大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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お待たせいたしました。
桜花賞トライアル・アネモネステークス、開幕です!



Act.029 アネモネの花が咲く頃に

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 突然ですが、私は今どこにいるでしょう? ……答えはそう、(なか)(やま)レース場の paddock の近くですわ。

 

『ご来場の皆様、お待たせいたしました。ただいまより、本日の第11レース「アネモネステークス」のパドック入りです』

 

 今の放送でお分かりになったでしょう、何故私がここにいるのかが。そう、競走(せんそう)の時間ですわ!

 今回は定員割れが起きており、16人分の枠があるところを8人しか出走していません。それでも、私を倒し得る選手がいると考えておくべきですね。

 そう、私を倒し得る選手といえば、最も有力なのはこの方。

 

『実力は引けを取りません、2番人気は5番 スリーキングダムズ!』

『良い雰囲気を感じられる、私イチオシのウマ娘ですね。他のウマ娘を完封する鮮やかな逃げに期待したいですね』

 

 このスリーキングダムズさんが、最も手強い相手です。種族的特徴として総じて眉目美麗なウマ娘ですが、彼女はその中でも男性的な格好良さを感じさせています。美しい毛並み…確か尾花栗毛でしたか、それも相俟って人気はかなり高いようですね。そこにあの実力ですから、言うこと無しというべきでしょう。

 しかし、私とてそう簡単に負けるつもりはありません!

 

『ここは負けられない1番人気、7番 シルヴァーブレイズ!』

『実力は完全に上位ですね、貫禄すら感じてしまいます。今回も後方からの鮮烈な差し切りを見せてくれるでしょうか、楽しみですね』

 

 十字を切り、やる気は十分ですわ!

 

 

 パドックでの御披露目が終わった後、中山レース場スタンド・出走ウマ娘の関係者用に確保された最前列席。

 2人のトレーナーが到着したのは、ほぼ同時であった。

 

「本日はよろしくお願いいたします」

 

 1人は、中肉中背で黒髪短髪の、見た目に特筆するところのないどこにでもいるような男性。若くして(まだ30に達したかどうかという若さである)日本ダービーまで取り、一部では「天才」とも言われている西(さい)(ごう) (ひで)(あき)トレーナーである。彼の率いるチーム《シリウス》は、メジロマックイーンによる天皇賞(春)連覇を皮切りに、ライスシャワーで菊花賞と天皇賞(春)2勝、ウイニングチケットで日本ダービー勝利、ゴールドシップでホープフル・皐月・菊花・有マ・宝塚のタイトル奪取、シルヴァーブレイズで朝日杯FSをレコード勝ち、と凄まじい成績を叩き出していた。総じて優秀なステイヤーが多いのが、このチームの特徴である。

 

「ええ。お互い、実り多いレースになることを祈ってるわ」

 

 もう1人は、現在トレセン学園最強と名高いチーム《リギル》を率いる(とう)(じょう) ハナトレーナー。グレーのパンツスーツにメガネという出で立ちで、まさしく「バリキャリウーマン」という感じの理知的な女性である。彼女のチームメンバーは《シリウス》以上に凄まじく、無敗クラシック三冠を含む七冠達成の「皇帝」シンボリルドルフを筆頭に、ティアラ路線で活躍した「女帝」エアグルーヴ、「最強マイラー」タイキシャトル、秋シニア三冠達成の「覇王」テイエムオペラオー、その他「俳優」フジキセキ、「女傑」ヒシアマゾン、「怪鳥」エルコンドルパサー、「不死鳥」グラスワンダー、卒業済みの生徒まで入れるなら「深紅の怪物」マルゼンスキーまでいた、と強烈なメンバーが揃っている。距離適性も幅広く、まさに「最強」の名に相応しい布陣である。

 

