大地を駆ける一筋の流れ星   作:Red October

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少々難産でした…お待たせ致しました。
先日のレースですが、秋華賞チャンミは決勝戦で優勝できたもののグレードリーグBグループ止まり。なかなかプラチナに手が届きません…。
そしてスプリンターズSもサトノレーヴで惜敗。忘れてましたよ、短いレースは基本的に前目の馬たちが有利だってことを…デュランダルやおはマイルは例外的存在だということを…。

気を取り直して、年末のお約束たる有マ記念、いよいよゲートインとなります。



Act.056 ファンの期待を背に、いざ中山へ

 皆様、ごきげんよう。シルヴァーブレイズですわ。

 期末考査を乗り切りまして、本日は12月22日。私にとって今年最後の決戦の舞台、「有マ記念」まであと3日。

 グラスワンダー先輩のように直接宣戦布告されたものの他、ファン投票の結果から出走者を予想した限りですが、……「史上最高メンバー」。正直に言いまして、その感想しか出てきません。

 分かっているだけでも、"覇王"テイエムオペラオー、"怪物"ナリタブライアン、"暴君"オルフェーヴル、"不死鳥"グラスワンダー。それに昨日、「ブレイズ! ちょうど良い機会だ、中山の舞台でどっちが上手くダンスできるか勝負しようぜ!」とゴールドシップ先輩に言われてしまったので、"不沈艦"も確定参戦でしょう。

 後は、推定ですがキタサンブラックさん、"帝王"トウカイテイオー……本当に恐ろしいくらい豪華な出走者たちです。ジェンティルドンナ先輩こそ不在な可能性があるものの、そのジェンティル先輩に匹敵する筋力を持つとされるオルフェーヴル先輩がいますし、全くもって油断なりません。

 ちなみに先日のファン投票の結果は、1位オルフェーヴル、2位ゴールドシップ、3位が私シルヴァーブレイズ、僅差で4位ジェンティルドンナ(おそらく不参戦)、5位テイエムオペラオーというものでした。Classic class の面々では二冠達成のドゥラメンテさんや菊花賞を取ったキタサンブラックさんを退けて私が最上位に入っており、とても光栄です。"願い星"として、その期待を裏切らない競走をしたいものですね。

 

 あと、Christmas が目前ということで、教会の聖歌隊の練習も熱が入っているのですが…来年早々に「聖歌隊員コンクール」なるものが開催されると通知がありました。毎年行われているもので、どうやら聖歌隊員同士で競わせることで、技量向上に繋げようとしているようです。

 通知によれば、今年のお題目は"死者を悼む曲"とのこと。鎮魂歌(レクイエム)の他、讃美歌によくある葬送曲…お題目に従っていればどんな曲でも良いようですね。この辺、心が広いというべきでしょうか。

 そして、開催日を聞いた瞬間に私の歌うべき曲が決定しました。

 

『開催日:1月17日』

 

 何という巡り合わせ。この日に、"死者を悼む曲"となると……歌う曲はただ1つ。私が本気で歌う唯一の曲、それしかない。

 この東京・府中から遠く離れた我が故郷に、せめて私の想いだけでも届けられるよう、念入りに歌の練習をしておくとしましょう。

 

 

 このところ有マ記念絡みの取材(インタビュー)やら何やらが多くなっています。…取材陣の方々も、「月刊トゥインクル」みたいに礼儀正しくやってくださる方ばかりなら良いのですが……校門の方をちらりと見ると、やはり今日もいる…。学園から正式な取材の許可を得ていないにも関わらず、隙あらば良い情報を入手しようと待ち構えている不届きな連中が。何なら、あの連中は不法侵入やらかした過去もありますから、油断なりません。

