大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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予告通り、今回から第3章「Classic Stage」へと突入します! 要するにクラシック級ですね。
その前に何やらイベントがあるようです。そして、正月からシルヴァーブレイズに呼び出しをかけたマスターは、いったい何用だったのか…?



Classic Stage
Act.027 2つの栄誉と1つの意志


 皆様、明けましておめでとうございます。シルヴァーブレイズですわ。

 え、何で新年の挨拶なのかって? 私の部屋の calendar が1月のものだからですわ。

 年が明けて1月3日の午前9時、私は朝っぱらから防寒着を着込んで「止まり木」にやってきています。

 

「明けましておめでとうございます、master さん」

「おーし来たな、こちらこそあけおめだ! 朝早くからすまん、とりあえず入ってくれ」

 

 店に入った瞬間、ちょっとびっくりしてしまいました。というのも、店内には明らかに屋号を書いた看板の新品がおいてあったのですが、少し変わっていましたの。

 この店の名前「止まり木」に相応しく、今店の軒先にかかっている屋号看板は、緑の葉っぱを付けた木の枝の形をしています。その枝の根元から先端にかけて「パブ 止まり木」と店名が書かれているのです。

 私の目の前にある新品の看板も、基本的な形は同じなのですが……よく見ると、看板の大きさが少し大きくなり、枝の上に白い流星が流れています。そして、枝に書かれた店名は……!

 

「『パブ 流星の止まり木』……?」

「驚いたか? 少し改名したんだ」

 

 思わず目を白黒させてしまいました…。そんな私にニヤリと笑いかける master さん。

 

「Master さん、これ……!」

 

 どこからどう見ても、私を意識していますよね!

 

「遅れて申し訳ないけど、うちの看板娘の初G1勝利祝いだよ」

「これは……その、少し(おも)()ゆいと言いますか……」

 

 まさか私の名前が店名になってしまうなんて……これは想像もしていませんでした。

 

「うちの店は元々、ちょっと足を止めて寛げる場所、ってコンセプトで作っているんだ。食事のメニューに軽食があったりするのは、そのせいだよ。店内の調度品もそのコンセプトに合わせてある。だから店名も『止まり木』なんだ。

で、嬢ちゃんがバイトし始めてから一気に客足が増えてきてな。紅茶や食事が旨くなったって客もいれば、嬢ちゃんがいるから来てるって奴までいる。挙句の果てにはレース中継までやるようになってしまった。この前の朝日杯フューチュリティステークスも、皆ここに集まって、そこのテレビに釘付けになっていたもんさ。

それで、ちょっと足を止められるだけの場所じゃなくて、足を止めたついでに夢を見せられる場所になれば良いな、と思ったんだ。それで、夢や希望を掛ける願い星として、また嬢ちゃんのそのでかい流星を参考にして、看板に流れ星を描いて『流星の止まり木』に改名したんだ」

 

 いや、これはもう……何というか、感動のあまり言葉も出ませんわ。死兆星、妖霊星などと言われる大流星(ブレイズ)ですが、今だけは願い星だと心得ておきましょう。

 

「さて、新年早々嬢ちゃんに手伝わせて申し訳ないとは思うが…」

「お店の看板の掛け変えを手伝ってほしい、ということですね?」

「察しが良いな嬢ちゃん。そうなんだ。こいつは1人でやるにはちと大変でな」

「確かに……承知しました」

 

 やれやれ、こればかりは仕方ありませんね。

 ただ、寒い中で作業を手伝った後で、master さんから「こいつはお礼だよ」と、美味しい紅茶を淹れてもらったのですが、銘柄を聞いて思わず絶句してしまいました。なんとその紅茶、Silver Needles だというのです!