 双方の実力差でも表現するかのように、応援に来たメンバーの人数もまるで違っていた。《シリウス》側はトレーナーの他に、サブトレーナーたるメジロマックイーンと、リボンカプリチオの3人のみ。それに対して《リギル》側はシンボリルドルフを筆頭に、エアグルーヴ、フジキセキ、ヒシアマゾン、テイエムオペラオー、タイキシャトルと豪華メンバーだ。尤も、シンボリルドルフはトゥインクル・シリーズを引退すると同時にチームを脱退しているため、"昔のよしみ"でここにいる形である。

 待つことしばし、体操服姿のウマ娘たちがコースに現れ、録音されたファンファーレが鳴り始める。

 

『ティアラの栄冠獲得に燃えるウマ娘たちが集う一戦! 桜花賞トライアル・アネモネステークス! 今回は8人のウマ娘たちが挑みます!

実況は私、山本が担当いたします! 解説の米田さん、今回のレースはどうご覧になりますか?』

『そうですね、注目度が高いのは何と言っても、スリーキングダムズとシルヴァーブレイズの直接対決でしょう。

スリーキングダムズはここまで2戦2勝、レースのペースを支配しながらの逃げで後続のウマ娘たちを惑わせ、気付いた時にはスタミナをすり減らして末脚を使えなくする一方で、自身は余力を持って逃げ切る、という戦法を得意としています。2戦とも後続に3バ身以上の着差で勝っていますから、その有効性は確かなものでしょう。

しかし今回の相手、シルヴァーブレイズは一味違います。阿寒湖特別でクラシック級の有力なウマ娘たちを6バ身も置き去りにするような体力自慢ですから、並大抵では潰れません。これに加えて、朝日杯で見せたあの末脚もありますから、後方からスリーキングダムズを捉え切る可能性は十分ありますよ。

総評すると、スリーキングダムズとシルヴァーブレイズ、どちらが勝ってもおかしくありません。もちろんレースに絶対はありませんから、3番人気のリボンマーチをはじめ他のウマ娘が待ったをかける可能性もあるでしょう。誰が勝つか最後まで読めない、熱いレースになりそうです』

 

 解説をしている間に、ウマ娘たちは続々とゲートインしていく。一番最後に、今レースの2大巨頭が揃って枠に収まった。

 

中山

11

主催:Uma-musume Racing Association ○○年3月12日 15時30分発走予定

第◆×回 アネモネステークス

OP 芝1,600M(右・外) 天気:晴 バ場発表:良

ウマ

バ名

脚質

人気

1

1

グリンドストーン

先行

5

2

2

ブラッククイーン

逃げ

6

3

3

アクアリバー

先行

4

4

4

ロイヤルタータン

追込

8

5

5

スリーキングダムズ

逃げ

2

6

6

パープルケイ

差し

7

7

7

シルヴァーブレイズ

差し

1

8

8

リボンマーチ

差し

3

 

 

 ちなみに、支持率はおよそ真っ二つに分かれており、スリーキングダムズとシルヴァーブレイズがそれぞれ40%以上を確保し、残りを他のウマ娘たちが分け合うという感じになっている。やはりというか何というか、スリーキングダムズとシルヴァーブレイズの直接対決が全て、という感がある。

 そして、クラシックレースのトライアルであるにも関わらず、フルゲート16人に対してその半分しか出走していない。これはつまり、スリーキングダムズとシルヴァーブレイズという有力なウマ娘との対決を、他のチームが避けようとした結果だと考えられる。

 

『さあ最後に、1番人気と2番人気が、2人揃ってゲートに入りました。態勢完了! 桜の栄冠を夢見て挑む、アネモネステークス!』

 

 実況放送の声に、西郷トレーナが固唾を飲み込んだのとほぼ同時。

 

『スタートしました!』

 

 レースが始まった。

 

 

 ……本バ場入場や、その前の地下バ道でちらっと会話した時の言動や雰囲気を見て率直に申し上げますが……スリーキングダムズさん、これまでに戦った相手とは雰囲気が違いますね…。私を見る目も、何と言いますか、本気で「ここで会ったが百年目」とか言いそうですわ。それにあの雰囲気、会ったことがないはずなのにどこかで会ったことがあるような…。スリーキングダムズさんって、もしかして…。

 まあ、今はそんなことは置いておきましょう。目の前の競走ですわ!

