大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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1月でまだ冬真っ盛りの暦ですが、拙作では7月から始まる夏合宿に突入です!



Act.041 夏合宿の始まり

 皆さん、こんにちは。

 え? 何だかいつもと挨拶が違う、って? それはそうです、今回はストーリーテラーが違うんですから。

 この場では初めましてになります。私、サニーウェザーって言います! そう、あの「ブレイズちゃん」ことシルヴァーブレイズと同クラスにしてチームメートです。

 思えば、ブレイズちゃんとの付き合いは入学式からずっとですね。寮の部屋こそ違いますけど、何かと良い関係を築いている…と良いなぁ…って思います。

 

 私の見た目ですか? ざっくりとですけど、身長は157㎝(同年代の中では高い方なので、ちょっと自慢なのです)、腰の辺りまで金色の髪をストレートに伸ばし、顔の両側で小さい房を作って薄い緑色のリボンでまとめています。あと、右耳の付け根に青と白のまだらのリボンを巻き付けています。…体重とスリーサイズ? 恥ずかしいから秘密ですっ!

 今のトゥインクル・シリーズでの私の戦績は11戦3勝、今はプレ・オープンクラスの3勝クラスで止まっています。みんな強いよ……その中で無敗でGⅠレースをポンポン勝って、無敗トリプルティアラに王手を掛けてるブレイズちゃんは、どんな実力してるんだろう…?

 さて、私は今何をしているのかというと、スーツケースに詰め込んだ荷物と一緒に自動車に揺られているところです。行き先はトレセン学園を離れた場所で、何でもメジロ家所有の無人島だとか。何のためにそんなところへ行くのかというと、そう、夏合宿があるからです。

 この暑い季節であっても、トレーニングは欠かせません。そこで、夏合宿として普段は行かないような場所でトレーニングするんです!

 ちなみに、学園の施設はこの時期に大型メンテナンスをやっていることが多いそうです。

 行き先が無人島なので、まずは港に向かうべく自動車に揺られている、というわけです。…マックイーン先輩がご実家に掛け合って出してくださったリムジンに。

 無人島まで所有し、しかもそこに行くための車と船まで用意してくる辺り、メジロ家がどれほどの名家なのかよく分かりますね…。

 チーム「シリウス」の皆さんとメジロ家のウマ娘の皆さんで、2台のリムジンに分乗しています。私の乗っている2号車には、メジロマックイーン先輩とゴールドシップ先輩、カルンウェナン先輩、アップツリー先輩、リボンカプリチオ先輩が一緒しています。ゴルシ先輩が騒いでマックイーン先輩に怒られるのはいつも通りですね。ちなみに運転しているのは、メジロ家の専属ドライバーの方です。

 そして、私の隣の席に座っているのは、茶色から銀色に色が変わっていくという独特の髪のウマ娘。そう、ブレイズちゃんです!

 彼女は、はしゃいでいる先輩方とは対照的に、静かに席に座ったまま、ウマ娘雑誌「月刊トゥインクル」と、「日刊ウマ娘」をはじめとする新聞の束に片っ端から目を通しています。目の動きがとても早い……本当に読めているのか気になりますが、前に一回ブレイズちゃんに尋ねたら、新聞に書いてあった内容をそっくり言い当ててきました。あれだけのスピードでちゃんと読めているんだ、とびっくりしましたよ、あの時は。

 自動車移動の行程があと半分くらい、というところまで来た時、ブレイズちゃんは最後の1枚を読み終えたらしく、パリパリ、カサカサと音を立てて丁寧に新聞を折り畳み、持っていたバックパックにしまいました。そして右手をポケットに入れ、金属製の丸い物体を取り出して蓋を開きました。そこにあったのは、円形に並んだ1〜12までのローマ数字と、それを指す3本の針……時計です。でも今どき懐中時計、それもねじまき式なんて珍しいですね。みんな腕時計か、スマートフォンの時計を使っているのに。

 

「順調に走っておりますわね」

 

 笑顔でそう言いながら、ブレイズちゃんは窓の外と時計の文字盤に交互に視線を走らせました。そして一言。

 

「ふむ、ざっとトゥエンティーファイブマイルズパーアワーですか。一般道での自動車の速度としては速いほうですわね」

 

 ……え? トゥエンティーファイブマイルズパーアワーって…時速25マイル(注1)!?

