私は馬券は買っていませんが、こっそり8番のコラソンビートを応援しています。
お待たせいたしました。シルヴァーブレイズの4戦目にして「阿寒湖特別」以来4ヶ月ぶりの競走です。
しかも舞台はGⅠ。皆様は、ウマ娘プレイ時に初GⅠでどんなことを思ったでしょうか? 大概「勝ってほしい」だと思います。それは私も同じです。
では、我らが主人公シルヴァーブレイズは果たして勝てるでしょうか!?
皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
とうとうこの日がやってきました……12月14日の阪神レース場の目玉競走、「朝日杯フューチュリティステークス」。阪神レース場で行われる、距離1,600M のGⅠ競走です。
現在私は控え室で勝負服に着替え、paddock 入りの時間を待っているところです。ついに始まる、GⅠという名誉の競走…どんな
そこへ、コンコンという扉を叩く音がして、trainer さんが入ってきました。
「どうだブレイズ。緊張しているか?」
「緊張? 何を緊張することがあるのですか?」
「いや、GⅠレースとなると緊張する子が多い、っていうのが一般的な傾向だからな。中には緊張しすぎて掛かってしまい、事前に立てた作戦をすっかり忘れてしまう者もいるくらいだ。だからブレイズ、君はどうだろうかと心配したんだ」
「ご心配ありがとうございます。ですが、それには及びませんわ。むしろ楽しみで仕方ないんですから」
私がそう言うと、trainer さんは私の顔をじっと見た後で「ふむ」と頷きました。納得されたのでしょう。
「確かにそこまで緊張してなさそうだな。
さて、今回はどういう戦略で行くんだ?」
そんなもの、答えは決まっていますわ。以前からさんざん練習してきた訳ですし。
いえ、既に答えの決まっていることをわざわざ聞いてきたというのは、意図あってのことでしょう。おそらく、本当に私が緊張していないか、確かめようとでもしているのでしょう。
「今回は、私にとっては得意とは言い切れない距離の競走です。故に、最大限の注意を払わねばなりません。
本日の競走『朝日杯フューチュリティステークス』の特徴は、短い距離を得意とする方が出走してくることです。翻って、私は長距離走は得意ですが、逆に短い距離は苦手です。特に競走序盤は、加速が追い付かない可能性が高いでしょう。従って、今回は差しないし追込の位置を取るつもりで走ります。
また、私の最大の強みは、全力解放時の末脚が同年代の中でもかなり鋭いこと、そしてこの競走には不必要なほどの体力があることです。それを活かし、暖機運転を兼ねて最初から早めの速度で飛ばしつつ大外を回り……十分に脚を暖めた後に、最後の直線でまとめてぶち抜きます」
このために、何日も時間を割いて鍛練を重ねてきたのです。準備は万端ですわ。
そしてすらすらと答えるのを見せられた辺り、trainer さんも私のことを信じてくださるでしょう。
「よし。ところで、準備運動は済んだのか? 君自身言っていたが、今回は距離が短い。君の末脚は十分に暖まりそうか?」
「それについては問題ありませんわ。少し前に軽く走っておきましたし」
「お、それは良いな。どのくらい走ったんだ?」
「15 furlongs.」
「……え?」
Trainer さん? 目が点になっておりますよ…?
「えーと、ブレイズ?」
「はい?」
「準備運動でどのくらい走ったって?」
「15 furlongs.」
「……いや走りすぎだろ! それ菊花賞の距離じゃねえか!」
「いえ、軽く流しただけですよ?」
「軽い流しで3,000も走る奴があるか!」
口にはしませんが trainer さん、計算を誤っておりますよ。 正しくは 3,018M です。
ちなみに、私にとっては 15 furlongs は多少はしんどい距離ですが、消耗してへとへとになるほどでもありません。何せ朝練として、起きがけに5㎞の流しを1本やっているのですから。
「…って言いたいとこだけど、君はそういう子だったな……。普通の子なら息が上がるような距離を走っても、平然としていることが多かったんだった。
すまんが、レース前に足だけ見せてくれ」
「承知しました」
靴下を脱がせ、私の足を調べ始める trainer さん。……実は練習後とかによくあるこの時間、私にとっては最もむず
「…ふむ、大丈夫そうだ」
そう言って trainer さんが靴下を直した時、係の方が呼びに来られました。
「よし、じゃあ……頑張ってこいよ」
「ええ。シルヴァーブレイズ、行ってまいります。勝利を、trainer さんに。」
さーて、お待ちかねの戦争ですわ!