 彼らの狙いは、主にGⅠウマ娘を中心として名を知られている方々と、気の弱そうな(=押しに弱く情報を抜きやすい)方々。《シリウス》だと、前者はゴールドシップ先輩や私、後者はサニーさんが該当します。尤も、ゴールドシップ先輩は記者からの質問に対して意味不明な返答をすることが多いので、奴らの狙いはどちらかといえば私でしょう。奴らの強引な取材に引っかかったことがありませんし。

 え、どうやって強引な取材を避けているか、って? 学園の守衛さんの巡回に便乗して、学園を出たら囲まれる前に最短距離を走り抜けたり、変装術でちょっと"ヤバそう"な顔にしてみたり。そういった小手先の技です。

 あとは…これはあまり使いたくない、最後の手段なのですが…制服を着ている時は、skirt の内側、つまり太腿に多数の暗器を仕込んでいるんです。不法侵入までやらかすような連中に対して、発動し得る最後の手段です。

 暗器の正体? 以前にちらりと申し上げたでしょう、私は knives の使い方に関しては、振るう方も投げる方もできると。

 

 そんな中、私や trainer さんに招待状が届けられました。どうやら有マ記念目前の記者会見だとか。場所は都内某所の高級ホテルだそうです。

 ぶっちゃけた話をすると、面倒といえば面倒なのですが…いわゆる"政治"とか"面子"とかいうものの存在を考えれば、出席する以外の選択肢はないでしょう。

 ということでやってきてみると、内装はなかなか豪華ですし、出走予定のウマ娘や関係者には控室にて軽食なども出される……実質的には party と申し上げても過言ではありませんね。

 そういえば、イラストリアス様もちらりと仰ってましたが、ウマ娘の競走、特にGⅠは単なる競走に留まらず、社交場となることもあります。今回もその手の催し物だと考えれば、納得できるものがあります。ならば、少々楽しませていただくとしましょうか。

 軽食があるなら当然飲み物もあるはず……あった! 紅茶もしっかりある! 鼻歌を歌いたくなるのを禁じ得ません。ここにあるのは、いわゆるティーバッグに収まった出来合いの品ですが、高級宿が採用しているものですから品質は折り紙付でしょう。

 お湯を注ぎ込み、紅茶が良い感じになるのを待って、いざ一口。……うん、悪くありません。軽食の中には果物もありますし、次は果物の香と味を付けてみようか、と考えたその時でした。

 

「シルヴァーブレイズさん」

 

 声をかけられて振り返った先にいたのは、私の同期の1人。《ラス・アルゲティ》のオボロイブニングさんです。神戸新聞杯で対決した時に、本格対戦はGⅠで、と約束しておりましたが、ついに対戦となった訳ですね。

 

「これはオボロイブニングさん。勝負服、よくお似合いですよ」

「ありがとうございます」

 

 彼女の勝負服は和服…それも、歴史の教科書に出てきた「十二単」を連想させる装いです。夜を思わせる紺色の上着の左の胸元に、やや雲のかかった黄色い月の模様……朧月夜という訳ですか、まさしく"名は体を表す"を地で行く勝負服ですね。それと、服のあちこちに白い線で描かれた鳥の横顔…おそらく夜鷹を連想したものでしょう。ちょっと攻撃的な印象がある辺り、1着を獲りに行く、という決意みたいなものもあるでしょう。

 

「神戸新聞杯の約束、覚えてますよね?」

「もちろんですわ、私が申し上げたんですもの。GⅠまで対決はお預けにします、と」

「約束、果たしてもらいますよ」

「そのお言葉を待っておりました……お互い、当日は良い試合にしましょう」

「ええ。勝ちに行きますので、覚悟しといてね」

「承知しましたわ。さぞ意気軒昂と見える… tiara route の覇者の実力をお見せ致します」

 

 イブニングさんも決して侮れない実力の持ち主です。GⅠ勝利どころか重賞勝利こそ果たせていませんが、ホープフルS2着、皐月賞4着、日本ダービー5着、菊花賞3着と掲示板を外していません。それだけ見ても、結構な実力者であることが分かるでしょう。

 