 なんで世界一とも謳われた紅茶が、こんなところに…。Fortnum and Mason の茶葉と言いこれと言い、 master さんはどうやって仕入れたのでしょうか…? 謎は深まるばかりですわ。

 

「あ、そうだ。紅茶を見て思い出した、お客さんからリクエストがあったんだ。家でも旨い紅茶を飲みたいけど、市販のティーバッグでどうやって美味しく淹れるか、教えて欲しいっていうんだ」

「あらあら、それはそれは……」

 

 確かに、わざわざ一流店の茶葉を使わなくても、淹れ方さえ間違えなければ市販品からでも美味しい紅茶を淹れられますからね。

 

「ということで、嬢ちゃんに1つ頼みたいんだ」

「私に、ですか?」

「こういうのは俺みたいなおっさんより、かわいい娘に教えてもらいたいもんだろう?」

「まあ、それは確かにそうですね」

「いやそれ、自分のことかわいいって言ってるようなもんだぞ?」

「ウマ娘は種族的特徴として、みんな衆目美麗でしょうに」

「うっ……それはそうか」

 

 あら? もしかして、master さんを論破してしまいましたか? これまでそういうことはなかったので、ちょっと新鮮な反応ですわね。

 

「まあそういうわけで、嬢ちゃんにお願いしたいんだ」

「それは承知しましたが、どうやってお教えすれば良いのですか?」

「聞いただけじゃ多分分からないから、指南動画を取って欲しい、って言われたな。だから、嬢ちゃんに普通に紅茶を淹れてもらって、それを俺が撮影する形を考えてる。これなら、バイトついでにできるから、嬢ちゃんにも負担にならないと思うんだが」

「承知しました、それでいきましょう」

「あと、その動画、うちの店のウマチューブの広報チャンネルにも使って良いか?」

 

 Master さんも苦労してらっしゃるんですね、顧客獲得(ファンサービス)

 

「構いませんわ」

「ありがとな」

 

 これは新年から忙しくなりそうですわねぇ…。

 

 なお、動画の撮影は数日後の週末に決行されました。撮影自体は別に良いのですが……master さん? 『ブレイズの、ブレイズによる、紅茶好きのためのティータイム講座』とかいうあの企画は、いったい何なんですの? まさか、紅茶の淹れ方に留まらず、茶菓子との組み合わせや銘柄ごとの特徴、果てにはお茶の作法まで講義させようとしているのですか? まあ、それはそれで構いませんが…。

 

◆◇◆◇

 

 年明けから早くも2週間が過ぎ、そろそろ「期末試験」という言葉が私の脳裏に浮かび始める頃。

 放課後の鍛練が終わり、いつものように寮の部屋に帰ってきた私の日課は、郵便受けを調べることです。毎日見ておかなければ、あっという間に手紙でいっぱいになってしまうでしょう。…それも、その手紙の大半は私宛てなもので。

 

 最近は、我が同室のリナルドモントバンさんもやっとデビューを果たし、2戦1勝の実績を挙げております。条件戦からの脱出を目指して、彼女も遅くまで頑張っているのですわ。今日はたまたま、私が早く帰れたにすぎません。

 本日も御多分に漏れず、郵便受けから転がり落ちた封筒は5通ほど。全部に返事を書かなければならないのか…と思いながら1通目を取り上げて、ふと気付きました。

 

(封筒の印が違う…?)

 

 通常であれば切手が貼ってあるはずですが、そこには受領印の類が押してあるだけ。そして封筒の下部には、「Uma-musume Racing Association」の文字が。

 

(URA…? 私に何の用があって…?)

 

 URAという組織は、私も学園の授業で聞いて知っています。私が走る競走や Winning Live に関わる、大型の公的機関めいた組織ですね。

 そんなお役所が、いったい何の用で…? と疑問を感じたので、まずこれから開けてみることにしましょう。

 引っ張り出した紙には、ざっくりこんなことが書かれていました。

 

『最優秀ジュニア級URA賞受賞の内定通知書

及び授賞式のご案内

 

シルヴァーブレイズ殿

貴方は本年度のトゥインクル・シリーズにおいて、比類無き競走成績を修められました。

URA理事会での協議の結果、貴方の成績は我が国におけるウマ娘競走の盛り上げに大きく貢献したと認定し、最優秀ジュニア級URA賞を授与することに決定いたしました。

以下に記す式次第の通り、出席をお願いいたします』

 

 そして日時と場所、ついでに「勝負服を持参すること」と条件が付けられていました。

 

「これって……」

 

 ……まだ頭の中が整理できていないのですが、つまるところ私が Junior Class では最優秀の選手だと認められた、ということでしょうか?

