を伸ばして、どうにか刃物を手に取ります。そして、それをまっすぐ自身の喉に向け……

 

「待ちたまえ!」

 

 突然響いた鋭い声に、一瞬私の動きが止まります。その直後、つむじ風のように飛び込んできたオペラオー先輩が、剣のフラー(剣身に刻まれた血抜き用の溝のこと。これが刻まれた箇所はだいたいの場合斬れない。つまり、オペラオーがやったことは言わば「峰打ち」である。)で私の両手を叩きました。バシッという音(もちろん効果音です)と共に、「あぐっ!」と悲鳴を上げて刃物を取り落とす私。

 

「ブレイズさん何してるんですか! せっかく助かった命をわざわざ捨てようとするなんて…!」

「邪魔しないでください! あれだけ人を殺した私に、生きている資格などありません!」

 

 ロブロイ先輩と私の怒鳴り合う様を見て、何かを察したように頷くオペラオー先輩。

 

「まあ待て、2人とも一旦落ち着こうじゃないか。特にシルヴァーブレイズ君には、聞いてもらいたい話があるしね」

「……は? 話?」

 

 怪訝な反応を示す私。

 

「死ぬことそのものはいつでもできるかもしれない。でも、ボクの話を聞いてからでも遅くはないだろう?」

「……分かりました。それで、どんな話でしょうか?」

 

 ひとまず、話とやらを聞いてみることにしたのです。

 すると、オペラオーは「ロブロイ君、あれを」と指示し、次いでこう言いました。

 

「話を始める前に、少し見てほしい物がある……これだよ」

 

 オペラオーが渡してきたのは、部屋の隅の棚に置いてあった金属の円盤。いわゆる銅鏡です。

 

「銅鏡ですか? 鏡なんか見て、何の意味…が……え?」

 

 鏡に映った自分自身の姿がこれまでとまるで違うことに、初めて気付かされた私。

 

「………」

「鏡は正直だからね。その姿は間違いなく、君自身だよ」

「これが……私……? なら、あの髪と瞳の色はいったい……」

「当初はボクも、生来のものだと思ってたんだけどね…どうやらそうじゃなかったらしい」

「そうじゃない、というと?」

 

 これが生まれつきでないというなら、いったい何なのでしょう。

 

「黒魔術の一種だよ」

「黒魔術ですって? それって呪いとか、いわゆる『暗黒魔法』のことでは…?」

「その通り。呪いなんかも、いわば魔法の一種だからね。ただ、ボクも変身用の魔法薬は知っていたけど、呪いの副作用で姿が変わるなんて事例は初めてだ。我が国の文官や神官たちがこれを聞いたら、いったいどうやってそんな変化を生じるのか、興味を持つだろうね」

「そんな……まさか。では、これが私の本来の姿…?」

「そうなるね。君のあの緑の瞳から妖しい気配を感じる、と我が軍の魔術師から報告があったから、まさかとは思っていたけどね」

 

 驚愕の真実を告げられ、目を丸くして口をぽかんと開ける私。

 

「で、では、私のあの姿が黒魔術によるものだったとして、その元になったものは何だったのでしょう…?」

「おそらく『怨み』なんじゃないかとボクは思うね。ボクを殺したくてたまらなかったんじゃないかい?」

「え? ……あ、そういえば……」

 

 そうです。

 皆様お気付きになっていたかもしれませんが、あの魔法の暴発で倒れて以降、私はオペラオー先輩への恨み言を全く言っておりません。

 

「その怨みの根源はおそらく、君の出自に関わることだ。

それはいったん置いておいて、君も巫女ならば聞いたことがあるだろう。黒魔術を一度でも使い始めると……」

「更生はほとんど不可能、ですか?」

「そう。我が国の歴史を紐解いてみても、暗黒魔法の面から生きて戻ってきた者は、2、3人しかいない。それも、君を入れてこの数だ。

君が黒魔術から抜け出せたのは、あの暴発した魔法が原因だろう。あれだけの大規模爆発だ、君は心身共に大きなダメージを受けた。その際に、図らずも君の中に巣くっていた黒魔術を身代わりにしてしまったんだろう。その結果、黒魔術は大きなダメージを一息に受けて消滅し、君は暗黒の世界からの帰還を果たした。これが、ロブロイ君の見立てだよ。