「あ、いたいた! イブさん、ブレイズさん、今回はよろしくお願いします!」

「キタサンさん、やはりGⅠ祭りとくれば貴女ですわね。菊花賞優勝、おめでとうございました。"最も強いウマ娘"の実力の程、拝見致しますよ」

「私も、菊花賞では勝てませんでしたが、今度は勝ちますよ。リベンジを果たしてみせます!」

 

 公式戦では今回が初対決となるキタサンブラックさん。ホープフルS、菊花賞を勝ってGⅠを2勝というだけあり、実力は相当なものです。

 彼女が得意とするのは"逃げ"…競走においては"逃げ"は弱者の戦術と言われますが、菊花賞を勝てたなら弱いなんて言えませんし言わせません。

 後方脚質勢にナリタブライアン先輩、オルフェーヴル先輩、ゴールドシップ先輩、グラスワンダー先輩といった綺羅星が揃う中で、どうやって彼女を差し切るか…腕が鳴りますね。

 

「おや、クラシック級のお歴々が勢揃いしているね! うん、見るだけで大した実力者だと分かるよ!

ボクはこのレースで引退となるが、その前に君たちの実力がどんなものか、見させてもらうよ!」

 

 この若干仰々しい言い回しは、言うまでもなくテイエムオペラオー先輩ですね!

 今回の有マ記念に関連する私の目標(ターゲット)のうち1つ(1人)、「打倒覇王」です。この機に挨拶を済ませておくとしましょう。

 

「こんにちは、テイエムオペラオー先輩。今年の1月に布告した通り、参上致しました…今回はよろしくお願い致します」

「なに、君とは一度戦ってみたいと思っていたんだ、ブレイズ君! お互い、全力で戦おうじゃないか!」

 

 圧倒的な実力に裏打ちされた、揺るぎないまでに思える自信…私にはまだできない振る舞いですね。どれだけの鍛練と勝利を積み重ねれば、ここまでの境地に至れるのか…。

 

「ボクの有終の美を飾る添え花になってくれたまえ!」

「では黒バラとクロユリとスノードロップの花束をお送りしましょう」

「ふむ、やはり君には教養と実力がある…テイエムオペラオー劇場の助演主役を務められるだけのことはあるね!

良いだろう、ボクを倒せると思うなら、存分にやってみたまえ!」

「お言葉に甘えまして、総力を以てお相手致します」

 

 言動の派手さ故に忘れがちになりますが、この先輩も紛れもない実力者です。死を覚悟するくらいの気概で挑まねば、捩じ伏せられるのみに終わるでしょう。

 

「それはそれとして、君たちもこのパーティを楽しめているかい?」

「はい!」

 

 真っ先に答えたのがキタサンさん。

 

「グランプリって毎回こんな、派手な記者会見とかやるんですか?」

 

 これはイブニングさんの質問。

 

「ふむ、ボクの知る限りは毎回やっているね。場所は毎回同じとは限らないが。

まあ、君たちも何度も参加していればそのうち慣れるさ! ボクが引退した後も頑張ってくれたまえよ、覇王伝説を永遠に輝かせるために!」

 

 これに突き付ける宣戦布告の文句なんて、1つしかないでしょう。

 

「ええ、鋭意努力させていただきます。…覇王伝説を巷間の噂話から消し去り、歴史書の中のみの存在とするために」

 

 私からすれば、これ以上の宣戦布告文はありません。

 

「それとキタサンさん、イブニングさん。G Iの舞台で戦うのはこれが初めてになりますね。お互い、良い競走にしましょう」

「もちろん! 張り切っていこー!」

「ですね。歴史に残る一戦にしましょう!」

 

 とここで、係員が呼びに来ました。そろそろ記者会見本番ってところですか。

 

「それでは、参りましょうか」

 

 まだ顔を見かけた覚えのない先輩方もいらっしゃる…この機に倒すべき敵の顔を拝んでおくとしましょう。

 