 

「…!」

 

 今回も来ましたね、あの静電気のような感覚! もう何となく分かりましたが、今回は敢えて1歩遅らせます。芝を掴むように足の指を曲げ、呼吸を整えて…!

 

ガシャコン!

 

 狙った通りの瞬間に、競走開始ですわ!

 事前の作戦通り、まずはこのまま外目の位置に着けて…おや?

 

「行かせない…っ!」

 

 左隣から前へと飛び出していったのは、8番のリボンマーチさん。明るい栗毛のツインテールを腰の辺りまで伸ばした方です。走り出して5秒と経たないうちに、私の前を塞いでしまいました。

 

「………」

 

 そして右側からもただならぬ気配。そちらに視線をやると、私のすぐ右にぴったりと張り付いた方が1人。ほぼ白に近い銀色の頭髪と左耳の根元に揺れる紫水晶を象った飾り、そしてゼッケンに書かれた「6」の数字から見て、パープルケイさんですね。

 この2人、謀りましたわね? 間違いなく、私を狙っ(マークし)て潰そうという魂胆ですね。まあ、こういうのは上位人気に選ばれた者の宿命というものですわ。

 

 ですが…覚悟はできておりますね?

 潰しにかかったということはつまり、自らが潰される覚悟は当然あるんでしょうね?

 

 よろしい、目には目を、歯には歯を。そのそっ首へし折ってやる!

 

ドンッ!

ドンッ!

ドンッ!

 

 前を塞がれるのとほぼ同時に、いつもより強めに両足を踏み込み、わざと大きな足音を立てて走ります。さらに、進路を塞がれたことによる"苛立ち"の感情を敢えて生み出し、それを"怒り"に変換して放出する!

 

「…!」

 

 両目の端がつり上がり、耳が後ろ向きに軽く絞り込まれるのが分かります。

 

「うっ…!?」

「ひぃっ…!」

 

 右隣にいるパープルケイさんの耳が前に垂れるのを、私は見逃しませんでしたよ?

 そしてリボンマーチさん、貴女はどんな気持ちですか? 私の殺気で背中を貫かれる感覚は?

 おや、リボンマーチさんがやにわに速度を上げましたね。振り切るつもりか…させません。体力はまだまだ余裕ですし、下り坂での速度制御の困難さは承知の上で「スリップストリーム」を駆使して、背後霊のようにぴったり食い付いていきます。逃げられると思わないでくださいね!

 パープルケイさんも、何とか私の右隣の位置を死守しているようです…好都合。このまま掛からせて落とすとしましょう。

 ここは中山レース場。その特徴の1つは、2nd corner の出口辺りから延々と続く長い下り坂。そんなに脚を速くした状態で、あの(きゅう)(はん)を上がる体力を残せますの?

 

 前方を走るリボンマーチさんに圧力をかけ、右に並ぶパープルケイさんを気にしながらも、全体の位置関係の把握を忘れてはいけません。

 今は走り出してそろそろ600Mになろうかという辺りで、向こう正面を走っています。先頭はやはりスリーキングダムズさん。逃げの方はもう1人いたはずですが…いましたね、キングダムズさんよりやや遅れて2番のブラッククイーンさん。ハナは完全にスリーキングダムズさんが持っていっていますわ。

 走り方を見ていると、スリーキングダムズさんの走りは最初に全速力まで加速して先頭に立ち、その後は少し速度を落としながらも後方を掻き乱すような感じですね。それで体力を奪い、最後に再び最高速まで加速して体力の尽きた後続をぶっちぎる、という走りのようです。……私が以前から知っている走りそのもの。やはりあの人も…。