こうした点から言っても、我が国の魔術師たちが君に強い興味を持つことは想像に難くないね」

 

 ちなみに、この「暗黒魔法の面」に関するオペラオー先輩の話を聞いて、何だか聞き覚えがあると思った方は遠慮無く挙手してくださいまし。

 

「さてここで、君の出自に関して必ず伝えておかねばならないことがある」

「何でしょうか?」

「御母上から、君自身の家のことは何も聞いていないんだろう?」

「テイエム王国の結構な身分だった、とは聞いています。それなりの爵位持ちだと思って……」

「違う!」

 

 私の言葉を、これまでからは考えられないかなり強い調子で否定するオペラオー先輩。そして。

 

「ボクは……君の兄だ」

「……はい?」

 

 今明かされる、衝撃の真実。

 

「君には兄がいるんだよ。ボクが、その兄だ」

「嘘……嘘よ……そんなこと…そんなことあるもんですか……!」

「残念ながら、本当なんです」

 

 唐突に割って入るロブロイ先輩。

 

「ブレイズさんが眠っている間に調べたのですが、ブレイズさんの魔力波長は、オペラオー陛下のそれと9割方変わりませんし、アドマイヤベガ先王陛下のそれとも大筋で一致します。加えて、テイエム王家のウマ娘に特有の、一定周期で強い魔力を発する波長パターンがあることが分かりました。

ブレイズさんがテイエム王家の血を引いていない限り、そんなことは起こり得ないんです」

「ということで、君は間違いなく、我がテイエム王家の1人だよ」

「嘘ですわぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 絶叫し、両手で顔を覆う私。

 ……台本を見た時点で思ったのですが、この場面、明らかにとあるSF作品を参考にしてますよね、ロブロイ先輩?

 

「何故こうなってしまったのか、なんだけど……」

 

 すすり泣く私に構わず、オペラオー先輩は懐から書類(わざわざ昔の製法を調べてパピルスを作ったものです)を取り出しながら続けます。

 

「ボクの母上が正室だったのに対して、君の母上は側室だった。君はいわば妾の子で、ボクと君は腹違いの兄妹ということなんだ。しかも報告書によれば、ボクの母上と君の母上の懐妊はほぼ同時だったようだ。

我が国の決まりでは、側室の子でもできる限り王城内に居を構えて住まわせることになっている。側室であろうと、王位継承の可能性が残っているからね。然るに君が送った生活は、あの通りだ。

どうも我が国の高官の一部が結託したらしい。子を減らして王位継承の可能性を絞った上に、側室…いや、正室候補を減らすことで浮いた金を懐に入れていたんだ。ハヤヒデ君が大急ぎで調べてくれたんで、君の目覚めに報告書が間に合った。今頃ドトウ君の歩兵隊が捕縛に乗り出しているだろう」

 

 この世界の大抵の王国では、最初に生まれた子が第一王位継承者になることが多いです。それを考慮すると、テイエム王国の汚職官僚たちはよりにもよって、第一王位継承者を国外追放していたことになりかねませんね。おそらく極刑は免れないでしょう。

 

「そんな……なんてこと……」

「君の御母上は、君を体内に宿したまま国外に追放された。御母上の怨みは、計り知れないものがあっただろう。もしかすると、御母上の怨みを引き継いで君が生まれたのかもしれない。黒魔術だけで見た目が大きく変わった、なんて話はボクも初耳だからね」

「私もです。これまで魔術関連の医術にも触れたことがありますが、そんな事例は聞いたことがありませんでした」

 

 これまで母上から聞かされていたこと、自分が信じていたこと、その全てが根底から覆された、という訳です。今の私には何もない……あるとしても、多くの人の生活を狂わせ、死に追いやったという事実だけ。

 それだけ取ってみても、私に生きる資格などある訳が…。

 

「とまあ、ボクの話はこれでおしまいなんだけど……ここはひとつ、物は相談と行こうじゃないか」

 