 記者会見に伴う決意表明は、枠順に行われることになりました。1枠から5枠までが先、6枠から8枠が後です。

 そして同時に枠順も発表されました。ふむ、私は10番…となると5枠。つまり、先行集団に混じって決意か抱負を述べることになるわけですね。

 出バ表はこんな感じです。

 

 

●●年12月25日 15時30分発走予定

中山11R GⅠ 有マ記念

芝2,500(右・外) 晴 良

1 ナリタトップロード

2 マチカネタンホイザ

3 スペシャルウィーク

4 トウカイテイオー

5 ナイスネイチャ

6 オルフェーヴル

7 グラスワンダー

8 ナリタブライアン

9 サウンズオブアース

10 シルヴァーブレイズ

11 キタサンブラック

12 テイエムオペラオー

13 メイショウドトウ

14 ゴールドシップ

15 ウインバリアシオン

16 オボロイブニング

17 リードサスペンス

18 サクラローレル

 

 

 やれやれ、先輩ばかりの中にたった1人で突入ですか。それでも怯んだりなんかしませんよ。

 

「それでは、各選手に抱負を述べていただきたいと思います! 枠順に参りましょう。

ということでまずはナリタトップロードさん、お願いします!」

 

 さっそく始まりましたわね。

 

「えっと、今回はすごくすごいメンバーが揃ってますし、オペラオーちゃんもドトウさんもいます。皆さんの期待に応えて…負けないよう頑張ります!」

 

 緊張したりすると語彙が貧相になると言われるナリタトップロード先輩ですが、今回もその片鱗が少し見えていますね。いつも通りというべきか…。

 応援してくださる皆様の期待に応えたい、という点には私も同意します。

 

「トレーナーさんのおかげでちゃんと調整できましたし、脚も心も調子バッチリです! 負けないぞー、えい、えい、むん!」

 

 GⅠ勝利こそ果たせていませんが、いつもなかなか良い順位に食い込んでいるマチカネタンホイザ先輩。こういう存在こそ怖いのです……いつだって、英雄を打ち倒すのは"凡人"である故に。

 

「調整はバッチリです! テイオーちゃんもグラスちゃんもいるし、今年のレースの締めくくりにはちょうど良いかも……日本一の夢に向かって、全力疾走してきますねっ!」

 

 調整に失敗して凡走に沈んだこともあるスペシャルウィーク先輩。このところ不調がちな傾向が続いていますが、「日本ダービー」やら「ジャパンカップ」やら制覇している辺り、油断ならぬ強敵です。しかも、彼女の trainer である沖野氏はなかなか食わせ者ですから、どんな作戦を授けているや分かったものではありません。警戒するに越したことはない。

 

「勝つのはこのボク、テイオー様だ! テイオー伝説の復活、見ててよね!」

 

 このところGⅠでは掲示板入りが精一杯だというのにこの自信。ただの自信過剰か、それともハッタリか……いずれにせよかつての戦績から見れば、彼女もまた一廉の競走ウマ娘です。油断大敵。

 

「去年は3着でしたしねー…。テイオーもいるし、まあ、頑張りますよ」

 

 何だかんだと3着に縁のあるナイスネイチャ先輩。マチカネタンホイザ先輩同様、侮るべからざる実力者。伏兵には最適です。しかも彼女の trainer は、頭の切れる一面を持つ南坂氏です。

 ()()(はく)()…油断すること勿れ。

 

「万象等しく余にひれ伏すのみ。説明は不要である」

 

 この暴君ときたら…。私に打ち負かされた時にどんな吠え面をかくか、見ものですわね。

 

「いつも冷静にと心掛けていますが、抑えきれぬ猛りもあります。特に今回は、スペちゃんもいますし。

ふふっ、勝利はいただきますね」

 

