それは置いといて、やっとここまでたどり着きました。トリプルティアラの第2戦、オークスです!
皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
さて、ついにこの日がやってきました…… tiara route の2戦目にして、この路線における最も過酷な一戦、Oaksが。
距離2,400Mというのは、 tiara route を走る方々にとっては未知の距離となる可能性が非常に高いです。実際、先日の「日刊ウマ娘」の記事を見てみると、こんな内容が書かれていました。
《乙女たちの意地と根性の激突 オークス枠順決まる》
来る5月16日、東京レース場にてティアラ路線の2冠目となるGⅠ オークス(左、芝2,400)が行われる。そのオークスの枠順が決まった。
正式にオークスへの出走が決まった18人の精鋭たち。その中で最も勝率が高いと予想されているのが、チーム《シリウス》のシルヴァーブレイズだ。GⅠ 桜花賞を無敗のまま制しており、西郷トレーナーの指導力と合わせて勝利を期待されている。
ティアラ路線を走るウマ娘たちにとっては、オークスの距離2,400Mは経験のない最長距離になるのが通例である。しかし、シルヴァーブレイズだけは既に2,400M以上のレースを一度経験している。それが、2勝クラスの条件戦である阿寒湖特別(札幌芝2,600)だ。菊花賞を狙う夏の上がりウマ娘たちがステップレースとして叩くこともある、出世レースと呼ばれる競走である。シルヴァーブレイズはそのレースで、後続に6バ身差を着ける圧勝を成し遂げた。それもジュニア級の身で、クラシック級の精鋭やシニア級の猛者を向こうに回しての勝利である。
長い距離に対する高い適性を示し、その上でここまで無敗という高い実力から、シルヴァーブレイズが1番人気に支持されるのは当然の成り行きだったと言えるだろう。
2番人気には、GⅡ フローラステークスを優勝した《リギル》のスリーキングダムズが食い込んだ。シルヴァーブレイズに差されることはあるものの、彼女の逃げの実力は高い。シルヴァーブレイズの位置取り次第では、もしかするとブレイズを振り切って優勝するかもしれない。そう思わせるだけの実力が、彼女にはある。
3番人気に選出されたのは、《ミモザ》のスイープトウショウだ。追込の末脚が強烈なものであることは確かだが、リードを取ってくるスリーキングダムズや、並外れた末脚を持つシルヴァーブレイズには些か分が悪いか。それでも、魔法のような逆転劇を見せてくれる可能性はしっかりと残っている。
4番人気以降の出走者にも、どんな実力者が隠れているかはっきりとは分からない。しかし本紙編集部の予想としては、シルヴァーブレイズとスリーキングダムズのどちらかが勝つ可能性が高い、という結論に至っている。
やれやれ、買いかぶり過ぎな気もしますが…仕方ないですね。
母上が見に来ていることは間違いないこの一戦、何としてでも勝たねばなりません…!
コンコンッ!