 まだすすり泣いている私の肩を軽く叩くオペラオー先輩。

 

「ブレイズ君。君が今どういう状態に置かれているかは、よく分かる。今まで真実だと信じていたものが全て否定されたことで、君自身の心の拠り所だったものが一気になくなってしまい、アイデンティティが大きく揺らいでいるんじゃないか?」

 

 実際その通りですわ。この先輩、何だかんだ他人の悩みには敏感なんですよね。

 

「そして今、君は悩んでいる。大勢の人間を殺してしまった自分に、生きている価値などないのではないか、とね」

「………」

 

 無言のまま、耳をぴくりと動かす演技をしておきます。

 

「そこで、だけど……罪の償い方は、何も死だけとは限らない。もっと良い償い方がある」

 

 そう言うと、オペラオー先輩は私の両頬に手を添え、私の目をじっと見詰めてきました。

 

「単刀直入に言おう。シルヴァーブレイズ君、君の知見が欲しい。

ボクは最初から王族に生まれ、王となるべくして教育を受けてきた。世界のどこを探しても、ボクが受けた教育ほど良いものはないと思ってる。だけどボクは、微かに何かが足りないと思っていたんだ。言うなれば、ボクの政治は98%の国民に満足してもらえているが、あと2%分が足りない感じだった。その足りないものが何なのか、ボクはさっきまで分からなかった。

たった今それが分かったんだよ。ブレイズ君、まさに君だ。君のように、『一番下のどん底から這い上がってきた者』が、臣下にいなかったんだ」

 

 一呼吸置いて、話を続けるオペラオー先輩。

 

「君は生まれた時点でこれ以上ないほど下の身分に突き落とされていた。だが、そこから這い上がって一国の巫女にまで登り詰めた。そういう経験をしてきた者にしか、本当の民意というものは分かり得ないはずだ。

実際、ナルジアの人たちに話を聞いてみたら、一般市民から君主のトップロード君まで、全員が君の名前を一番に挙げた。『あの方は自分たちの話を真剣に聞き、常に皆のためになることをやってくださった。それでいてお布施は一切求めなかった。あの方こそ、知る限り最も素晴らしい巫女だ』と、全員が口を揃えたように言っていたよ」

「え……?」

 

 目を見開く私。それはそうでしょう、あれだけの人を死なせたのだから憎まれているかと思いきや、ここまで感謝されていたのですから。

 

「民意を汲み上げ、国民のためになる政策を考える力は、ボクより君の方が上だ。だからこそ、本当の世界平和を作り上げるためにも、君が必要なんだ。力を貸して欲しい」

「………」

 

 真剣な眼差しで見詰められては、頷くしかありませんわね。

 

「よし。…と、すまない、言っておくことがあるのを忘れるところだったよ」

 

 そして、そっと私を抱き寄せるオペラオー先輩。

 

「お帰り。我が妹、シルヴァーブレイズ君」

 

 それに対して、私も目を閉じながら返事を。

 

「兄さん……ただいま……」

 

 これで、物語は全ておしまい。最後に、主要な役回りを振られたウマ娘の方全員で、讃美歌を歌って終幕……と思いきや、幕の降りた舞台の前に突然現れたのは、水色と黄色のローブを羽織った方。

 

「これが、『星読みの神官』……」

 

 そして、フードを外して顔を晒しながら続けます。

 

「……ネオユニヴァースの見た『全て』だよ。……じゃあ、"次の物語"までセブンティ・スリー…あ、エイティー・エイト、かな」

 

 一瞬で消える芸を披露したネオユニヴァース先輩に、大きな拍手と歓声が送られました。

 

 

 この全編4時間にも及ぶ歌劇で、すっかり疲れてしまいましたわ……この後何をしていたのかもあまり覚えていませんが、気付いた時には「聖蹄祭」も終わりの刻を迎えていました。

 正門付近の片付けを手伝う最中、余韻に浸りつつ夕焼けの空を見上げ、小さく呟きます。

 

「さて……明日から頑張らないと。私の将来にも大きく響きかねませんし」

 