 今の一瞬でどうやって計算したの!?

 

「なんで分かるの!? 走った距離を示す標識なんて1本も見なかったよ!?」

 

 私が驚いて尋ねると、ブレイズちゃんは微笑んであっさり答えました。

 

「距離の標識なんて、私も見ておりませんわ。けれど、ガードレールの支柱の間の距離は約4.37ヤード(注2)。その距離を走るのにかかる時間が分かれば、後は簡単な計算ですわ」

 

 あ、あはははは……。もう苦笑するしかありません。

 まさか、そんな方法で速度を計算してしまうなんて……。

 しかも、ガードレールの支柱の距離という細かいことを知っているのもびっくりですけど、あの一瞬だけで速度を計算するなんて、頭の回転がどれだけ早いんだ、と驚く他ありません。

 でもブレイズちゃん、時々不思議なんですよね。今もわざわざマイル単位で計算してるし、平然とポンド・ヤード単位使うし……。

 

「ね、何か気になる記事あった?」

「気になるも何も……どれを見てもだいたい私のことばかり書いてますわね。少しは他の方に注目しても良いと思うんですけれど」

 

 そう言いながらブレイズちゃんが取り出したのは、さっき読んでいた「月刊トゥインクル」でした。

 

「例えば…これ見てくださいまし」

 

 ブレイズちゃんが示したページには、《シリウス》のチーム特集が載っていました。そういえば少し前に取材班が来てたっけ。

 

「史上初の宝塚記念連覇を祝してゴールドシップ先輩の取材、って名目でしたが…なんで私のことまで書いてますの?」

「ゴルシ先輩のことを書くついでに、私たちのチームのことも書きたかったんじゃない? 特に記者さんたちからすると、ブレイズちゃんは見逃したくないでしょ」

 

 まだオープンクラスにも行けずにいる私と違って、ブレイズちゃんは無敗でトリプルティアラを達成しようとしてますからね。注目が集まるのも当たり前でしょう。

 

「あの人たち、自分たちの飯のタネになるなら何書いても良いと思ってるんじゃないですかね…」

 

 珍しい、ブレイズちゃんが眉を顰めてる。普段は穏やかに微笑んでいることが多いのに…そんなにうるさいの?

 

「うるさいというか、しつこい、ですね」

「え、今の聞こえてたの!?」

「いえ。顔に書いてましたよ?」

 

 ヤバっ、バレてたの!?

 ブレイズちゃん、時々開心術(レジリメンス)でも使ってるんじゃないかって思うくらい、的確に心を読んでくるんですよね…。

 

「まあ、少しくらいは自主練についてこようと構いませんが、あまり煩わしいのはご勘弁願いたいですね。そういう意味では、合宿のために無人島を確保して取材をばっさり絶ってくださったトレーナーさんとマックイーン先輩には、感謝しかありませんわ」

「ブレイズさん、どうしたんです?」

 

 会話を聞きつけたのか、メジロマックイーン先輩が割り込んできました。

 

「いえ、改めて感謝の意をお伝えしたいと思ったんです。あの煩わしい取材に悩まされなくて済むことになったんですから、感謝しかありませんわ。本当にありがとうございます」

 

 丁寧に頭をさげるブレイズちゃん。

 

「頭を下げられるほどのことじゃありませんよ、毎年恒例ってだけですわ」

 

 …こんな感じで毎年合宿してるんだ……すごいなこのチーム…。

 

 

 自動車から、メジロ家所有のヨットを乗り継いでやっと到着した島ですが、思ったより広い……!