「ブレイズ、俺だ。入って良いか?」
おっと、trainer さんの声。もうそんな時間でしたか。
「構いませんわ、どうぞ」
いつもの"おさらい"の時間ですわね…。
「まずはコースの復習から行こう。オークスのコースの特徴は?」
「1つめが、3つの登り坂ですね。競走開始直後から50Mまでの区間、距離1,100〜1,200Mの区間、そして2,000〜2,100Mの区間。この3つです。もう1つ、1,250M地点から250Mに渡って続く長い下り坂が挙げられます。
これらの特徴を総合して考えると、今回の競走では体力管理が非常に重要となります。ただでさえ距離が長い上に、高低差2Mもの登り坂と下り坂が連続していますので、想像以上に体力の消耗が激しくなると予想されます。もし体力管理に失敗すれば、3つめの登り坂が断崖絶壁となり息の根を止められるでしょう。
もう1つは、最終直線の長さですね。最後の坂を登りきっても、その後に300Mも走らなければなりません。最後の登り坂を登りきってなお、末脚を出せるだけの体力を残しておかなければ勝てない……非常に体力消耗の多い競走となるでしょう」
Trainer さんは時々頷きながら、黙って話を聴いています。
「あと、地味ながら決して無視できないのが、この競走は左回りで行われることです。私はこれまで右回りしか走っていませんから、未知の部分ということで油断しない方が良いでしょう」
「ふむ、コースの特徴はばっちりだ。
ここはコースの幅が広いしコーナーのRもゆったりしているから、"紛れ"が少ない。つまり、ウマ娘の実力がストレートに反映される。距離的にはどうだ?」
「Tiara route の競走としては最長距離ですね。文字通り、他のウマ娘たちにとっては未知の距離……なおさら体力管理に注意が必要です。ですが、それは他の方にとっての話。私には、この距離は既に経験がありますから、体力管理はしっかりと可能です。流れに呑まれないよう注意が必要ですね」
たった2,400Mで私の体力を奪いきれると思わないでくださいまし。これより過酷な戦場なんて幾らでもありますわ。重馬場で19F210yds、しかも高低差20Mだなんて、地獄以外の何物でもありません。
ただ、流れに呑まれて体力を削られる可能性は十分にあります。GⅠ競走なんて名誉に思えるかもしれませんが、実際は勝利を掴み取るために誰も彼もが執念を燃やしているのです、進路妨害だの焦らせるだのドロドロなのですわ。なので、相手から焦らされることは考慮しておくべきです。
「なるほど、OKだ。注意すべき相手は?」
「2人。スリーキングダムズさんとスイープトウショウさんですね。脅威度が高いのはスリーキングダムズさんの方です」
「ふむ、その理由は?」
「彼女がかなり上手く逃げるからですね。彼女の逃げ方は、最初にある程度の距離を稼ぎ、その後は消耗しすぎない程度に稼いだ距離を維持しながら、後続を焦らせて消耗させる。そして最後に全力でぶっちぎる、という形です。Safety lead を取られる危険があることを考えれば、キングダムズさんは厄介な相手です。
もう1人、スイープトウショウさんの方は、走り方が後方からの追込であるだけに、先行若しくは差しの位置を取る私であれば末脚で振り切れる可能性があるからです。とはいえ、彼女の末脚の切れ味には恐るべきものがありますので、注意せねばなりません」
他の出走者は、正直そこまで怖いとは思いません。とはいえ、油断はすべきではないでしょう。足元を掬われる可能性もありますので。
何より、私は勝負服の色が赤である上に、頭髪全体の下半分を占めるほど流星が大きいので、非常に目立ちます。
「よし、情報はきっちり頭に入ってるな。毎度ながら流石だ」
「いえ、このくらいは当然ですわ。ところで、今回の作戦は?」
「そうだな、今回は…」
少し考えた後、trainer さんが放った言葉は意外なものでした。
「無し、だ」
「……え?」
作戦無し、ですと?
「要は、君に任せるってことだよ」
…おやおや?
「それはまた…少々驚きました。私に任せるって…理由を伺っても?」
「ああ、今回は君にとって得意な距離になる。君は距離が長いほど強いからな。
それに、実は相原の奴から言われてしまってな……そろそろウマ娘を信じてやれ、特にブレイズはしっかり自分で考える力があるから、作戦無しでも大丈夫だろって」
あー……あの方なら確かに言いそうですね。あの方、アウダーチさんに全幅の信頼を寄せてますし。
「……私を信じてくださる、ということでしょうか?」
「そう。俺としても怖いっちゃ怖いんだが……言われてみれば、君は十分な実績を残してる。クラシック級の有力なウマ娘たちをあっさり蹴散らした阿寒湖特別、マイルの天才と呼ばれたアウダーチを破った朝日杯フューチュリティステークス、スリーキングダムズとの初対決を制したアネモネステークス、どれも素晴らしい切り口で戦い、成績を残している。それに、これまでの"おさらい"では、俺の想定している戦術に近いものを出してきているから、思考力も相当にある。ならば、そろそろ君に任せても大丈夫かなと思ったんだ。
ブレイズ、物は試しとして、今回は作戦無しだ。好きに戦ってきなさい」
…ほーう。好きにやらせてくれる、と?