 次走に向けて特訓していかねば。何せ次走は、得意とはいえない 1,600M 前後の競走ですから。

 狙うべき栄冠、その名は……「朝日杯フューチュリティステークス」。




「星読みの神官」の語録とその意味パートツーはこちら。

『双子星』…オペラオーとブレイズ。この
予言をした時点で、ネオユニヴァースはオペラオーとブレイズが異母兄妹であることに気付いている。

『マリナー』…マリナー峡谷(マリネリス峡谷)のこと。火星にある巨大な峡谷である。長さ4,000㎞、最大幅200㎞、深さ7㎞。あの有名なグランドキャニオンですら、長さ446㎞、最大幅29㎞、深さ1.2㎞なのだから、マリナー峡谷がどれだけでかいかよく分かる。
峡谷とは即ち、大地にできた「ひび割れ」である。ネオユニヴァースは、「星に巨大なひび割れができる」と表現することで、オペラオーに「一生後悔するような目に遭う」と言おうとしている。

セブンティ・スリー、エイティー・エイト…無線用語。どちらも意味は「さようなら」。73は男性宛て、88は女性宛てに用いられる。

うーん、やっぱりネオユニヴァースを描くのは『難しい』ですね。

「失礼。次回予告の時間ですわ!」

ん、シルヴァーブレイズ? どうした、今日に限ってやけに興奮していないか?

「私は今、気分が高揚しておりますの。いよいよアレが来たんです、これが興奮せずにいられますか!」

アレって何だ?

「アレはアレですわ!!」

だからアレって何だよ?

「大きな競走の時しか着られない、光栄の至りといえる特注品の衣装ですわ!!」

おい、それってまさか…!

「そういうことですわ!!
というわけで次回、『勝負服と大流星』 don't miss it ですわ!!」

いや待て、キャラまでおかしくなってるじゃねーか! 掛かってるぞ、落ち着け!


(おまけ)

聖蹄祭から数日後、栗東寮のとある一室にて。

「オペラオー君、またファンレターの山が届いたのか?」

 もはや部屋の床を半分埋めてしまいそうなほどの膨大なファンレターに囲まれたテイエムオペラオーと、それにあきれたような視線を向けるビワハヤヒデ。

「そうさ、ハヤヒデ君。あのオペラを見てくれたボクのファンの方から、次々とファンレターが渡されているのさ! 君に言及していたものもあるよ、読んでみたまえ!」
「やれやれ……ん? これも、これもこれも……オペラオー君?」
「何だい?」
「確かに私に言及したファンレターも多い。ただ……君とシルヴァーブレイズ君の共演を褒める物がかなり多いな。ざっと見た限り、7割くらいは彼女への言及があるぞ」
「ふむ……やはり、彼女は我がオペラオー劇場の主演女優に相応しい! また声をかけるとしよう!」
「……たまには彼女にも文化祭を楽しませた方が良いと思うぞ」


 一方、栗東寮の別の一室。

「………」
「………」

 郵便受けを開けた瞬間、雪崩のごとく落下して床に山をこしらえた大量の封筒に、目を白黒させるウマ娘が2人。

「……何ですのこれ……」
「どーみても全部ブレイズ宛てでしょ。あたしまだデビューしてないから、ファンレターなんて来ないし」
「えぇ……これ全部…?」
「しかも時期的に、あのオペラ見た人たちからじゃないの。とりあえず見てみようよ、手伝うからさー」

 そして、片っ端から開封していくシルヴァーブレイズと、ルームメートのリナルドモントバン。

「これも、これも……私の競走に言及したもの、1通もないですね……ことごとく歌劇絡みですわ……」
「こっちも全部オペラ関連だね。あのバク宙とか、ラストシーンに触れたものばっかり…あ、最後の讃美歌で歌声に惚れたってのがたまにある。
まー派手に名前売ったねブレイズ。これだけ有名になったら、レース負けられないかもよ?」
「えぇ……。そしてこれ、全部に返信しないといけないんですの……? 私、これまでにいただいたお手紙には基本的に全て返事を出す主義なのですけど……」
「ま、頑張ってー」
「ひえぇぇ……」
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