 

「よっしゃー宝探しじゃーい! グランドライン一番のお宝見つけてやるぜ!」

「何を言ってますの!」

 

 さっそくハジけてるゴルシ先輩とそれに怒るマックイーン先輩、この2人は相変わらずというか何というか…。

 

「うぅ、ちょっと気分悪い…」

「大丈夫?」

 

 船酔いしてしまったらしいカルンウェナン先輩を、アップツリー先輩が気にしてます。ってあれ、ブレイズちゃん!?

 

「暑い……溶けてしまいそうですわ……」

 

 暑い、という言葉に力が入って、発音が全部濁点付けたみたいになってる! そしてちょっとふらふらしてるような気がする…!

 

「大丈夫、ブレイズちゃん!?」

「うーん、これは大丈夫じゃないかもしれませんわ…。直射日光が強いし、何より暑い……」

 

 ちょっと顔色も悪い…これ熱中症じゃない!?

 

「トレーナーさん! ブレイズちゃんが…!」

「なにっ!? これは…軽い熱中症か。サニー、これをゆっくり飲ませてやってくれ。んで少し様子を見て、治らなかったらまた言ってくれ」

「はいっ!」

 

 トレーナーさんからスポーツドリンクのペットボトルを受け取り、蓋を開けてブレイズちゃんに渡す!

 

「ブレイズちゃん、これ!」

「あ…あい済みません……」

 

 フラフラしていたブレイズちゃんでしたけど、水分を摂ると顔色がちょっとマシになりました。

 

「到着早々、まだ鍛練もしない先にこれとは幸先が良くないですね…」

 

 地味に凹んでいるブレイズちゃん。これはなかなか珍しい光景です。

 

「今日はとりあえず、島内の設備類を案内する。トレーニングは明日からだ。

ま、今日くらいは少しゆっくりしてくれ」

 

 というわけで、今日はトレーニング無しとなりました。

 案内してもらってみると、無人島というだけあって、本当に店がない…。携帯電話はなんとか繋がりますし、電気も水も一応通っていますが、文明の産物といえば宿泊用の小屋みたいな建物だけで、後は自然が広がっています。島の周囲はだいたい砂浜が多いので、海水浴場には困りません。あと、島の中央にはちょっとした山もありますから、山登りとしての根性トレーニングはできるかな。

 

「ふむ、自動車が全く無いから空気がとても美味しい……この様子なら、夜空にも期待できるでしょうか」

 

 綺麗な海や白い砂浜、緑の森に先輩方がはしゃいでいる中、晴れ渡った空を見上げてブレイズちゃんが呟いています。体調は少し良くなったみたい。

 

「ブレイズちゃん、夜空が好きなの?」

「ええ、特に綺麗な星空を見ると、心が洗われますわ。それに、サニーさんは私の名を覚えておいででしょう?」

「ブレイズ…大きな流れ星、だっけ?」

 

 入学式の日、初めてブレイズちゃんと会った時に自己紹介で教えてもらったのを思い出しました。

 

「そうですわ。私にとっては、流星は私の化身であるような気がするのです。だから無性に星空を見上げたくなることがあるのですわ…流れ星が降ってはいないか、と」

 

 ブレイズちゃん、ちょっとロマンチックなとこもあるんだなぁ…。

 

「ただ、少々憂鬱ですわね…」

「お店とかなくて不便だから?」

「いいえ、実はそっちはあまり気にしていませんの。それよりも砂浜が多すぎることが問題ですわ」

「問題って……あ。ブレイズちゃん、カナヅチなんだった…」

「的確に言わないでくださいまし…」

 

 ちょっと悲しそうな顔をするブレイズちゃん。いつも冷静で穏やかだから、たまにそういう表情を見るとギャップを感じるんだよね…。

 それはそうと、GⅠを3つも勝ってるこの完璧超人にしか見えないブレイズちゃんにも、いくつか弱点があって、その1つが泳ぐのが苦手ってことなんです。あとは意外と少食だったり、生の魚を食べられなかったり、国語で悪戦苦闘したり。

