皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。
さて、私は今何をしているのかというと……袋を被せられてどこかへ拐っていかれている真っ最中ですわ。この袋、密閉性が高くて暑苦しい上に、私先ほどまで激しい運動をしていたところでしたので、暑くて堪りませんわ。汗が止まらないです……淑女は身だしなみが大切だというのに。
ん? 激しい運動(意味深)って、何を仰りたいのですか? 別にどうということはありませんわ、単純に競争をしていたというだけのことです。距離にしてだいたい 2 miles and 2 furlongs は走ったでしょうか。こんなに走ったのは久しぶりですの、おかげでもう脚が重くて動きませんわ。
それに、私を担いでいる人……多分、一番最初に声をかけてきた長身の銀髪の方だと思いますが、この人の力がすごくて、全く身体を動かせませんの。逃げることもできませんわ。
というわけで、現状の打開を諦めた私は、まずどこへ運ばれているのか確かめようとしております。足音の変化を聞けば、自分が今どの辺りにいるのか、ある程度は推測できますわ。
たん、たん、たん……
さっきまでの足音は砂利を踏み分ける音でしたが、音が変わっておりますわね。この音は、石畳などの固い地面の上を歩いている音ですわ。
さらに、足音と時折聞こえる会話の声の反響具合……これはおそらく建物の中ですわね。私自身の身体が上下しているところから見て、階段を上がっているのでしょう。
これはおそらく、部室棟辺りへ来たのではないでしょうか。となれば、私を拐いに来た4人はどこかの team の構成員、と考えるのが妥当ですわね。どこへ連れていかれるのでしょう。
っと、ガラガラガラッという、どこかの扉を開けるような音がしましたわ。おそらくどこかの部屋へ入った、ということでしょうね。
「ふいー、ただいまー」
あの銀髪の方の声がした直後、「ゴールドシップ! あなた、どこで何をしていましたの!?」という、これまで聞いたことのない声が聞こえましたわ。なるほど、あの身長の高い銀髪の方はゴールドシップというお名前ですのね。
「いやー
……
「何のことか分かりませんわよ! それにウェナンさんにチケゾーさん、ライスさんまで……」
「ひゃー疲れた。3,600光年も走ることになるとは思わなかったのぜ」
距離が大幅に間違ってますわよ……。
「話を聞いてますの!? そして、その肩に背負った袋に誰を入れてますの!?」
「ああっと、忘れるとこだった。ほらよ、新入りだ!」
まだ入ると決めてもいませんわよ……。
と、ツッコミに疲れたところで私はようやく降ろされました。椅子に座らされたと思ったら、やっと、あの暑苦しい袋を取ってもらえましたわ。
さてここはどこでしょう、と見回すと、どうやらここは部室棟のどこかの部屋のようですわね。窓から見える景色からして、そう考えられますの。
そして、近くにある白い黒板めいたものに書かれた文字は……
『ようこそ、チーム《シリウス》へ!』
チーム《シリウス》? そういえばそんな team もありましたわね。《カノープス》の見学後にでも見に行こうかと思っておりましたが、まさかこんな破天荒な方法で誘拐同然に連れてこられるとは思いませんでした……。
とそこへ、銀髪のウマ娘の方が話しかけてきましたわ。こちらの方は、ゴールドシップ先輩とは違って背丈がそこまで高くないですね。
「メジロマックイーンと申します。申し訳ありません、うちのゴールドシップが迷惑をかけました」
声を聞く限り、先ほどゴールドシップ先輩に怒っていらっしゃった方ですね。
「いいえ、お気になさらないでください。確かに少々驚きましたが、そんなに気にしてはおりませんわ。
私、シルヴァーブレイズと申します。お目にかかれて光栄です」
まさか、こんなところでこれほどのお方に会えるとは思いませんでしたわ。
メジロマックイーン先輩……「天皇賞(春)」を二連覇した、最強格の長距離走者。そして、名門メジロ家に名を連ねる方。
映像では見たことがありましたが、直接お会いするのは初めてです。感動ものですわね。
「シルヴァーブレイズさんですね。本当にすみませんでした、ゴールドシップには後できつく言っておきます」
そう言って踵を返すが早いか、マックイーン先輩の雷が落ち始めましたわ。ただ、あのゴールドシップ先輩は完全に受け流しておりますわね……柳に風、ってこういう様子を言うのでしょうか。
「ごめんなさいブレイズさん、あんな方法でここまで連れてきてしまって……」
とそこへ、小柄な黒髪のウマ娘の方が謝ってきましたわ。さっき私を追ってきた方の1人ですね。…そしてこのお姿、どこかで見たような。
「いえ、少々驚きましたが、私は大丈夫ですわ。ええと……」
