大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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Act.002 入学と大流星

「歓迎ッ! 新入生諸君、トレセン学園にようこそ!

私、(あき)(かわ)やよいは、当学園理事長として、今日この日を諸君と迎えられることを、心から嬉しく思うッ!」

 

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 今は入学式にて、学園理事長のお言葉を聴いているところですが……何と言いますか、この学園は個性的な方が多いですね。理事長は独特の話し方をしてますし、開会の挨拶をした生徒会長のシンボリルドルフ先輩は、いきなり妙な言葉遊びをしてくださいましたし。

 これは、学園内の他の生徒や職員にも個性的な方がいそうですわ。まあ、さすがに奇行を連発するような破天荒な方はいないかと思いますけれども。

 

◆◇◆◇

 

 それから少し時が経ちまして、入学式自体はあっさり終わりました。生徒会長の挨拶、理事長の挨拶、それに新入生代表としてキタサンブラックさんの挨拶があって、校歌を斉唱しておしまいですわ。ざっとこんなもん、というところでしょう。

 今は教室に…… Junior A-1 class と呼称される教室に、戻ってきたところです。これから新入生説明会の時間ですわ……こちらでは orientation とか home room ということもあるようですけれど。

 

「皆さん、改めて入学おめでとうございます。私が、このクラスの担任を務める……」

 

 比較的小柄な、若い女性教師の自己紹介を聴きながら、配布された資料にさっと目を通します。教育課程表、「トゥインクル・シリーズ」と呼ばれる race についての説明書、学内施設案内……学校規則は、読むのは少し後にしましょう。さすがに量が多すぎます。

 一通り資料を流し読みしたところで、どうやら担任の自己紹介も終わったようです。

 

「では続いて、今回このクラスに入った生徒の確認を行います。名前を呼ばれたら返事をしてください」

 

 どこの学校でも行う、新入生の確認ですね。First contact はしっかり決めておかなければ。

 私の学級にいるのは合計で35人前後。これが多いのか少ないのかは分かりかねますが、同期生がこれだけいるということは、その分競い合う相手も多いということですわね。果たしてどれだけの実力者に出会えることやら。

 なんて考えていたら、もう10人くらい名前が呼ばれておりました。

 

「キタサンブラックさん」

「はい!」

 

 こちらは、さっき新入生代表で挨拶していた方ですね。

 ところで、どうやらこれ、座席の順に名前を呼ばれているようですね。今は「キ」音まで来ていますし、座席の順がそろそろ近いようですから、心構えをしておきましょう。

 

「サトノダイヤモンドさん」

「はい」

 

 あら、よく見るとこの方はさっきキタサンブラックさんと一緒に門をくぐっていった、diamond 模様をお持ちの方ではありませんか。

 この方で1つの列が終わり、次の列に順が移ります。列の先頭にいるのがサニーウェザーさん、その後ろが私の席になっているということは……

 

「サニーウェザーさん」

「はいっ!」

 

 予想通り、次が私の順番ですわ!

 

「シルヴァーブレイズさん」

「はい」

 

 心構えをしていたおかげで、声が震えたりすることもなく、極めて普通に答えられましたわ。最初の関門は何とかなった、と見て良いでしょう。

 

 新入生に対する説明会も滞りなく終了。後は午後から学内施設の案内があるくらいですから、今日の予定はほぼ終了ですわ。

 あと、各 team からの勧誘も午後から解禁されるとのことです。基本的に私たちのような新入生はまだ身体が十分に出来上がっていないことが多いですから、勧誘の対象にはなりにくいだろう、とは説明されましたが、世の中何が起こるか分からないものです。まだ右も左も分からないような状態ですから、妙なものには引っかからないよう注意しないと。

 

「ブレイズさん、一緒にお昼に行きましょう!」

 

 説明会が終わるや、サニーウェザーさんに速攻で lunch に誘われました。

 

「ええ、よろしくてよ」

「やった!」

 

