オークスの前に、少しだけ日常回を挟みます。普段レース模様やトレーニングの様子が描かれることの多いシルヴァーブレイズですが、こういうこともしている、という描写です。
皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
本日の日付は4月25日。あの桜花賞から21日後です。そんな日に私がどこにいるかと申しますと、東京競バ場の観客席ですわ。何故そんな場所にいるか、って? 決まっておりましょう、我が好敵手の偵察のためです。
我が好敵手……《リギル》のスリーキングダムズさん。桜花賞では重バ場に脚を取られて7着入線という残念極まる結果に終わってしまったため、「オークス」への挑戦権を賭けて本日の「フローラステークス」へ乗り込みを決めたと、《リギル》から発表があったのです。そこで、今のスリーキングダムズさんが私にとってどれだけの脅威になっているか確認すること、そして東京のコースを確認することを目的に、この場に脚を運んだというわけです。
「フローラステークス」の距離は2,000Mなので、Oaks 本番より400Mも短くなっていますが、それでもある程度の実力は推し量れますわ。
え、たった400M増えるだけだろ、って? お言葉ですが、全力疾走せねばならない時間が少なくとも25秒は増えるのですよ、その身体的負担を舐めてはいけません。それも、1,600M前後までしか知らない身体にとっては、距離が1.5倍にも伸びる訳ですから、これ以上ないほど過酷な競走となり得るのです。
実際、tiara route を走った方がその後に走ることの多い競走を調べても、「ヴィクトリアマイル」「安田記念」「マイルチャンピオンシップ」が1,600M、「大阪杯」「天皇賞(秋)」が2,000M、「エリザベス女王杯」が2,200Mですから、2,400も走ることは珍しいと言えるのです。ジェンティルドンナ先輩? あの方は少々特殊ですから。
っと、そんな過酷な距離ですが……私は確信しています。スリーキングダムズさんなら走りきれる、と。
先日《リギル》の練習風景を
あんな猛者たちを相手にしていることですし、それにあそこの
今現在、私は1人で観客席に座っているところです。流石にサニーさんをはじめとする team の方や同室のリナルドモントバンさんを巻き込む訳にはいきませんので、今回は1人で来ております。
ちなみにですが、今の私は変装しております。具体的には、あの白い大流星を塗り潰して頭髪も尾も鹿毛の茶色で統一し、さらに colour contact lenses で両目とも茶色にして、その辺にいる1人のウマ娘にしか見えないような格好をしているのです。
その変装のためか、トレセン学園の制服を着ているにも関わらず、今のところ観衆から話しかけられたことはありません。学園に程近い東京競バ場なら、トレセン制服のウマ娘など身近でありふれた存在だから、GⅠ競走を勝つような有名な者でもない限り注目されない、ということでしょう。これが阪神や京都なら、トレセンの制服ってだけでも注目を集めるでしょうね。
さて……いよいよ発走時刻です。とくと見せていただきましょうか。あ、trainer さんから借りた camera で録画しておかないと。
『本日のメインレースにして、オークスのトライアル! 第◆●回 GⅡ フローラステークス!
今年も18人のウマ娘たちが挑みます!』
ふむ…今回は定員割れは無しですか。流石はGⅡというべきですね。「オークス」優先出走枠の1つをスリーキングダムズさんに持っていかれるとしても、残り1つの枠は譲らない……ということでしょうね。
いざ競走開始! …ふむ、やはりスリーキングダムズさんの走り出しは上手いですね。最初に全速力で先頭を取り、その後は後続の様子を見ながら少し速度を落として消耗を防ぐ、という走り方をしています。しかもこれ、よく見たら平均よりやや速い速度じゃありませんか。これではおそらく、何も考えずに走った方々は知らぬ間に末脚を奪い尽くされてしまいますね! それを、最初のうちは相手に分からない、悟らせないくらいに上手くやっているんですから、大したものです。
その効果は、大ケヤキを過ぎて最終直線に入る辺りから明らかに表れてきました。
『まだ差がある、ここから先頭を捉える娘は出てくるのか!