 恐るべき実力者の一角、グラスワンダー先輩。短い距離でも通用する末脚と、長い距離を走れる体力(スタミナ)を兼ね備えた、あまり相手にしたくないと思える強敵。

 しかし今回はあちらから宣戦布告されてしまった以上、真正面から相手せねばなりません。流石にオルフェーヴル先輩ほどの筋力はないでしょうが、あの末脚は紛れもなく脅威です。どうやって凌ぐか、腕の見せ所ですね。

 

「シニア級、クラシック級合わせて10人以上のGⅠウマ娘がいる。引退レースに相応しい顔ぶれだ。

フッ、血湧き肉踊る…戦いの始まりだ…! ブッちぎって勝ってみせる…!」

 

 本競走におけるもう1人の"我が打倒すべき目標"、ナリタブライアン先輩。確か強敵との勝負がお望みでしたっけ……期待に応えてみせるとしましょうか。

 "死兆星"の名の元に、その首いただく!

 

「グランディオーソ! 皆、レース前から高揚をかき鳴らしているようだね。そこで私が比類無きソリストとなろう! 夢のような音楽会に招待するよ!」

 

 ネイチャ先輩といいタンホイザ先輩といい、《カノープス》には風変わりなウマ娘しかいないのでしょうか…?

 そして、次が私の番ですね。

 

「まずは、斯様な栄光ある競走にお招きいただいたこと、感謝致します。その上で、ここに宣言します」

 

 しっかりキめさせていただきますわ!

 

「試合の勝ち負けはやってみなければ分かりませんが、負けるつもりで勝負はしません。応援してくださる方々の"希望の願い星"となれるよう、精一杯走りたく存じます!」

 

 もちろんこの宣言には、別の意味が含まれています。だって、競走に勝てるのは1人だけなのですから。

 誰かの"希望の願い星"になった時点で、他の誰かにとっては"絶望の死兆星"となるのです。いざ戦わん…応援者(ファン)の皆様の期待と夢を背負って!

 

 その後も記者会見は恙無く進んでいったのですが…サクラローレル先輩、ちょっと怖いですね…。ナリタブライアン先輩への執着が…。

 これでひとまず、敵情視察は済みました。後は全力で戦い、勝利を手にするまで!

 

◆◇◆◇

 

 そしてついにその日が来た。12月25日、中山レース場。

 

「す、すごい人だかり…!」

 

 サニーウェザーが目を回しそうになっているが、無理もない。

 既にスタンドは観客でいっぱいだ。何なら立ち見席でさえ全席埋まっているように思えてくる。それくらいの人出である。

 

「さっきちらっと係員に聞いたら、動員観客数16万超えたって話だったよ」

「16万!?」

 

 ダートレースではこんな観客数はあり得ない。それくらい凄まじい。

 

「こ、こんな中で走るなんて無理ぃ…!」

 

 西(さい)(ごう) (ひで)(あき)トレーナーの発言に、サニーウェザーが完全に目を回してしまった。そのサニーほどではないが、カルンウェナンやアップツリーも完全に雰囲気に呑まれている。

 

「無理もありませんわ。テイエムオペラオーとメイショウドトウの引退レースというだけでも、人が集まること必至です。それに加えて他の出走メンバーがトップロードさん、オルフェさん、ブレイズさん、ゴールドシップ、グラスさん、スペさん、テイオー、キタサンさん、ブライアンさん、ローレルさん。

これだけGⅠウマ娘が集まったら、嫌でも人は集まりますよ」

 

 さすが名優、メジロマックイーンはこの状況にも平然としている。

 

「それに、ナイスネイチャさん、マチカネタンホイザさん、ウインバリアシオンさん、サウンズオブアースさんも、GⅠは取れてないけど相当な実力があるし…ブレイズちゃんもゴルシさんも勝てるかな…?」

 

 ライスシャワーが心配そうに耳を動かした。

 

「俺にも分からない。けれど、ブレイズの言葉を借りて言えば『負けるつもりで勝負はしない』よ。つまり…下手すると前走のジャパンカップすら上回る数の実力者を向こうに回しても、ブレイズは勝つつもりでいるんだ。ゴルシももちろんそうだよ。