『17番シルヴァーブレイズ、4番人気です』
『8月2日の
私を paddock で待ち受けていた評価がこれです。好き放題言ってくれますね……事実なので否定しませんが。
やることはただ1つ。勝利あるのみ!
もちろん勝利を祈るべく、paddock での performance は十字を切るものです。
God bless! Give me victory, or give me death!
御披露目の時間が終わり、本バ場入場に向かおうとする私を、地下バ道にて《シリウス》の皆さんが待っていました。といっても、trainer さんにメジロマックイーン先輩、それとサニーウェザーさんの3人だけです。他の皆様は、近日中に迫る競走本番に備えて追い切りにかかっていることでしょう。
「ブレイズちゃん、大丈夫なの…? すごいニコニコしてるけど……」
開口一番、サニーさんにそう言われるまで、私は自分が笑っていることに気付きませんでした。でも、これは仕方ないですわ。だって……
「サニーさん、心配には及びませんわ。だって私、柄にもなくわくわくしてるんですもの」
「わくわく…?」
そう、競走本番がとっても楽しみなんですから。
「ええ。これは紛れもないGⅠですから、出走してくるのは粒ぞろいの精鋭ばかりです。その人たちとどんな戦いを繰り広げられるか、それを考えるとわくわくしますの。
そして……その強敵たちをどうやって打ち倒し喰らい尽くしてやろうかと考えると、余計にわくわくしますの…!」
「ひっ…!」
……? サニーさん、何でそんな怯えた表情なんですの…?ついでにいえば、マックイーン先輩も trainer さんも、なんで微妙な表情を浮かべてますの…?
と、それはそれとして。
「それでは、シルヴァーブレイズ、行ってまいります!」
いざ、決戦の時間ですわ!!
シルヴァーブレイズが去った後、サニーウェザー、メジロマックイーン、
「今の、見ましたか…? こ、怖かった…」
「見ましたわ。あれはヤバいですわね」
「あれはヤバいな」
3人ともほぼ異口同音の感想を述べた。
ついさっき、シルヴァーブレイズは笑顔で話していたのだが、途中で急に笑顔の種類が変わったのだ。最初の方は、「スマイル」と言われて誰もがイメージするような、目を閉じるくらいまで細めて口角を少し挙げた笑み。そして、「強敵たちをどうやって打ち倒し喰らい尽くしてやろうか」と言い出した辺りで、口角をさらに挙げて歯を剥き出しにし、同時に目を開けてギラギラする光を宿した瞳を見せたのだ。それは、獲物を見出だし今まさにその急所に牙を突き立てんとする肉食獣を連想させる、あるいは
しかも、普段は落ち着いた物静かな口調だったところが、表情を変えた辺りで一気に話すスピードが上がった。その興奮ぶりを反映するかのように。
おまけに、ここは比較的薄暗い地下バ道である。その薄暗闇の中でこの顔となると、いよいよもって怪物か悪魔じみてくる。
普段は穏やかで冷静で、優しい笑みを浮かべているシルヴァーブレイズに、そんな一面があるなどとは全く想像していなかった3人は、完全に
「ただ、これではっきりしましたわね。シルヴァーブレイズさんは、初のGⅠレースであっても緊張などまるでしていませんわ」
メジロマックイーンが強引に話題を切り替えた。
「ああ、あれならむしろイレ込みすぎを心配するレベルだ。だが、常に余裕を持った思考を展開するブレイズのことだ、そこまで心配することもないだろう。
さあ、観客席へ行こう」
「ええ」
「わ、分かりました!」
3人はスタンドへと歩き出すのだった。
