大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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クラシックチャンミは、予想通りというか何というか、残念ながら3位。皆さん強すぎんよ……無課金でそこまで優秀な戦力なかなか育てられん…それとも私の育成方法がマズイのか。まあただ、運を天と怒りに任せての10連ガチャで1発でドリジャ当てたのだけは良かった。
つーか、そのドリジャのストーリーでついに名指しでステゴ来ちゃったよ!? どうしよ……流れ次第では、拙作のキンイロリョテイがステゴに置換される可能性もゼロではない…。

そして次回のチャンミは、おそらくアイビスサマーダッシュかスプリンターズステークスの短距離路線…。今のうちに、新潟1,000mとか中山1,200mの挙動を調べて戦えるようにしておかねば…。

と、長い前置きはここまでにして、ようやく桜花賞までたどり着きました!



Act.032 桜花賞 本バ場の決意、スタンドの出会い

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 現在の私の格好は、いつものトレセン学園の制服でもなければ、私服でもありません。白と青のセーラー服に、上から着込んだ赤い jacket ……つまり勝負服です。この服に袖を通すのも4ヶ月ぶりですね。

 で、私がそんな格好をしているということで、私が今いる場所がどこなのかお分かりになったでしょう。そう、ここは阪神競バ場。これまた4ヶ月ぶりに、この地に戻ってきた訳です。

 

「どうだブレイズ、緊張しているか?」

「緊張? とんでもない、私は至って平常心ですわ。ただ……いつもよりは多少、気分が高揚しているかもしれません」

 

 Trainer さんの質問にはこう答えましたが…うーん、やっぱり高揚していますね。声の高さがいつもより少し高い気がします。

 まあ、それも仕方ないといえば仕方ありません。何せ今回の競走は、母上が果たせなかった夢に直接繋がる一戦ですから。

 

「それじゃブレイズ、いつものおさらいを…」

「ええ、お願いいたします」

 

 "おさらい"というのは、競走中に取るべき戦術の振り返りのことです。事前に幾重にも渡る練習を重ねたものですが、緊張が高ぶると戦術を忘れてしまう可能性は否定できません。誰にだって、その可能性はある訳ですわ。なので、どれだけおさらいしても足りることはまずないのです。

 

「……うん、よし、問題無しだ」

 

 淀みなく答えた私を見て、trainer さんは満足そうに大きく頷きました。そしてここで、ちょうど係員が呼びに来たのです。

 

「それでは、いざ…シルヴァーブレイズ、勝利を手にしてまいります!」

「おう、いってらっしゃい!」

 

 それでは、移動しましょうか…「桜花賞」前の、paddock 入場ですわ!

 

 

『ただいまより、第11レース「桜花賞」出走選手のパドック入場を行います。

さっそく2番人気の登場です、1番スリーキングダムズ!』

『これ以上ない仕上がりですね、(とう)(じょう)トレーナーの本気ぶりが窺えます。春の昼下がりの眠気も吹き飛ぶような、鮮やかな逃げを見せてほしいですね!』

 

 御披露目が始まった途端にいきなり登場、今の私の最大の敵とも言えるスリーキングダムズさん。「王国」という名前を持っているからなのか、それとも別の理由かは存じませんが、勝負服はかなり(けん)(らん)なものですね。いつも左の耳元に着けている ribbon に加えて tiara を装着し、戦場に出向く王を思わせる鎧のような見た目の衣装に、権力の象徴とも言える赤いマント……シンボリルドルフ先輩やトウカイテイオー先輩にも通じるものがありますね。

 この前のアネモネSで私に惜敗したこともあるのでしょうが、以前とは比べ物にならないくらい万全に仕上げてきているのがはっきり分かりますわ。さすがはあの名指揮官(東条トレーナー)、というべきでしょうね。

 

『勝ちは十分に狙える3番人気、4番 スイープトウショウ!』

『3番人気ではありますが、逆転を狙える能力は持っていますよ。この娘の鋭い末脚に期待しましょう!』

 

 続いてもう1人の手強い相手、スイープトウショウさん。とんがり帽子に黒いローブ、そして腰には魔法の杖と、魔女そのものの格好ですね。ワガママで(かわ)(ぞえ)トレーナーが手を焼いていると聞き及んでおりますが、何だかんだ言っても良い感じに仕上げてくる辺り、川添氏の実力も本物という他ありません。

 そして、スイープトウショウさんの次が私の番ですわ!

