彼ら彼女らは青春ラブコメを知らない   作:筋肉脳

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違和感は俺がこのてで殺したかった(涙)


作間九十九は雪ノ下雪乃に特別価値を感じない

 その後、俺たちは平塚先生によって特別棟にある、とある教室の前に案内されていた。

 その事実を俺が認識していると、平塚先生はガラっと音を立てて若干乱暴に扉を開けた。とてもこの人らしい開け方だと思った。

 続いて教室の中を確認する。端のほうに無造作に並べられた机や椅子以外は特に変わったところもない至って普通の教室だ。教室窓側には椅子に座った女子生徒、雪ノ下 雪乃がいた。彼女は国際教養科というこの学校のいわゆるエリートクラスに属していて、そのトップに立つ。容姿も文句のつけようがないほどよく、この学校でも知らぬ人はいない、というのが彼女に対する俺の評価だ。

 逆に言うと、俺にとってはその程度の人間でしかない。比企谷のほうがよっぽど面白そうだ。

 彼女は来訪者の俺たちに気付くと、呼んでいた文庫本にしおりを挟んで顔を上げた。

 

「平塚先生。入るときはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

 俺たちを一瞥すると彼女は平塚先生にそういった。

 

「ノックしても君は返事をした試しがないじゃないか」

「返事をする間もなく、先生が入ってくるんですよ」

 

 平塚先生の言葉に、彼女は不満げにそう言う。

 

「それで、そのぬぼーっとした人と、その無表情な人は?」

 

 言われて俺は即座に無表情から無駄な笑顔に切り替えた。

 

「彼は比企谷、そしてこっちは作間、入部希望者だ」

「二年F組比企谷八幡です。えーっと、おい。入部?」

「同じく作間九十九だ。きゅうじゅうきゅうと書いてつくもだ。以後ヨロシク」

 

 平塚先生に促されて、俺たちは会釈をすると、自己紹介をした。

 

「君たちにはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論抗義質問口答えは認めない。しばらく頭を冷やせ。反省しろ」

 

 仕方ない、これ以上何を言っても無駄だ。学習した。従うのが効率的だろう。

 

「というわけで、見ればわかると思うが彼らは中々根性が腐っている。片方は目すら腐っている。そのせいで孤独な憐れむべき奴だ」

 

見ればわかるのはデフォか。

「人との付き合い方を学ばせてやればもう少しマシになるだろう。こいつらをおいてやってくれるか。彼の捻くれた孤独体質とこいつの性格の改善が私の依頼だ」

 

平塚先生に向き合うと、彼女は面倒くさそうに口を開いた。

 

「それなら、先生が殴るなり蹴るなりして躾ければいいと思いますが」

 

……怖え女だ。

 

「私だって出来ることならそうしたいんだが最近は小うるさくてな、肉体への暴力は許されていないんだよ」

「お断りします。そこの男の下心に満ちた下卑た目、それに、さっきから後ろで不気味な笑みを浮かべている男を見ていると、身の危険を感じます」

 

そこまで気持ち悪いだろうか?普通に笑っただけなのに、むしろ友好的な笑顔を意識したのに。

 

「安心したまえ、雪ノ下。その男は目が腐っているだけあってリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのものだ。刑事罰に問われるような真似だけはけっしてしない。彼の小悪党ぶりは信用してくれていい。それに」

「何一つ褒められてねえ……。違うでしょう? 常識的な判断が出来るでいいんじゃないっすか」

「小悪党……。なるほど……」

「聞いてない上に納得しちゃったよ」

「ゴホン、それで作間はそもそもお前に興味がないようだ。問題ないだろう」

 

その発言に雪ノ下が少しムッとしたが、次の瞬間には何事もなかったかのように、すました顔に戻っていた。

 

「まぁ、先生からの依頼であれば無碍には出来ませんし……。承りました」

 

雪ノ下が不機嫌さを隠しもせずにそう言うと、平塚先生は満足げな顔をして、あとは頼むと言って戻って行った。

勿論、俺たちを残してだ。せめて説明ぐらいしてから行けよ。全く非効率的だ。

数秒の静寂の後、最初にそれを破ったのは言うまでもなく俺だった。

 

「それで? この部活は何をするとこなんだ? 俺たちは奉仕活動としか聞かされてないんだが?」

「俺も全くわからない」

「……そうね、ではゲームをしましょう」

 

雪ノ下は勢い良く文庫本を閉じると、ため息吐きそう言った。

 

「ゲーム?」

「そう。ここが何部か当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」

「他に部員はいないのか?」

「そうか、お前、友達いないのか」

 

ちなみに俺が下の台詞だ。

 

「そうね、まず友達という明確な定義を」

「ああ、もういいわ。その発言は友達いないやつの発言だわ」

 