 

「さて、今日はちょっと奮発して、夕飯はバーベキューだぞ! ただ、ご飯は(はん)(ごう)(すい)(さん)で炊いてもらうっ!」

 

 トレーナーさんの非情な宣告に、えええっ、とどよめくアップツリー先輩、カルンウェナン先輩、リボンカプリチオ先輩。

 

「あら、それは楽しそうですね」

 

 逆に微笑んでいるのがメジロアルダン先輩です。

 メジロ家所有の無人島での合宿ということで、今回はチームメートではないメジロ家の先輩方も一緒に来ているんです。といっても、もうトゥインクル・シリーズを引退している方も多いんですが。

 参加しておられるのは、スピード・パワートレーニング担当のメジロライアン先輩、ライブレッスン担当のメジロアルダン先輩、根性・スタミナトレーニング担当のメジロパーマー先輩、そしてまだ現役でトゥインクル・シリーズを走っているメジロドーベル先輩とメジロブライト先輩です。メジロラモーヌ先輩は来られていないとか。

 

「親睦会、って訳じゃないよね?」

「特にメジロ家の皆様に対しては、その意味は大いにあるでしょう。初対面の方も多いですし。

ですが、おそらくそれ以上に、仲間意識を高めてきつい合宿に立ち向かう心意気を作ることが目的にあると思われます。同じ釜の飯を食った仲間、という表現があるくらいですし」

 

 ブレイズちゃんの意見が的確すぎて何も言えない…!

 

「さて、ぼんやりしている暇があるとお思いですか?」

 

 そう言うや、どこかへ行こうとするブレイズちゃん。

 

「何するの?」

「火種を得るための小枝を探そうと思っただけですわ」

「え?」

 

 ……火種?

 

「何を首を傾げているのです。ここはろくに文明の産物がない無人島。そんなところに身ひとつで放り出されたようなものとなれば、最初に為すべきことは飲み水と火の確保でしょう」

 

 え…まさか!?

 

「まさかブレイズちゃん、テレビでよくやるようなサバイバル術でもしようとしてるの!?」

「最悪はそうなる可能性があると思いましたので、外が明るくて多少は暑さがマシな今のうちに、するべきことをしようとしただけですよ。それに、下手をすると食糧の確保を求められるかも分かりませんし」

「流石に鋭いな、ブレイズは」

 

 ブレイズちゃんの言葉にニヤリと笑うトレーナーさん。え……まさか、うそ、ほんとに!?

 

「バーベキュー用の食材は確かに用意してあるし、水も一応ある。

が、実はここにはマッチやバーナーの類は無い! なので、まずは火を起こしてくれ!」

「「「「えええぇーーっ!!?」」」」

 

 悲鳴を上げるマックイーン先輩、アップツリー先輩、カルンウェナン先輩、リボンカプリチオ先輩。

 って、本当に火起こしからやるの!?

 

「よっしゃ、雨乞いの儀式でもやるか! ハイボル着火ライトニングしてやんぜっ!」

 

 どこからか変な金属パイプみたいなのと鏡を取り出すゴールドシップ先輩。着火ライトニングってことは、もしかして金属パイプは避雷針…?

 

「こんなかんかん照りの中で落雷を期待するより、地形確認を兼ねて、鳥の巣でも探す方がまだ確実ですわ。ほら行きますよ、サニーさん。時は金なり、ですわ」

 

 呆れた顔をしながらスタスタと歩き始めるブレイズちゃん。

 

「よーし、なら私とブライトでこっち探すよ! アルダンはドーベルと一緒に向こうをお願い!」

「はいー。行きましょうかー」

「承知しました」

「仕方ないか…分かった」

 

 ライアン先輩もアルダン先輩も完全にやる気になってる…!

 

「よし、私もアルダン、ドーベルと一緒に行こうかな!」

 

 パーマー先輩もやることを決めたみたい…ってブレイズちゃん速い!