 

『さあ、早くも姿を見せました1番人気、5番 シルヴァーブレイズ!』

『さすがは《天才》西郷トレーナー、という他ない素晴らしい仕上がりですね。あの《流星の差し脚》を以て桜の女王となれるでしょうか、注目しましょう!』

 

 ……ちょっと待ってくださいまし? 何ですの、その『流星の差し脚』っていうのは!?

 疑問を解決する暇もなく、歓声の中で次々と紹介されていく出走ウマ娘たち。ですが、私にとって警戒すべきなのは、強いて挙げるならシュガーニンフェさんくらいのものですね。

 やはり最も手強いのはスリーキングダムズさん、次いでスイープトウショウさんです。あの2人には特に注意せねば。

 

 ちなみに本バ場へ移動する途中で、地下バ道まで見送りに来てくださったトレーナーさんに「流星の差し脚って何ですか?」と尋ねてみたのですが、こう言われてしまいました。

 

「あれ、ブレイズは知らなかったのか? トレーナーの間じゃ有名なんだよ、君の末脚は。

トライアルの時点で上がり3ハロンが33秒切るなんて、普通じゃない。その強烈な切れ味の末脚に畏怖を込めて、みんな君の末脚のことを『流星の差し脚』と呼んでいるんだ。

おそらくだけど、月刊トゥインクルとかのウマ娘系メディアのどこかでも、その呼称使われているんじゃないか? でなければ、レース場の実況アナがあの呼称を使うとは考えにくい」

 

 ……やれやれ、そんな騒ぎ立てなくても…。

 

 少し時が経ちまして本バ場入場も終わり、出走者全員がゲートの前に集結を果たしました。後は始まりの合図を待つのみ。

 天候は曇り。前日に「春の嵐」とでもいうべき雨が降ったことにより、この時期としては珍しいことにバ場発表は「重」となっています。

 母上の夢を完璧な形で叶えるためには、やることなど1つしかない。たとえどんな敵が相手でも…

 そこまで考えた時、一陣の風が吹き込んできました。目に髪が入らないよう、とっさに右手で目元を覆った私の視界に、ひらひらと入り込んできた白い小さなものが1つ。空いている左手を伸ばすと、上手い具合にそれは掌へと収まりました。

 いったい何が飛んでいたのかとよく見ると、掴み取ったそれは明らかに生物ではありませんでした。淡い桃色の混じった白く薄い円形の物体…どう見ても、桜の花弁。

 

「あ…」

 

 視線を巡らせた先には、既に開花している桜たち。まだ七分咲きくらいの段階ですから、この花びらはたまたま早めに咲いた花からちぎれたものでしょう。

 それを見て、改めて決意を固めました。この競走の名は「桜花賞」。今咲き誇らんとする桜のごとく、勝利を掴み取らなければ。そして…真っ先に祝福の花弁を掴んだ私なら、きっと勝てると思うのです。

 たとえどんな敵が相手でも、この競走は勝ってみせる。そして母上に、「オークス」の勝利を完璧な形にして捧げる!

 その決意を固めた時、ちょうど合図の音が鳴り渡り始めました。いよいよですわね……魂が奮い起つのが分かります。

 

「母上、trainer さん、皆様、とくとご覧あれ。この一戦、勝ってまいります!」

 

 そう呟いて気合を入れ直し、私はゲートへと向かうのでした。

 

 

 一方、満員と化している阪神レース場スタンド。

 

「ふぅ、何とか最前列を確保できたな」

「立ち見じゃねーかよトレーナー」

「仕方ないだろ! というか誰のせいでこうなったと思ってんだ!」

「コーナーの限界ギリッギリを攻めてみたくなったんだよ!」

「ゴールドシップ、静かになさい! トレーナーさんも大人げありませんわよ!」

 