最後の台詞は比企谷だ。断じて俺ではない。

 

「まぁいいわ。それで分かったかしら?」

「文芸部か」

「へぇ……。その心は?」

 

雪ノ下はさっきよりも比企谷に興味を持ったようだ。問い返していた。

 

「特殊な環境、特別な機器を必要とせず、人数が足りなくても廃部にならない。つまり、部費なんて必要としない部活だ。加えて、あんた本を読んでいた。答えは最初からでていたのさ」

 

ドヤッとでも効果音がつきそうなほどのドヤ顔に笑いそうになったが、なんとか堪えた。

 

「はずれ」

 

雪ノ下の答えは比企谷の求めている答えとは真逆だった。

 

「じゃあ、そこのあなたは? 分かったかしら?」

「奉仕部またはボランティア部だ」

「!……その心は?」

「前半は比企谷と同じだ。しかし、平塚先生に俺たちは奉仕活動をしろと言われている、加えてこの学校に存在する部活は、奉仕部かボランティア部だ。しかし、ボランティア部には今年部員が何人か入っている。勿論、この部活をもうやめているという可能性もなくはないが、平塚先生が取った形は依頼だった。ならば此処は九分九厘、奉仕部だろう」

「正解よ」

 

若干悔しそうにしている雪ノ下は言った。

 

「比企谷君、作間君。女子と話したのは何年ぶりかしら?」

「二年だな」

「事務的な連絡をのぞけば初だな」

「マジで? 俺よりとか初めて見たわ」

「本当に?」

「ああ。マジだ。必要なかったからな」

 

俺は親指でも上げそうな勢いでそう言う。

比企谷は感嘆と、少しの尊敬を含んだ視線を俺に向け、

雪ノ下は呆れを通り越して憐れみに溜め息を吐く。

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれをボランティアというの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男には女子との会話を。困っている人には救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

雪ノ下は高らかにそう宣言すると立ち上がる、自然、俺たちを見下ろす状態になった。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

とても歓迎されてるとは思えない罵倒の数々、泣くぞ!泣かねえけど。

 

「平塚先生曰く、優れた人間は憐れな人間を救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたたちの問題を矯正してあげる。感謝なさい」

 

確かに俺たちに問題があるのは他を見ても納得しよう。しかし、言わねばなるまい。俺たちが憐れむべき対象ではないことを、言い聞かせてやらねばなるまい。

 

「俺は学年主席なんだが? お前の言い方だと、俺は憐れむべき対象ではないと思うぞ? なあ、雪ノ下、お前の言う憐れむべき対象の基準を教えてくれよ」

「笑えない冗談はやめて、主席は私よ? それと、後の質問に答えるなら、そうね……私が認める人かしら?」

「そうか、ならいいわ。成績に関しちゃ後で平塚先生に聞いとけ」

「あら、もうおしまい? 随分と潔いのね」

「ああ、そんな時間のかかりそうなことを今だけでやろうとしても、非効率的だからな」

「ふうん?」

「俺もな。自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだぞ? 国語学年三位! 顔だっていい方だ! ボッチなことをのぞけばハイスペックなんだ!」

 

また、俺の時と同じようなやりとりをした後、雪ノ下は簡潔にこう言った。

 

「私が見たところによると、あなた達のその孤独体質は、腐った根性や歪みきった考え方が原因のようね」

 

雪ノ下は握りこぶしをより一層強く握って熱弁を振るう。

 

「まずは居た堪れない立場のあなた達に居場所を作ってあげましょう。知ってる? 居場所があるだけで星となって燃え尽きるような悲惨な最後を迎えずに済むのよ」

「「よだかの星かよ。マニアック過ぎんだろ」」

「それにな、雪ノ下、俺の居場所は此処だよ。紛れもなくな。俺が此処に存在する、それだけで俺の居場所は確定出来る。俺は誰かに居場所与えられるほど、自分を知らないわけじゃないし、自意識が不安定でもない。そもそも、俺の何処に変わる必要のある要素がある? ないだろう。そもそも、俺のこれは変わるとかの次元の話じゃない」

「そうだ、変わるなんて結局現状からの逃げなんだよ。本当の逃げないってのはそこにとどまり続けることだろうが。なんで過去の自分を肯定してやれねえんだよ」

「……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」

 

雪ノ下は俺たちの言葉に鬼気迫る表情で言った。

 

「雪ノ下、」

「三人とも落ち着きたまえ」

 

俺の言葉を遮るようにして平塚先生が教室に入ってきた。

 

「面白そうなことになってきたじゃないか。それでは君たちで勝負しようじゃないか! 少年マンガのように!」

 

平塚先生はそう言って俺たちにまた面倒を運んできた。




次回、作間九十九は雪ノ下雪乃が嫌いではない
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