 というか、どうしてこんなことに……いえ、理由は考えるまでもありませんね。「阿寒湖特別」では格上の相手を軒並み叩き潰し、「朝日杯フューチュリティステークス」は無敗のまま新記録を出して優勝して、来るクラシック戦線に向けての準備は万端…と世間では思われているのでしょう。気持ちは分からないでもないですが。

 

「そうだ……母上にお伝えしなければ」

 

 こういう場合は手紙より、携帯電話でのやり取りが良いでしょう。電話を持ち歩けるなんて、便利な時代になったものですわ。

 すぐさま携帯電話を取り出し、久方ぶりの番号を押していきます。呼び出し音は数回。

 

『……もしもし?』

 

 お懐かしや、久方ぶりの母上の声ですね。

 

「もしもし、母上?」

『その声はブレイズね。久しぶりね』

「母上もご壮健そうで何よりですわ」

 

 今すぐにでも荷物をまとめて帰郷したい気分に駆られますが……それはなりませんね。志を果たしてから、いつの日にか帰りましょう。

 

『あなたが手紙ではなく電話してくるなんて、珍しいわね。何かあったかしら?』

 

 まあ、大抵は手紙でやり取りしてますからねぇ。

 

「ええっと、私も今日通達されたばかりでまだ頭の整理ができていませんが……最優秀 junior 級URA賞に選ばれました」

『……え?』

 

 あ、声が裏返った。予想外だったんでしょう。

 

『最優秀ジュニア級、URA賞…? 貴女が…?』

「通知書を見た限りそうなります。URA本部に出頭するよう言われていますわ」

『すごいじゃない…! URA賞なんて、誰でも取れるようなものじゃないってことくらい、私にも分かるわよ。だって、各学年で1人か2人しか選出されないものでしょう?』

 

 まあ確かに、URA賞はジュニア級、クラシック級、シニア級、短距離、ダート、障害くらいしかないですから、1学年に2人くらいしか出ないわけですね。しかも、障害部門はほぼ確実にナガヤマオンジュー先輩が持っていきますし。

 

『GⅠレースを勝つだけじゃなくてURA賞まで取ってくるなんて……私としても鼻が高いわ。貴女は私の大切な宝物にして誇りよ』

「お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが、母上の真の望みはそれではないでしょう?」

『あら、分かるかしら?』

「何となくは。

取ってきます…母上の代わりに、Oaks を。その前座ごと」

『前座?』

「Oaks の前座、いわゆる trial race は、桜花賞でしょう?」

『あらあら……ふふ、楽しみに待っているわね。あと、流石に来年は実家に顔を出しなさい』

「成績次第ですが、そうします」

『それと…桜花賞、見に行っても良いかしら?』

「……お好きになさってくださいませ」

『ふふ、ありがとうね。身体に気を付けて』

「母上もご自愛くださいませ。それでは、失礼します」

 

 絶対に直接見に来る気ですねこれ…! 朝日杯の時は阪神競バ場には来ていなかったみたいですから、今度は見逃したくないんでしょう。

 しかもおそらく、桜花賞だけではなく大阪杯とか宝塚記念の度に母上は見に来るつもりでしょう。私の故郷は、阪神競バ場に意外と近いですし。

 やれやれ、困ったことになったものですわ……これでは負けられないではありませんか。

 早めに course の研究と、取るべき戦略の研究を始めておくとしましょう。如何に前座(trial race)といえど、負ける訳にもいきませんし。

 

 桜花賞の前座(trial race)は、3月前半頃に開催される4つの競走。GⅡの「チューリップ賞」「フィリーズレビュー」と、GⅢの「フラワーカップ」、OPの「アネモネステークス」です。この中から1つ選んで、勝たねばなりません。