 やいのやいのとゴールドシップとやり合う西(さい)(ごう)(ひで)(あき)トレーナーに、メジロマックイーンが喝を入れた。その後ろでサニーウェザーとカルンウェナンが苦笑いしている。

 実は今回、《シリウス》メンバーは最前列が完全に占領される寸前に滑り込んだのだった。というのは、西郷トレーナーが他チームの先輩トレーナー…特に《リギル》の東条トレーナーに挨拶をしていたのと、ゴールドシップの気まぐれ(という名の、ナカヤマフェスタとの賭け)のせいである。今回の賭けは、『指定時刻に阪神レース場スタンドの最前列を取れるかどうか』という内容で、賭けた張本人のナカヤマフェスタもこのレース場のどこかにいるはずであった。どうやら今回は、ゴールドシップの勝ちのようである。

 既に最前列には多数のレース関係者が集まっており、西郷トレーナーと同期の者もいた。その代表がチーム《ミモザ》の川添(けん)()トレーナーと、チーム《アルナイル》の(いり)()()(なみ)トレーナーである。《ミモザ》からはスイープトウショウ、《アルナイル》からはシュガーニンフェがそれぞれ桜花賞に出走していた。

 

「まあ、何とか間に合って良かった」

 

 どうにか全員で最前列を確保し、西郷トレーナーが安堵の息を吐いたその時だった。

 

「あの、すみません」

 

 唐突に隣から声をかけられた。

 

「桜花賞、まだ始まってないですよね?」

 

 西郷トレーナーが振り向くと、そこには1人の成人女性の姿があった。鍔広の薄紫の帽子を被り、淡い青色のシアーシャツに黄色のパンツという、カジュアルながら落ち着いた格好をしている。年齢は30代くらいか、種族は帽子から突き出たウマ耳が物語っている。髪の色は銀色、つまり葦毛。中背ながら体型はやや細身である。

 ウマ娘というだけあって美人には違いないが、どこか幸薄そうな…というか、人生の辛酸をたっぷり舐めたような印象を、何故か西郷トレーナーは(ぬぐ)いきれなかった。化粧はしているが、その化粧品の使用量が少ないのか品質がよろしくないのか……まあ、どこかやつれたような感じがするのである。茶色の瞳も、どこか憂いを帯びているような様子だった。

 

「まだ本バ場入場の段階ですよ。ファンファーレも鳴っていませんから、これから発走というところです」

 

 西郷トレーナーが答えると、ウマ娘の女性は明らかにほっとした様子を見せた。

 

「ああ良かった、間に合った…娘のレースを見逃したかと思ってしまいました。ありがとうございます」

「いえいえ。それでは、貴女の娘さんが桜花賞に?」

「はい。前にあの娘がここを走った時は、仕事があって見られなかったもので……今回はどうにか見られそうです」

「それは良かったです。勝負服を着て走る娘さんの姿を一目見たい、と思わない方はそうそういませんし」

 

 勝ち負けは別にして、そもそもGⅠレースを走れるという時点で突出した実力者であることは間違いない。

 考えてみてもらいたいが、GⅠレースの出走枠はいくら多くても20は超えない。それに対してウマ娘がいったい何人いるだろうか。それこそ星の数ほどもいるだろう。そこから考えると、GⅠレースに出走できる確率は宝くじに当たるより低いのかもしれないのである。

 そのG1レースの象徴たる勝負服を、自分の娘が着ているとなったら、親たちが興奮するのも無理のない話だろう。

 

「差し支えなければ…娘さんのウマ番は何番ですか?」

 

 西郷トレーナーは、特に他意もなくその質問を投げた。純粋な興味というよりは、世間話的な発想からである。

 だがそれだけに、相手の答えには大いに驚かされた。

 

「5番。シルヴァーブレイズです」

「えっ」

 

 西郷トレーナーが一瞬固まったのも無理はない。

 聞き間違いのはずがない。瞳の色はまるで違うし、僅かに顔の輪郭が似ている程度にしか雰囲気を感じられないが、このウマ娘の方はまさしく…!