これは背負う期待が余計に増えてしまいましたね。
「承知致しました。
見ていてくださいまし、trainer さん。
さーて、頑張るとしましょう!
『ここは負けられない1番人気、7番 シルヴァーブレイズ!』
『これ以上ない仕上がりですね。未だ無敗を貫くほどの実力者、是非ともオークスを制して無敗トリプルティアラに王手をかけて欲しいですね!』
やれやれ…… paddock に出た途端、この紹介と観客席全部を覆い尽くしそうなほどの歓声です。どれだけ私に期待しているというのですか。ならばその期待に応えるまで。
もちろん、全員の期待に応えられるとはハナから思っていません。だって、世の中言うではありませんか、「
あの群衆には、私を応援する方もいれば、他のウマ娘の方…そう、例えばスリーキングダムズさんを応援している方もいらっしゃる訳です。ならば、私が勝ってしまえばスリーキングダムズさんを応援する人々の希望は叶わなくなってしまいます。それ故、全員の期待には応えられないのです。
まあ、グダクダ言っても仕方ありません。勝負とはそういうものです。ならば最初から割り切って、"願い星にして死兆星"として振る舞うまで!
本馬場へ向かう地下通路で、ばったりスリーキングダムズさんと出会しました。いえ、おそらくあちらが私を待っていたんでしょう。
「ブレイズさん。約束通り、来て差し上げましたわ」
「お待ちしておりました、キングダムズさん」
まずは挨拶です。古事記にも書いてあったでしょう、アイサツはとても大事だと。しかしアイサツから0.1秒もすれば戦闘態勢に入ってしまうのです!
「一応お伺いしますが、脚の具合は大丈夫ですね?」
「ええ、ご心配ありがとう。幸いにして特に異常無しでした。これで、心置きなく貴女と戦えます」
「それはようございました。私としても、キングダムズさんの復活の確定を待ち望んでおりましたの」
「あら、それはそれは。ということで、今日はお互いに全力を尽くしましょう」
「ええ。戦士の精神に則り、お互い正々堂々と戦いましょう」
相手の目を見つめあいながらやり取りしています。これ、傍目には
『ここで会ったが百年目、今度はあんたを玉座から引きずり下ろして叩き潰したげる。王国の名を持つ私こそ
『上等です。如何なる名君だろうと死には勝てぬ、お分かりでしょう。
見ての通り、ガンガゼを全力で投げつけ合っているといっても過言じゃありませんの。この本音を見て、幻滅なさった方も多いのではなくて?
ですが、これは勝負です。ナカヤマフェスタ先輩も言っているように、「勝てば天国、負ければ地獄」。なればこそ、如何なる手段を用いてでも勝ちを取りに行くのです!
こんなことを話し合っていたら、いつの間にやら本バ場にたどり着いておりました。さあ、枠入りまであと少し。
母上の、trainer さんの、《シリウス》の皆さんの、その他私を応援してくださる大勢の方々の希望を、一身に背負って。
どれほど過酷な戦になろうとも、この一戦、絶対に勝利を収めてみせる!!
同時刻、東京レース場 スタンド最前列。
トレセン学園の生徒やトレーナー、卒業生などはもちろんのこと、地元住民、マスメディア、果てはオークスを見るためだけにわざわざ遠征してきた面々まで合わせて、本日の東京レース場のスタンドは大入りとなっている。それもそうだろう、とチーム《シリウス》の
ここにいる群衆の多くは、ある瞬間を一目見ようと押し掛けているはずだ。その瞬間とは、現在に至るも前例のない無敗トリプルティアラに、王手が掛かる瞬間である。
そう、このレースの最大の注目株は誰が何と言おうがシルヴァーブレイズであるに違いない。『月刊トゥインクル』による事前の調査でも、ブレイズの支持率は80%にも迫り、単独1位の1番人気となっている。
(俺が思っていた以上に、ブレイズにかかる期待が高い…! 俺でも緊張してしまうレベルだ、これを正面から受けている彼女は大丈夫か…!?)