 Trainer さんの話では、「フィリーズレビューは論外。君の1,400Mのタイムは壊滅的と言って良い」とのことでした。まあ、悔しいですが自覚はありますわ。となると、残り3つのうちどれにするかという話です。

 それに関して、trainer さんはこう仰っていました。

 

『チューリップ賞のコースは、桜花賞のそれと全く同じだ。一方、アネモネステークスは距離こそチューリップ賞と同じだが、開催地が阪神ではなく中山になる。フラワーカップは、中山の芝1,800だ。

ブレイズ、君の場合はマイルレースと、特に1,600の場数を踏むことに主眼を置きたいから、そういう意味ではチューリップ賞とアネモネステークスのどっちに出ても良い。ただ、チューリップ賞は桜花賞と同じコース条件なだけあって、実力試しをしたい人が大勢いる。例えば川添のところ…《ミモザ》のスイープトウショウとかな。

俺としては、どちらかといえば「アネモネステークス」にしたいと思っている。理由は、君自身のパワーを調べておきたいからだ。中山レース場は、そのゴール前に急な登り坂がある。残り180から70にかけての110メートルで、高さ2.2メートルを登らないといけない。最大勾配は2.24%、これは阪神の「仁川の舞台」よりきつい数字だ。これを登るのにかかった時間を調べれば、君のだいたいのパワーが分かる。おまけに、阪神でも通用するピッチ走法の練習になる。

それに加えて、中山は阪神よりコーナーが小回りだから、コーナリングテクニックが求められるし、第2コーナーを抜ける辺りから長い下り坂になるから、ダウンヒルの技術やスタミナも評価できる。

また、実はアネモネから来て桜花賞を勝ったウマ娘というのは、かなり少ない。うちの先代トレーナーの代、つまり俺がサブトレーナーだった頃の記憶を遡っても、そういうウマ娘の名はなかなか出てこないんだ。逆にいえば、アネモネに強敵がでてくる可能性は低いってことだ。レースの展開次第だが、ブレイズ、君なら横綱相撲を達成できると思う。もちろん、レースである以上全員を手強い相手だと心せねばならないが。

どうする?』

『では、中山の方で行きたいと思います』

『アネモネだな、了解した。サインはしておくから、出走申請書の提出を忘れないでくれよ』

 

 ということで、私の次走は「アネモネステークス」に決まりました。油断せずに勝ちを取りにいきましょう。

 

 あ、その前に……やらねばならないことがありました。「月刊トゥインクル」や、「ウマッター」の《シリウス》用…アカウント? でしたか、それらを使って私の次走予定を発表しなければ。

 

◆◇◆◇

 

 あれから3日ほど経った金曜日の夕方…といっても、もう太陽はほぼ沈みかけており、夜の帳が降りてきているのですが。

 

『お集まりの皆様、長らくお待たせいたしました。ただいまより、URA賞及び年度代表ウマ娘の表彰式を行います』

 

 今の放送でお気付きの通り、私が来ているのはURA本部。今は勝負服姿で名前が呼ばれるのを待っているところです。Trainer さんも一緒に来ているのですが、彼は今、同業者の方々から育成法の秘訣やら何やらを訊かれているところでして……こうしてみると、結構有名人なんですのね、私の trainer さん。まあ無理もありませんか、言ってしまえば新人が Derby Stakes と St. Leger Stakes、Royal Ascot Gold Cup を次々と制覇したようなものですし。

 

『まずはジュニア級から発表いたします。ジュニア級のウマ娘で最も輝いたと認定されたのは……シルヴァーブレイズさんです!