 

「ま、待ってよブレイズちゃーん!」

 

 慌てて走り出す私なのでした。

 

 

 1時間くらいかけて、太いも細いもごちゃ混ぜになった木の枝や、下草の枯れ葉、その他竈になりそうな石を拾って戻ってみると、他の先輩方もいろいろ拾ってきていました。ライアン先輩とブライト先輩は石をメインに拾っているので、竈作りが捗りそうです。逆にアルダン先輩の班は、木の枝を多く持ってきたので薪には困らないかな。

 で、問題は…

 

「どうやって火を起こすの、これ」

 

 ドーベル先輩の言う通り、火の起こし方です。

 サバイバルだと、木の板に棒を当ててグリグリ捻って、摩擦で火を起こすんだけど……

 

「筋肉で頑張れば良いよ!」

 

 ライアン先輩、それはちょっと脳筋すぎませんか?

 

「……ふむ、今ならあの手が使える」

 

 え、ブレイズちゃん?

 

「マックイーン先輩、あの宿泊所の鍵ってもう開いてますか?」

「開けてありますわよ。入れますわ」

「ありがとうございます。これなら何とかなるかな」

 

 何か考えついたのかな?

 

「すみません、ちょっと火起こしに使えそうな道具を取ってきます。皆様、ここはお願いします。

サニーさん、すみませんが少しお手伝い願えますこと?」

 

 そう言って宿泊所へと向かうブレイズちゃん。どうするの、と聞いてみたら、意外な答えが返ってきました。

 

「なに、大したことじゃありません。中等部1年生の理科の実験ですわ」

 

 ……? どういうこと?

 

「ふむ、持ち出せる鏡が結構多い…よし、持てるだけ持っていきましょう。サニーさん、すみませんが鏡をどんどん外に持っていってくださいまし。

あと、このカレンダーは去年の物ですから、使えそうですね。そしてこれは…虫めがね? ふむ、悪くない」

 

 何考えてるんだろう、ブレイズちゃん。

 鏡を運びながら、私の頭の中にはハテナマークが飛び交っていました。でも、外に出てからやっと分かったんです。

 

「先輩方、すみませんが手を貸してくださいませ。鏡を持って、およそ半円形に並んでいただければ…」

「オッケー、任せて!」

 

 見ていると、鏡を持った先輩方が半円形に並んで鏡を地面に向けて…ああ、そういうこと!?

 

「サニーさん、虫めがねをお渡ししますからちょっとお手伝いを」

「うん!」

 

 虫めがねって確か凸レンズだったよね。ってことは、焦点に上手く太陽光を集中させて、そこにカレンダーの紙とか小枝とか枯れ葉とかの燃えやすいものを置けば…!

 

「ふむ…ふむ、良い感じですね、そのまま…!」

 

 鏡と虫めがねで太陽光を集中されたカレンダーの紙が、少しずつ黒く焦げて煙を出し始めて…!

 

「やった、燃えたよ!」

 

 火がついた! 良かったよ…!

 

「よし、これに小枝と枯れ葉とカレンダーを足しながら吹いて、火を大きくしましょう」

「はいー。ふーー、ふーーっ……」

「では私はお米を研いできますね」

「あ、手伝いますよアルダン先輩!」

「よし、じゃあ石で(かまど)作るから、カルンウェナンさんとリボンカプリチオさんだっけ、手伝って!」

「「はいっ!」」

「パーマーさんは食材確認してくるね」

「うおーっ、ファイヤー!!」

「吹き方が見事ですわねゴールドシップ先輩。あっという間に種火が大きくなって…」

 

 何か良い感じに役割分担されてる!?

 竈が組み立てられ、火が良い感じに大きくなったところで、アルダン先輩とアップツリー先輩がお米を研いできてくださいました。

 

「これさ、炊くのってどうするんだっけ」

「何だっけ、始めちょろちょろ、中ぱっぱ?」

「始めちょろちょろ中ぱっぱ、ジワジワ時に火をひいて、赤子泣くとも蓋取るな、ですよ」

 

 アルダン先輩、詳しい…!