 サニーウェザーさんに返事をしながら、ふと周囲の視線が気になりました。何と申し上げたものか、どうにも私に注目が集まっているようです。何が引っかかるのでしょう……。

 まだ周囲の方ともほとんど話していない現状、注目の的になりそうなものといえば外見ですが……もしかして、髪と瞳でしょうか? それならば、納得もできますわ。

 以前に申し上げた通り、私は独特の髪と瞳を持っていますから、どうしても注目の的になりがちです。そして、これも精神年齢の幼い方に見られることですが……仲間意識が強く、自分たちとは異なる物を排斥する傾向があります。

 残念ながら、その標的になっていたのは大抵私でしたわ。あの頃のことは、今でもはっきり覚えています……。

 私がここに来たのには、実はこの過去の経験が一役買っています。ああいう五月蝿い連中を黙らせる有力な方法はただ1つ、圧倒的な実力を以て叩き伏せるのみ。そういう意味において、このトレセン学園に入学したという事実は、たったそれだけで実力者の証となりますの。

 ここにいる皆さんは、強烈な(ふるい)にかけられて残った者ばかりですから、少しはまともな接遇ができることを期待するばかりです。

 

◆◇◆◇

 

 さて、空腹を満たしたところで、午後に控えるのは先輩方による学内案内ですわ。新入生はいくつかのグループに分かれて、学園の各施設を見学することになります。

 私たちを案内してくださるのは、高等部3年生のスーパークリーク先輩。何ともふんわりした感じの方ですわ。ただ…何というか、どこか危険な雰囲気を感じるのは私だけでしょうか? お優しい方であるのは間違いないですが、関わりすぎると大変なことになりそうな気がしますわ。

 噂には聞いていましたが、この学園も広いんですのね……広大な敷地の中に、無数の施設がぎっちり詰め込まれている印象です。全て回りきろうとすれば、どう考えても半日くらいかかる仕事ですわ。

 そんな長い学園案内も、どうやら終わりに近付いてきたようです。

 

「こちらがグラウンドですよー。ここは芝コースの他にダート、ウッドチップ、ダート坂路と様々なコースが揃っていて……」

 

 私たちを引き連れたスーパークリーク先輩がやってきたのは、校庭。正確には、校庭に沿って設けられた観客席ですわ。

 練習用の course ですらこれほどの設備を揃えるとは、流石は日本一のウマ娘教育機関、というところですわね。室内外問わず練習用の機材も豊富にあるようですから、身体が保つ限り、思う存分鍛練ができるでしょう。

 と感心していた、その瞬間のことでした!

 

「いやー、未発達でこれとは、こりゃ素晴らしいトモだな」

 

 不意に、低い位置から男性の声が聞こえたと思った瞬間、ぞわっとする不快な感触が私の左のトモを撫で回しましたの!

 

「!?」

 

 とっさに下を向くと、そこには誰の断りもなく、しゃがみこんで私のトモを撫で回す不届きな男の姿が!

 気付いた瞬間(とき)には、私の脚が勝手に動いておりました。触られている左脚を軸にして、反時計回りにくるりと一回転。同時に空いている右脚を振り上げ、そして…

 

「芯の硬さとしなやかさの、高レベルでの両立……。こりゃあ、磨けば相当なものに……」

(ろう)(ぜき)(もの)っ!」

ゴシャアッ!

「ぐほぁぁ!?」

 

 勢いよく振り抜かれた私の右足が、男の側頭部に見事に突き刺さりました。男が咥えていた飴が勢いよく宙を舞い、3〜4 yards ばかりも吹っ飛んだ男は仰向けにひっくり返っています。

 たまたまサニーウェザーさんが運動場の様子をよく見ようとして離れていた時で良かったですわ。誰も回し蹴りに巻き込まずに済みましたし。

 

「誰に断って淑女の脚を触るなどという不届きなことをしておりますの!? それとも……()()()()()()がお望みで?」

 

 よろしい、ならば Last Judgement(最後の審判) ですわ! もちろん、判決は guilty(有罪) です!