最終コーナーを抜けて、最初に立ち上がったのはスリーキングダムズ、リードを3バ身4バ身取る! 残り400、試練の登り坂へと差し掛かる!』
そう、東京競バ場にも坂があるのです。阪神や中山ほど急ではないので、あまり有名ではないかもしれませんが。
しかし、誰が何と言おうが登り坂は登り坂。体力限界寸前の競り合いをしている状況下では、時としてこの大して急とは言えない坂でも断崖絶壁と化すのです。
そんな坂を、スリーキングダムズさんは…
『スリーキングダムズ速い速い! もはや独走状態だ!』
後続を振り切るのに使用して、あっさり登りきったようですね。
『残り200を切って、先頭は変わらずスリーキングダムズ! 後ろからはニジノアヤメが来ている、シンフォニックも追い込んでくるが、先頭2番スリーキングダムズ、5バ身は放してゴールイン! 悠々と逃げ切ってみせました!』
うーむ、やはり彼女は手強い。ですが同時に、改めて彼女の脚が無事であることを確認できて安心しました。
これで心置きなく、Oaks 本番で
◆◇◆◇
さらに1週間後の5月2日、礼拝を終えた後で私は再び東京競バ場に来ております。今度はサニーウェザーさんも一緒ですわ。
どうしたのかというと、お呼ばれしたのですわ……「今度のNHKマイルカップは、是非とも見に来て欲しい」と、サニーさんの同室たるアウダーチさんに招待されたのです。
ふむ、いつもなら私自身が走るか、出走する《シリウス》所属の方の応援という形でレース場に来ることが多いのですが、たまにはこうやって、ただの観客として来るのも良いでしょう。
ということでいざやって来たは良いのですが……熱気がまるで違う…! この前のフローラステークスの時でも、ここまで観客数いませんでしたよ!? しかも、まだ
そして、とんでもないことになってしまいました…。
「お、おい、あの娘…!」
「し、シルヴァーブレイズだ!」
「ブレイズさん、サインください!」
「お、俺も、写真撮って下さい!」
到着直後からずっとこれなのです…。このおかげで、なかなか自由に動くことができない状況ですわ…。
い、いくら
「ち、ちょっと通してくださいまし…! 私も、NHKマイルカップ見に来たんですの…!」
申し訳ございませんが、少しで良いので遠慮してくださいまし…!
結局、御披露目の時間が近付くまで、なかなか動くことができませんでした…。
「お疲れ、ブレイズちゃん。大変だったね…」
「ううぅ、ひどい目に遭いましたわ…私はただ、友人の応援に来ただけだというのに…」
私が周囲の野次馬の注目をかき集めたおかげで、逆にサニーさんは自由に動けたようですね。まともに動けなくなった私を気遣って、色々と買ってきてくださいました。ああ、はちみーが喉に染みますわ…。
そして改めて実感しました。変装の効果って偉大ですわね……アウダーチさんにも私が来たことが分かるようにしようと変装無しで行ったら、この有り様です。今後は、私的な用事等で出かける時は変装するべきでしょうね。
こうなってくると、自由に外出できない故にGⅠウマ娘というのもなかなか辛い…撮影や記者会見の度に白い光に悩まされるというエアグルーヴ先輩の気持ちが少し分かった気がします。
「ところでサニーさん」
「ん? どしたの?」
「今回はどなたがお勝ちになると思いますか?」
一応答えは予想できていますが、敢えて尋ねてみます。
「そりゃ、ルームメートのアウダーチちゃんだよ! 朝日杯フューチュリティステークスでブレイズちゃんに負けてから、マイルでは誰にも負けないようにするって言って、いっぱいトレーニングしてるもん!」
ふむ、なるほど…実際私も、放課後の鍛練中に時々アウダーチさんが走っているのを見かけますわ。以前に比べて、さらに末脚の切れ味が上がっているのがはっきりと分かりました……この御披露目の時の調子次第ですが、おそらく今回はアウダーチさんが主役となるでしょう。