それが、西郷トレーナーの偽らざる感想である。
「大丈夫ですわ、トレーナーさん」
その西郷トレーナーの胸の内を見透かしたように、《シリウス》のサブトレーナーたるメジロマックイーンが声をかける。
「ブレイズさんは芯の強い方です。この程度のプレッシャーに動じるものではありませんわ。安心して彼女に任せておきなさい」
西郷トレーナーは苦笑した。
「何だ、気付いてたのか?」
「トレーナーさんと何年の付き合いだと思ってるんですの、それくらい分かりますわ」
さすがメジロ家の令嬢にしてサブトレーナー時代からの西郷のパートナーである。まるっとお見通しだったようだ。
「マックイーンさんの言う通りだよ! ブレイズちゃんなら大丈夫だよ!」
マックイーンの隣から、小柄な黒鹿毛のウマ娘…ライスシャワーが口を挟んだ。
シルヴァーブレイズが桜花賞を制した後、5月上旬にようやくライスシャワーは退院できたのだ。ただし、医師からは歩くことはできても走るのは絶望的であると言われており、もはや彼女が競走の世界に戻ってくることは叶わぬ夢と化している。西郷トレーナーは未だ落ち込んでいたが、ライスシャワー自身はどうやら受け入れているようだ。つくづく芯の強いウマ娘である。
「ブレイズちゃん…頑張れ…!」
「ブレイズ、頑張って…!」
ライスシャワーのさらに隣で全く同じ台詞を口走っているのが、《シリウス》メンバーにしてシルヴァーブレイズの同期たるサニーウェザーと、シルヴァーブレイズの母シルバーアクセサリである。東京住まいのサニーウェザーはともかく、シルバーアクセサリに関してはわざわざ関西から遠征してきたのだ。遠いところをご苦労様、という話である。まあ、愛娘の一世一代の大勝負ともなれば、見に来る人もいるだろう。
《シリウス》からは他に、ゴールドシップとリボンカプリチオが見に来ている。カルンウェナンとアップツリーは、レースが近いため学園にて追い切り中だ。
「お母様、大丈夫……ではなさそうですね。緊張しておいでですか?」
西郷トレーナーがシルバーアクセサリを気遣った。実際、シルバーアクセサリの表情が硬い。
「はい……。GⅠレースの熱気というのは、私も映像などで見て知っているつもりでした。ですが、実際に体験してみるとこれは…まるで、押し潰されそうなほどの圧を感じます。見ているだけの私ですらそうなのです、矢面に立っているあの娘はどれほどのプレッシャーを感じているか…」
娘思いだな、と西郷トレーナーは思った。
「お母様、辛いのは分かりますが、信じるしかありません。
ブレイズは、私たちが思っている以上に強い娘ですよ。そうでなければ、ここまで無敗を貫いてクラシック戦線の星まで登り詰められる訳がありません。今はただ、彼女を信じましょう」
「…分かりました、トレーナーさんがそう仰るなら…」
実際、西郷トレーナーもかなりの重圧を感じている。だがそれ以上に、彼はシルヴァーブレイズを強く信じていた。あの娘なら、きっとやってくれる…そういう確信があったのだ。
その頃、スタート地点のほぼ真横のスタンドにて。
「…ヤバいなあいつ」
ライスシャワーと同じかそれ以上に小柄な、どこかやさぐれた印象の黒鹿毛のウマ娘…キンイロリョテイはそう呟いて、フライドポテトを1本口に放り込んだ。
「どうだリョテイ?」
その隣に座るのは、ニット帽を被った鹿毛のウマ娘…ナカヤマフェスタである。こちらはもつ串を手にしていた。
「オーラの重厚さが、桜花賞の時からさらに増してやがる…あいつ本当にクラシック級か? これから宝塚か有マ走るって言われても納得できるぞ」
2人が見詰めているのは、本バ場に姿を現したシルヴァーブレイズである。
「リョテイ、前に私が言った『強いウマ娘の種類』って覚えてるか?」
唐突にナカヤマフェスタが、そんな質問を放った。
「んあ?」
ポテトを放り込みかけた手を止め、キンイロリョテイは記憶を反芻する。