デビュー以来4戦4勝、重賞勝利は1つだけですが、その1つである朝日杯フューチュリティステークスでは、レコードタイムを更新しての優勝。また、3戦めとなった2勝クラス条件戦「阿寒湖特別」では、菊花賞を狙うクラシック級の精鋭たちを6バ身ちぎって完勝しました。その実力は目を見張る物があり、クラシック戦線での活躍に期待を込めて、ジュニア級URA賞を授与することに決定しました!』

 

 なるほど、来年への期待も授与理由だったのですか。ならば、期待には応えねばなりませんね。だって大流星(ブレイズ)は、希望の願い星なのですから。

 え? 死兆星はどこへ行ったって? 何を仰るんです、ちゃんとあるではありませんか。

 希望とはつまり、私に勝って欲しいということ。その時点で、2着以下の方々にとっては「出バ表に私の名前が載る=敗北という名の死」になるでしょう?

 

『続いて、クラシック級URA賞受賞者の発表です。受賞者は……オルフェーヴルさんです!』

 

 まあ、予想はしていましたが……やはりこの先輩でしたか。にしても、同学年のはずのジェンティルドンナ先輩を差し置いての選出とは……三冠路線が tiara route より格上と見られている、ということでしょうか。

 

『今年の戦績は9戦5勝、史上6人目となるクラシック三冠を達成! トリプルティアラを達成したジェンティルドンナさんとは接戦でしたが、僅差でオルフェーヴルさんの選出となりました!』

 

 …何というか、三冠を取った2人ともすごい風格ですわね……これは本物だと言わざるを得ません。

 

『続いて、シニア級URA賞受賞者の発表を行います。受賞者は……テイエムオペラオーさんです!』

 

 こちらも強いオペラオー先輩。まあ、有マ記念であのオルフェーヴル先輩を押さえて優勝、ジャパンCではジェンティルドンナ先輩を撃破して優勝、それを含めて秋のGⅠをほぼ全部制圧し、ついでにゴールドシップ先輩を倒して天皇賞(春)も取ったとなれば、選出は間違いないでしょう。

 

『今年だけでGⅠの勝利数は4勝、それもこれまでに類のない秋シニア三冠を達成しました。その実力は、まさに覇王の名に相応しいものがあり、満場一致での選出となりました!』

 

 見ているこちらですら、気後れしそうなほど圧倒的な雰囲気。やはり、突き抜けた強さを持ったウマ娘は、その身体に纏う雰囲気が違いますね。

 その後は、短距離URA賞とダートURA賞が発表。選ばれたのは、短距離がサクラバクシンオー先輩、ダートがコパノリッキー先輩でした。そして、年度代表ウマ娘に選ばれたのはテイエムオペラオー先輩。

 うーむ、やはりオペラオー先輩は強い……できることなら戦いたいですが、難しいかもしれませんね。…いえ、今年の「ジャパンカップ」とか「有マ記念」なら、まだ可能性はあるか!

 私たちの写真撮影が済み、「年間最優秀トレーナー」の発表が行われた後は、交流会となります。ここでオペラオー先輩に挨拶に行っておきましょう。

 

「オペラオー先輩、年度代表ウマ娘選出おめでとうございます」

「ありがとう、ブレイズ君。君もやるではないか、レコードタイムで朝日杯FSを制したのだからね! できることなら、君と戦いたいものだよ!」

「種目別競技会があるではありませんか……と言いたいところですが、それは先輩が許してくださらないでしょうね。やはりGⅠですか?」

「当然だよ、あの大舞台で勝ってこそだ!」

「ならば、すみませんが今年いっぱい頑張って走ってくださいまし。私も必ず参ります…最低でも『有マ記念』には出るようにしますので」

「待っているよ、ブレイズ君!」

 

 これで逃げられなくなりましたね。

 まあ良いです。最大目標であるナリタブライアン先輩ともども、撃破することにしましょう。

 

 

 同日深夜、「パブ 流星の止まり木」にて。

 

「思った以上に人気高いな……」

 