「あ、ごめんなさい、まだ名乗っていませんでしたね。ライスシャワーです」
「既にご存知のようですが、改めまして。シルヴァーブレイズと申します」
思い出しましたわ。映像で見たことがありました。
ライスシャワー先輩…メジロマックイーン先輩の「天皇賞(春)」三連覇を阻止した実力者。刺客などと呼ばれ、世間からの評判は芳しいとは言い切れませんが、紛れもない名走者の1人です。
それと、私を拐った残り2人のうち1人にも、よく見ると見覚えがありました。確かウイニングチケット先輩……「日本ダービー」を勝った方ですわね。
ふむ、すると……これだけの数の実力者が揃っているということは、ここの trainer さんはかなり優秀なお方だろうと想像されます。でなければ、これほど豪華な面子はそうそう揃わないでしょう。誘拐同然に連れてこられたこの team ですが……案外「当たり」だったのかもしれませんね。
と、その時、部屋の外からバタバタと急ぐ足音が近付いてきました。そして扉がガラリと開き…
「何やら事件があったようだが、どうしたんだ!?」
入ってこられたのは、かなり若い男性の方。胸元についた丸い印からして、あの方が trainer さんで間違いないでしょう。
「あっ、いた! ブレイズさん大丈夫!?」
「あら、サニーさん。私は無事ですわ」
男性の方と一緒に顔を覗かせたのはサニーさん。息を切らしている辺り、私のことを走り回って探していたようですわ…心配をかけさせて、申し訳ないことをしましたわね。
「ご心配をおかけしてごめんなさい、サニーさん。それと、事件とはいえ待ち合わせの約束をふいにしてしまって、申し訳ありません」
「ううん、ブレイズさんは悪くないよ……誘拐されるなんて思わないし」
「そう言っていただけると助かります…大変な目に遭いましたわ。どれだけ逃げても追っ手を振り切れませんでしたし…」
「今でも汗びっしょりだもんね。って、そういえば制服のまま走ったの!?」
「ええ、着替える前に襲われてしまったもので…。制服の替えなんて1着しかないのに、どうしましょう。靴も磨き直さないとですし」
なんて話していると、メジロマックイーン先輩と話していた trainer さんが、こちらに歩み寄ってきました。
「話し中にすまない、少し良いだろうか?」
「ええ、構いませんわ」
「うちのゴールドシップ以下一同が、迷惑をかけたようで申し訳ない。これは明らかに俺の責任問題だ。
メンバーを預かるトレーナーとして、お詫びする。本当にすまなかった」
今回の件を己の監督責任と断じてすぐに謝罪しにくる辺り、責任感は強いみたいですね。おそらくまだお若い方でしょうに、この姿勢には好感が持てますね。
それに、よく考えてみるとこの方は、この若さにして名ウマ娘を何人も輩出している、ということです。間違いなく、指導者としては一級の実力持ちでしょう。
どんな指導をしているのか…俄然興味が出てきました。
「いえいえ…頭を上げてください、trainer さん。新たな仲間を team に引き入れるための勧誘活動そのものは、行って当然の行動です。故に多少強引な方法があっても仕方ないと、私は考えていますわ…あの誘拐同然の方法はさすがに驚きましたが」
「本当に申し訳ない…」
「私のような子供に、そんなに恐縮されましても…。
そうだ、お詫びの代わりと言っては何ですが、練習を見学させていただけませんか?」
「え、うちのチームのか?」
「ええ。メジロマックイーン先輩やライスシャワー先輩の走りは、映像で見たことがあります。あんな大きな競争で良い記録を打ち立てられる辺り、trainer さんの指導が優れているということでしょう。
『袖振り合うも多生の縁』などという言葉もありますれば、これも何かの縁でしょう。よろしければ見学させてくださいまし」
「分かった。ちょうど今から練習なんだ、見ていくと良いよ。他のチームを見に行くにしても、いい経験になるだろうし」
あっさり見学を許可してくれる辺り、人柄も良さそうですね。
「ありがとうございます。ええと…」
「あ、すまない、自己紹介がまだだったな。
俺は
「シルヴァーブレイズと申します。よろしくお願いいたします。
せっかくですから、サニーさんも見学していきますか?」
「じゃあ、そうしようかな。
えっと、サニーウェザーです! よろしくお願いします!」
かくて練習の見学が決まりましたわ。
練習場に来てみると、まあ見学者数の多いこと。1つの team の練習に、ここまでの数の見学者が来るのか、と驚いてしまいました。
後から聞いたところでは、《シリウス》は《リギル》や《スピカ》等と並んで人気の高い team なんだとか。それなら、この数も納得できますわ。
ただ、見学者は私たち2人より身長の高い方ばかり……おかげで人混みに埋もれそうになりましたわ。