「私も、アウダーチさんほどの実力者ならそうそう負けはしないと思います。ですが、競走の勝ち負けはやってみなければ分かりません。朝日杯で4番人気の伏兵にやられたように、大どんでん返しが起きても不思議じゃないのです。その点だけお忘れなきようお願いしますね」
「もち! ってかその伏兵ってブレイズちゃんのことじゃ…」
『ご来場の皆様、大変お待たせいたしました。本日のメインレースとなる第11R、GⅠ NHKマイルカップのパドック入りを行います』
おや、ちょうど場内放送が聞こえてきましたね。
「来たよ、ブレイズちゃん!」
「ですわね!」
一気に観客の熱気が上がってくるのが分かります……。
これまでは paddock の中から皆さんの歓声を浴びる経験しかしてきませんでしたが、観客席から paddock を見下ろす側に回ると、これまたものすごい熱気ですこと…。
とりあえず、サニーさんが確保してきてくださった出バ表に目を通しながら、出てくる選手を1人ずつ確認していくとしましょう。出バ表によれば、アウダーチさんは7番。出てくるまでもう少しかかりますね。
そのまま数人の御披露目を眺めて、いよいよ7番です。
『ここは負けられない1番人気、7番 アウダーチ!』
『これ以上ない仕上がりですね。この娘の鋭い末脚の炸裂に、期待しましょう!』
おお、これは……私の目から見ても、素晴らしいとしか言えません。全体的な雰囲気が、朝日杯の頃とはまるで違います。刃物で例えるなら、朝日杯の頃の雰囲気が knife なのに対して、今は rapier というところです。相原トレーナーも、よくぞここまで仕上げたものです。
アウダーチさんの勝負服は、くすんだ茶色の衣装…いわゆる「サファリジャケット」と呼ばれるものに、すねの中ほどまでの長さの茶色のブーツ、右腰に丸めた鞭を装着し、そして右側に白い羽を飾った真っ赤なテンガロンハットを被るという格好です。普段の落ち着いた優等生的雰囲気とは打って変わり、これから冒険にでも出るかのような、活動的な印象です。こういう格好も斬新ですわね。
以前にちらりと聞いたことがありますが、彼女の名前の由来はイタリア語で「勇敢な人」を意味する"アウダーチェ"なのだとか。おそらく、未開の危険な地へも勇敢に飛び込んでいく、という発想であんな衣装にしたのでしょう。
周囲の観客も、アウダーチさんに歓声を上げているのがちらほら聞こえますね…やはり彼女は、1,600M前後までなら強い。この距離帯で勝負するなら、十分に警戒せねばならないでしょう。
「アウダーチちゃん!」
「おや、これはサニーさん…にブレイズさんも。来てくださったのですね」
御披露目の時間が終わった後、サニーさんに引っ張られるようにして地下バ道に来てみると、ちょうどアウダーチさんと相原トレーナーに会えました。
御披露目を見た限り、ほとんどアウダーチさんの一強ですね。この勝負、8割方アウダーチさんの勝ちでしょう。
「自信はおありですか?」
「それはもちろん。この日のために、トレーニングや戦略研究をはじめあらゆる準備を重ねてきたのです。それに、4日に良いものを見せていただきましたし」
「4日?」
アウダーチさんに質問してみるとこんな答えが返ってきました。あれ? 4日って確か……
「そう、ブレイズさんの桜花賞です」
「私のアレのどこに、参考になる要素があったんですの…」
「大いにありましたよ。少なくとも、私は後ろから差す走りが多いですから、先行の走り方の一例を見せていただいたのは僥倖でした。それに、特定の相手をマークする戦法の実例も見せていただきましたし」
あぁ……そういう風にあの競走をご覧になったのですか。
「さ、そろそろ時間だよ、アダチ!」
「はい! では、行ってきます!」
「頑張って!」
「アウダーチちゃん、頑張れー!」
「勝利を祈っておりますわ!」
本バ場へと向かったアウダーチさんを見送った後、不意に私とサニーさんは相原トレーナーに肩を叩かれました。
「さて行くよ、スタンド最前列!」
「わーい!」
…え? 最前列って確か、出走するウマ娘の関係者専用席ですよね…?