「確か、常に自分の走りができる奴、思い切りの良い奴、逆境に強い奴の3つだったか?」
モツをもしゃもしゃやりながら、ナカヤマフェスタは頷いた。そしてモツを飲み込み、再度口を開く。
「そう、その3種類だ。だがな、この頃私は思うんだ。その3つを満たした上でさらに厳しい条件をクリアできる奴…真の強者がいるんじゃねえか、って」
「真の強者だと?」
「ああ。その条件を満たせる奴は、G1ウマ娘でも決して多くない。本当に一握りなんだ」
この時、キンイロリョテイは何かを察したらしかった。
「テメーがそんなもったいぶった言い方するってことは、もしかしてアレか?」
「ほう?」
「アレだアレ。サイレンススズカだのスペシャルウィークだの、グラスワンダーだのテイエムオペラオーだの…」
「お見事、アンタの勝ちだ。ほらよ」
ナカヤマフェスタは、キンイロリョテイの口にモツをひょいと投げ込んだ。
「アレにたどり着けたなら…シルヴァーブレイズこそ、本物の強者だ」
そんな言葉を交わすキンイロリョテイとナ
カヤマフェスタの近くには、稲妻形の白いアホ毛と左側のみ輪っかにした頭髪が目立つ鹿毛のウマ娘と、前下がりボブカットの青毛のウマ娘のペアが座っていた。ご存知、ラインクラフトとシーザリオである。
「クラフト、今回は誰に注目するの?」
「うーん、迷ったんだけどここはシルヴァーブレイズ先輩かな。他の先輩方も良いんだけど、ブレイズ先輩だけ2,400メートルを超える競走を走って勝ってるから、余裕を持って走りきれると思うんだ!」
「確かにね。しかも、ブレイズ先輩が勝ったのはあの阿寒湖特別だし」
何だかんだ、2人ともシルヴァーブレイズに注目しているようである。
その頃、トレセン学園付近の商店街、その裏通りに店を構える「パブ 流星の止まり木」。
もともと"知る人ぞ知る本格英国式パブ"だったこの店は、リピーターをなかなか獲得できずに赤字続きとなっており、一時はマスターが閉店を真剣に考えていたほどだった。
それが、アルバイトとしてシルヴァーブレイズを迎えて以来、商売繁盛の一途を辿っている。経営はコンスタントに黒字を続けており、リピーターも新規客もガンガン増えていた。それどころか、どういう風の吹き回しかサトノ家に目を付けられてシルヴァーブレイズ印のアップルパイを発注されるようになったと思ったら、メジロ家からも同じ依頼が来るという始末である。ここまで来ると閉店なんて夢のまた夢であり、マスターはもう少し資本が増えたら周囲の空き店舗を活用して店を拡大しようか、などと考えていた。
もちろんだが、マスターはシルヴァーブレイズには大いに感謝している。店名を「流星の止まり木」と、シルヴァーブレイズとの関係を前面に押し出したものにわざわざ改名しているあたり、その本気度が窺える。当然、シルヴァーブレイズ推し筆頭である。
さて、そんな「流星の止まり木」の店内は、いつにも増して活気に満ち満ちていた。
「マスター、アップルパイ1切れ頼めるか!?」
「構いませんが、よろしいのですか? もしシルヴァーブレイズが勝てば、セールで安く買えるかもしれませんよ?」
「バッカ野郎、これは嬢ちゃんへの寄付分だ! どーせ嬢ちゃんが勝った時のティアラ記念セールのラインナップにアップルパイ入ってんだろ、そん時に本命をホールで買うだけよ!」
「ホールって、懐具合は大丈夫ですか? また奥さんに怒られませんか?」
「マスター、俺を誰だと思ってんだ? こちとら商店主だぜ、ホール1枚くらいどうってことねえよ!」
こんな具合である。普通の一般客どころか、他の商店主が店を臨時休業にしてまでシルヴァーブレイズの応援に駆けつけているのだ。
なお、現在「流星の止まり木」に集まっている人々は皆、色の濃さや模様こそ異なれど赤いジャケットを着ているか、もしくは黒いハンチング帽を被っている。凝った者だと、緑色のモノクルを右目にかけたり、頭髪の下半分を銀色に染めたりしていた。誰がどう見てもシルヴァーブレイズを模したものだと分かる格好であり、それはつまりシルヴァーブレイズのファンだということを雄弁に物語っている。