「ウォーミングアップは終わったな? よし、それじゃ始めるぞ!」
今日の練習内容は、いわゆる「併せ」ですね。距離は2,400m。「日本ダービー」等と同じ距離ですわ。
可能なら私も走りたいのですが……さっきあれだけ走った後なので、もうヘトヘトですわ。止めておきましょう。
そして練習風景を見ていると、なるほどこれはさすがに一流の trainer さんだと思えました。漏れ聞こえてくる声から察するに、走っている選手の細かい問題点もすぐに見抜き、的確に指導しているようです。
そのためもあってか、選手たちの取り組み方も真剣そのもの。ゴールドシップ先輩…私の拉致を企てたのはどうやらあの銀髪の長身の方らしいのですが、その方も何だかんだ真剣にやっておりますわ。
おそらく、 trainer さんの指導が優れており、選手たちもそれを信頼しているからこそ、こうやって真剣な練習ができるのでしょう。いい team だ、というのははっきり分かりました。
…私も、入ってみたいですわね。
「最後まで待っていたのか…待たせてすまなかった。見学してみてどうだったかい?」
陽が沈み、練習が終わって解散の号令がかかり、あれだけいた見学者も全員いなくなってしまった後、最後まで残っていた私とサニーさんを見つけて trainer さんが声をかけてきました。
「非常に有意義な時間を過ごせましたわ。そして、ここなら質の高い練習ができ、確かな実力を身に付けて競走に勝てるだろう、と確信しました。
可能ならば、私たちもこの team に入りたいのですが」
私がそう言うと、trainer さんは「え?」と目を見開きました。…そんなに意外だったでしょうか?
「いや、すまない。まさか、入学したばかりの新入生にそんなことを言われるとは思わなかったんだ。
うちのチームに入りたい、か……うーん」
もしかして、まだ駄目だというのでしょうか。
「可能か不可能かで言ったら、可能なんだが……少なくとも、ウチに入ったからといって、君たちはすぐにレースに出られるようになる訳じゃないよ。俺は君たちの適性も確かめていないし、それに君たちは本格化もまだだろう? 今年からレースに出せる、とは言えないよ」
なるほど、言われてみれば確かにそうですわね。
「それでも、です。ここの雰囲気が良いな、と思いましたの。
それに…サニーさんはともかく、私は完全に目を付けられているでしょう。ゴールドシップ先輩に」
「やっぱりか……練習中にゴルシが君たちの方をちらちら見ているなと思ったが、俺の気のせいじゃなかったんだな」
あの方から逃げられる気がしませんわ。逃げられないのなら、加入するしか選択肢はないでしょう。
「分かった。それじゃ、シルヴァーブレイズとサニーウェザー、君たちの名前をうちのチームの所属メンバーリストに加えておく。
ただ、すまないがしばらくは他の新入生たちと一緒に、『全体トレーニング』に入ってもらう。いくらチームに入っているとはいえ、最初期の基本的な身体の作り方は皆同一だからな」
この『全体トレーニング』とは、専属の trainer さんがいないウマ娘の方が受けるものです。最大3人程度の trainer の指導の下で、30人とかの単位のウマ娘が一斉に training を受けるというものです。少々乱暴な説明になりますが、いわば小学校の体育の授業のようなものですわ。
「承知しました」
「はい!」
「それじゃ、今日はもう帰りなさい。寮までは目と鼻の先だが、夜道には気を付けてな」
「「はーい」」
こうして、波乱の初日が終わりました。
まさか初日にしてこんな「濃い」時間を過ごすことになるとは…この先どうなることやら。
というわけで、拙作の世界線はアプリとアニメのごちゃ混ぜ(どちらかといえばアプリ準拠)でした。今後オリジナルの要素は出てくるでしょうが、まあ基本的にはアプリ版の世界線(ただしストーリー第3章「夢を掴む特急券」終了まで)準拠でいきます。
それとチーム「シリウス」のトレーナー…つまりアプリ版主人公の名前ですが、これは私のオリジナルですね。西郷という名字にしたのは、「あれ、トレーナーに『西』の人いなくね?」と思ったからです。だって、
東→東条(「リギル」トレーナー)
北→シングレのキタハラジョーンズ
南→南坂(「カノープス」トレーナー)
でしたので。
そんじゃブレイズ、次回予告よろ!
「承知しました。
全く、入学初日だけで4話使うことになるとは思いませんでしたわ」
こら、メタ発言禁止!!
「何のことやら分かりかねますわ。
さて、入学早々に team が決まるという番狂わせこそありましたが、私の本分は学生です。ということで、少し時を飛ばしまして、私の学校生活の様子を少しお見せしましょう。
次回『学園生活と大流星』 更新はしばしお待ちくださいませ」