ちなみに、阪神レース場から遠く離れた東京中央病院では、
「あとちょっとしたら発走かぁ…。ブレイズちゃん、がんばれー、おー…!」
骨折した足のリハビリを兼ねて、病棟のデイルーム(リビングと食堂を足して2で割ったような雰囲気の部屋。患者の食事や雑談等に用いられる)に歩いて出てきていたライスシャワーが、松葉杖をつく手を止めて小さく呟いていた。
また、東京の別の片隅・パブ「止まり木」でも、
「お待たせ致しました」
「お、ありがとよマスター! 何とか間に合ったな」
「すみませんね、嬢ちゃんのアップルパイを焦がしたと知れたら、後で大目玉になるでしょうし」
「
マスターと常連客が会話していた。しかし彼らの視線はTVに向けられている。ちょうど朝日杯フューチュリティステークスの中継が映されていた。
「どれだ?」
「いたいた、あそこ、外の方」
「あー本当だ。いやー、やっぱ勝負服ってかっこいいよな!」
「ああ。いつも控えめな嬢ちゃんが、今日はドーンと出てる感じがするぜ」
何だかんだで、彼らもシルヴァーブレイズを応援しているのであった。
一方その頃、寒風吹き荒ぶ阪神レース場のスタンドの一角に、トレセン学園の制服と学園指定のコートを着た小柄なウマ娘が1人座っていた。
黒毛の、どこかやさぐれたような印象のあるそのウマ娘は、つまらなそうな表情でフライドポテトを1本口に放り込んだ後、誰にも聞こえないような小声で呟く。
「何がやれアウダーチだの、ビコーペガサスだよ……どいつもこいつも、いったいどこに目ぇ付けてんだトーシロが」
その時、冬風に乗ってある臭いが鼻先を漂った。それは、嗅いだだけで臭いの源が何であるかを瞬時に特定できるほど特徴的な、鼻にツンとくるスパイシーな香り。
「どんぴしゃだな。やはりアンタはここにいた」
そして誰かが、小柄なウマ娘の隣に座った。その横顔を見た瞬間、小柄なウマ娘はあからさまに嫌そうな顔をする。
相手は、トレセン学園の制服とコートを着てニット帽を被った鹿毛のウマ娘だった。その手には湯気の立つ茶色と白の食べ物の皿がある。阪神レース場の名物、カツカレーである。
「俺がどこにいようが勝手だろ。ただの偶然だ」
「いーや、私は確信していたさ。アンタは間違いなく、ここにいるってな」
プラスチックのスプーンを振りながらそう言った鹿毛のウマ娘に、黒髪のウマ娘は睨み付けるような視線を送った。それに気付いた風もなく、いや気付いていて敢えて無視したのかもしれないが、鹿毛のウマ娘は続ける。
「アンタも私も、脚質は似たようなもんだ。それにお互い、強敵が揃う中でギリギリGⅠを勝ったもん同士だろ。考え方くらい分かる」
カツカレーを掬い始めた鹿毛のウマ娘に、黒毛のウマ娘は、馬鹿にするかのようにハッと白い息を吐いた。
「ふん……で、東京からわざわざ関西まで、テメーは何しに来たんだよフェスタ」
「おいおい、それは私のセリフだぜ、リョテイ。と言っても、おそらく同じ理由だろうけどな」
そう言いながら、ニット帽の鹿毛のウマ娘…ナカヤマフェスタはカツカレーをぱくつく。スプーンで切り分けられたカツが、カレールーを
「見に来たんだろ? あるウマ娘のレースを」
フェスタのセリフに、黒毛の小柄なウマ娘…キンイロリョテイは、レースコースを見詰めたまま答えた。
「それだけじゃ50点しかやれねーぞ」
「だろうな……それは私も分かってる。このポイントだからこそ、アイツを見ようとしてんだな。私も同意見だ」
フェスタがスプーンで示した先、そこは最終直線のあるポイントだった。下り坂から急な登り坂に転じるところである。