 

「つまり、最初は弱火にしろってことですね。あとは紅茶と同じ、蒸らし時間が大切だと」

「でもブレイズちゃん、弱火なんてどうやってやるの? 火の大きさ調整できないよ?」

「そのためにこの、ちょっと太くて枝分かれした長い枝を拾ったんですわ。火を調整できないなら、高いところに飯盒を吊るせば良いでしょう」

 

 そっか、火の先っぽだけ当てるってことなんだ! ブレイズちゃん、頭良い…。

 

「ちょーっと海行ってみたら、バッチリお宝ゲットしたぜ! これで炭火バーニングアップだな!」

 

 そう言いながらゴールドシップ先輩が突き出したのは…た、タコ!? しかも生きてる!?

 

「で、デビルフィッシュ…!」

 

 なんかブレイズちゃんが見たことないくらい青くなってる!? タコ嫌いなの!?

 

「お、美味しそうなタコだね! どうする? 焼く? 揚げる?」

 

 油ないのにどうやって揚げるの、パーマー先輩?

 

「んなもんトチメンボーしかねーよ! ゴルシ様に任せときなぃ!」

「と、トチメンボー?」

 

 トチメンボーってなに? パーマー先輩も困ったように笑ってる、分かんないってことか…。

 

「すみませんがサニーさん、ちょっと休ませていただきます。デビルフィッシュを見たら気分が悪くなりました…」

「わ、分かった。ブレイズちゃん今まで頑張ってたし、ちょっと休んでて」

「ご迷惑をおかけします……」

「おーい、バーベキューの野菜とか切り始めるぞー! 手が空いてる娘は手伝ってくれー!」

 

 あ、そうか、トレーナーさんからの仕事もあるのか…。もう少し頑張らなきゃ!

 

 

 そうやって苦労しながら作った夕食は、予想していたより何倍も美味しいものでした! ゴールドシップ先輩が取ってきたタコは、結局焼きタコになってたけど、新鮮ですごく美味しかった…!

 白いご飯って、あんなに美味しいものだっけ? ブレイズちゃんは「戸外での運動、特に水泳、戸外での睡眠、空腹が重なれば、この世の中にまずいものなど存在しないのです」って言ってたけど。

 

「ゴルゴル星に鯨肉超特急配達してやんだよっ!」

「だから肉ばっかり取らないでくださいって!」

 

 まーたゴールドシップ先輩とカルンウェナン先輩が肉の取り合いしてる…。そんなことしたら、前のすき焼きの時みたいに肉がちぎれて…!

 

「ぎゃあああ目があぁぁぁ!」

 

 あーやっぱり! 箸がすっとんでゴールドシップ先輩の左目に突き刺さっちゃった!

 

「相変わらずですわね…」

 

 マックイーン先輩が呆れてる…。

 

「ほらほら、2人はまだ現役なんだからしっかり食べて!」

「はいー。遠慮なくいただきますねー」

「ちょっとライアン、多すぎるって…」

 

 ブライト先輩とドーベル先輩は、ライアン先輩に肉や野菜を大盛りにされてる…。

 

「やれやれ、毎度騒々しいですね…。あ、アップツリー先輩にリボンカプリチオ先輩、お代わり要りますか?」

「ありがとブレイズ!」

「じゃあ私も!」

「すまん、俺も頼む」

「順番にやりますので、少々お待ちくださいませ」

 

 そしていつの間にやら、半分くらい焼肉奉行と化してるブレイズちゃん。いつも食べる量少ないけど、ブレイズちゃん、今回はちゃんと食べれてるよね…?