「あの、相原 trainer さん? 私たちの所属は…」
「安心なさい、《エレクトラ》に1日体験加入中よ!」
「ええ……」
なんて強引な……。まあ、誰にも邪魔されない席を確保できそうなことは良しとしましょう。ちょっとレース場に姿を見せただけで、あれだけ群衆に取り巻かれたのですから、下手に観客席に座ったら大変なことになるのは目に見えておりますし。
なお、《エレクトラ》の面々には大変驚かれることとなりました。
「はーい、今日だけ体験加入中のお2人だよー! 座らしてあげてー!」
「体験加入ですか……え!?」
「ちょ、トレーナー!? この方って…!」
「えっえっシルヴァーブレイズ先輩!?」
「ほ、本物だ…! あのっ、サインください!」
こればかりはまあ、仕方ないですね…。
しかし、そこからは少々意外な展開となりました。
「レースってなる度に緊張してしまって……どうやったら緊張せずに走れますか?」
「ブレイズさんマイラーなんですか? それともステイヤーなんですか? もしステイヤーなら、是非ともアドバイスが欲しくて…! 次の目黒記念、何としても勝ちたいんです!」
「レース中の位置取りってどうやって決めているんだ? もし良ければ、後学のため教えて欲しい」
「後ろから捲ることの多いブレイズさんに是非聞きたい、スローペースになると後ろからの抜け出しはキツくなるが、その場合どうやって勝てば良いだろうか?」
……同期生や後輩ならともかく、なんでシニア級の先輩方が、クラシック級の後輩にこんなことを大真面目に聞いてくるのですか…!?
「むー、ブレイズちゃんばっかりちやほやされて…」
そしてサニーさん!? いったい何に嫉妬してるんですか!?
「やー、有名人は大変だねぇ?」
ニヤニヤしながら煽るようなことを
パーッパパパーッパパパーッ…
誰ですか間抜けな音鳴らして…! …と思ったら、ああ、競走開始の合図ですか。
いけない、冷静さをすっかりと欠いておりました。
『世代最速を自負するウマ娘が府中に集う! NHKマイルカップ、いよいよ発走です!』
いよいよですか…。
前の桜花賞の時は、色々と私のことを見てくださったようですね。今度はお返しですわ…貴女の走り、とくと見せていただきますよ。アウダーチさん。
『枠入りは順調に進んでいます。1番人気のアウダーチは、どうやら最後にゲート入りするようです!』
ここでふと、私はあることを思い出しました。
「あの、相原 trainer さん?」
「ん、どしたのブレイズ?」
「アウダーチさんには、何か作戦は授けたのですか?」
「あー……特に授けてないよ?」
……何ですって?