 おっと注意が逸れました、逃げの2人から2バ身離れて必死に追いかけているのは、1番グリンドストーンさんと、外に並んで3番アクアリバーさん。アクアリバーさんはどちらかというと外側…私の方を気にしているようです。それもそのはずですわ、私は新人戦(メイクデビュー)と朝日杯で2回、あの人を叩き潰しているのですから。三度目の正直で私に勝とうということか…その意気や良し、受けて立ちましょう。

 そして、右後方にちらりと目をやると…いました。最後の1人、4番のロイヤルタータンさん。歯を食い縛り、必死の形相でこちらを追っています。ついてくるのは良いですが、末脚を使う体力は足りますの…?

 

 競走も残り約半分、今は向こう正面だか 3rd corner だかよく分からない部分を走っています。

 私の殺気を背中に浴びて逃げまくっているリボンマーチさん、そろそろしんどくなってきましたかね。耳が少しずつ垂れてきています。右隣のパープルケイさんも汗びっしょり……いい感じに消耗してくれたようです。

 そして、競走が始まって間もなくは隊列の後方にいた私ですが、リボンマーチさんに引っ張ってもらった結果、前の方まで詰めることができました。

 そして今回は、競走参加人数の少なさ故に見逃しませんでしたよ、「6」の標識! 仕掛けるのは、ここです!

 右足の踏み込みから一気に外に飛び出し、そこから(まく)りを掛ける!

 

「なっ…!」

 

 パープルケイさんの驚愕が、背後に置き去りになっていきます。

 追い抜く瞬間にちらりと右を見ると、リボンマーチさんの驚いた顔が汗にまみれ、息が上がっているのが見えました。あの様子では体力はもうないに等しいでしょう。

 やることは1つのみ。おそらく、普通に走ったのではスリーキングダムズさんは捉えきれない。だから…速度に変えられる物は全て変える。「スリップストリーム」も、Rのきつい corner を曲がる時の遠心力も、下り坂でかけられた重力も、追い風も、全てを速度に変えて!

 早めに仕掛けたおかげで、4th corner の内側は結構空いている……外側から進入した後、可能なら内ラチに擦るくらいまで切り込み、そして出口を外寄りに抜けることで、遠心力を最大限利用する形にしましょう。

 視界に写る敵は、先頭にいるスリーキングダムズさんだけ……私の視界に、留まれると思うなぁぁ!!

 

 

『第4コーナーから直線へ向かう!』

『ここからスパート! 一気にレースが動きます!』

『中山の直線は短いぞ! 後ろの娘たちは間に合うか!?』

 

 お決まりの実況と共に、最終直線の攻防が始まる。最初にコーナーを立ち上がったのは当然スリーキングダムズだ。

 

「シルヴァーブレイズの末脚は33秒6、これは素直にすごいものよ。けれど、これまでのリードを考えればキングダムズを捉えるのは難しい…私たちの勝ちよ」

 

 東条トレーナーのこの解説は、《シリウス》の面々には絶望の宣告となって突き刺さった。

 

「やっぱ無理かぁ…」

 

 心底残念そうにリボンカプリチオが呟いた時、

 

「頑張れ、ブレイズーっ!」

 

 西郷トレーナーが声を張り上げた。

 

「ブレイズさん、ファイト…!?」

 

 そしてメジロマックイーンの声援が、途中で途切れる。

 

「ん?」

「なっ…!?」

 

 それと同時、シンボリルドルフがぴくりと耳を動かした。次いでエアグルーヴの驚愕が伝わる。

 

「と、トレ公!」

「ヒシアマゾン、どうし…!?」

 

 ヒシアマゾンに呼ばれ、東条トレーナーはコースに視線を向けて…言葉と息が詰まった。

 そこにあったのは、6バ身はあったはずのリードをこの一瞬で3バ身にまで詰めた、シルヴァーブレイズの姿だった。

 一部のトレーナーたちやウマ娘たちから"流星の差し脚"とあだ名されるあの強烈な末脚が、明らかに火を噴いている。

 

『スリーキングダムズ逃げる! しかし、来た! 来た! ブレイズ来た!