だから俺は、ブレイズとゴルシを信じるよ」

 

 そこへ突然、後ろから声がかかる。

 

「流石ですわね、西郷トレーナーさん。見ただけで分かりますわ…敗北で腐らせることなくブレイズさんを仕上げたとお見受けします」

 

 聞き覚えのあるその声に、《シリウス》の面々は弾かれたように一斉に振り返った。そして声の主…《シリウス》一同の真後ろに座るジェンティルドンナに、仰天する羽目になった。

 

「うわ!?」

「ひゃあっ!?」

「ぴえっ!?」

 

 上から順にアップツリー、ライスシャワー、サニーウェザーである。

 

「じ、ジェンティル…!」

 

 かつてシンザン記念(クラシック級GⅢ)で叩き潰されたのを思い出し、カルンウェナンが表情を固くした。

 

「ジェンティル…どうしてここに?」

 

 西郷トレーナーはそれだけ言うのがやっとだった。

 

「オルフェさんを見に来たつもりだったのだけれど……」

 

 不敵な笑みを浮かべるジェンティルドンナ。

 

「くす、事と次第では乗り換えようかしら。私を失望させない走りをしてほしいものね、ブレイズさんには」

 

 そのタイミングでファンファーレが鳴り渡った。《シリウス》一同もジェンティルドンナも、否応無くターフに注意を向ける。

 

『年末の中山で争われる夢のグランプリ、有マ記念! あなたの夢、私の夢は叶うのか!』

 

 有マ記念の場合、ゲートは第3コーナーのど真ん中にある。つまりスタンドからの距離が遠い。そのため、スタンドからは双眼鏡でも使わなければ、ゲートインの様子が見えにくい。

 なので今は、電光掲示板横のターフビジョンにゲートインの様子を映してくれている。

 

『クラシック級ウマ娘たちには、今回がシニア級ウマ娘との初対決になる者も多くいます。やはりというか、緊張しているようですね』

 

 キタサンブラックが緊張の面持ちを浮かべ、オボロイブニングも硬直したように立ち止まっているのが、ターフビジョンに映っている。

 しかしその時、オボロイブニングの前を小さな赤と白の影が通り過ぎた。シルヴァーブレイズだ。緊張している様子など全く見せず、いつも通りの静かな足取りでゲートへと入っていく。

 

『そんな中、シルヴァーブレイズはよく落ち着いていますね』

『さすがにシニア級と戦った経験があるだけありますね。これだけの布陣を前に一歩も引けを取らないのは、大した度胸でしょう。今回はオルフェーヴルに次ぐ2番人気となっていますが、その期待に応えられるか、注目です』

 

 何だかんだと言っている間に、ウマ娘たちは順次ゲートインを完了していた。キタサンブラックやオボロイブニングも、係員の支援を受けてゲート入りしたようだ。

 

『さあ、最後にテイエムオペラオーとメイショウドトウが揃って…収まりました! 体制完了!

今年の下半期の総決算! 2,500の彼方の夢へいざ、第○★回有マ記念! スタートしましたっ!』

 

 18人の選ばれしウマ娘たちが、一斉に飛び出していったのだった。

 

 

 発走時刻の少し前、府中市内に店を構える「パブ 流星の止まり木」。

 店内には30人を超える客が入っていた。テーブル席まで動員しても席数が足りておらず、立ったままの客もいる。そんな店のカウンターのすぐそばには、レプリカ勝負服を着せられたシルヴァーブレイズのマネキンが置かれ、何故か客の1人がそれと向き合っていた。そして、本来ウィスキーの瓶なんかが入るはずのボトル棚は、その一部がシルヴァーブレイズ関連グッズ(蹄鉄、雑誌のバックナンバー、ぱかプチ等)に占領されている。

 

「今年のクリスマスは少し忙しすぎますね…」

 