「では、全てアウダーチさんに任せる、と?」
「そ! アダチならやれるよ」
えぇ……私ですら trainer さんに色々質問して決めているというのに、この時期にもう作戦丸投げとは…。全幅の信頼と見るべきか、職務怠慢と見るべきか……私は基本的に性悪説を信じる方ですが、今だけは性善説派に転向しても良いでしょう。
「…信じておられるのですね、アウダーチさんを」
「そりゃね! ウマ娘を信じなきゃ、何もできないよ」
人が良いというか何と言いますか…。こういうところが、この方の良いところなんでしょうね。
『さあ、最後に1番人気アウダーチがゲートに収まりまして、態勢完了! 世代最速の名誉を掴み取る第☆●回NHKマイルカップ! スタートしました!!』
わあっ、とどよめく数万単位の観客たち。
双眼鏡を持ってくるべきだったでしょうか……向こう正面はやや遠くて、少々見えにくいですわね…。
「ん、今日は…結構前目に付けてるね」
そんな私の思いを見透かすかのように、双眼鏡を覗きながら呟く相原トレーナー。
「前目…珍しいね、アウダーチちゃん後ろから差すのが多いし」
サニーさんの言う通りですわ。あの方、だいたい後ろから来るものと思っていたのですが……ああ、なるほど。
「意外な走りをすることで相手の意表を衝き、相手の戦略を白紙に帰すると共に焦りを誘発する……考えましたね。で、その先行の走りの例として、私の桜花賞を使ったと?」
「そ。あれが大いに参考になった、っていうアダチの台詞はウソじゃないよ」
「あんな強く逃げる人、今回は出てないでしょうに…」
もちろん、私の言う"あんな強く逃げる人"は、スリーキングダムズさんに他なりません。
「まあね。それでも、スローペースにしてアダチの脚を奪おうって人たちに、逆にプレッシャーかけられるでしょ?」
「それはそうですわね。ですが、アウダーチさんにとっては慣れない走りをぶっつけ本番でやっている訳でしょう。大丈夫でしょうか?」
「んー、まあ何とかなるんじゃない? アダチにはそれくらいの力あるよ」
うーんこの楽観主義。まあ悲観主義よりかはマシですが。
そんなことを話している間に、集団は東京競バ場最大の特徴たる大きなケヤキを過ぎて最後のコーナーへ入ってきました。そろそろ末脚勝負の世界ですね。
「アウダーチさんは……外側にいますね」
この辺までくると、双眼鏡無しでも見えますわね。
「ん、上手く外に抜け出せたみたいだね」
満足そうに頷く相原トレーナー。
「アウダーチちゃん、頑張れ…!」
その隣で、両手を握りしめて祈るように呟くサニーさん。…いえ、よく見ると《エレクトラ》の面々も似たような反応を示していますね。
さて…勝負はここから。東京競バ場の特徴は、残り400M辺りに登り坂があること。中山や阪神よりかはマシな傾斜ですが、それでも登り坂には相違ありません。特に体力管理を誤った者にとっては、文字通りに断崖絶壁と化すでしょう。
物理的に勝敗を分かつ運命の岐路…この坂を登りきった時に先頭を取れる、もしくは先頭を守りきれる余力のある者が、この競走の勝者となる。さあ、賽の目の出は果たして…?
『ゴールが近付いてきて、もう一段ギアが入ったぞ! 各ウマ娘一団となっていますが、ここで1人抜け出した! 1番人気アウダーチ、外から捲って先頭に立った!』
坂を登り始めた辺りでもう先頭に出たアウダーチさん。この決断は正しかったのか…?
待ってください、アウダーチさんのあの走り方、どこかで見たような…。脚の回転数を引き上げ、まるで扇風機のような高速回転を見せています。あれは…
「…!」
思い出しました、あれはドリームジャーニー先輩の超高回転型ピッチ走法!
ちょっとこれ大丈夫なんですの? あの走りをすると体力があっという間に消耗すると思うのですが…!
「相原 trainer さん!?」
「どったのブレイズ?」
「あの脚の高回転大丈夫なんですの!? アウダーチさんの体力保ちますか!?」
走るアウダーチさんを指差す私に、この若きトレーナーの返答は。
「あー、それは多分大丈夫。ちゃんと対策してトレーニングしてきたからね…それも、このトレーニングはブレイズのお墨付きだし」
「……?」
はてな、私のお墨付き…?