シルヴァーブレイズ驚異的な末脚! あっという間に追い上げてきたーっ!!』

 

 実況ですら興奮状態である。

 

「はーっはっはっは! やるではないかブレイズ君!」

 

 チームメートの敗北の危機にも関わらず、何故か楽しんでいるらしいテイエムオペラオー。

 

「オゥ…見たことないデース…!」

「あの末脚は新手の手品かい!?」

 

 あのフジキセキやタイキシャトルですら、顔色を失うほど驚愕している。

 

「大驚失色…!」

「何、これ……こんなのデータには…!」

 

 シンボリルドルフと東条トレーナーが同時に呟いた時、攻防はあの急坂へと差し掛かった。

 

『残り200! 先頭スリーキングダムズ苦しいか! シルヴァーブレイズが捉えた! 交わすか逃げるか最後の攻防! 後ろは誰も来ない!』

 

 ついにスリーキングダムズが捉えられた。彼女の十八番とも言える、あのレースのペースを支配する逃げが、崩されかけている。信じがたい光景だ。

 

「「「頑張れー!」」」

 

 あまりに予想外の事態に《リギル》陣営が言葉を失う一方、《シリウス》の面々は必死で声を張り上げる。

 そして坂を登り切った時、最後に一伸びを決められたのは……

 

『1歩も譲らぬデッドヒートだ! スリーキングダムズ、シルヴァーブレイズ! シルヴァーブレイズゴールイン!

やはりこのウマ娘だシルヴァーブレイズ! スリーキングダムズのトリックランをも打ち破った! 桜花賞に向けて視界良好というところか!』

 

 ……大外から差しにかかった白い軌跡であった。最後の一瞬でスリーキングダムズをクビ差ほど振り切り、シルヴァーブレイズが先にゴールに飛び込んでいったのだった。

 

「よし…!」

 

 シルヴァーブレイズの差し切り、そしてゴールインの瞬間を見て、西郷トレーナーがグッと拳を握った。

 スリーキングダムズは非常に手強い相手だった。レースのペースを支配する逃げは、やはり只者ではなかった。

 今回のレースで見ても、スリーキングダムズと後方の間には目測で5バ身ほどもの着差が開いている。マイル戦では結構な着差である。

 だが、ブレイズはそれをひっくり返した。差しの位置から残り600メートルでスパートをかけ、ラスト50メートルでスリーキングダムズを差し切ったのだ。

 しかも、ストップウォッチで計測した上がり3ハロンのタイムは32秒9……並大抵ではない、凄まじい末脚である。これほどの末脚は、西郷トレーナーも未だかつて聞いたことがなかった。東条トレーナーにとっても、この末脚は予想外だっただろう。

 

「何度見ても、ブレイズさんは信じがたいことをさらりとやっていきますわね…」

 

 コースに視線を釘付けにしたまま、メジロマックイーンが言った。

 

「ブレイズちゃんって、やっぱりこう…器? が違うよねー…」

 

 リボンカプリチオが、羨望とも諦感ともつかない声を上げる。

 その時、静かな声がかけられた。

 

「青天霹靂……驚いたよ。評判は聞いていたが、まさかこれほどの豪脚とはね」

 

 シンボリルドルフである。そのたった一言だけで、全員がぴーんと姿勢を伸ばした。

 

「スリーキングダムズのトリックランは、経験豊富なシニア級のウマ娘ならばともかく、クラシック級のウマ娘たちでは打ち破るのは困難だと考えていた。私の想定が甘かったということか……脚下照顧、だな」

 

 続いて、テイエムオペラオーが口を開く。

 

「実に素晴らしい舞台だったよ! たまには他の人の上演を見るのも良いものだね……先に白手袋を渡しておくとしよう!