「あすこはここまでの緩い下りから、一気にキツい登りに転じるところだ。脚の使い方を急激に変えることを要求されるし、そもそもここまでの走りでスタミナを切らしてる奴も多い。そこにきてあの登り坂だ……スタミナと、突っ込む度胸の勝負になる。賭けの結果がはっきり出る。
アンタは、あの坂で
「違いない……テメーと見解は一致したな」
キンイロリョテイは頷いた。
「さて、ここは有マ記念じゃねーから勝ちウマ投票券はねぇ。だが、仮に1人分だけ勝ちウマ投票券買えるとしたら、誰を買う?」
「何だ、今さらそんなこと聞くのかよ」
「ただの確認だ、ズレてたら笑い飛ばしてやる」
「あいにくだが、私もアンタと同じ奴を選んでるだろうな」
そして2人は、それぞれの"推し"ウマ娘の名前を口にするのだった。
ウマ娘レース場の観客席は基本的に、いくつかランク分けがされている他、最前列は出走ウマ娘の関係者(トレーナーやチームメート)専用と決められている。このため、高い所に設けられたVIP席を利用するトレーナーもいれば、雨が降るのも構わずチームメートと共に最前列にかじりつくトレーナーもいる。
チーム《シリウス》の西郷トレーナーは、どちらかというと後者の方だった。寒そうに震えながらも、メジロマックイーンとサニーウェザーを連れて最前列へとやってくる。そこには先客がいた。
「あ、西郷くんもこっち派なんだ?」
西郷の同期にしてライバルの1人、チーム《エレクトラ》の
「相原か…相変わらず元気だな、羨ましいよ」
この寒さの中なのに、相原トレーナーはかなり薄い格好をしており、コートすら着ていない。マフラーにロングコートまで着用してなおガタガタ震えている西郷トレーナーとは対照的である。
「そりゃ、何といってもうちのアウダーチの初GⅠだからね! 気合い入るよ!」
「自分が走る訳でもないのに、何でそんな張り切れるんだ……」
「えー、確かに私は走らないけどさ、なんか気合い入らない? 一緒に勝つぞーって」
「その気持ちは分かるけどな」
担当ウマ娘の勝利を願わないトレーナーなど、いないであろう。
「ま、今回はマイルレースってことで、アウダーチしか勝たんけどね!」
「そんな自信満々で良いのか?」
「そりゃ、無敗でマイルGⅡ取ってきたのがアウダーチだもん! そっちのブレイズは、重賞の経験ないじゃん!」
「どうだかな……確かに重賞そのものは走ってないけど、阿寒湖特別は結構なものだと思うが」
「阿寒湖って8月じゃん! 4ヶ月もブランク空いたら、レース勘鈍るでしょ」
「まあな」
西郷トレーナーは苦笑した。
普通なら、この苦笑は"痛いところを衝かれたが故に反応に困って出たもの"と受け取られるだろう。事実、相原トレーナーはそう理解していた。
しかしマックイーンは、真実を知っていた。
(その常識が通用しないんですよね、ブレイズさんは…。《アンタレス》と合同トレーニングした時には、あのミホノブルボンさんにゴールドシップと並んで食らいついていきましたし)
確かに、普通に考えれば4ヶ月のレース不出走はそれなりのブランクだ。戦術勘が鈍っても仕方ない。
が、シルヴァーブレイズはその常識を嘲笑うかのような、とんでもないレースセンスを持っている。まるで千里眼のごとく、その時その時に応じた位置取りを見極めて使ってくるのだ。
西郷トレーナーの苦笑いは、これから発生する事態とその後の展開を予想してのものだろう。
(もしかすると、もしかするかもしれませんわね……。確かにブレイズさんはマイルは得意とは言い切れませんが、それでもジュニア級にしてはかなりのパワーを秘めていますし)
そう考えつつ、マックイーンは手元の出バ表に視線を落とした。