 

「ブレイズの…お母様!?」

「そうですが、貴方は?」

「すみません、挨拶が遅れました! 私は西郷秀明と申しまして……」

「え!?」

 

 今度は相手の方が驚く番だった。

 

「西郷…ということは、うちの娘のトレーナーさん!?」

「そうです。いやまさか、こんな形でお会いできるとは…」

「なんてこと…。すみません、見苦しいところを見せました。シルヴァーブレイズの母、シルバーアクセサリです」

 

 まさかの偶然の出会いであった。

 

「うちの娘がお世話になっております」

「いえいえ、こちらこそ。彼女には本当に驚いています…ここまで5戦して無敗、それも朝日杯フューチュリティステークスをレコード優勝。この桜花賞でも大本命との評判も高いです。娘さんは本当に素晴らしい素質をお持ちですね」

「そんなことはありませんよ。あの娘は名家の出でもなければ、『ヴィクトリー倶楽部』のようなところに入って幼少期から英才教育を受けてきたわけでもない、どこにでもいるような普通のウマ娘です。

そんなあの娘が朝日杯をレコード優勝し、その後最優秀ジュニア級URA賞を取ったと知った時は、天地がひっくり返るかと思うほど驚きました。娘がここまで走れたのも、トレーナーさんの指導あってのものです。本当にありがとうございます」

「とんでもない、私こそ御礼を言いたいです。ブレイズは世代に1人いるかいないかというような、素質に満ち溢れた子ですよ。そんな子の担当になれるなんて、トレーナー冥利に尽きるというものです」

 

 その時、トランペットをはじめとする金管楽器の重厚な音が響き渡った。ファンファーレが鳴り始めたのだ。それを合図に西郷トレーナーもシルバーアクセサリも沈黙し、コースへと視線を向ける。観衆の熱狂に紛れて実況の声が聞こえてきた。

 

『咲き誇る桜が女王の誕生を待ち望む! クラシック第一弾、桜花賞! 今年もフルゲート18人の出走となっております!

実況は私、(こう)(さか)が担当します! 解説は(かい)(はつ)がお送りいたします。海発さんよろしくお願いします!』

『よろしくお願いします』

 

 この海発という解説者、名字の珍しさもさることながら、若手ながら的確な解説を行うことで巷では少しその名を知られている。

 

『それでは海発さん、今回の桜花賞はどうご覧になりますか?』

『そうですね、やはり注目度が高いのは5番のシルヴァーブレイズですね。ここまで無敗を保っているのもさることながら、彼女は既に一度このコースを走って勝っていますからね』

『朝日杯フューチュリティステークスですね!』

『はい。その時の勝ち方も、最終盤に大外から一気に差し切るという力強いものでした。その時点でも十分に鋭い末脚を有していましたが、今はそれにさらに磨きがかかっています。

もちろんシルヴァーブレイズは、厳しくマークされているでしょう。それでも70%近い支持率を確保しているということは、それだけ彼女が期待されているということです。今回はどんな走りを見せてくれるか、楽しみですね』

『海発さんありがとうございました。

枠入りは順調です、2番人気スリーキングダムズ、1番人気シルヴァーブレイズは既にゲートイン済み、ちょっとゴネましたが3番人気スイープトウショウも今入りました。そして最後に大外、18番のリボンマーチがゲートに入って、態勢整いました! 桜の祝福を掴み取る第◇◯回桜花賞! 今スタートしました!』

『みんな集中してましたね、好レースが期待できそうです!』

 

 スタンドがわっと沸き立つのが、《シリウス》の面々にははっきりと感じられた。

 

 

 発走の少し前、スタンド最前列の一席にて、《ミモザ》の川添トレーナーと《アルナイル》の入江トレーナーは互いに隣の席に座っていた。

 

「2度目の直接対決だな…今回はウチのスイーピーが勝つ」

「それはこちらの台詞ですよ……」

 

 この2人、阪神ジュベナイルフィリーズの時に初対決している。結果は入江が担当するシュガーニンフェが1着だったため、川添トレーナーの敗北に終わっていた。川添トレーナーにしてみればリベンジ戦である。

 

「桜花賞のコースは、阪神JFと同じ……同じコースで一度勝った以上、シュガーが先着する可能性は高いですよ…」

「それを言い出したら、ウチのスイーピーとてチューリップ賞1着だ。勝てる可能性は大いにある」

 