ジャパンカップか有マ記念か、いつか戦える日を楽しみにしている、とシルヴァーブレイズ君に伝えてくれたまえ!」

 

 さらに、ヒシアマゾン。

 

「手強い相手を見ると燃えてくるもんだけど、ここまで熱くなったのはナリタブライアン以来かね…。ヒシアマ姉さんも、アイツとタイマンしたいもんだよ!」

 

 そこにフジキセキがツッコミを入れる。

 

「おっと、それなら私が先かな。ブレイズ君は栗東寮の生徒だからね」

 

 そして、東条トレーナーが歩み寄ってきた。

 

「西郷くん、まずは優勝おめでとう。すごいものを見せてもらったわ…シルヴァーブレイズに、あんな末脚が隠されていたなんて」

「東条先輩、こちらこそありがとうございました。良いレースを経験させていただきました」

 

 頭を下げかけた西郷トレーナーを、東条トレーナーは「止しなさい、こんな公の場で」と押し留めた。その代わりに右手を差し出す。

 

(おき)()くんが『あいつはヤバい』と言うだけのことはあるわね……今日のところはこちらの負けよ。桜花賞では差させないけどね」

「こちらも、堂々たるレースができるよう尽力いたします」

 

 2人のトレーナーは、桜花賞に向けた戦意を右手に込めて、硬い握手を交わしたのであった。

 

「さて、俺たちも…ん?」

 

 《リギル》の面々を見送った後、シルヴァーブレイズのところに行こうとして、西郷トレーナーは気付いた。メジロマックイーンが、かなり真剣な表情で何やら考え込んでいる。

 

「どうした、マックイーン?」

 

 西郷トレーナーの声に、メジロマックイーンはハッとしたように顔を上げた。

 

「と、トレーナーさん!?」

「どうしたんだ、ものすごく考え込んでいる様子だったぞ?」

「いえ……すみません、白昼夢を見ていましたわ」

「何だそりゃ」

 

 マックイーンの答えに、西郷トレーナーとリボンカプリチオは2人揃って首を傾げた。

 

「まあ良いや、ブレイズのとこ行くぞ」

「ええ、そうでしたわね!」

 

 実はマックイーンは、競走中に見えた"あるもの"を気にしていた。

 あの最終直線、スリーキングダムズを猛追するシルヴァーブレイズの身体が、微かに白い光に包まれていたように見えたのだ。ゴールした直後には光は消え、いつものブレイズの姿に戻っていたが。

 目のせいなどではない…と、マックイーンは確信していた。

 

(それに、あの白い光が漏れていた時、ブレイズさんが纏っていたあの雰囲気は…)

 

 それに、シルヴァーブレイズが纏っていた雰囲気を、メジロマックイーンは知っていた。それはまるで…

 

(追込をかける時のゴールドシップさんや、かつて天皇賞(春)で私を抜き去ったライスシャワーさん、そして有マ記念で復活を果たしたテイオーに、似ていた……もしや、もうこの時期に"あれ"を…!?)

 

 もしそうだとすれば、シルヴァーブレイズの素質はどれほど底知れないのか……メジロマックイーンは戦慄を何とか押し隠そうとしていた。

 

 

 一方、チーム《リギル》の方でも、

 

「会長。最終直線でのシルヴァーブレイズは……」

「君も、そう思うか」

「はい……」

 

 シンボリルドルフとエアグルーヴが話し込んでいた。

 メジロマックイーンと同じものが、この2人にも見えていたのである。

 

「もう到達しかけているとは……。それも、オークスやダービーではなく、クラシックレースが始まってもいないこの時期に……」

「前途有望な娘が、もう1人いたというわけだ。スリーキングダムズと切磋琢磨して、共に輝いてくれることを期待しよう」

 

 そう言って微笑を浮かべるシンボリルドルフだが、エアグルーヴは心の中で呟いた。

 

(会長、お忘れではありませんよね? ……両雄並び立たず、ですよ)

 

 そして一行は、控え室にてスリーキングダムズと合流した。

 