 店じまいを終えたマスターが、PCの画面を覗き込みながら呟いた。

 この店は一軒家タイプの構造になっており、1階が店舗、2階が居住区画というよくあるパターンである。今マスターがいるのは居住区画、つまりプライベート空間であった。

 PC画面に映し出されているのは、「ウマチューブ」のチャンネル画面だった。「流星の止まり木」広報アカウントを兼ねた、マスターの個人アカウントである。2つの動画がピックアップされており、どちらにも『ブレイズの、ブレイズによる、紅茶好きのためのティータイム講座』とサムネイルが付いていた。

 動画の内容は、客から注文のあった"市販ティーバッグから淹れる! 一流の紅茶"と、"簡単にできる! 本格派英国ティータイムの作法"である。

 

「コメントが結構な数付いてるし、登録者数もこれまで100もいかないくらいだったのが、あっという間に4桁目前かよ……宣伝効果高すぎんか? ブレイズの嬢ちゃん」

 

 このティータイム講座は、まだ2回目が投稿されたばかりにも関わらず、マスターの予想を上回る人気ぶりである。どちらも再生回数は瞬く間に5万を超え、いくつかリクエストまで来ている有様だ。3回目以降はシリーズものとして、「作ってみよう! 紅茶に合う本格英国お茶菓子」にしようかとマスターは考えている。その先頭を切るのはもちろん、「流星の止まり木」の一番人気メニューたるアップルパイだ。

 また、シルヴァーブレイズがバイトとして働き始めてからというもの、これまで"知る人ぞ知る本格英国式パブ"という立ち位置だった「流星の止まり木」は、徐々にリピーターや新規の客を増やしていたが、ここにきて一気に客足が増えている。そのきっかけはほぼ間違いなく、あの「朝日杯フューチュリティステークス」だ。さすがGⅠウマ娘というか何というか。

 

(そろそろ店を畳まねばならんか、と思っていたのがものすごく昔のことに思える……経営はこれまで赤字寄りだったが、このところ完全に逆転してコンスタントに黒字になっている。

しかも嬢ちゃん、最優秀ジュニア級URA賞まで取ってきやがった……これで、更なる客足の獲得に繋がるのはほぼ間違いない。

この店を復活させてくれた大恩ある嬢ちゃんのことは、何としても応援していかんとな)

 

 PCの電源を落としたマスターは、そのそばに置かれた2つの物体に目をやった。

 片方は小さな写真立てで、それには「流星の止まり木」の看板に掛け替えたばかりの戸口をバックに、マスターとシルヴァーブレイズのツーショット写真が入っている。たまたま通りかかった近所の商店主に撮ってもらったものだ。

 そしてもう片方は、ガラスケースに収められた蹄鉄…"シルヴァーブレイズの幸運のお守り"こと、「朝日杯フューチュリティステークス」勝利記念の蹄鉄である。

 

(改めて、今年もよろしくな……応援してるぜ、嬢ちゃん)

 

 写真の中で微笑むシルヴァーブレイズを、マスターの指がそっと撫でた。




というわけで、タイトルの「2つの栄誉」はパブの店名への採用と最優秀ジュニア級URA賞、「1つの意志」は桜花賞トライアルの「アネモネステークス」への挑戦(つまりティアラ路線の選択)でした。
いよいよ、一生に一度しか走れないクラシックレースへと歩みを進めていくシルヴァーブレイズ。その行手に、果たして何が待ち構えているのか。
そして、オボロイブニングやアウダーチ等、かつて走ったライバルたちとの再戦の機はいつになるか?


「お兄様、そろそろ次回予告の時間だよって…!」

お、今回は久々にライスか。それじゃよろしく!

「うん!
えっと、ライスもだいぶ脚の具合はよくなってきたんだ。ただ、お医者さんは走るのは難しいって…。でも、走れなくても応援はしていきたいな。ブレイズちゃんも、サニーちゃんも頑張ってるし!
次回は『戦争とは奇襲から始まるもの』…って、ふえぇ!? せ、戦争!?」

いや、西郷トレーナーは「ブレイズがティアラ狙いであることを公表するだけ」って言ってたぞ!
このタイトル考えたの絶対ブレイズだろ! アイツしかこんな言い回しせんわ!
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