 自信を見せる川添トレーナー。しかしここで入江トレーナーが水を差した。

 

「どうでしょうか……」

「どういう意味だ?」

「私は『シュガーが先着する可能性は高い』と言ったのであって、勝てるとは一言も言っていません……」

 

 その一言で、川添トレーナーが「しまった」という顔をする。

 

「相手が相手だからなぁ」

 

 無論、2人の脳裏に浮かんでいるのはスリーキングダムズとシルヴァーブレイズの顔だ。

 

「逃げ切られるか差し切られるか……どっちかだと思います……。特にシルヴァーブレイズさんに、勝てる気がしません……」

「スイーピーに対抗手段は(さず)けたが、アイツそもそも言うこと聞くのか分からんからな。その対抗手段を使ったとてブレイズやスリキンに勝てるかは分からんが、かといって使わんと勝ち筋が見えねぇ」

 

 2人のトレーナーは、盛大にため息を吐いた。

 だが、これはこの2人に限らず、担当のウマ娘を桜花賞に、ひいてはティアラ路線に出走させているトレーナーたちの総意であったかもしれない。

 

 また、スタンドの別の一席にて、トレセン学園の制服を着た2人連れのウマ娘がレースを観戦しようとしていた。片方は鹿毛でニット帽を被り、もう片方は黒鹿毛でやけに小柄だ。

 

「どうだリョテイ?」

「……予想通りだな」

 

 そう、この2人はナカヤマフェスタとキンイロリョテイである。

 

「こっからでは遠すぎて、私にゃ分からねぇ。アンタなら"視える"かと思ったんだが」

「間違いなく見えている。スリーキングダムズも強いオーラを放っているが、ブレイズはそれ以上だ……まるで女皇だな」

 

 ナカヤマフェスタはオペラグラスを目に当てているが、キンイロリョテイは何も持っていない。そんな状態で何を見ているのかというと、"オーラ"である。

 GⅠレース時のパドックやスタンドは、かなり重い雰囲気が漂うことが多い。GⅠ特有のプレッシャーである。だがキンイロリョテイに言わせれば、空気の重さしか感じられないのは素人である。何度もGⅠレースに出走し、GⅠウマ娘と対決し続けた彼女は、相手の身体の周囲にオーラを視ることができるのである。そのオーラの強さが、ウマ娘の強さの証なのだ。

 今回のレースで言うと、シルヴァーブレイズのオーラが最も強く、次いでスリーキングダムズとなっている。その2人からかなり水をあけられているが、スイープトウショウもそれなりのオーラが視える。他のウマ娘からは、オーラをほとんど感じられない。僅かにシュガーニンフェのオーラが強く感じるが、リョテイに言わせるとどんぐりの背比べである。

 

「大本命シルヴァーブレイズ、対抗スリーキングダムズ、大穴スイープトウショウってとこか?」

 

 そう尋ねるナカヤマフェスタの声は、何故かくぐもった感じになっている。口の中に何か入っているようだ。

 

「そんな感じだな…って何食ってんだお前」

 

 ナカヤマフェスタはいつの間にかオペラグラスを下ろし、汁物の料理を口にしていた。関西特有のうどん汁らしい透き通った金色のスープの中に、肉と長ネギがゴロゴロしている。

 

「阪神レース場名物、肉吸いだ」

「ホルモンか。お前らしい」

「アンタも他人(ひと)のことは言えんと思うけどな」

 

 キンイロリョテイも、串カツのパックを抱えているのである。豚カツは既に完食しており、パックの中にはウズラ卵とチーズベーコンの串カツが残っていた。

 

「さて…今回のレース、どう見るよ?」

 

 ナカヤマフェスタの問いに、キンイロリョテイはウズラの卵をかじりながら答えた。

 

「ブレイズはおそらく後方から捲るだろうな、そのやり方で朝日杯勝ってるし。同じ手でやるだろうな…このソースなかなかイケる」

「私はそうは思えねーな」

 

 ナカヤマフェスタは、意外なことを言い出した。

 

「今回、ブレイズは先行で来ると思う」

「そりゃどうしてだ?」

「賭けだ」

「何だ、カンじゃねえか」

「まあな、ただ根拠無しって訳じゃない」

 