「トレーナーさん、先輩方……すみません。勝てませんでした」

 

 開口一番、沈痛な表情で謝罪したスリーキングダムズに、東条トレーナーが「気にしないで」と返事した。

 

「貴女のレース運びは、事前の作戦通りのものだった。スパート位置にも誤りはなかった。だから、貴女に非はないわ。

今回はこちらのミスよ。シルヴァーブレイズにあれほどの末脚があることを、想定できていなかった。貴女の敗北は私のせいよ」

 

 東条トレーナーは、スリーキングダムズの両肩にそっと手を置いた。

 

「次の桜花賞は、勝ちましょう」

「はい!」

 

 もちろん東条トレーナーは、次回は必ず勝つつもりである。だがスリーキングダムズは、トレーナー以上に戦意を燃やしていた。

 あのレース終盤、抜かれる直前に、スリーキングダムズはシルヴァーブレイズにこう言われた(少なくとも、そんな気がした)のだ。

 

──汝、死兆星の輝きを見よ。

 

 その言葉がスリーキングダムズに与えた衝撃は、大きかった。

 

「次は負けない…6馬身差とは行かないまでも、2バ身差くらいはつけて…!」

 

 負けた悔しさを反骨心に変えるスリーキングダムズであった。




今回は表機能を使って出馬票っぽいものを試しに作ってみましたが、如何でしょうか?

桜花賞トライアル・アネモネステークスは終了。結果は以下の通りとなりました。

3月12日15時35分発走
中山11R OP アネモネステークス
芝1,600(右・外) 晴 良
1着 7番 シルヴァーブレイズ 1:34,9
2着 6番 スリーキングダムズ クビ
3着 3番 アクアリバー 5
4着 2番 ブラッククイーン アタマ
5着 1番 グリンドストーン クビ

そして、実際に走っていた競走馬を元ネタとするウマ娘がいたことには気付きましたでしょうか? 答えはこれです。

・グリンドストーン→ギミーシェルター
・パープルケイ→クリスタルヴィオレ

ついでに、史実の実況ネタも入っていました。レースの終盤、「あっという間に追い上げてきた」や「スリーキングダムズ、シルヴァーブレイズ! シルヴァーブレイズゴールイン!」というのは、2017年に行われた第140回 中山大障害の最後の部分の実況を意識しています。


スリーキングダムズ、最後の最後に何やら意味深なことを呟いていましたね。それに彼女を見てシルヴァーブレイズが感じ取ったことを考え合わせると、もしかして……。

そしてメジロマックイーン、シンボリルドルフ、エアグルーヴといった、一流のウマ娘の中でも限られた実力者だけが気付いた、第4コーナーから最終直線にかけてのシルヴァーブレイズのただならぬ気配も、気になりますね。あの終盤、シルヴァーブレイズはスパートをかけた時、いつもの台詞「大地を駆ける、白銀色の(シルヴァー)大流星(ブレイズ)となれ!」を言いませんでした。それだけの余裕すら無くなっていた…ということはないですね。だってブレイズは、レース中でもあれだけ思考しまくっていた訳ですし。
となると考えられるのは、それだけ戦況に集中していたということでしょう。集中……?


新しい評価をいただけるなんて…!
評価4をくださいましたdoragu様
評価7をくださいました夜市よい様
評価9をくださいましたmagus様、YUKI/ユキ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


さて次回なんですが、なんか乙名史記者からメモを預かってるんです。何々…?

『どんどん近付いてくるクラシックレースの季節、そして次々と結果が出てくるトライアルレース。路線を問わず、皆さんすごい走りを見せてくれて…素晴らしいですっ! 今年のクラシックレースは、例年にも増してアツいものが見られそうですね! そう、これはもう世紀の一戦になるかもしれません!
次回は「各媒体より① ─クラシック戦線接近中─」になりますっ!』

なーんか勝手に熱くなってるような気もしますが…まあともかく、次回はいつもとは毛色が少し違うかもしれませんね!
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