 客から注文されたアップルパイを出しながら、マスターが小さく呟いた。それを耳ざとく聞き付けた客の1人が、カウンター席から声を上げる。

 

「そりゃあ、有マとクリスマスが同日なんだ、無理もねぇよ」

 

 他の客が次々と便乗する。

 

「それな。そのおかげで、こうしてミント・ジュレップ片手にレースを楽しめるってもんだ!」

「ただの趣味じゃねえか! あ、マスター、サンドイッチ頼めるか?」

「承知致しました。具材は何にいたしますか?」

「マスターのおすすめで頼むわ!」

「承知致しました。少々お待ちくださいませ」

 

 本日は「流星の止まり木」は朝からフル稼働状態である。クリスマスと有マ記念が重なったために客入りが多いこと、そして看板娘シルヴァーブレイズが不在にしていることから、人手が足りていないのだ。

 閑古鳥が鳴くことも多かった2年前からは、全く想像できない光景である。

 

「今年もまた豪勢なメンバーになったもんだが、ブレイズの嬢ちゃん勝てるかね」

「相手オルフェーヴルって時点でヤバいの確定だからな。そこにナリブ、オペラオー、ドトウ、テイオー、ゴルシ、グラス、スペ、ローレル、キタサン? 意味分からん豪華メンバーじゃねえか、誰が勝ってもおかしくねえよ」

「アタシらにできることは、ブレイズちゃんを信じることだけさね。

なーに大丈夫さ、あの娘のことだ。並大抵のヤツにゃ負けんよ。そうじゃないかい?」

「そういやそうだったな。アイツはジャパンカップでウオッカやエル、フェスタ、その他海外勢等を歯牙にもかけず、ジェンティル持ち出してやっと互角くらいのバケモンだ。オルフェは怖ぇが、それ以外にゃそうそう負けねえよ!」

 

 言いながら、客の1人がマネキンに向かってインクを付けた筆を僅かに動かす。そしてその手を止めて満足そうに頷いた。

 

「うし、できたぞ!」

「おおっ、似てる!」

「完成度たけーなオイ!」

「やるねぇあんた! 流石に自治会一番の絵心持ちなだけあるよ!」

「おいおい、褒めても文房具しか出せねーぜ」

 

 この文房具屋の店主は何をしていたのかというと、「(かい)(げん)の儀」である。つまり、マネキンに瞳を描き入れてシルヴァーブレイズそっくりに仕立て上げる、最後の大事な一筆を担当したのであった。

 完成したマネキンは、まさにシルヴァーブレイズそのものと言っても過言ではない出来栄えである。何せ身長・脚長・スリーサイズは呉服屋からの情報提供でシルヴァーブレイズのそれに合わせられ、特徴的な大流星を持つストレートヘアもウィッグで再現完了、瞳はきっちり(エメラルドグリーン)(サファイアブルー)に描き分けられている。

 

「とうとうできた、苦節…どんだけだっけ」

「たったの2ヶ月だよバカ!」

「2ヶ月でよくまあここまでのモンできたなホント」

 

 ここで客の1人がふざけた真似をやり始める。完成したばかりのマネキンブレイズに向かって二礼二拍手一礼したのだ。

 

「これからも俺たちに夢と希望を見せてくれますように、っと。よろしく頼んますぜ、ブレイズ大明神様」

 

 この一言とその場のノリで、マネキンブレイズの正式名称は「ブレイズ大明神」に決まってしまった。ノリと勢いで突っ走った客たちも大概だが、異議を挟まずしれっと黙認したマスターもマスターである。

 シルヴァーブレイズに見つかったら、間違いなく大目玉である。

 

「おい始まるぞ!」

「頑張れ、嬢ちゃん!」

「ブレイズ大明神様、どうか嬢ちゃんが勝てますように…」

 