 

「ならばようございます。この私、シルヴァーブレイズの名に賭けて、()(ちょう)(せい)の輝きを見せて差し上げますわ!」

「待て待て待て! 悪かった、謝るから落ち着け!」

 

 必死で謝るこの男、何者なんでしょうか。

 癖のある毛を後ろで1つにまとめ、左側の髪だけ短くしているという、何とも特徴的な髪型をしておりますね。といっても、誰の断りもなく私の脚を触った時点で「変態」もしくは「不審者」認定待った無しなのですが。

 うん? 男の衣服の襟についているあの小さな丸い目印は……まさか……!?

 

「あなた、trainer さんですの?」

「ああ、そうだよ。俺は、チーム《スピカ》のトレーナーなんだ」

 

 あらまあ、trainer さんでしたの。

 

「シルヴァーブレイズと言ったな、君の素質には素晴らしいものがある。どうだ、うちのチーム《スピカ》に入らないか?」

 

 お誘いいただいたのは嬉しいのですが……既に私の中ではこの男の評価は地の底まで落ちております。

 ですが、無下に断るのも淑女らしくありません。と、いうことで……

 

「申し訳ございませんが、もう少し他の team を見てから判断したいと存じます。私、ここに来てまだ半日と経っておりませんし……」

「まあ、それもそうか。無理にとは言わないが、うちのチームを候補に入れてくれたら嬉しいな」

「前向きに検討しておきますわ」

 

 ……自分で言っておいて何ですが、完全に社交辞令ですねこれ……。

 

 

「「………」」

 

 シルヴァーブレイズは気付いていなかったが、この時、2人のウマ娘がこの様子を物陰から眺めていた。2人の視線は、ある1人の新入りウマ娘に釘付けになっている。

 その新入りは、非常に目立つ外見をしていた。背丈は他の新入りウマ娘と大して変わらないのだが、何より違うのはその髪だ。茶色のロングストレートの髪は、先端に行くに従って色素が抜けたように白くなっていくという独特の髪色になっている。トレセン学園にウマ娘多しといえども、あんな髪を持ったウマ娘は見たことがない。

 その2人のウマ娘の特徴はというと、片方は背が高く、腰まで伸びた美しい銀髪が目立つ。ついでに体型もバランスが取れており、顔立ちも美人そのものだった。10人中10人が「美人」と判定するほどである……言動の破天荒さを抜きにすれば。

 もう片方は、何から何まで1人目とは正反対だった。背は低く、髪は黒い。小柄だが、付くべきところはしっかりついた体型をしており、右目が髪の毛によって隠れている。やや気弱そうな印象のウマ娘だった。右目を隠した髪の上には、青いバラを飾った黒いミニハットが乗っている。

 

「おい……今の、見たか?」

 

 長身の銀髪ウマ娘が、もう片割れに声をかける。その視線は、独特の髪を持つウマ娘……シルヴァーブレイズに釘付けだ。

 

「うん。シルヴァーブレイズっていう、あのグラデーションがきれいな髪の子……スピカのトレーナーさんに見事な回し蹴りを決めてたね」

「ああ」

 

 どうやら2人は、シルヴァーブレイズの外見ではなく違うところを見ていたようだ。

 

「周囲に誰もいないのを見越して回し蹴りを入れる辺り、アイツの判断力はなかなかのものがありそうだぜ。それに《スピカ》のトレーナーをあれだけ蹴り飛ばしたってことは……」

「脚、特にトモの筋力もすごいってこと?」

「お、正解。それに、《スピカ》のトレーナーは走るウマ娘を見なくても、そいつのトモを触っただけで素質を見抜くことができる。その《スピカ》のトレーナーに目ぇ付けられたってことは、アイツの素質は相当なもんだ。

よそに取られる前に、何とかして押さえないと」

「でもトレーナーさん、あの子をチームに入れられるかな……?」

「うちのトレーナー、正面切っての交渉は下手だからなぁ……なら、アタシらで確保すりゃいいだけの話か。

このままアイツを見張っててくれ。アタシはアイツを確保する準備をする。アイツは逃したくない」

「う、うん……! あまり、危ないことはしないでね…?」

「おいおい、アタシを誰だと思ってんだ? 心配すんな、完全犯罪してやるからよ!」

「それ危ないことじゃない…!」

 