 スープを一口啜り、フェスタは続けた。

 

「朝日杯の時は有力な逃げウマがいなかった。だが今回はキングダムズがいる。アイツの逃げはかなり強い、後ろからじゃセーフティリード取られる可能性がある。ってことで、先行するんじゃねーかと思っただけさ」

「一理あるな」

 

 キンイロリョテイのコメントに、ナカヤマフェスタはニヤリと笑った。

 

「てことで1つやらねえか。私は先行、アンタは差し。負けたらたこ焼き奢りで」

「たこ焼きはシェアだな。乗った」

 

 相変わらず、シルヴァーブレイズを賭けのタネにしているナカヤマフェスタであった。

 ちなみにであるが、GⅠというだけあって阪神レース場には中央トレセン学園の制服を着たウマ娘の姿もちらほら見える。例えばキンイロリョテイとナカヤマフェスタから見て右前方の席には、2人連れがいた。片方はやや小柄で少し赤の混じった茶髪、もう片方は長身で薄い青紫色の頭髪と尾が目立つ。

 

「ねえシーザリオ。今年の桜花賞、誰が勝つと思う?」

「そうだね、一番有力なのはシルヴァーブレイズ先輩かな。アネモネステークスでは上がり3ハロン33秒を切るほどの豪脚があるし、朝日杯フューチュリティステークスもレコード優勝して阪神のコース適性も高い。1人だけ実力が図抜けているからね」

「だよねー。私としてはスイープトウショウ先輩やスリーキングダムズ先輩も捨てがたいんだけど、やっぱりブレイズ先輩かぁ」

 

 今年チーム《アスケラ》への加入とトゥインクル・シリーズデビューを決めたラインクラフトとシーザリオであった。

 

 

 阪神を遠く離れた東京にも、シルヴァーブレイズを応援している人がいた。

 

「頑張れブレイズちゃん…頑張れー、おー!」

 

 小さな声で呟いたのは、長い黒鹿毛で右目を隠し、青いミニハットを被ったウマ娘の少女。ライスシャワーである。およそ10ヶ月前の「宝塚記念」にて重度の骨折を患って以来、まだリハビリの途中だ。そのため彼女が今いる場所はリハビリ病棟のデイルームである。

 リハビリ中とはいえ、彼女の具合はもう大分良くなっていた。今は少々ふらつくが、松葉杖無しでも歩けるまでに回復している。ただ、医師からはレースは絶望的と言われていた。

 病院というと、どちらかといえば閉鎖的な雰囲気が漂う場所であるが、そんな場所にもTVや新聞を通じてニュースはしっかり飛び込んでくる。現に、ライスシャワーの前のテーブルには「日刊ウマ娘」や「月刊トゥインクル」といったウマ娘系大手メディアの紙媒体が広げられており、そしてデイルームに集まった患者たちは「桜花賞」を中継しているTV画面に向けて声援を送っていた。

 

「ブレイズちゃん…頑張れ…!」

 

 ライスシャワーにできることは、後輩たるシルヴァーブレイズの勝利を祈ることだけであった。

 

 

 一方、トレセン学園近くの商店街、その裏通りに構えられた「パブ 流星の止まり木」にて。

 

「おうマスター、来たぜ!」

「お待ちしておりました」

 

 こちらにも、シルヴァーブレイズを応援する人々が集まっていた。まあこの店のマスターからしてシルヴァーブレイズ応援派筆頭なので、仕方ないといえば仕方ない。

 

「早速だが、紅茶頼むわ! ダージリンのストレートで!」

「畏まりました。軽食は摘まみますか?」

「それはブレイズの嬢ちゃんが勝った時にするわ。あ、アップルパイ1切れストックしといてくれ」

「畏まりました」

「お、お前も来たのか!」

「そりゃそうよ。ブレイズの嬢ちゃんが無敗で桜花賞を取るとこ見たいんだからな!」

 

 いつも以上に騒々しい店内。ただ、その騒々しさはいつもとは質が違う。いつもはトレセン学園の生徒の勉強場所だったり大人の静かな飲みに使われたりと、利用者が多くても比較的静かなことが多いのに、今日に限っては利用者の人数に比例した大声が出されており、わいわいとしている。