 何やら変な祈りを捧げる者、固唾を飲んでTVに釘付けになる者。

 方向性の是非はさておき、全員に共通していることは、「シルヴァーブレイズに勝って欲しい」という思いを持っていることだった。

 

 

 同じ頃、府中市内のとある一軒家。

 

「来た…!」

 

 TVから響くファンファーレにぴくりと耳を動かし、アララギが顔を上げた。その手には暗記カードがある。パドック入りの映像を見た後も、寸暇を惜しんでトレセン学園入学試験の対策をしていたのだ。

 ゲートインの様子が映され、ウマ娘たちが順番にゲートに入っていく。その中に混じるシルヴァーブレイズを見つけて、アララギが目を輝かせた。

 

「ブレイズさん、頑張れ…!」

 

 祈ることはただ1つ、シルヴァーブレイズの勝利であった。

 

 

 そして、シルヴァーブレイズの勝利を祈る者がもう1人。

 

「頑張って、ブレイズ…」

 

 関西地方某所、ショウワ・エラ・アトモスフィア漂うアパートの一室にて、シルヴァーブレイズの母シルバーアクセサリが、こたつに入ってTVを見詰め、呟いていた。

 

 

中山11

主催:Uma-musume Racing Association ●●年12月25日 15時30分発走予定

第○★回 有マ記念

GI 芝2,500M(右・外) 晴 良

枠番

ウマ番

名前

所属チーム

得意戦術

人気

1

1

ナリタトップロード

レサト

先行

11

1

2

マチカネタンホイザ

カノープス

差し

14

2

3

スペシャルウィーク

スピカ

先行

7

2

4

トウカイテイオー

スピカ

先行

8

3

5

ナイスネイチャ

カノープス

差し

13

3

6

オルフェーヴル

アルデバラン

追込

1

4

7

グラスワンダー

リギル

差し

6

4

8

ナリタブライアン

リギル

差し

5

5

9

サウンズオブアース

カノープス

差し

17

5

10

シルヴァーブレイズ

シリウス

先行

2

6

11

キタサンブラック

スピカ

逃げ

9

6

12

テイエムオペラオー

リギル

先行

3

7

13

メイショウドトウ

コルネフォロス

先行

12

7

14

ゴールドシップ

シリウス

追込

4

7

15

ウインバリアシオン

アークトゥルス

追込

15

8

16

オボロイブニング

ラス・アルゲティ

差し

16

8

17

リードサスペンス

エルナト

差し

18

8

18

サクラローレル

アルケス

差し

10




以前、「Act.042 灼熱、盛夏の合宿」にて、シルヴァーブレイズが「私が本気で歌う曲は1曲だけですの」と話していましたが、その曲の正体について大きなヒントが出てきました。
・死者を悼む曲である
・1月17日に関係があるらしい
・"東京から見て遠い場所"…具体的には関西地方某所…に関係する曲である
そろそろ曲の正体が見えてきた方もいらっしゃるのではないでしょうか?


UAが78,000以上、総合評価1,100ポイント以上になってる…本当にご愛読ありがとうございます!
それでは次回予告です。今回の担当は…っ!

「姉上、これはどういうことだ。なぜ余が、斯様な真似をせねばならぬ」
「そう怒らないで、オル。私が是非にってお願いしたんだ。
それに、オルも知っているだろう? シルヴァーブレイズの実力を。ジェンティルドンナとも互角に戦える実力者じゃないか。
私にとってもデータ収集のチャンスになるし、オルも存在感を示せるんじゃないかい。こちらに出演したことはまだないんだから、王の威厳を示す良い機会になると思うけれど」
「ふむ……一理ある。良い、姉上の顔を立てよう」

 ということで、予告担当はー…

「オルですね」
「次回、有マ記念のレース本番である。特別に許す、王の走りを特等席からとくと見るが良い。我が覇道、何人たりとも阻むは能わぬ。ただ蹂躙するのみよ」
「見事だ。流石だね、オル」

いや…あの……主人公ブレイズなんですけど…。
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