◆◇◆◇

 

 長い長い学園案内がやっと終わった頃には、もう陽が西に傾いておりました。各 team の勧誘も始まっており、あちこちで手提げ看板を持ったりタスキをかけたウマ娘の方が、声を張り上げている様子が窺えます。

 私たち新入生は、基本的に勧誘を受けることはまずないだろう、と入学時に説明はされましたが、将来に備えての team の見学は大いに奨励されましたわ。目星くらいは早めに付けておいても良いでしょう、ということで、早速サニーウェザーさんと待ち合わせの約束を取り付けました。

 見学するなら、どの team がよろしいかしら。《リギル》……も良いのですけれど、あそこは加入試験が厳しいと聞き及んでおります。見学に行くにしても少し後にしましょう。

 ならばまずは、比較的近い部室棟に拠点を置いている《カノープス》の方から見てみましょうか。

 

 

 

 

 ……そう思っていた時期が、私にもありました。

 待ち合わせ場所にしていた部室棟の前で、黒い眼鏡と白い布で変装した怪しい4人組に包囲されるまでは。

 いえ、怪しいとは申しましても、皆様ウマ娘であるのは間違いありませんわ。ここは警備も厳重なトレセン学園の中ですし、それに皆様立派な耳と尾をお持ちですもの。それでも、黒い眼鏡と白い布で顔の大半を隠していては、「怪しい」としか言えませんわ。

 

 4人の特徴はと申しますと、まず1人目、私のすぐ前方に立って私の進路を塞いでいる方は、かなりの高身長に素晴らしい体型の持ち主ですわ。目測で身長170㎝程度でしょうか。体型も整っていますし、長い銀髪が美しいですわね。……10㎝で良いから分けてほしい、なんて思ってはおりませんわよ。

 2人目は、比較的短い黒髪の方。耳の内側が緑色になっているのと、左側の前髪を赤い留め具で留めているのが特徴ですわ。そしてこちらの方も、立派なものを2つぶら下げておりますわね……10㎝で良いから分けて欲しい、なんて思ってはおりませんわ。大事なことなので2回申し上げました。

 3人目は、身長はそこまで高くありませんが、艶のある銀色の短髪が特徴的ですわ。前髪を綺麗に横一線に切り揃えてありますね。

 4人目は、私よりやや高い程度の低い身長に、右目を隠すように流れた長い黒髪が特徴ですね。右目の上の辺りに、青い薔薇を飾った帽子を付けています。

 

「シルヴァーブレイズだな?」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、私の前に立っている長身の銀髪の方ですわ。

 

()()にも、私がシルヴァーブレイズですが、何の御用ですの?」

 

 私がそう尋ねると、身長の高い銀髪の方が、私の質問に答える代わりにこう言いましたの。

 

「チケゾー、ウェナン、ライス、やっておしまーい!」

 

 その瞬間、私の本能が最大級の警告を発しましたわ。これはあの時と同じ臭いがしますわね。そう、race の直前に私の脚を切ろうとした、あの不届きなる調教師の男と同じ類のものですわ! それと同時に、心の中で号砲が鳴る音がしましたの。

 

(Hard a-starboard, Course one-eight-zero! Full steam ahead!)

 

 そんな声が、脳裏に響いたような気がします。

 ……気が付いた時には、両脚が大地を蹴っておりました。




最後にシルヴァーブレイズに向かってきたグラサンとマスクの集団……いったいどこの一等星チームなんだ…。
それじゃブレイズ、次回予告よろしく!

「承知しました。
全く、あの不届きな trainer さんときたら、事もあろうに私の脚を誰の断りもなく触りに来るとは……。蹴り飛ばしはしましたが、まだ腹の虫は完全には収まりそうにありませんわね。
と思ったら、さらなる不審者集団の襲来ですわ。三十六計逃げるに如かず、ということで逃げの一手になりますが、果たして逃げられるのか。次回、『突発野良レース』 更新はしばしお待ちくださいませ」
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