《12月12日 阪神レース場第11R
朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)》
15時30分発走予定 芝1,600M(右・外)
天気:曇り バ場発表:重
1枠 1番 コンフュージョン(追込 9番人気)
2番 アウダーチ(差し 1番人気)
2枠 3番 セプタゴンサモナー(先行 13番人気)
4番 ウィストクラフト(差し 11番人気)
3枠 5番 ビコーペガサス(差し 2番人気)
6番 ハルモニアグレイス(先行 12番人気)
4枠 7番 ロイヤルタータン(追込 16番人気)
8番 トンボロ(差し 10番人気)
5枠 9番 オントロジスト(追込 18番人気)
10番 アクアリバー(差し 3番人気)
6枠11番 ブラボーアール(逃げ 6番人気)
12番 メイデンチャーム(先行 17番人気)
7枠13番 ウォーキートーキー(差し 14番人気)
14番 レックレスショット(先行 15番人気)
15番 リードファンタジー(先行 5番人気)
8枠16番 シャドウストーカー(先行 7番人気)
17番 シルヴァーブレイズ(差し 4番人気)
18番 ハードラッカー(逃げ 8番人気)
マックイーンが出バ表を見ている間に、西郷トレーナーはまだ相原トレーナーと話し込んでいる。
「そっちは本当に大丈夫か? 出バ表を見た限り、先行と差しが結構多い。上位人気勢は軒並み差しだから、マークが厳しくなると思うが」
「それは西郷くんとこのブレイズも同じじゃない?
確かにマークは厳しくなると思うけど、まあ何とかなるでしょ。前のG2の時だって、最後に囲みを破って勝てたし」
「楽観的だな本当に……」
西郷トレーナーが苦笑した時、ファンファーレが鳴り始めた。
『クラシックへの登竜門、朝日杯フューチュリティステークス! ここから道は始まる!』
『今年は雪が降りそうな
男性の解説者の放送を聞いて、西郷トレーナーの口元に僅かに微笑が浮かんだ。
(重バ場ということは、パワーとスタミナの勝負になる。短距離メインの子たちには、特にスタミナ面での要求が厳しいはずだ。そうなると、莫大なスタミナと結構なパワーを併せ持つシルヴァーブレイズにとって、有利な展開になる可能性がある。まだ捨てたもんじゃないな)
『人気と実力を兼ね備えた10番アクアリバー、今日は3番人気です。
この評価は少し不満か? 2番人気はこの娘、5番ビコーペガサス!
そしてダントツの1番人気、ここまで無敗の2番アウダーチ! 無敗G1勝利に手が届くでしょうか!
各ウマ娘ゲート入り完了しました。体勢完了!
短距離からクラシックディスタンスまで勢揃い! ジュニア級の頂点を目指して、第◆◯回朝日杯フューチュリティステークス!』
ガシャコン!
『スタートしました! 各ウマ娘揃って飛び出しました!』
『誰が先に抜け出すか、注目しましょう』
実況アナウンスを聞きながら双眼鏡を覗いていた西郷トレーナーが、「始まったな」と呟いた。
「頑張れ、ブレイズちゃん…!」
その隣で、サニーウェザーが緊張で固まった表情を顔面に張り付け、コースを凝視している。その視線の先にはシルヴァーブレイズがいる。本当ならよく目を凝らさないと見つけにくいはずなのだが、シルヴァーブレイズはターフの緑や雪の白とは対照的な赤いジャケットを着ている上に、大流星という分かりやすい目印がある。そのため向こう正面にいる段階でも見つけるのは容易だった。
(後ろの方にいる…練習していた通りですわね。作戦は忘れていないとみて良いでしょうか?)