 注文された紅茶を持ってきたマスターに、1人の客が思いきった様子で尋ねた。

 

「なあマスター。ブレイズの嬢ちゃん、勝てると思うか? 今回はスリーキングダムズとかスイープトウショウとか、厄介な相手が多い。一筋縄じゃ行かないと思うんだけど」

 

 この質問に、マスターは落ち着き払って答えた。

 

「レースの勝ち負けは、やってみなければ分かりませんよ。現段階では、それ以上何も申し上げることはできません。

1つ確定しているのは、貴方も私もシルヴァーブレイズに勝って欲しいと思っていること、ではありませんか?」

「まあ、そりゃそうだけどな」

「ただ、そうですね……今回はシルヴァーブレイズにとって、少し有利なバ場になっていると思います」

「ん、どういうことだ?」

 

 質問してきた客の他に、やり取りを見守っていた客たちも興味津々の視線をマスターに向ける。

 

「シルヴァーブレイズは、どちらかといえばバ場が悪い時を得意としているようです」

「え、そうなのか?」

「初耳だぜ」

「ええ。朝日杯フューチュリティステークスを見ると分かりやすいですよ、あのレースは確か重バ場発表でしたし」

「その重いバ場でレコード勝ちしたから、ってことか?」

「ざっくり言えばそうです。重バ場になると、路盤が柔らかくなるのに加えて芝のクッション性も低くなり、体育館にあるマットのように踏むと足が沈み込みます。そこで走るとなると、芝を蹴るパワーが必要になります。ここまではお分かりになりますか?」

「ああ、よく分かるぜ。続けてくれ」

「ということは、蹴ってもなかなか推進しないですから、走破タイムは当然遅くなります」

「あ……なるほどな。そんな走りにくい重バ場でレコード優勝したってことは…」

「そう、シルヴァーブレイズは重バ場が得意ではないか、ということになるのです」

「マスター、いったいどうしたんだ? えらく詳しいじゃねーか」

「昔中央トレーナーを志していまして、その時の知識を持ってきただけですよ」

「そうだったのか…」

 

 その時、にぎわう男性たちの声を貫いて、女性の声が響いた。夫婦で来ていた客の奥さんらしい。

 

「皆さん、ファンファーレ鳴りますよ」

 

 途端に男性たちの喧騒が終息に向かう。

 

「来た来た!」

「頑張れよーブレイズ!」

 

 喧騒と入れ替わるように、ファンファーレの音色が客席を流れた。




とうとう桜花賞までやって来られました…。ここまで来られたのも、単に読んで応援してくださる皆様のおかげです。本当に、ありがとうございます!
そしてビジュアル付だと初登場、シルヴァーブレイズの母シルバーアクセサリ。まあ何というか、経済的に苦労してらっしゃるようで…ブレイズ、レースで賞金が出るんだったらちょっと融通してやってくれ。


評価9をくださいましたプッチンヨーグルト様、ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


「失礼、次回予告のお時間ですわ」

よし、ブレイズ頼む!

「承知しました。次回、いよいよ桜花賞発走。数万単位の超満員の観衆がひしめき、何ならそこに《シリウス》の面々と母上も混じっているでしょうが、関係ありません。私の勝利を祈ってくださっている方々のため、そして私自身の目標のため、全力を投入して勝利を収めるまで!
次回『仁川に桜の吹雪く』 don't miss it ですわ!」

ところでブレイズ、レースには体力とか縁起ってもんが大事になる時がある。ってことで、勝負メシとして鶏ガラ醤油ラーメンは如何かな? 阪神レース場3階のフードコートで売ってる奴なんだが…

「ラーメン? 要らないですわ。ただでさえ脂肪が多いのですから、それ食べたら単純に体重が重くなる上に、体内の脂肪配分が狂って走りに影響が出てしまいます。それは作者さんが食べておいてくださいまし」

むう、釣れないねぇ…。
ちなみにですが、唐突に出てきたラーメンと、勧められた時のシルヴァーブレイズの反応には、実は意味があります。どんな意味でしょう?
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