「1回『月刊トゥインクル』に載せてたでしょ、『1ハロンシャトルラン』だっけ?」
「えっ…あれをやったのですか?」
「正確にはそれのカスタマイズだね。東京レース場の坂に似た登り坂を何本も登らせて、スタミナ鍛えたよ。あと、下り坂はスピード管理の練習にした」
「なるほど……」
ふむ、これは良いことを聞きました。早速朝練に取り入れるとしましょう。
「その結果が…これだよ」
相原トレーナーの視線を追ってみると、そこには後続を4バ身は突き放した状態で坂を登りきったアウダーチさんの姿。しかも、末脚が鈍る様子もまるでありません。
これは…決まったと見て良いでしょうね。
「アダチーっ! そのまま行けーっ!」
「アウダーチちゃん、頑張れー!」
「いいぞアウダーチ! あと少し頑張れ!」
《エレクトラ》の面々とサニーさん、そして観客の声援の中、アウダーチさんはそのまま独走を続け、そして……
『残り200を切った! 先頭アウダーチ、リードは3バ身はある! 後方からはアクアオーシャンが突っ込んできている、さらにハードラッカーも粘っているが、2着争いだ! 先頭アウダーチ、今ゴールイン!
初GⅠをこの東京府中で掴み取りましたアウダーチ! 世代最速を見事証明してみせました!』
お見事という他ありません。素晴らしい走りを見せて、勝利を収められました。
「やったぁぁあー!」
「おめでとうトレーナーさん! アダチが勝ったよ!」
涙を流して喜ぶ相原トレーナーと、《エレクトラ》の皆様方。同室のサニーさんも、我がことのように喜んでいますね。
「アウダーチちゃんおめでとー!」
「これは皆さん、祝福ありがとうございます」
Winner's circle に入ってきたアウダーチさんが、こちらを見つけて手を振ってくれました。
「優勝おめでとう、アウダーチさん。朝日杯の悔しさを晴らすような、見事な走りでした」
「ブレイズさん、応援ありがとうございます。あなたに負けた経験があったからこそ、ここまで来られたと私は思っていますよ。それに、先行の走り方やらスタミナトレーニングの方法やら、色々と参考になりました。改めてありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるアウダーチさん。そこまでしなくて良いのに…
「お辞儀は不要ですわ、アウダーチさん。頭を上げて堂々としていなさい、今の貴方は紛れもない勝者なのですから」
「それもそうですね」
「さあ、いってらっしゃいな。写真撮影やら winner's interview やら winning live やら、やることは色々とあります。それを全てこなしてこそ、真に一流と言えるのです」
「経験者が言うと説得力がありますね…では、行ってきます。トレーナーさん、また後で」
「はーい!」
沸き上がる観客の歓声…勝者を讃える声。
向けられる camera の白い閃光は、trophy の黄金の輝きへと変換される。
やはり、競走で勝つって良いものですね……私も改めて、勝利への渇望が湧いてきました。
勝たねばなりません……次の
実はアウダーチの勝負服をサファリジャケット風にしたのは、「勇敢な人」という意味を反映した他に、インディ・ジョーンズの衣装を参考にしています。そして何気に、アウダーチの勝負服の描写は初ですね。
初めてのG1タイトルを、世代最速の証明とも謳われるNHKマイルカップで取ったアウダーチ。この重要な競走で後ろに3バ身差を着けて勝ったとなると、彼女の実力はかなりのものです。今後もしマイルの距離でシルヴァーブレイズが走ることがあれば、アウダーチはまさしく最強クラスの敵として出てくることになるでしょう。
果たして、シルヴァーブレイズとアウダーチの再度の対決はいつか? そして対決が実現した時、勝利の女神はどちらに微笑むのか? それはまだ、誰にも分かりませんね。
新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
コンコンッ!
ん、ノックの音? 次回予告担当かな、入って良いですよ!
「失礼します」
ッ!? 君は確か、サトノ家の…!
「はい、サトノダイヤモンドです!」
ここを担当するのは初めてじゃないか?
「そうですね、初めてです! シルヴァーブレイズさんに、是非ともやって欲しいと頼まれて…」
そうだったのか、それじゃ早速お願いしますね!
「はい!
NHKマイルカップが終わったばかり、ということは、もうすぐゴールデンウィークですね! ということで、次回は連休の様子をお届けします! 内容はその時のお楽しみに!
次回『大流星の休日(3)』 更新は少しお待ちくださいね!」
初めてだというのに緊張してる様子もない…さすが名家のお嬢様。