メジロマックイーンがそう考えた時、被せるように実況者の声が聞こえた。
『苦しい戦いを強いられている2番アウダーチ、ここからどう出るのか!』
時を少し
「朝日杯フューチュリティステークス」のファンファーレが鳴る少し前、観客席の一角を占めるキンイロリョテイとナカヤマフェスタは、互いの"推し"ウマ娘の名を同時に口にした。
「買うなら一択、シルヴァーブレイズだ」
「チップ全ベット、シルヴァーブレイズだな」
やはりというか何というか、見事に2人の意見は一致したのであった。
「アンタには"視えた"んだろ? それでブレイズ選んだんじゃねーのか」
カレーを口に運びつつ、フェスタが尋ねる。
何度もG1レースを走り、様々なGⅠウマ娘と戦ってきたキンイロリョテイには、ウマ娘の強さがオーラとして見える。リョテイに言わせると、G1レースを何度も勝つような強いウマ娘ほど、強くはっきりとしたオーラが見えるのだ。
そこをナカヤマフェスタは指摘した。つまり、今回の出走メンバーの中でシルヴァーブレイズだけ、オーラの強さが段違いだったのではないか、と言ったのだ。
「もしそうなら、テメーは何であいつを選んだんだよ」
キンイロリョテイの話題の切り替え方が少し強引なのを見て、ナカヤマフェスタは自身の想像が当たっていたことを確信した。そして、カツの最後の一切れを掬いながら自身の考えを述べる。
「私は、強いウマ娘には3種類あると思ってる。そのうち2つにブレイズは該当してるんだが、最後の3つめを満たせるか試したくなったんだ。このレースに勝てば、その最後が該当するようになる」
一息にそう言うや、フェスタはカツを口に放り込んだ。そしてこれが、カツカレーの最後の一口だった。
「あん? 3種類だ?」
フライドポテトをつまむキンイロリョテイの視線が一瞬だけこちらを向いた。その反応をちらっと見て、ナカヤマフェスタは握り拳を見せた。ついでにハッカ味の棒つきキャンディを取り出して咥える。
「強いウマ娘には3種類ある。常に自分の走りができる奴。」
握り拳から人差し指がまっすぐに伸びる。続いて中指も。
「思い切りの良い奴。そして、」
ぴーん、と薬指が跳ね上がった。
「逆境に強い奴。この3つだ。
ブレイズは……最後の『逆境に強い奴』だけ、まだ該当してない」
「逆境? ……そういや、あいつステイヤーだったか」
リョテイは、これまでに調べたシルヴァーブレイズの戦績を反芻した。
「言われてみりゃそうだな。メイクデビューは4バ身差の完勝、阿寒湖特別は6バ身のウイニングラン。だが2戦めとなった東京1,600の1勝クラスは、クビ差だった。
ステイヤーは基本的に、
それに加えて、今回は短距離路線の奴が多い。おそらく序盤から、かなり速い流れになるはずだ。ステイヤー故に始動の遅いブレイズがどこまで戦えるか、分からねぇな」
リョテイがそこまで言った時、ファンファーレが鳴り響いた。
「そういうことだ。こいつは面白くなるぜ」
「だな。ブレイズは目立つから見落としはしねぇと思うが、まあ注意しとこう」
それきり2人は、黙ってゲートインから発走の光景を眺めるのだった。
前書きであんな大仰なことを言っておいて、実はギリギリ始まったところで今回は終わりというとんだ肩透かしです。
ですが、競走自体は次回決着の予定です。ご安心ください。
ってわけで次回「激戦!朝日杯フューチュリティステークス!(なか)」 Don't miss it!
そう、実は今回の次回予告担当はうp主です。どうも皆さんレース前の調整やら関西遠征やらで手が空いてないそうで。
そうだ、1つ解説を忘れるところでした。
チーム《エレクトラ》から出走したオリジナルウマ娘、アウダーチですが、彼女の名前には元ネタがあります。元ネタはイタリア語で"勇敢な人"を意味する「アウダーチェ」です。日本が浦風型駆逐艦「江風」として発注したのをイタリアが買い取って「アウダーチェ」と命名し、第一次・第二次大戦を戦った長寿の駆逐艦の名前でもあります。
…そして、ソシャゲ界隈に7年もの間生き続けた、今は亡きゲーム「天空のクラフトフリート」にて、登場キャラの1人が使用していたスキルの名が「アウダーチ」なのです。あのゲーム、対人戦は何だかんだ楽しかったので、どっかで復活させてくれませんかねスクフェスの会社さん?
もちろんウマ娘の命名は、このスキルから取っています。いつか復活して欲しいという細やかな願いを込めて。