昨日は平塚先生が奉仕部に面倒を運んできた。奉仕部というよりは俺に、と言えるかもしれないが。
あの後平塚先生が運んできた面倒とは要約すると、『そんなにお互いが気に食わねえなら、部活で勝負してケリつけろやゴラァ!』といったものである。それに勝者は敗者に何でも一つ命令出来る権利という豪華賞品までついてきた。豪華かどうかはさておき、俺にとっては雪ノ下に優位性を示すいい機会であり、即座に了承した。
というわけで、参加者は俺、平塚先生に乗せられた雪ノ下、人権を認められなかった比企谷だ。ルールはより多く依頼人の満足する奉仕をできた者が勝利。判定は平塚先生の独断と偏見で決まる。この時点で勝負になるかどうかが怪しい。
と、昨日のことを思い出しているといつの間にやら奉仕部の部室の前に着いていた。
時は放課後、俺は部員らしく半強制的に入部した奉仕部に部活に来ていた。カラッと音を立てて戸を開ける。
「よう。雪ノ下、部活に来たぜ」
「こんにちわ、作間君。昨日あれだけ罵倒したからもう来ないかと思っていたわ。マゾヒストなの?」
「それはない。部員だから部活に来た、ただそれだけだよ」
「そう。あれだけ敵意を向けられていたから、てっきり嫌われていると思ったわ」
「え、別に嫌いじゃないぞ? むしろ友好的にしようという気まである」
「へ?」
雪ノ下は何を勘違いしたのか顔を赤らめた。
「勘違いするな、俺はお前に興味がないから嫌いではなく友好的なだけだ。お前が想像した好意はない」
「なっ!? 誰もあなたに恋愛感情を向けられたなんて想像していないのだけれど!」
誰も恋愛感情なんて言ってないんだがな。
「わーった、わーった。それでいいから。質問させてくれ、依頼人来た?」
「……来てないわ」
「そうか、じゃあ来たら起こしてくれ。それまでは、寝る」
「そのまま永眠するといいわ」
俺の睡眠がやってきた。おやすみ。
●
――この距離、この空間でシカトかよ……
――変わった挨拶ね。どこの部族のもの? それにシカトというなら私だけでなく、そこの彼にも……あら?
――そこの彼って、作間は来てないのか?
――さっきまでそこにいた筈なのだけれど、椅子も片付けないで帰ったのかしら?
――なあ、あいつもいないし俺も来なくてもいいかなぁ~、なんて
――良い訳ないでしょ。民族谷君。
――コンニチハ
雪ノ下と比企谷が談笑している。俺が睡眠に入ってから少しすると比企谷が奉仕部に来た。後ろに平塚先生が見えたので、おそらく強制的に連行されたんだろう。
俺は現状確認を終え、二人の会話を耳に入れながら少し思考する。
現状、俺から見た比企谷八幡はボッチゆえに捻くれている、考え方の面白い奴。そして、雪ノ下雪乃はどこまでも正直な正直者。虚言を吐かないし、周りを気にしない過剰な自信家。しかし、何処か型にはまった生き方に見えるため人として面白くはなさそう、だが雪ノ下の周りを取り囲む環境は面白そうだ。
――あなたの友達で、常に女子に人気のある人がいたらどう思う?
「愚問だな。俺は友達がいないからそれは杞憂だ」
思考を切って、意識を完全に覚醒させると、比企谷とも思えない男らしい回答を聞いた。即答だった。
「仮の話として答えてくれればいいわ」
「殺す」
「その人間関係を跡形もなくなるまで壊す」
「「!?」」
二人は俺が発言すると同時に、驚いたというふうに肩をビクッとさせた。
挙動がシンクロしてたのでつい笑ってしまった。
「「いつからいた(の)?」」
「この空間でシカト~の辺りから」
「作間君? 一応確認しておくけど、何処にいたの?」
「ずっと、此処で、寝てた」
「おい。作間、それはねえだろ。俺がここに来た時もその椅子には誰も座ってなかったんだぞ? よって、お前の主張は矛盾している」
自信満々にそう言う比企谷はマヌケに見える。
「比企谷君と同意見というのは気に食わないのだけれど、だというならこれはどういうことかしら?」
「比企谷、雪ノ下、お前等疲れてるんだよ」
「そういう問題じゃない」
「なんだよ、俺の影が薄すぎて見つけられなかったとかそういうイジメかよ」
俺は落ち込む演技をしてみる。
「そういうわけじゃない」
「そういうわけではないのだけれど」
二人とも今の俺をどう扱おうか困っているという風だ。
「お前ら、演技ぐらい見抜いてくれよ。こんな子供だましぐらい」
「「おまえな(あなたねえ)」」
「騙されるお前らが悪い」
「……話を戻すわ。ほら、二人とも方法は違えど排除しようとするじゃない? 理性のない獣と同じ、いえ、獣に失礼なぐらい……。私がいた学校もそういう人たちが多くいたわ。そういった行為でしか自身の存在を確認できない哀れな人たちだったのでしょうけれど」
「お前はその人気者だったと?」
「ええ、小学生のころ上履きを六十回ほど隠されたのだけれど。うち五十回は同級生の女子にやられたわ」
「後の十回が気になるな」
「男子が隠したのが三回、教師が買い取ったのが二回。犬に隠されたのが五回よ」
「「犬率たけえよ」」
俺と比企谷はほぼ同時にツっこんでいた。
「驚くポイントはそこではないと思うのだけれど」
「敢えて聞き流したんだよ!」
「犬が校舎内に入れるのが一番びっくりだよ」
「おかげで私は毎日上履きを持って帰ったし、リコーダーも持って帰るはめになったわ」
聞きながら考える。さっきまでの俺の雪ノ下自身への評価は面白くない人だ。しかし、話を聞いて俺の評価はガラッと変わる。別に同情している訳じゃない。ただ、俺の直観的にはこのような経験をした奴は、大小あれど、性格、思考のどちらかが普通とは異なる。比企谷と同じだ、そして、異なっているということは――
「大変だったんだな」
「ええ、大変よ。私、可愛いから」
「でも、それも仕方がないと思うわ。人は皆完璧ではないから。弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうとする。不思議なことに優れた人間ほど生きづらいのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごと、この世界を」
――
「まあ、お前が生きづらいのは正直すぎるのも原因だがな」
「私、嘘をつけないの」
「努力の方向性があさってにぶっ飛びすぎだろ……」
「そうかしら。それでもあなたのようにグダグダ乾いて果てるより随分とマシだと思うけれど。あなたの……そうやって弱さを肯定してしまう部分、嫌いだわ」
言って雪ノ下は再び文庫本に視線を戻す。雪ノ下の行動原理ともいえない目標に若干の疑問を覚えつつも、俺は一言だけ言って部室を後にする。
――なあ、雪ノ下。なら、おれが――。
その後あの部室で何があったのかを俺は知らない。ただ、次の日部室に行くと雪ノ下が鼻歌を歌っていたので昨日の俺の判断は間違っていなかったようだ。
自分に文才がないのかうまく書き表せていないと思います。
ちなみに作間君は人づきあいが苦手ではありません、必要なかっただけです。
次回、作間九十九は依頼人を見る