「オークスはティアラ三冠の中では距離が一番長いが…ブレイズの嬢ちゃん勝てるかね?」
「そらお前、勝てるに決まってんだろ! 嬢ちゃんが阿寒湖勝ってんの忘れたのかよ!」
「おっとそうだった。ただ、相手も一筋縄じゃ行かんだろ?」
「それはそうだ。だがそれでも、俺はブレイズの嬢ちゃんが勝つって信じてるぜ!」
「だな、それは俺もだ!」
「お待たせしました、こちらご注文のアップルパイでございます」
「お、ありがとな!」
客にアップルパイを出しながら、マスターはちらりとTVを確認した。もう本バ場入場が始まっている。あと少しでファンファーレが鳴り、そして発走となるだろう。
静かながら素早い動作でマスターはカウンターに戻ると、ガラスケース2個と写真立てを取り出した。
ガラスケースには、蹄鉄が1個ずつ収まっている。これは、朝日杯フューチュリティステークスと桜花賞の優勝記念としてシルヴァーブレイズが寄贈したものだ。どちらも、競走時に右の靴に実際に着けていたものである。
写真立てには、店の正面玄関をバックにしたマスターとシルヴァーブレイズのツーショット写真が入っていた。2人の後ろに掲げられた「流星の止まり木」の看板が真新しく、つい最近撮ったものだと分かる。
「そして、いよいよですよ」
マスターがTVの音量を上げると同時に、ファンファーレが鳴り始めた。
「いよいよか…!」
「頑張れよ、ブレイズ!」
「無敗トリプルティアラなんざサクッと取っちまえ!」
言いたい放題言いながらも、皆真剣にシルヴァーブレイズを応援しているのであった。
マスターも最後の準備を行う。カウンターの上に、シルヴァーブレイズのぱかプチ(勝負服仕様・大型サイズ)を置いたのだ。いずれシルヴァーブレイズの勝負服のレプリカをマネキンに着せて飾ってやろう、とマスターは計画している。
『ゲートイン完了、出走の準備が整いました!
2,400メートルの過酷な途、その彼方に輝く樫の冠を賭けて第■☆回オークス、スタートです!』
特にトラブル無く準備が進み、そしてウマ娘たちが一斉にゲートから飛び出したのであった。
所属チーム | |||||
| 1 | 1 | ||||
| 1 | 2 | ||||
| 2 | 3 | ||||
| 2 | 4 | ||||
| 3 | 5 | ||||
| 3 | 6 | ||||
| 4 | 7 | ||||
| 4 | 8 | ||||
| 5 | 9 | ||||
| 5 | 10 | ||||
| 6 | 11 | ||||
| 6 | 12 | ||||
| 7 | 13 | ||||
| 7 | 14 | ||||
| 7 | 15 | ||||
| 8 | 16 | ||||
| 8 | 17 | ||||
| 8 | 18 | ||||
ちょっとブレイズさんや? あなた、いつネオサイタマに行ったんですかね?
まあ、東京って埼玉からは近いですから行けなくもないでしょうが……どこでその言語を学んだ?
この質問をしたら、きっとブレイズはこう答えるでしょう、「教科書を読んだのです」と。
評価9をくださいました雅媛様、湯たんぽぉ様
評価10をくださいましたいしただ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
「えっと、お兄様」
お、久しぶりにライスシャワーだな! 良かったな、歩けるまでに回復して。
「うん! ただ、お医者さんからは走るのは難しいって言われちゃったんだ。できたら、ブレイズちゃんとまた走りたかったな……。」
……。
「ううん、ライスのことは良いから、ブレイズちゃんにはオークスに勝って欲しいな。キングダムズさんとかスイープさんとか強いと思うけど…!
次回『その手に掴め、樫の冠』 更新は少し待っててね」