 

「すごいですね、ブレイズさんは」

「あ、アルダン先輩」

 

 そんな様子を見ながら、私に話しかけてきたのはメジロアルダン先輩でした。薄い水色のロングヘアが目立つ方で、その澄んだ色合いと物腰の柔らかさもあって、すごく清楚な方です。

 

「サニーウェザーさん、でしたね。バーベキューは楽しめましたか?」

「気を遣ってくださってありがとうございます。もうお腹いっぱいです…」

「ふふ、それは良かったです」

 

 さすがは名門メジロ家の令嬢、動作の1つ1つに気品がある…!

 

「あの、ところでブレイズちゃんがすごいっていうのは、どういう…?」

「何のヒントも無く、ほぼ独力で正解にたどり着いているんです。今の《シリウス》の皆さんはご存知ないと思いますが、実は以前にもあったんです。わざと火種を忘れたと発言して、自力で火起こしと炊飯をさせるというプログラムが」

「えっ、そうなんですか!?」

「ええ。私たちはそれを経験していましたから、答えを知っているようなものだったのですが…ブレイズさんは初めて経験したのに何事もなくあっさりと解決してしまいました。いきなり飯盒炊爨だと言われてあそこまで冷静に対応できる方は、私は見たことがありません」

 

 やっぱブレイズちゃん、結構とんでもないことしてるよね…?

 

「頭の回転の速さは、レースではかなり重要な意味を持ちます。位置取りやコース設定、ペースの把握。さらには周囲を走る相手の様子を見て、自身の取るべき戦術を策定する。そういうことに大いに有用ですから」

 

 言われてみればそうか…私は逃げの脚質だから、後続との距離を測ったりしてるかな。

 

「サニーさんから見て、ブレイズさんはどんな人ですか?」

「え? えっと、そうですね…」

 

 急に尋ねられて、言葉が上手く出てこない…!

 

「すごい人だな、って思います。競走成績もそうですけど、何というか、普段の振る舞いからしてどこか違うなって…」

「ふむふむ」

「私はブレイズちゃんと同じチームで、ブレイズちゃんの走りを間近で見ることも多いんです。その度に、やっぱり私とは違うなと思います。チームメートとして、お互いに高めあっていけたら良いな、って思うんですけど…」

 

 私の答えを聞いて、アルダン先輩は1つ頷いて言いました。

 

「サニーさんは、ブレイズさんのことをよく見ていますね。そして、彼女を目標として、それに近付けるよう意識している。レースで直接対決するライバルではないとはいえ、お互いを高めあえるようになるときっと素晴らしい結果が出せると思いますよ。

あと、気付いていますか?」

「何にですか?」

「ブレイズさんは、サニーさんのことを特別視しているかもしれませんよ」

 

 ……えっ!?

 

「と、特別視!? まさかそんなこと!?」

「チームの先輩方でも、ブレイズちゃんという呼び方はしていません。その呼び方をしているのはサニーさん、貴女だけですよ。だからもしかすると…と思ったのです」

 

 いやいや、まさかそんな……どうなんだろ?

 

「さて、明日からの合宿、頑張りましょう」

「はっ、はい!」

 

 大変だと思うけど、明日からの夏合宿、頑張るぞ!




(注1) 時速25マイルは、時速40.234㎞のことである。
(注2) 約4.37ヤードとは、4メートルである。


ということで、新年特別編を除けば、今年最初の投稿でした。
相変わらず実力の片鱗を見せているシルヴァーブレイズ。しっかし、走行中の車の中にいながらにして、スピードメーターも見ずに速度を推測できるとなると、結構な観察力・暗算力がありそうです。


評価9をくださいました-persona-様、紋白様、ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


コンコン!

お、ちょうど次回予告の担当者が来たかな? どうぞ!

「失礼します。次回予告担当になりました、メジロアルダンです」

このコーナーではお初の、メジロアルダンさんです! うp主の推し第4位です。

「ちょうど夏合宿が始まりましたね。私もライブレッスンの講師役として参加することになりました。
次回は、そんな夏合宿の一コマをお送りしますよ。『灼熱、盛夏の合宿』 投稿は少々お待ちくださいませ」
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